0話 ダンジョンの誕生
ダンジョン、それは男のロマン。
ダンジョン、それは一獲千金を目指す人間が行き着く場所。
もはやダンジョンはフィクションではなく現実に存在し、人々の生活に不可欠な物になっていた。
ダンジョンから持ち出せる物質、魔結晶により人々の生活に電気やガスと言ったものは必要が無くなり、新しいエネルギーである魔力に頼る生活へと変わっていった。
そうなった切っ掛けは今から数十年前、いきなり世界各地にダンジョンは現れたことが始まりだった。
初めは地盤が揺れて穴が空いただけかと思われていたが、それは違った。
工事を行い穴を塞ごうとしたが、幾度となく塞いでも穴を閉じることは出来なかった。
これにより工事は中止。国が調査に乗り出すこととなった。
調査隊が結成されて中を調べると、入り口の大きさよりはるかに大きな洞窟が広がっていた。ダンジョンの外からレーダーなどで地中を調査しても、目の前にある入り口の穴以上は感知されておらず、別の場所に繋がっている異空間となっている可能性が考えられた。
調査隊が中を進んで行くとそこにはモンスターがいた。
調査当時は正体不明のモンスターと対峙して調査隊は脅えたが、ボーリング玉を半分に割った大きさの透明な半球体、ゼリー状の体を持つそれはスライムと名付けられることになる。
スライムの体内には赤い核があり、それを潰せば簡単に死んでしまう。
後に初心者部屋と呼ばれるようになる1階にはそれしかおらず、誰でも一撃で倒せてしまう事が分かり、調査隊は恐れを忘れて油断した。
そして奥に進み、上へと上がる階段を見つけた。
地面に空いた先の地下洞窟のはずが上に進む道を見つけて、ダンジョンが別次元に繋がった異空間であることを確信した。
だが、ここで調査隊はさらに奥に進む。不可思議な空間であることは判明したが、穴を塞ぐ解決策を彼らは見つけていなかったからだ。
2階はゴブリンと呼ばれる凶悪な小鬼のモンスターが現れる。
体毛が無い緑色の皮膚をした見た目で、二足歩行で手先もそこそこに器用なモンスター。大概が棍棒を持っており、持っていない個体は石を投げてくる。
体は小さく、特徴である頭の2本の角もたんこぶが2つ付いている様にしか見えない。凶悪なのは顔面と雄叫びくらいなものだ。
何しろ成人男性の膝ほどしか身長が無い小さな体だ、調査隊がスライムに楽に勝てたので油断してしまうのも無理はない。
しかし、ゴブリンに投げられた石で調査隊の一人の骨が折れ、動揺している所に棍棒のフルスイングが当たった。
こん棒が頭に当たり、スイカ割りのように頭が割れて中から赤い中身が飛び出した。そして混乱した調査隊が全滅するのも時間の問題だった。
こうして第一回のダンジョン調査は失敗に終わった。
この結果は行方不明となった調査隊を探すため発足された、第二回ダンジョン調査隊によって見つけられた遺留品の録画映像で判明する。
この映像を見て日本では自衛隊が出動、ダンジョンの殲滅に取り掛かることになった。
結果から言うと自衛隊は失敗した。海外の国々もダンジョンに軍を派遣したがいずれも失敗。
実はダンジョンにはルールがあり、外から持ち込んだ武器は装備した物だけが有効。飛び道具などは手から離れた時点で攻撃力は無くなる。
つまり重火器の類は音が出る筒で、手りゅう弾を投げても煙幕が出来るだけだった。
そして世界中が協力をして何年も何十年もかけて、ダンジョンへの対策が作られていった。
ダンジョンが現れた初めの頃は人によっては世界の終わりだと叫ぶ者もいた。
いきなり現れた物理法則から外れた不可思議な穴。それに恐怖していた人は多かったが、人間とは環境に適応する動物だ。
調査して理解して対策して、そして慣れて日常となった。
今では人々の生活にダンジョンから採れる魔結晶は必需品であり、高校生のアルバイトとしても人気だった。
油断すれば命を失う危険は変わらないが、人間はダンジョンに対する力を身に着けていた。その力はスキルと呼ばれた。
それはダンジョンに潜り、モンスターを倒すと新たな力が得られることが研究により発覚する。
ダンジョン内でしか発現出来ないが、ダンジョンでは人を超える存在になれるようになる力、それがスキルだ。
そしてスキルはモンスターを倒せば倒す程に強くなっていく。敵が強ければ強いほどに力を増していった。そういって強くなった存在をいつしか人々は探索者と呼んでいた。
この物語は探索者とスキルに憧れた青年が、ダンジョンで最強になる物語である。