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俺の目の前で妻が浮気している  作者: 高円寺ほるもん
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3コールで相手が電話に出た。

 軽やかで気さくな感じの男性の声に少し安心する。


「……はい。当店では待ち合わせ場所や時間は、お客様のご都合に合わせるようにしております。今回初めてのご利用ですか? それでしたら費用はかかりません……」


 事務的な口調には不安を感じさせるものは何もなく、どうすればよいかを聞くと、待ち合わせ場所をこのアパートからかなり離れた駅の裏口を提案してきたので、こちらから明日の午後7時を指定した。


 電話を切った後も胸がドキドキしていた。


 してはいけないことにとうとう足を踏み入れてしまったような罪悪感がこみ上げてくる。


 心が動揺して胸の高鳴りがなかなか静まらない。


 本当にこんなことをしてしまっても良いのだろうか?


 でももし途中で嫌になったら行かなければいいだけだと思いつつも、期待している自分もいる。


 とうとう私は、翌日の午後7時に待ち合わせ場所に行った。


 服装は地味目にして、髪形も化粧も普段と少し変えた。


 夫には今日は友達と食事をするので、外で食べてきてと言ってある。


 待ち合わせ場所に行く道々、まわりの人たちが自分のことを注視しているように思えて気が気でなかった。


 待ち合わせ場所には、目印の雑誌をもった20代後半の男性がいた。


 栗色の髪の毛でブレザーとチノパン姿の、一見どこにでもいそうな普通の印象だった。


「あの、電話をかけたものですけど……」


 思い切って声をかけると、うなずいて笑みを見せ、少し歩きませんかと言ってきた。


 駅の裏口から少し歩いたところにあるビルの地下のバーに誘われ、カウンターに並んで座り、カクテルを飲みながら話をした。


 話しながら男性をそれとなく観察した。


 顔も悪くなく、会話も知的で好もしい印象を受けた。


 すでに私は高まってきている。


 心の中では、この男に抱かれてもいい、いや、抱かれたいと思っていた。


 でも我ながら不思議だった。


 知らない男と出会ったその日にこんなことをしようなんて。


 自分はこんな女ではなかったはずなのに……だが、体は自分の意志とは逆に向かっている。


 バーの中で男性がさりげなく聞いてきた。


「この後、どうしますか?」


 私の答えはもう決まっていた。


 だが、どのように返事をしていいかわからない。


 無言のままうつむいて男性の手をそっとつかんだ。


 男性は黙って会計を済ませた。


 バーを出てエレベーターに乗ると男性は顔を近づけ、自然なキスをしてきた。


 一瞬戸惑ったがすぐ受け入れた。


 心臓が口から飛び出すほど高鳴っている。


 エレベーターを出ると、男性と手をつないで歩いた。


 だんだん呼吸が苦しくなって、足がもつれるような感じがする。


 このあと起こることを思うと、平静を装うのがやっとだった。


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