ホテルを出た後も私の心はまだ動揺していた。
……夫以外の男性と関係を持ってしまった……
この事実が、私の心を鉛のように重たくしている。
夫に済まないという気持ちがある一方で、男性との行為が思った以上に充実したものだったことが、心の傷を深くしている。
もし男性との行為が期待外れであったならば、もう2度と関係を持ちたいとは思わなかっただろう。
結論的に言えば、男性との行為は夫と比べて段違いによかったのだ。
夫への罪悪感と、新しく得た快感は、後者の方がはるかに勝っていることを心の内で認めざるを得なかった。
事実、私は男性と今後も会うことに抵抗しなかった。
男性は、これからの逢瀬について、携帯電話やメールやメッセージアプリなどは一切使わないようにしたいと言った。
徹底して証拠を残さない配慮であると言う。
私ももちろん同意した。夫に知られるわけにはいかないからだ。
男性が提案したのは、チラシを利用する方法だった。
スーパーなどのありふれたチラシの片隅に、短く箇条書きしたものをやり取りする。
はたから見てそれと分かるような文ではいけない。
「○○日特売 1800円 ××ドラッグストア」などと書き、それが○○日の18時に××ドラッグストアで待ち合わせを表すようにする。
そして使用したチラシは必ずその日のうちに処分する。
この方法で私と男性は、逢瀬を重ねるようになった……
男性は、最初に会った時のまじめな髪形や服装が影をひそめ、だらしのないホスト風に変わってきた。
左腰の後ろには百足の小さな入れ墨も見つけた。
何かの縁起担ぎなのだろうが、ろくなものではない。
しかし、私は次第に男性に順応してしまった。
自分でもあさましいと思うのだが、体はそうでない。
男性の方は、私の体がこれまで経験したことがないくらいにいいと言ってくれた。
よほど相性がいいのだろうと言う。
私に対する求め方も、最初の遠慮がちなものから、大胆に変わっていった。
煽情的な下着や大胆な姿態や奇抜な体位を求めてくる。
だが私はそれをほとんど無抵抗に受け入れた。
そうすることで、変化のない日常や相手をしてくれない夫から逃れ、これまでの自分が知らない世界にむしろ喜んで没入していった。
だが、完全に男性に身も心も捧げたわけではない。
心は今も夫の側にあった。
だが肉体は男性の側にある。
……このジレンマ……
悪い女だと自分でも思う。
……でも……どうすることもできない……