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守り人  作者: 紫月 飛闇
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望めぬ、真実。









「守人」のことを他者に口外するな、と長に言われている時点で、聡いふたりは、すでにわかっていた。








必要以上に、他人と関わるな、と警告されていることを。










だから学舎に通い始めても、渫も蒐も友達といえるような存在はつくらなかった。特に勉強するにあたって、そんな存在も必要ではなかった。




なんといっても、彼らは2年で卒業しなければならないのだ。時間が1分1秒でも惜しい。








加えて、「村から子供だけで来た貧乏学生」という肩書きで学舎に通っていたので、揶揄する学生も多く、ことさら彼らは輪の中からはずれていった。


いつだって、貧乏人には冷たいのである。特に、こんなところでは。








実際、本当に渫や蒐がそう言っているような学生もいた。本当に、親がなけなしのお金を持たせてくれて、なんとか授業料だけを払っているような子供もいた。そんな子供たちは、やはり渫たちのように『保護者』のもとに身を寄せていた。










渫は、特に誰とつるむことがなくても平気だった。


時間が空いたときは本を読んだり、薬の研究をしたりするのに忙しかったからだ。






けれど、蒐はそうではなかった。


彼自身の存在を周りが放っておけなかった。








きっかけは実にささいなこと。


暇をもてあました蒐が、ちょっと練習がてら奇術を繰り出したのだ。誰かに見せる、というわけでもなかったのだが、何も無いところからぽん、と本が一冊現れたことにより、周囲が突然どよめいた。






「・・・・・・蒐、返しなさい」






呆れた口調で、渫が蒐に詰め寄った。


「あはは、ばれちゃった」


ぺろりと舌を出して、蒐は突然手元に呼び寄せた本を、渫に渡す。








「す、すげぇ・・・・・・」








誰ともなく、誰かがそうつぶやいたのをきっかけに、わっと学生は蒐を取り囲んだ。








「すげぇな、今の」


「どうやったんだ?!」


「もう1回やって見せて!!!」


「これって奇術っていうんだろ?芸団にいたことがあるのか?!」










周囲のあまりの反応に、当の蒐が戸惑うほどである。


けれど、そこは蒐。持ち前の明るさと人懐っこさで、すぐに周りを取り込んでしまう。




「じゃぁ、もっと色々見せてあげるよ!!」








もともと学位をとらねばならない、とプレッシャーの中でぴりぴりしていた彼らだ。息抜きにはぴったりの蒐の奇術に、虜になるのにあまり時間はかからなかった。












それから。


ひとり本を読む渫の傍らでは、多くの学生という観客に囲まれた蒐の図ができあがっていた。


目立つな、関わるな、という長の忠告は、もはや彼方。


彼はいつでも輪の中心になっていた。








「守人」については口外するな。








蒐もその長の忠告は守っている。緑にも学生たちも、渫と蒐が「守人の里」といわれるところで暮らしていたことは言っていない。






でも、「守人」とはなにか、明確な答えは、蒐の中にない。


なんとなく、こういう存在なのだろう、という想像だけがある。








その真実を知るのに、この輪は蒐にとって必要だったのだ。








蒐にとって、賭けに出るための、必要条件。










「・・・・・・ねぇねぇ、誰か、知ってる?」






ある日、蒐は奇術を繰り出す合間に、ふと思い出したように、顔を上げて自分を取り巻く面々を見つめた。




面々は、普段からにこにこと明るい蒐が、困ったように見上げるのを見て、不思議そうに彼を見つめる。








「なにをだ、蒐?」


「もし・・・・・・知っていたら教えてほしいんだけど・・・・・・」


「だから、なにを?」








珍しく歯切れの悪い蒐の口ぶりに、周囲も心配そうに蒐を見る。


蒐は、ちらっと隣で黙々と本を読む渫を見た。彼女は彼の視線には気付かない。






・・・・・・賭けるなら、今だ。


今しか、聞けない。












「ねぇ、『守人』ってなにか、知ってる?」










蒐の言葉に、ばっと渫が振り返って自分を見たのを自覚した。


だが、蒐は何もない顔をして周囲を見渡すだけだ。ここで渫と目を合わせようものなら、鬼のような形相をした彼女に睨まれるに違いない。






危険なのは承知。


自分から「守人」の話を持ち出すなんて。


だが、これはギリギリタブーにはならない。・・・・・・はず。








それでも、蒐はいい加減知りたかった。


自分たちが目指す、目指されている「守人」はどのような存在なのか。










「・・・・・・『守人』・・・・・・かぁ」




周囲のひとりのつぶやきに、はっと蒐も我に返る。








「『守人』ってあれだろ?護衛だろ?」


「え~違うよ、王宮の付き人だって聞いたよ?」


「うそ?!あたしは殺し屋だって聞いたよ?」


「あ、それなら聞いたことある。暗殺部隊なんでしょ?」


「違う違う、『宝』を守る番人だよ」


「『宝』って・・・・・・あの『宝』?うそだぁ、そんなわけないよ」


「それだったら、王族の護衛なんじゃない?」


「だったら敵国に向かう軍兵じゃないか?!」


「軍じゃないよ。だから、暗殺部隊だってば」


「そんな血なまぐさいものじゃなくって、付き人だって」








「・・・・・・っていうか、『守人』って伝説の存在でしょ?実在するの?」








冷ややかな少女の言葉に、周囲もしん、と黙り込む。




・・・結局、誰も真実は知らないのだ。


想像と噂と希望が入り混じっているだけ。








誰も知らない、『伝説の存在』。








「・・・・・・そっか・・・・・・」






なんとか、蒐はそれだけ言った。


渫を見れば、彼女も落胆した表情を浮かべている。なんだかんだ、誰かが真実を知っているんじゃないかと彼女も期待していたに違いない。








「蒐ってば、そんなの知ってどうするの?」


誰かがそんなことを言って笑った。そう、彼女たちにしてみれば、ただの『伝説の存在』『噂の存在』。








「ほんとだね。ちょっと興味あっただけだよ」








だから、蒐は無理やり笑顔をつくって笑う。


そこに落胆の表情は一切浮かべない。








学位を得ようとする彼らの誰かなら知っているんじゃないか。


ずっと町で暮らしていた彼女たちなら知っているんじゃないか。




『守人』という、存在を。










そこに期待をし、賭けをしたのは蒐。


でも、それは見事に玉砕した。






伸ばした腕の先にあるはずの真実は、腕を空回りさせるだけに終わった。










口々に言われた言葉に真実はあったのか。


噂の中に、答えはあったのか。






今の蒐には、それを探る気力はなかったのだ。












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