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21話 エリクサー工場へ就職のご案内

麗華達を家に上げて話を聞こうとしたのだが、直哉に抱き着いているリナ子と睨み合いをしたままで一向に話は始まらなかった。

ボディーガード達もこれ以上は前に出ることは止めて、静観している。


麗華とリナ子は一切口を開かずに、目から火花が散っている幻覚が見える程に互いに睨み合い目を離さなかった。

このままでは本格的に喧嘩に発展する可能性もある。


家の中で喧嘩をされてはまずいと思った直哉は、二人がリラックスできるような話題を振ることにした。


「そう言えばさ、この三人がまた集まったのは運命じゃない?」

「また?」

「そう。オレとリナ子さんと大泉さんは、同じ日に探索者の初心者講習を受けた言わば仲間みたいなものだよ。

一緒にダンジョンに入って同じ日にスキルに目覚めたんだ。兄弟と言ってもいいかもしれない。

それがこうしてダンジョンの事で顔を合わせるなんて、なんか運命を感じるよね」

「え?」

「えっ!?」

「……すいません、ちょっとよく覚えていないです……ごめんなさい」


直哉が場を盛り上げようとして出した話題は空振りに終わった。

それどころか、麗華はボディーガードに今の話が本当なのか確かめている。

麗華からの直哉への信用は無いに等しかったようで、直哉は心の中で泣いた。


「ちょっと直哉!

あんたにはこんなに可愛い彼女がいるんだから、あたし以外の女の連絡先と記憶は消しておきなさいよ!」

「無茶言わないで!あと彼女じゃないよ!」


狙った方向とは違ったが、二人の睨み合いを終わらせることには何とか成功した。

その代償は大きかったが、傷ついた直哉の心はリナ子が頭を撫でて慰めている。


(でもリナ子さんも忘れていたんだよなぁ……)


出会ったことを忘れている麗華を失礼な女だとぼそりと直哉に言うが、自分のことを棚に上げていてリナ子もダンジョンで再会した時に忘れていた。

指摘しようかとリナ子に顔を向けると満面の笑み、どうやら二度目に出会った時のことも忘れているようだ。


直哉が諦めて溜息を吐いている間に、麗華がボディーガードに初心者講習の情報を見せられており驚きの顔を見せていた。


「あの、初心者講習の縁でここに来た訳じゃないなら、偶然何かの用事で来たってことですか?」

「そ、そういう事になりますね……」

「でも同じ日に探索者になったのに、どうして大泉さんはギルドの職員になっているんですか?」

「実はわたくしの父は『ダンジョン管理委員会』を取り仕切る立場の人間なのです。

わたくしはそんな父の役に立ちたくてギルドの職員になったのです」 

「えっ!?『ダンジョン管理委員会』ってギルドを管理、運営している政府の組織でしょ。

それを取り仕切る立場って……大臣?」


麗華は明言しなかったが、たかがギルドの職員の付き添いに屈強なボディーガードがそれも二人も付き添うなんてあり得ない。

麗華が大臣の娘と知って、直哉の胃はきゅっと縮んだ気がした。


「それでは本題なのですけど、三好という犯罪者をダンジョンに放置した件について大乗直哉さんに罪はありません。」

「それは本当ですか?良かったぁ」

「探索者は基本ダンジョンに潜ったら自己責任です。それが命の危機であっても誰のせいでもありません。

それに今回は相手が襲い掛かっていますから悪いのは相手ですから、お気になさらずに」

「そうですか……でもそれならどうして家にまで来たんですか?」


てっきりダンジョンに放置した件で罰則でもあるのかと身構えていた直哉だったが、自分が悪くないと分かると安心した。

そして冷静になると、じゃあどうして家にまで来る必要があったのかと疑問が出て来た。


「それはギルドの実行部隊がダンジョンに潜った時にその三好という犯罪者がスライムに食われかけている所を見つけたのが発端です。

何故スライムに捕食される程の時間放置されていたかを確認するために、身に着けていた探パスの動画を見るとあなた方二人の姿が映像に残っておりました。

勿論初めに言った通り、相手から襲い掛かって来たので大乗直哉さん達に一切の非はありません。

問題は、ショックダメージが発生した状態で腹部を刺された人間がなぜ生きているかです」


そう言って麗華はリナ子を指差した。


「その時回復スキル持ちの大畑リナ子さんは意識を失い、スキルの行使が出来ませんでした。

そして大乗直哉さんは明らかに前衛スキル、周りには誰もいない状況……どうやって大怪我を治したのでしょうか?」

「それは、たまたまドロップした回復薬のお陰で何とかなっただけで、本当に運が良かっただけですよ」


麗華達ギルドの人間が家にやって来て直哉は身構えていたが、結局はエリクサーの話だった。

そして相手の用件が分かったのでさっさと帰ってもらう事にした。


「探パスの情報や動画を見ているなら分かったでしょう?

