30話 ボス攻略の報酬
「やはりわたくしの思った通り、直哉さんの力を以ってすればミノタウロスも敵ではございませんでしたね!」
「勝てると信じていてくれたのなら、残機を確保したあの時間は一体なんだったんだ……?」
ボスを倒し、閉じられていた扉が開いたことで麗華の顔に微笑みがこぼれた。
今まで張り詰めていた分が自然と漏れ出たようだ。
一方直哉は準備が徒労に終わってしまい、精神的な疲れがどっと出て来た。
「今回はうまくいきましたが、ワープというアクシデントもありましたので備えは常に必要ですよ」
「まあ、そうかもしれないけどさ……」
直哉が納得いかずにぼやいていると、頭上からまばゆい光の塊が落ちて来た。
それを見た麗華が嬉しそうに声を上げた。
「あれは50階初回クリア時に貰えるボーナス特典!
各ダンジョンにつき、一度だけもらえるご褒美ですよ!
ギルド職員になるのに必要だから講習を受けただけのわたくしがこれを貰えるなんて……感激です!」
麗華の説明を聞いて直哉も心が躍った。
ダンジョンの暴走に巻き込まれてこんな所まで連れて来られたが、報酬があるならその苦労も報われるというものだ。
上から落ちて来た光が麗華の前で止まる。
「この光の中に手を入れながら欲しい物を考えると、望みが叶って手の中に現れます。
武器が欲しければ武器が。防具が欲しければ防具が。お金が欲しければ魔結晶が。それぞれ現れます。
とは言っても、凄く強い武器なんかが手にはいる訳ではないです。あくまでも50階相当の物に限ります」
麗華は光の中に手を突っ込んで、目を閉じた。
すると、光は段々弱まっていって最後には光は無くなった。代わりに麗華の手の中には杖が握られていた。
「わたくしも守られているばかりでは嫌ですから、レベルが上がり覚えたスキルで直哉さんのように人を助けます」
麗華は手に入れた武器を直哉に見せ、自分の覚悟を表明した。
直哉はダンジョンにもう関わるつもりがないのでそんなことを言われても困るのだが、どうやってアイテムを手に入れるかは見せてもらった。
今度は自分の番だ!と、見上げてみるがどこにも光はなく、落ちてくる様子も無かった。
「あれ?おかしいですね……ボーナス特典は一人につき一つ貰えるはずですが……。
もしかして、もうクリアされていましたか?」
「そんな訳がないでしょう!
……えっ!?もしかしてオレのスキルの影響でドロップしないのは、ボスモンスターにも有効ってこと!?」
直哉はボーナス特典を求めてボスフロア中を探し回る。
見渡しの良い円形のフロアに隠れるような場所はなく、隅の方を探してみても光は見つからない。
そもそも眩く輝いている光の塊を、見つけられないなんてことは有り得ない。
直哉のボーナスは存在しないのだ。
「おーい!オレ、ボス倒しましたよー?
まだ特典貰ってないんですけど、システムの不具合ですかー?ちょっとーっ!」
フロア内で大声を出して何かに呼びかけてみるが、一向に反応がない。
いや反応はあった。
「直哉さん、見て下さい!」
「!オレの特典ありましたか!?」
「脱出用のワープと上へつながる階段が現れました!これで帰れます!」
麗華がフロアの真ん中ミノタウロスが立っていた場所を指し示すと、そこからは光の柱が立っていた。
その中に入るとダンジョン1階に戻れると麗華は嬉しそうに説明するのだが、ボーナス特典が貰えないと確定した直哉は酷く落ち込んだ。
「では帰りましょう直哉さん。
……いつまでも落ち込んでいないで下さい、傷一つなく帰れることが報酬だったんですよ」
「……」
麗華は励ますようにそう言ったが、麗華の手の中にある杖を見てしまうと直哉の心はより一層沈み込んだ。
見かねた麗華は直哉の顔に近付いて、頬にそっと唇を付けた。
「なっ!?いきなり何を!?」
「……わたくしから個人的な報酬です。助けて頂いたので特別ですよ?
わたくし、そんな軽い女ではないのですからね!」
「えっ?えっ!?えぇーっ!」
直哉が顔を真っ赤にして戸惑っている隙に、麗華は脱出用の光の柱へ直哉を押し込んで自分も光の中に入っていった。
◇◇◇
光に包まれて眩しくて何も見えなかったが、次第に光が弱まり目を開けて見てみると、そこは白い空間だった。
地平線があると錯覚するほどに広大な空間。
床も天井も壁も真っ白な空間、直哉はその光景を見て息をのんだ。
「……なんだここは?
大泉さん、こっからどうすれば外に出られるの……っていない!?」
横を振り向くとそこには麗華の姿はなく、真っ白な空間に一人きり。
焦った直哉は出口を求めて自分がやって来た辺りにワープの光が無いか目を向けるが、見当たらない。
「詰んだ……ダンジョンの暴走に巻き込まれて、変な場所に閉じ込められちゃったよ……」
諦めかけて床に座り込んでいると、直哉の元に犬がかけ寄って来た。
「何だ、お前……ってお前は本当になんだ!?犬……いや、なんか違うよな……」
四足歩行でふわふわな茶色と白の毛並みを持った謎生物が、直哉に懐いてすり寄って来る。
凄く柴犬に似ているが、顔が犬ではない謎の生物。
まるで土偶のような(∵)←こんな顔をしている。
敵意はないようなので謎生物と一緒にいることにした。
ワープで連れて来られた空間に一人きりは寂しいのと、焦ってもしょうがないので犬らしき物体と戯れることにしたのだ。
「お前、この空間について何か知らないか?
そんな顔しているのは、お前もモンスターなのか?」
謎生物の体を撫でてやると、連動しているかのように尻尾が左右に激しく揺れた。
まるで本当に犬だなと思っていると、突然顔が土偶から柴犬に変わった。
「そんなに顔変だったかな、ナオヤクン?」
「なっ!?」
それどころか人の言葉を喋る犬だった。
驚いて、すぐに立ち上がって距離を取る直哉。
「慌てなくても攻撃なんてしないよ。ボクはナオヤクンが好きなんだ。」
「……お前は何者で、ここは何処だ?」
「ここはダンジョン最奥部。
ダンジョンにとっての心臓がある所で、ボクはその心臓とも言えるダンジョンコアだよ。
ボクの中にようこそ!ナオヤクンの事を全力で歓迎するよ」
ダンジョンコアは嬉しそうに尻尾を振り、直哉の元にてちてちと歩いてその足へすり寄って来た。
どう見ても柴犬にしか見えないダンジョンコアの毛並みを触って、何とか叫び出しそうになる心を落ち着かせる直哉だった。




