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守り人  作者: 紫月 飛闇
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番外編7)比較。









蒐はいつも思ってた。

籥と剋は似ている、と。





特に顔つきが似ているというわけではないのだが、彼らの性格や内包するもの、雰囲気が似ているのだ。

だから蒐もすんなりと剋と溶け込むことができたわけだが・・・・・・。







だが、籥と剋は別人だ。

育った環境だって違う。仕えている相手も。









すっかり『守人』としての任務もなくなり、暇を持て余すようになった蒐は、ふとした思いつきで、このふたりを比較検証してみよう、と思い至った。



元々いたずら好きの蒐。

椎国城で与えられた蒐の部屋で、卓上に所狭しと酒瓶を並べて呼びつけた籥と剋を待った。

最初に訪れたのは剋だった。








「・・・蒐?これは何の宴会を始めるつもりなんだ?」

「なんだと思う?」


いたずらだと悟られないように、あえて無表情に蒐は問い返す。

そんな彼の態度に戸惑ったように、剋はゆっくりと蒐に近づいてきた。


「蒐が酒を飲みたがるなんて珍しいな?椎国で飲んだりしたことないだろう?」

「・・・そうだね。でも、今日は飲みたい気分なんだ」

「・・・・・・どうした?なにかあったのか?」


うつむく蒐に、剋が心配そうに顔を覗き込んでくる。

さすがに罪悪感が疼いた蒐は、籥が来る前だけど、種明かしをしないと剋を必要以上に心配させてしまうと思い、口を開きかけたが・・・・・・。






「お~い、蒐、何か用でもあるのか?」







たまたま籥も椎国にいたので、蒐は彼も呼びつけたのだ。もっとも、籥も剋もたまたま椎国にいるからこそ、こんないたずら実験をしようと思ったわけだが。その籥も部屋に現れ、蒐は開きかけた口を再び閉ざした。


「・・・なんだ、この酒の山は?」

「俺が用意したんだよ」


剋にしたように、蒐は無表情のまま籥に答える。その視界の隅で剋が心配そうに蒐を見ているのには良心が痛んだけど。


「おまえが?へぇ、珍しい」


籥はいつもと違う蒐の様子には全然気にも留めないで、適当に酒瓶を手に取ると勝手に開けてしまう。


「さすがにこれだけの酒を飲めば、いくらおまえでも潰れるんじゃないか?」


そう言う籥の言葉の調子は、剋のとは違い、心配するものではなく、軽くからかうような口調。ニヤニヤ笑いながら蒐を見下ろす籥に、蒐は挑戦的な瞳を向けた。






「酒に潰れたい気分なんだって言ったら?」

「へぇ~・・・・・・」

まじまじと籥は蒐を見つめて返事とも応答ともとれぬ言葉だけ洩らした。


「蒐、何か悩みがあるんだったら相談でも・・・・・・」

「よし、じゃぁ、一緒に潰れるまで付き合ってやろう!!」


思いつめたように声をかけてきた剋と、明るく手に持っていた酒瓶を振り回した籥がほぼ同時にそう発言した。

・・・驚くくらい対極な反応である。






「ん~・・・・・・実は全然似てないのかな・・・・・・」

「何がだ?」

「あ、いやいや・・・・・・」

蒐の苦笑まじりのつぶやきを聞きつけた籥が問いかけてくるが、後ろめたい思いがある蒐は、慌てて両手を振って首も横に振った。

すると、その勢いが余って、蒐の手が酒瓶の一つを振り落としてしまい、けたたましい音を立てて中身をぶちまけながら酒瓶が砕け散った。






「・・・あちゃ~・・・・・・」

「どうした?本当に今日は蒐らしくないぞ?」

剋が屈んで酒瓶の破片を拾おうとするのを、慌てて蒐は止めた。

「あ、危ないよ、剋さん。ここは俺がやるから・・・・・・っ!!」


心底蒐を心配してくれている剋に、こんなことまでさせられない。

蒐は大慌てで素手で硝子の破片を拾い、彼にしては珍しくその破片で指を切るという失態を起こした。


「切ったのか?大丈夫か、蒐?!今薬を持って・・・・・・」

「大丈夫だって、剋。それくらい舐めてれば治るだろ、蒐?」

蒐を案じる剋とは対照的に、籥が淡々と冷静に剋に言い放つ。

包み込むような優しさで蒐を心配してくれる剋とは全く対照的な籥の態度が、蒐にはひどく冷酷に見えてしまう。

むぅっと蒐は子供のように機嫌を急降下させて頬を膨らませて籥を睨みつけた。







「・・・籥って冷たい・・・・・・」

「はぁ?」

「だって、剋さんは、俺が柄にもなく酒を大量に用意したのを見て、なにかあったんじゃないかって心配してくれたんだよ?それに、怪我をしたら手当をしようとしてくれた。なのに・・・・・・」

「オレはおまえを心配するわけでもなく、酒飲みに付き合ってやろうって申し出たのが不満だって?たかが擦り傷を放っておいたオレの対応が冷たいって?おまえ、オレに何を期待してるわけ?」