確かにドロップした回復薬は大変貴重な物でしたけど、それはもう手元にありませんし、これ以上詳細な情報もないですよ」

「……わたくし共も初めはあの階層に現れるモンスターのレアドロップかと思い、時間を掛けて調べました。

結果4階に現れるゴブリン、ポイズンスライム、そして特定条件で出現するポイズンマンの三種類から回復薬はドロップしないと判明いたしました」

「そんな馬鹿なっ!?だって実際にあの時に……」

「動画を詳しく確認いたしましたが、そもそもあの時に大乗直哉さん達がモンスターを倒した様子はありませんでした。

ですので結論といたしましては、あなた方が取得したエリクサーと同等の効能がある回復薬はお二人どちらかのスキルで作り出された可能性が高いのです!」


麗華の言葉で互いの顔を見合わせる直哉とリナ子。

直哉はリナ子が死の淵に瀕してスキルが覚醒したと見ており、リナ子はレベルの無い直哉の特別なスキルだから出来たと思い込んだ。


結局この部屋に正解を出せる者はおらず、長い沈黙が続いた。

そこへ麗華が一つの提案を出してきた。


「よろしければ、その時の状況を再現してもらえませんか?

もしエリクサーが安定して作成できるとなれば、我が国にとってとても利益になります。

勿論、御二人には相応の代金をお支払いいたします。どうでしょうか?」


麗華の提案を聞いて直哉は全く心が躍らなかった。

直哉が探索者を目指したのは物語に出てくるような魔法を使いたいからだ。

結局それは叶わず、ゲームの主人公のような残機がスキルだった。


そして麗華の提案はポーション工場の職員になれと言ったも同然で、夢の無い就職斡旋だった。

それとリナ子はそもそも麗華の事を気に入っておらず、協力する気は一切無かった。

二人の答えは決まっていた。


「申し訳ありませんが、あれは偶然の出来事なので協力する気はありません」

「そうそう。あれは二人の愛が高まった時にだけ起きた奇跡だから、人生で何度もやれることじゃないの。

用件がエリクサーの事なら話は終わりだから、さっさと帰って帰って!」

「そんな!……今も世界中にはエリクサーでなければ助からない命が沢山あるというのに、見捨てられるのですか?」

「そういう方々はまずお医者さんと話し合ってくださいよ。高校生のオレに言われても困りますよ」


話を強制的に終わらせて、麗華達の背中を押して部屋から追い出した。

部屋の外へ出した麗華は何か言いたげな表情をしていたが、部屋主に追い出されては大人しく去るしかなかった。


「全く、二人の大切な時間を奪うなんてとんだ性悪女だったわね。

でも、ここからはまた二人きりの時間だね……」


リナ子はおもむろに胸元のボタンを開けて、谷間を直哉に見せつけ始める。

それを見た直哉は、麗華以外にも自分を良くない方向に誘う悪魔の対処をすべく、教科書などをカバンに詰めて出掛ける準備をした。


「……直哉どこ行くの?」

「そろそろ夕飯の時間だから大畑さん家に向かおうと思ったんだよ。

これ以上この部屋にいるとまたさっきみたいにギルドの人が来そうだから、勉強も向こうでやった方が捗りそうだと思ってね」

「夕ご飯ならあたしが作るから心配しないでいいよ。

だから今日はこの部屋で過ごそうよ、ね?」


明らかにリナ子は直哉の部屋に泊まるつもり気満々だった。

それを嗅ぎ取った直哉はリナ子の鞄を漁ってみると、教科書は入ってなく代わりに着替えなどが入っていた。


「リナ子さんも教科書忘れたみたいだし、勉強するなら家に帰らないとね」

「やだっ!分かってる癖に、あたしの気持ち分かってる癖に!」


リナ子の言葉を無視して二人分の鞄を持ち、直哉は駄々をこねるリナ子を引き摺って大畑家へ向かうのだった。

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