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1話 大乗直哉は探索者になりたい

大乗(おおのり)直哉(なおや)は高校二年生の年齢17歳。

彼は四か月間アルバイトを頑張って貯めたお金を持ってダンジョンギルドにやって来ていた。ギルドに来た理由は探索者となってスキルを得る為だ。


物語の主人公のように格好いい能力を授かってヒーローのように活躍したい、と子供の頃からの憧れであり夢だった。

高校生になってもその夢は捨てきれず親に内緒でお金を貯めて、今日ようやく初心者講習を受けることが出来た。


人類の英知によりダンジョンで生き残る術が確立されたが、何も知らない素人をそのままダンジョンに入らせることはしていない。

ダンジョンに入るには許可が必要で、初心者講習を受けてスキルを得た者だけが資格を得られるのだ。


予約を取り、受講料五万円を支払い、更に探索者の必須アイテムである探索者専用小型パソコン略して『探パス』を購入した。この探パスのお値段なんと税込み十二万円也。学生の直哉には痛い出費だが買わないという選択はなかった。


探パスは腕時計やスマートウォッチのように手首に装着する物であり、その中にはあらゆるデータが入っている。

登録されている探索者の全データはもちろん、モンスターのパラメーターもダンジョンで見つけたアイテムもこれ一つあれば全てが分かるのだ。

つまりはダンジョン攻略本!

これがあるとないとでは、天と地ほどにダンジョン内の生存率が変わると言っても過言ではない。


さあ、準備は整った。あとは初心者講習を受けてスキルを得るのみ。

直哉はギルドの受付に案内されてダンジョン入り口前に通された。そこには3人の人物が待っていた。


1人目は大柄な男性。

黒い日焼けの肌に顎髭が特徴の20台半ばに見える銀色の鎧を着込んだ男だ。腰にはブロードソードを差していて、背中には盾を背負っている。見た目からするにタンク()系統のスキル持ち。

すぐに直哉は知ることになるが、彼が初心者講習の指南役の教官であった。


2人目は金髪の少女。いわゆるギャルだ。

一応、腕に探パスはつけているが明らかに学校帰り。カッターシャツに白のニットセーター、紺色が基本色であるチェック柄のスカート。他に装備は見当たらないが、服装を見るに直哉と同じ高校生のようだ。


