表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の目の前で妻が浮気している  作者: 高円寺ほるもん
9/9

もう隠し立てをする必要など何もない。

 警察で取り調べを受け、私は何も隠さず、男性との経緯をすべて話した。


 だって夫は死んでしまったのだから。


 夫の死は、私に原因があるとわかっているので、すべてを話してしまいたいと思った。


 警察では捜査の結果、加害者の男性と私との共謀はないと断定し、私を釈放した。


 私は、アパートに帰ってきた。


 もう近所のうわさになっているのだろう。


 住人が私を見る目が好奇になっているのが分かる。


 おそらく近日中に大家から退去を言い渡されるだろう。


 鍵を開けて中に入る。


 何も変わったことは無かったが、部屋の中の様子を何気なく見てまわる。


 奥の部屋に入って夫の遺影を見たとき、なぜかちょっとビクッとした。


 あの時、男性が私を抱こうとした際には、なぜか遺影の目に光があって、まるで夫が生きているかのような感じがした。


 だが、今の遺影の目は空虚な感じがする。


 ……そうか。四十九日で夫の魂は天に召されたのだろう……


 と、思った。


 ……あなた、ごめんなさい。悪い妻でごめんなさい。


 涙があふれてきた。


 すべては自分のせいなのだ。


 位牌を胸に抱きしめて、私はしばらく泣いていた……


 ……数日後、部屋のものをすべて処分し、身の回りと遺影と位牌だけを持ってアパートを立ち去った。


 その後、事件に関する裁判が済み、男性の懲役10年の実刑判決が確定した。


 私は証言には立ったが、罪は課せられなかった。


 幸い、夫の生命保険は問題なく受け取ることができ、若干の貯金と合わせて、生活に困ることはなかった。


 後に、私は日本を離れ、知り合いの伝手(つて)で東南アジアのある国の日系の会社で働き始めた。


 多少の英語ができたので、仕事には差し支えなかった。


 夫への罪滅ぼしから不妊手術を受け、その後はもう性欲は感じなくなった。


 再婚はしなかった。


 ……それから11年経ったある日のこと。


 仕事に出かける時にいつもしているように、亡夫の遺影に向かって手を合わせていると、ちょっとした地震があって位牌が倒れ、その下にいた一匹の百足(むかで)が押し(つぶ)され、胴体がちぎれていた。


 ちょっと気になったが、死骸を片付けたのち出勤した。


 数日後、日本から来た社員が持っていた新聞に、ある記事を見つけた。


 それには、昔私と関係があった男性の実名が()っていて、交通事故にあって死亡したという記事だった。


 狭い道で車で()ね飛ばされた拍子にガードレールに激突して胴が切断され、その場で即死したという内容だった。


 私は思い出した。


 数日前に位牌が倒れて一匹の百足が潰されたことを。


 そして、男性の左腰の後ろに小さな百足の入れ墨があったことを。


 ……そうか。もしかしたら夫が男性を……


 私はその新聞をもらって、仕事が終わると自宅に戻り、夫に報告した。


 なぜか夫の遺影の目が、笑っているように私には思えた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルに惹かれて読ませていただきました。 最後が特に印象的で面白かったです。 [一言] 素敵な作品をありがとうございました!
[良い点] 物語の始まり方が面白く最後まで楽しませて頂きました。 嫁ちゃんの性欲ひとつで、そこまえ行くか!というくらい最悪にまで行き着いてしまって、何もしていないのにその最悪を一身に受けされられちゃ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