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32話 ダンジョンコアからの依頼

魔法の腕輪を受け取った直哉はダンジョンコアとの約束通り、数日経ったある日にダンジョン最奥であるダンジョンコアルームに来ていた。

しかし直哉の浮かべている表情はとても暗いもので、完全に気落ちしていた。


「どうしてそんな顔をしているの?ナオヤクンが元気ないと、ボクも悲しいよ」

「お前が心配しているのはオレじゃなく生命エネルギーだろうに……」

「同じことだよぉ」


ダンジョンコアが心配して声を掛けても、その声には覇気が無かった。

最後に見た時は魔法の腕輪を見てあんなに笑顔になっていたというのに、数日での変わりように本気でダンジョンコアは心配していた。


「ボクで力になれることなら何でもするから、何が原因か話してみてよ」

「あのさ……魔法の腕輪を貰って浮かれていたんだけどさ、よくよく考えてみればダンジョンの外で魔法を使う奴って危ないよなぁ……って思っちゃってさ」

「そう?外は犯罪で一杯って耳にするけどね。

ナオヤクンがそいつらをやっつけるのに使えば『セイトウボウエイ』っていうのになるんでしょ?」

「確かにそうだけど、街の中って結構安全なのよな……。

ダンジョンで犯罪者に出会ったことがあったけど、あれが人生初だったわけだったし……。

この腕輪貰ってもダンジョン内でしか使えないとすると、何だかなぁって思ってさ……」


犯罪を犯すつもりはないが、腕輪を外で使ってみたい。

直哉の欲求が解消されずにいたので悶々としていたのだった。


「ショックダメージは音もなく視界に入った相手に追尾するから、ナオヤクンの仕業だって思われないよ!」

「それは犯罪だ……。

そうじゃなくて目的の無い力の行使は好きじゃないんだよ。主義じゃない」

「うーん……英雄願望ってものかな?

つまりは困っている人がいれば手を差し伸べたい、ってことだよね。

なら取って置きのクエストがあるよ!」

「クエスト?」


ダンジョンコアの言葉を聞いて、直哉は胡散臭い話の匂いを感じていた。

この流れは相手に高い壺を買わせるのと手口が似ていると思った。


食事などでターゲットを誘い出し、プレゼントや楽しい談笑をして断れない雰囲気にした所で高い壺を買わせる、あの流れにすごく似ていた。


高校生の直哉はそんなものに無縁の生活を送っているが、ネットで注意喚起されたことを覚えていて、似たような流れを見て完全に思い出したのだ。


それを裏付けるように前回来た時に値を付けられない希少な贈り物をされて、帰り際にまた来て欲しいとお願いされている。

直哉の中ではもう間違いないと確信していた。


「それでタダで頼むのは何だから魔結晶を50個と魔法の靴をあげるよ。

靴は大体二倍の速度で走ることが出来て、外では5分くらい使えるかな?

これでやってくれるかな?」

「ふん、そう言ってオレを騙そうとしているのは分かっているんだぞ!

プレゼントを用意してオレから何か奪うとしているか、もしくはとんでもなく大変な犯罪に巻き込むつもりだろう。

残念だったな。オレはそんなのに引っかからない!」


お前の悪事は全てお見通しだ!とでも言いたそうな名探偵ばりに直哉は人差し指をダンジョンコアに向けた。


(決まった……)

自分の行動にうっとりとしている直哉。


しかし、名探偵ではなく直哉は迷探偵だった。

どんな事件も解き明かせず、先入観で事件はすべて迷宮入り。

犯人の自供は始まらず、指し示した指を柴犬にぺろぺろと舐められる始末。


「落ち着いてよナオヤクン。

ボクの事をまだ信じられないとは思うけど、ボクは本当にナオヤクンに楽しんでもらいたいからやっているんだ。」

「うーん……そうは言っても証拠がないからな……」


すでに推理は破綻しているが、まだ名探偵でありたい直哉は現実を認められず証拠の提出を求めた。

そしてダンジョンコア側には決定的な証拠があった。


「ボクがナオヤクンに危害を加える気が無いって証拠に、クエストを受けなくてもこのアイテムはあげるよ。

ナオヤクンは何か奪うつもりで企んでいるって勘繰っているけど、ボクは既に生命エネルギーを貰っているから本当にナオヤクンに充実した生活を送って欲しいだけなんだ。

だから本当は危険なこともして欲しくないんだよ?」


つぶらな柴犬の目で顔を傾げられて見つめられると、迷探偵は消え去った。

そして自分の間違いを認めた直哉は話の続きを聞くことにした。


「それで……クエストって言うのはどんなものなんだ?」

「うん。

ボクの兄弟に本当に爆発寸前の暴走ダンジョンがいるんだけど、それを止めて欲しいんだ」

「は!?滅茶苦茶危ない事件じゃないか!

それに、そういう暴走状態に入ったダンジョンはギルドが何とかする案件だろ?」

「実はそのダンジョンは山近くにあってジヌシ?や権利関係?があって、ギルドが管理していないダンジョンなんだ。

昔はそれでも何とかなってたんだけど、時代が変わってダンジョン近くに住んでいるのが老人ばかりになっちゃって、ダンジョンに潜ろうって人がいなくなったんだよ。」

「それで生命エネルギーが取れなくなって死にそうになっていると……」

「そうなんだよ。

兄弟が死んじゃうのは悲しいけど、周りの人に迷惑かけるのはダメだからね」


このまま行けばそのダンジョンは、歴史の教科書に載っているような爆発を起こして周りの土地や住んでいる人を破壊する災害となるだろう。

そうなる前に止めてくれという依頼だが、どうにも直哉には荷が重い。


「ちなみに他の兄弟の爆発と比べると、あと一ヶ月しない内に爆発するよ。

ボクはナオヤクンに危ないことして欲しくないけど、まだ近くに行っても大丈夫な時期なはずだから腕輪を試すのにいいんじゃないかなと思ってさ」

「もし行かないって言っても、お前は良いのか?」

「ボク以外の兄弟とも連絡を取っていて、多分そこからギルドに連絡が行くと思うからナオヤクンが責任を感じることはないよ」


ダンジョンコアの言葉で直哉の肩にかかっていた重圧は消えたが、それでも危険なことは変わらない。

自分が行っても何の役にも立たない可能性が高い。

それでも、直哉は知ってしまった。損な性格だが、危険が迫っているのに何もせずにいることは出来ない性格。それが直哉だった。


「行くよ。

そのダンジョンの詳細を教えてくれ。あと爆発を食い止める手段も」

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