3人目は黒髪ロングの少女。こちらも女子高生のようで直哉と同年代だ。

背中には薙刀を背負っているが、格好はギャルと同じで学校の制服。こちらは黒いセーラー服に白いリボンを付けたシンプルなデザイン。

勿論、腕には探パスを付けている。


「これで全員が揃ったようだな。

それでは自己紹介しておこう。私は君達の教官を務める石元(いしもと)鉄雄(てつお)だ。よろしくっ!」

石元が元気良く挨拶をして、直哉に自己紹介の挨拶を促す。


「えー、オレの名前は大乗直哉です。よろしくお願いします」

直哉は軽く頭を下げた。恥ずかしくて短い言葉で済ませて、すぐに次の人に順番を譲る。


「あたしは大畑(おおはた)リナ子」

ギャルのリナ子の挨拶は直哉よりもさらに短かった。

教官である石元がしばらく次の言葉を待ったくらいに、何の情報も無い。


「わたくしは大泉(おおいずみ)麗華(れいか)です。現在高校二年生ですわ。今日は皆様とご一緒できること喜ばしく思っております」

麗華が挨拶を終えると最後に恭しく頭を下げた。

その所作を見ただけで、麗華が庶民ではないと気付くほどに気品があった。


「よし、これで自己紹介も済んで互いのことが分かったな。では次は実際にダンジョンに潜ろう。

心配しなくていい。君達には私が付いている。それにダンジョンへ入っても1階にはスライムしかいない。

無防備に10時間ほど寝てれば別だが、気を付けていれば死ぬことは一切ない」


そう言って、石元は先陣を切ってダンジョンに入って行った。

直哉もそれに続いて足を進め、リナ子も麗華も臆することなくダンジョンに入って行った。


「そう言えば麗華さんは高2なんだね。オレもなんだ、奇遇だね」

「同い年でしたか、なんだか親しみが湧いてきますね」

「そうそう、苗字も同じ大の文字が入っているし、なんか運命的なモノを感じるよ」

「あたしは別に思いませーん」


緊張をほぐすためと、これから命を懸けることになるので仲良くなろうと直哉から声をかけたのだが、ギャルのリナ子に両断される。

直哉は、その声に苛立ちが含まれているのを感じた。


「ねえ大畑さん、ここからは命の危険がある。何を怒っているか分からないけど、一旦リラックスしよう」

「……チッ!うざいなぁ……」


あからさまに悪態をつくリナ子。


「大畑君っ!大乗君に謝り給え!」


舌打ちをしたリナ子に、石元がそれを強く叱責した。

いきなりの怒声にリナ子の目は丸くなり、迫る石元から身を守るために体も丸

めた。


「大乗君が言った様に、ここから先は命の危険がある。

確かに今日は教官の私が付いているが、探索者となったらダンジョンを探索する時は自分でそのリスク背負わなければならない。

君のその態度は、いずれ自分の首を絞めることになる!それを指摘してくれた大乗君に謝り給え!」


石元の説教が効いたようで、リナ子は素直に直哉へ頭を下げた。


「ごめん……」

「いや、そんな重く取らないでいいから。せっかく一緒に講習受けるんだから仲良くやろうよ」

「それは止めとく……」

「そ、そう……」


(ギャルの割にはノリが悪いなぁ……)

そう思う事はあっても、直哉は全然怒っていなかった。

その理由は自分以外の探索希望者が同年代で女の子なことだ。しかも二人とも可愛い。

声をかけたのも、仲良くなって自分の格好いい所を見せたいと言う気持ちからだった。


「さて、それではモンスターを実際に倒してもらおうか。

安心していい。スライムは移動が遅く、攻撃方法は消化液だけで、それに触れなければ問題ない」


石元が言うとギャルのリナ子が一番に動いた。

近くにスライムが這いずり回っていたのでそれを踏み潰すと、形を失って消滅した。


「そうだ、それでいい。

何体か倒せば経験値が溜まってレベルアップするだろう。そうすれば自分だけのスキルが手に入るぞ」

「では、わたくしも」


次に麗華が同じようにスライムを踏み潰す。背中に背負った薙刀は使わないようだ。


「オ、オレもやるぜ」


最後に直哉が持って来ていた木刀を振り下ろすが、力が入り過ぎてスライムが飛び散った。

ダメージを受けたスライムはすぐに消滅するが、直哉の顔にべっとりとかかって気持ち悪い思いをすることになってしまった。

麗華が武器を使わなかった理由はこの為だったのかと、失敗してから理解する直哉だった。


その後、3体のスライムを倒してリナ子の探パスが軽快な音を鳴らせた。


「おめでとう、レベルアップをしたな。早速自分のスキルを確認するといい」

「ヒール……って書いてある。回復スキルってこと?」

「そうだ。回復スキルは重宝されるから食いっぱぐれが無いぞ。

何よりも、他のスキルと違ってモンスターを倒さなくても経験値が入る有用なスキルだ」

「へぇー……便利そうね」


すぐにまた音が鳴り、レベルが上がったのは麗華だった。


「今度はわたくしですね。ファイアーボールと書いてあります」

「レベル1で攻撃魔法も当たりだよ。武器が無くても遠距離からモンスターを倒せる手段を持っているのは、ダンジョンを潜って行くときに心強い武器になるぞ」


2人がレベルアップを済ませて今度は直哉の番だが。これがなかなかレベルが上がらずにいた。

リナ子は3体、麗華は5体のスライムでレベルが上がった。しかし、直哉は30体倒してもレベルが上がる兆候が見られなかった。

ダンジョンに潜ってから30分ほどが過ぎて、直哉のスライム討伐数が50体を越えたがまだレベルは上がらなかった。


「あのっ!あたし、用事があるので先に帰って良いですか!?」


しびれを切らしてリナ子が大声で石元に迫った。

本来ならレベルが上がってスキルを手に入れたら探索者になるための講習があるのだが、直哉のせいでそれも時間が押していたのだ。

なので直哉のレベル上げの間に探パスに入っている心得を読んでおくよう石元が言って時間を稼いでいたのだが、それも終わってしまった。


スキルを手に入れて探索者の心得も読み終わり、もはや初心者講習ですべきことは全て終わって後は帰るだけ。それなのにレベルが上がらずスキルを手に入れられない男に付き合わなければいけないとなればむしゃくしゃしてしまうのも無理はない。


