2話 オレのスキルは残機だって!?
翌日、学校が終わった後に直哉はダンジョンへと向かった。
自分のスキルがどんなスキルか不明だが、レベルが上がったのは事実。
探索者となった直哉はダンジョン攻略を勤しむ。スキルが分からないだけで直哉のダンジョンへの熱意は消えたりしないのだ。
それに……切実な問題がある。
実は、初心者講習の代金がバイト代だけでは足りず、生活費に手を付けてしまっているのだ。
真面目にバイトをしてはいたが、入ってくるお金と欲しいゲームなどを見比べて、そこで欲望に負けてしまった。
一度だけならばそこまでの負債にはならなかったが、一度やってしまうと二度三度と続けて、最終的には四か月バイトをしたのにバイト代が10万しか残っていなかった。
直哉は高校に通うために一人暮らしをしており、食費などの生活費を親から振り込まれている。それを足りなかった初心者講習の代金として使ってしまったので、家計が圧迫どころか明日の食費すらないのが現状だ。
人間は2週間ほど食べなくても水だけで生きていけるという。
つまり直哉に残されたリミットは2週間、それまでにダンジョンに潜って換金できるアイテムを見つけなければならない。
自分で作った状況だが、追い込まれた背水の陣。直哉にはダンジョンに潜るという選択肢しか残されていないのだ。
ギルドに行き、探パスのデータを送ってダンジョンへのゲートを開けてもらう。
ギルドには様々な探索者がいるが、今日は平日の夕方だからか人はまばらにしかいない……。
自分のスキルがハズレだった場合、ここに居る探索者に助けを求めることになるかもしれない……。
そうなった時の事を考えて、直哉は探索者達を軽く観察してからダンジョンへ向かった。
まずは直哉が行ったのはスライム相手にスキルのテストだ。もしスキルが有用なら、生活費のことを焦ることはない。
だからまずは持っているスキルの性質を見極めるべく、スライムを相手に叫んだ。
「ファイアーボール!」
麗華が発現したスキルだが、実は直哉が一番欲しかったスキルだ。ダンジョンでレベルが上げて魔法を使いたい、それが直哉の始まりだ。
しかし、スキルは発動しない。直哉のスキルは魔法を使えない、それが確定した。
直哉もこれは分かっていたが、どうしても諦められなくて叫んでしまった。
「じゃあ気を取り直して・・・分身!」
石元が分身系のスキルかもしれないと言っていたので、分身を生み出せるのではないかと叫んでみるも、何も起きなかった。
「となると、アクティブ系のスキルではなくパッシブ系のスキルの可能性が高いな・・・。」
今はステータスが見えていないが、名前の横にある×2が二倍と言う意味ならステータス全能力二倍と言う可能性もある。もしそうならば攻撃も防御も体力も二倍で、レベルが上がれば上がるほどに強くなるチートスキルだ。
直哉は自分の仮説を確かめるためにレベル上げを行う事にした。
石元が言った様に自分のスキルは、希少で強力な大器晩成型の可能性が高い。一つ二つレベルを上げれば隠れていたステータスが見えてくるかもしれない。
そこに一縷の望みをかけてスライムでレベル上げを行う。
一時間が経ち、丁度100体目のスライムを倒した時に探パスから軽快な音が流れた。
すぐにステータス画面を開いて確認する直哉。しかし、ステータスのウインドウは真っ暗なままで、文字が書かれているのは左上端にある自分の名前とその横にある数字だけだった。
だが、全くの無駄という訳ではなかった。名前の横にある数字が一つ増えて×3となっていた。
「三倍……だと?これは……もう勝ったも同然だろ!」
直哉は興奮を抑えられず、次の階層を目指すことにした。
2階のゴブリンが現れる階層は3~5レベルが適正レベルだと言われている。
直哉の名前の横にかかれている数字がレベルだとすれば、確かに適性にはなった事になる。
しかし、未だにステータスの数字が表れていない状態で行くのは危険なのだが、彼の頭にあるのは自分のスキルが有用だという妄信と明日の食費の事だけだった。
直哉は階段を駆け上がり2階に到着すると、すぐにゴブリンを見つけた。おあつらえ向きにゴブリンが一体だけで階段近くにいて、更に背中を向けている。
これなら先手を取ることが出来て、一撃で倒せなかったとしても有利な状況で戦闘を始められる。
