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守り人  作者: 紫月 飛闇
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消せぬ、願い。
















『どんなことがあっても、必ずあたしの元に帰ってきてね』


渫との約束。


たったひとつの大切な約束。










蒐は、森の中にいた。それも、先ほどまで椎国のスパイたちと戦っていた森ではない。


むしろ、懐かしさを感じる。






「・・・・・・あぁ、ここは・・・・・・」






『守人の里』である森だ。大木一本一本にすら、思い出があって懐かしい。


ここは間違えなく、渫と蒐が育った森だった。








「あれ?!でも、森は燃やしたんじゃなかったっけ?!」


不思議に思いながら歩いていけば、前方に見知った人々がいた。






蒐が大好きで大切な人たち。






「姉さん!!籥!!」


蒐は大切なふたりに呼びかけるが、ふたりは蒐に気付かない。もっと近寄らないと気付いてもらえないのかも、と思った彼は歩みを進める。






「ふたりとも、ここで何してるの?!」


任務はどうしたのだろう、と思いながら問いかけるが、それでもふたりは蒐には気付いてくれない。






ふたりはとても幸せそうに笑っていた。


穏やかに、楽しそうに、笑っていた。そこには一切の憂いも感じない。






蒐はずいぶんと長くふたりのそんな笑顔を見ていない気がした。






終わったの、だろうか。






ふと、蒐は思う。ふたりがこんなに幸せそうに笑っているから。


ずっと長く強く願っていた『願い』が叶ったのだろうか。






戦いが、『守人』が必要な時代は終わったのだろうか。






蒐の中で、その事実は水が沸騰するように喜びと希望をふつふつと沸き起こさせた。


気付けば、駆け足で笑いあうふたりの元に駆け寄っていた。








「姉さん!!籥!!終わったんだね?!『蒼石』を手に入れて、戦が終わったんだね?!」






駆け寄り、渫の肩に手を置くと、いつものようなあたたかさがそこから感じられず、びくっと蒐は手をひっこめる。




振り向いた渫の無表情に、蒐は一瞬、どきりとする。


「・・・・・・姉さん?」


渫は、無表情のまま、蒐に告げる。








「・・・あなた、誰?」










「―――――――・・・・・・っっ!!!」








急速に、世界が暗転したかと思うと、視界に光が差し込んだ。


ゆっくりと瞬いて、蒐は荒い息を整えようとした。






「・・・・・・ゆ、夢・・・・・・?」


鼓動は激しく鳴っている。汗がべったりと背中をぬらしていて気持ちが悪い。


だがそれ以上に、身体のあちこちが痛くて仕方がなかった。






「ここは・・・・・・?」








見覚えのない天井。


首だけ動かして見回しても、ここが立派な部屋であることがわかる。何より、蒐が今横たわっているベッドも、ふかふかとしていて幅広く、立派なものだ。






「いったい・・・・・・」








あたりに人の気配がない。


蒐は混乱している頭で、なんとか現状を把握しようと努めた。








そういえば、あのとき―――――――――・・・・・・。






蒐は、渫をかばって崖から落ちたのだ。


流れの激しい河川に落ちたところまでは覚えているのだが、そこから先の記憶がない。






「生きて・・・・・・いるのか・・・・・・」


あちこち体が痛いのは、生きている証。


自分の悪運の強さに、思わず蒐は自嘲せずにはいられない。






とりあえず、ここはどこなのだろうか。


貧困に窮している糺国にしては珍しく、ここは豊かな民家のようだが。どこかの貴族の屋敷なのだろうか。








ぼんやりと蒐がそんなことを考えていると、パタパタと軽い足音をたてて気配が近づいてくるのを感じた。


―――――――――ふたりか・・・。






扉が開く前から、蒐は警戒して身構えた。






そこから現れたのは、まるで春のように長閑で明るい雰囲気を纏った愛らしい少女だった。その身に付けている衣装も上品で上質。民間人ではない。




そしてもうひとり、少女に付き添うようにして、体格のいい大らかな笑みをうかべた男が入ってきた。








「あら、気が付いたのね?!」


蒐の目が開いていることに気付くと、少女はうれしそうに蒐に話しかけた。


「大丈夫?!気分はどう?!どこか痛いところ・・・・・・ってあぁ、あちこち痛いわよね、その傷では」






蒐が口を挟む余地も与えずに、少女は一方的によく喋る。


やがて、問いかけるような蒐の視線に気付いたか、少女はにっこりと笑って自分の名を名乗った。








「わたくしはレイ。こちらはカツ。剋が偶然河に流されていたあなたを助けたのよ」






少女に剋と紹介された男を見上げて、蒐はとりあえず人懐こい笑顔を向けた。


「助けてくれてありがとう。・・・えぇっとそれで・・・・・・」


困った蒐は、さらに麗という少女に問いかけた。






「ここは、どこなのかな?」


「ここは椎国城の中の一室よ。剋は椎国の護衛官なの」






にこっと笑って告げられた言葉に、さすがの蒐も言葉をなくした。






「椎国の・・・・・・城の中・・・?!」


「えぇ、そうよ?」








みるみると顔色を失っていく蒐を見て、麗は心配そうに顔を覗き込んでくる。


「まだ具合がよくなさそうね。またあとで来るから、それまでゆっくり休んでいてね」


少女はそう言い残して、さっさと部屋を出て行ってしまった。






残された蒐は、言葉もなくパニック状態だった。








椎国の城の中だと少女は言った。










椎国・・・・・・まさか、敵国の城の中にいるなど、蒐は思ってもみなかった・・・・・・。






















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