しばし石元は考えて、リナ子達を先に帰すことに決めた。


「何か困った事があればギルドの受付に聞くように。

ダンジョンに入る時にも言ったが、ここは命の危険がある場所だ。少しでも不安があったらギルド職員を頼ってくれ。全然恥ずかしい事じゃないからな」


石元はそれだけ言いつけて2人を見送り、そして直哉のレベル上げ作業に戻る。と言っても、石元に出来るのはスライムを見つけてやれることくらいだ。


スキルやレベルと言った単語が飛び交っていてまるでRPGのようなシステムだが、経験値をパーティ内で分け合うなどと言ったシステムはない。

そもそも仲間でダンジョン攻略は出来るが、パーティ設定やフレンドリファイア防止機能などはない。


そう言う事なので直哉が地道に頑張ってスライムを倒しまくって一時間が過ぎた頃、やっと探パスから軽快な音が流れて待ち望んだ瞬間が訪れた。


「やった……やりましたよ、教官!」

「よくやった大乗君……この仕事を請け負って3年ほどだが、これほどの大型新人は初めてだ。

期待していい、キミのスキルはかなり強力なはずだ!」


石元に促されてステータスを確認する直哉。

だが、表示されたステータスウインドウはスカスカでスキルらしき文字は見当たらない。

唯一書かれていた文字は、左上の端に自分の名前が表示されているだけ。レベルの表記すら見当たらなかった……。


「あの……教官……オレのステータス……レベルの表記がないんですけど……」

「何だって!?でもレベルアップの音を私は聞いたぞ!どれ、見せてみなさい」


石元に言われて直哉はデータを石元の探パスに送った。

探パスは腕に装着しているが画面はついていない。電気信号により網膜に描写される仕組みになっている。

戦闘中にわざわざ腕に視線を移しては危険であるという理由と、ステータスなどの大事な情報を他者に見られないように配慮された結果こうなった。なので12万円もする探パスを皆買うのだ。


「こ、これは!?確かにステータスには何もない……レベルの表記すらなく、これではスキルを得る前のただの一般人だ!

いや……待て!?ここにちゃんと記載がある!」

「!?どこですか?」


自分がレベルアップ出来ていなかったと茫然としていた直哉だったが、石元がステータス画面にスキルが表示されていると言うと、すぐさまステータス画面を確認する。


「名前の横に×2と表示されている。通常、名前欄の横にこんな表示はされていない。つまり、これが君のスキルと言う事になるな」

「おおっ!これがオレのスキル……それで、どんな効果なんでしょうか?」

「うん……ちょっとそれは……分からないな……」

「えっ!?」


自分にはスキルがあるという安心と期待という風船が胸の中で膨らみ、石元の反応で割れたような錯覚を直哉は覚える。

風船で空を飛んだ高揚感があったと思ったら真っ逆さまに落ちていく……直哉の心は絶望と言う名の谷に落っこちていった。


「いや、落ち込むことはない。スキルは手に入れたのだから、何も問題はないぞ。

多分、×2と書いてあるから肉体強化系のスキルだ……と思う……。

もしくは分身系スキルかもしれんな!きっといいスキルが手に入ったと私は願っているぞ!」


時間も押しているので講習会も無しになり、直哉はそのまま帰された。

どんなスキルか分からない探索者としてやって行けるか分からない状態で放り出されて、覚束無い足取りで帰宅して全てを忘れるかのように直哉はそのまま深い眠りについたのだった。

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