近くにあるホテルに入った。
受付を済ませると、彼女は少し離れたところに立っていたが、素直についてきた。
部屋に入ると、入り口のところでうつむいたまま立ち尽くしている彼女の手を取り、ベッドにいざなった。
彼女は、抵抗することなく素直に俺を受け入れた……
……すべてが終わって、二人とも先程までの余韻に浸っていた時、彼女がふっと頭を起こした。
なぜか俺の顔を凝視している。
俺は、知らんふりをして天井をながめていた。
彼女が、ハッと何かに気付いたようだった。
「あなた、まさか? 同じアパートの1階の人?」
「あはは。わかっちゃったか……」
いずれはわかることだとは思っていたので、俺は素直に認めた。
「そうだったのね……」
そう言う彼女の口調に、トゲは無いことに気がつく。
「素性がわかって幻滅しましたか?」
俺は聞いてみた。
「そんなことはないけど……」
まだ俺の顔を見つめている。
俺は正直に白状した。
彼女を見かけて一目ぼれしてしまったこと、彼女を誘い出すためにチラシを作成して電話を待っていたことなどを素直に話したが、盗聴していたことは秘密にした。
「そうだったのね……」
怒るどころか、その巧妙な手口に感心したようだった。
彼女は、俺への視線を外してから、ぼそっとつぶやいた。
「寂しかったの……」
……やはり……
思った通りだと思った。
俺は、自分の中に湧き上がってくる、ある種の歪んだ快感を抑えきれない。
彼女は、夫との乾燥した関係に耐えられなかった。
だから思い切ってチラシに連絡をしてきたのだ。
だが、電話をかける決心をするまでには、彼女の中で猛烈な葛藤があっただろうことは想像に難くない。
自分の体から湧き出す激しい欲求に悩まされつつも、既婚者としてそんなことをするべきではない、そんなことをしたら夫に申し訳ない、という葛藤……。
その苦悩から彼女は、一歩踏み出す決断をしたのである。
だが決断をし、結果として俺とこのような関係になっても、彼女の心は晴れていない。
心のどこかで、夫に申し訳ないことをしてしまった、と思っているに違いないのだ。
俺が人妻を好きな理由はこれだ。
心の中で夫に詫びながら俺に抱かれる。
再び歪んだ快感が俺の中に満ちてくる。
そして、再び彼女に挑んだ。
彼女は目を閉じて、観念したように俺を受け入れた……