直哉は有無を言わさず木刀を振りかぶり、ゴブリンの後頭部を叩く。手に伝わる衝撃と同時に、ゴブリンは光となって消えた。
「なんだ……そこまで強くないじゃないか……。
いや、オレのスキルが強くて一撃で倒せるんだ、そうに違いない!なにせ3倍の力がこもった一撃だからな、ゴブリンなんてイチコロだ!」
ゴブリンを簡単に仕留めたことで直哉はさらに調子に乗り、すぐに奥へと進んだ。進んだ先は小部屋になっていて、そこには4体のゴブリンがいた。
警戒もせずに小部屋に入ったため、部屋にいたゴブリンに見つかり問答無用で戦闘に入った。
しかし、直哉は臆さずに前に出る。敵を一撃で倒せるならと、先手必勝を狙ったのだ。
木刀を振り、即座にゴブリンを倒す。一体、二体と木刀を横薙ぎに振るだけで簡単に攻撃が当たり、ゴブリンを吹き飛ばした。攻撃を受けたゴブリンは地面に激突する前に消滅し、その間にも直哉は前に出る。
ゴブリンは小柄で直哉の膝ほどしか身長が無いが、それゆえに動きは機敏だ。一気に二体も仲間をやられて、ゴブリンたちは足を使って直哉を撹乱してきた。
捉えきれないほどではないが二体が別々に動くため、どちらかしか捕捉できない。
直哉は、まず目の前の一体に狙いを決めて木刀を振るった。
「やあぁぁぁぁっ!」
機敏とは言え、小さな部屋では動き回れる場所には制限がある。
そして逃げ場をなくすように追い詰めて横薙ぎに木刀を振れば、直哉の攻撃を避けられずゴブリンは消滅した。
勿論、直哉は最後の一体の事も忘れていない。後ろから迫ってきたゴブリンの攻撃を木刀で受け止めるが、ゴブリンの空いた手には二つ目のこん棒があった。
それに直哉が気付いた時には遅く、一撃は受け止められたがもう一方は直哉の脇腹にめり込んだ。
「うっ!ぐあぁぁぁぁっ!い、痛いっ!」
体中に激痛が走り、立っていられなくなって直哉は手から木刀を落としてしまう。そこへ追撃とばかりにゴブリンが襲い掛かり絶体絶命!
あわや殺されてしまう、と観念して目を瞑った直哉だった……が攻撃は来なかった。
目を見開いてみると、攻撃はされていた。ゴブリンが何度もこん棒を振るうが、直哉の体は半透明になっていてゴブリンの攻撃は全てすり抜けていた。
なぜ自分に攻撃が当たらないかはともかく、これはチャンスだった。
落とした木刀を拾い上げ、ゴブリンを打倒した。
「ちくしょう……2階のモンスターでこんなにも痛いなんて……どのくらいHPを削られたんだ?」
直哉は探パスのデータを網膜に描写するが、やはりステータス欄は何の数値も書かれていない。代わりに名前の横にある、数字の変化に気付いた。
「減ってる……さっきまでは×3だったのに、×2に……何でだ?」
直哉は自分のスキルについて、考えを整理することにした。
自分にはHPどころかステータスも表示されない。しかし、モンスターと渡り合える力は持っていて、攻撃を喰らっても体に怪我はない。
しかも攻撃を喰らった後に体は幽霊みたいに半透明になって攻撃はすり抜ける、それはまるで……無敵の体だ。
「ダメージを喰らったら無敵……まるで、この前遊んだアクションゲームみたいだよな…………まさか!?」
直哉は自分の考えが合っているのか試したくなって、ゴブリンを探した。奥に進むとゴブリンが一体だけいた。
直哉の考えを試すには格好の獲物だった。何しろ直哉の考え通りなら、これ以上やられると命の保証が無くなるのだ。
「よっしゃあっ!来いよ、化け物っ!」
わざとゴブリンを挑発して自分に呼び寄せ、そしてゴブリンの攻撃をわざと喰らった。
「ぐあぁぁぁぁっ!やっぱり痛い……死んでないのが不思議なくらいに、キツイ攻撃だ……」
直哉はすぐさまゴブリンから距離を取り、ステータス画面を開く。
すると名前の横にあった×2という文字が無くなっていた。
「やはりそうか……3……4……5……5秒か……」
直哉はダメージを喰らってからカウントを取っていて、体の半透明化が解除されるまでの時間を計っていた。
その間5秒、それが無敵が続く時間だ。
「つまり、オレのスキルはアクションゲームみたいな残機制で、レベルアップはしないっていう事か?
じゃあ……オレが憧れた……魔法を使ってダンジョンを攻略するって夢は……一生叶わないのかよ……」