「・・・それは・・・・・・」






そもそも剋と籥を比較してみよう、なんてふたりを試すようなことをしたのは蒐だ。

それなのに、それぞれの反応を見て、籥が冷たいと責めるのはお門違い。

・・・わかっているのに、なぜか今日の蒐の中では、感情がそれについていかない。






期待をしていたのだろうか。

籥は蒐を絶対的に甘やかしてくれる存在だと。

こんな風に、突き放されるなんて思わないで。






「・・・えっと・・・・・・蒐?籥?」

うつむいたまま何も応えない蒐と、それを鋭い視線で見降ろす籥のふたりの雰囲気に圧されてしまった剋は、どうしたものかと立ちつくす。

すると、籥が小さくため息をついて、うつむいたままの蒐の髪をくしゃくしゃと掻き交ぜた。







「あのなぁ、剋とオレじゃぁ、蒐と付き合ってきた年月が違うだろ?オレはおまえがどれくらいの酒を飲めるのか知ってるし、どれくらいの傷や怪我が痛みを伴っているかを知ってる。・・・・・・何を企んでいるのか、もな」

「・・・籥」

すでに蒐のいたずらなどお見通しと言わんばかりの籥の表情に、蒐はしょんぼりと彼の名を呼ぶ。


「剋は優しいさ。特におまえが『守人』として苦しみながら麗姫のそばにいたことも知っているから、余計に優しいんだろうな。・・・でも、オレだって優しいんだぜ?」

「籥のどこが優しい・・・・・・って、うわぁ・・・!!」

反論しようとした蒐の視界が、突然反転した。

なんと、籥が蒐を肩に担ぎあげてしまったのだ。





「ちょ、なんだよ、籥?!」

「悪い子にはおしおき~!!剋、悪いけど片づけ頼むな」

「わかった」

苦笑しながら剋は請負い、籥はそれを確認すると蒐を担ぎあげたまま部屋を出た。






「ちょ、ちょっと、籥、いい加減おろして・・・・・・」

「オレは別に、おまえがヤケ酒しようが、擦り傷負ったりしようが、心配したりなんかしない。・・・だけど、オレだっておまえのこと、心配してるんだ」

「籥・・・・・・?」

蒐は籥に担ぎあげられたままなので、廊下を歩きながら蒐を担ぐ彼の表情を窺うことができない。

「・・・おまえがまだ、毎食後に毒を飲み続けていることだって知ってる。麗姫や渫たちの食事の毒見を買って出てることも」

「・・・そ、それは・・・・・・」

『守人』であった頃からずっと、蒐は毒を飲み続けている。それは毒の耐性をつけるための大切な儀式のようなもので、彼にとっては薬と同じ。







なぜ、すでに二国が争うことがなくなったのにそれを今も続けているのか。

それは、両国が同盟を結ぶことをよしと思わない者たちが、麗や渫、趨たちを暗殺しようとあの手この手を使ってくるからだ。

無論、その中には毒殺という手段もある。

だから、蒐は彼らの食事を毒見する。剋や籥は、心配しなくても自分の命は自分で守れる。



まさか、籥がそれを知っているとはさすがの蒐も思っていなかったけど。








「戦うことがなくなって、命の奪い合いがなくなっても、水面下ではまだ争いは続いている。それをなんとかするために、オレたちは今もまだ、戦い続けているんだ。・・・・・・だけど、オレは心配してるんだ」

「・・・毒のことは黙ってて悪かったけど・・・・・・」

「そのこと以外にも他にもあるんだよ。たとえば、心身ともに疲れて熱を出してるってのに、くだらない思いつきで人を比較して勝手に落ち込んだりしてることとかな」

「・・・・・・熱・・・・・・?」

そういえば、今朝からいつもより体が重かったかもしれない。






はぁっと籥はわざとらしい大きなため息をついてから、ある部屋の扉を開けた。

「ったく、やっぱり自覚なかったのか。剋だってたぶん、気付いてたぞ?」

「・・・そっか・・・・・・」

籥の広い背中に甘えながら、ふっと蒐は息を吐く。すると、再びぐるりと視界が回ったかと思ったら、ベッドに横たわっていた。

「オレたちを試した罰として、今日はおとなしく寝ててもらうからな」

「え~・・・・・・」

「え~じゃない!!ほら、さっさと寝ろ。寝るまでオレは見張ってるからな」

「それじゃぁ余計寝れないよ~・・・・・・」

ぶつぶつと文句を言いながらも、思わず笑みが浮かんでしまうのを蒐は抑えられない。





「・・・なに笑ってんだよ?」

「なんでもないよ~」







そう、本当は蒐だって知ってた。

籥は、優しい。

剋のようにすべてを甘やかしてくれるわけじゃないけど、蒐の絶対的な存在。

いつだって、蒐のことを大事に守ってくれる。

今だって。

こうして、家族のように。






「・・・知ってるよ、籥は優しいって」






ぽつり、と蒐がつぶやくと、籥は驚いたように目を瞠って。それがまたおかしくて、くすっと最後に小さく笑ってから、蒐は目を閉じた。


再び目を開けた時に、そばに籥がいてくれるのだろうという確信を持ちながら。















ちょっと子供っぽい蒐でした。




ずっとずっと書きたかった話なのに、なんかうまくいかなかったです(>_<)


籥と剋の雰囲気が似ている、というのは、本編でも何度も蒐が呟いていたことなのですが、実際に比較したらどうなるのかな、と思い、やってみました(笑)


本当は色々検証する予定だったのですが、長くなりそうで・・・(笑)






でもやっぱり、籥は「家族」のような存在で、剋は「先輩」って感じなのかなって思ってます。


どちらも蒐にとっては大切な人で、頼れる相手だけど、打ち解け具合は籥のがあると思うのです。






ま、渫は論外ですけどね、蒐のすべてですし(笑)





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