御落胤の真実
セシリアは離宮にいくことにしたが、本来ならば取り次いでもらうためには門前に並ばなければならない。いったいつになると入れるのかわからない。だから、宰相補佐のヘルマンが口をきいてくれて、フリーパスで離宮に入れるようにしてもらった。
担当しているヘルマンは、少しでも情報がほしいのだろう。セシリアへの期待がうかがえた。
セシリアが離宮に行っても、最初のうちはヤニックは現れなかったという。毎日、たくさんの貴族や商人が訪問してくるので、うんざりとしていた。セシリアもその一人だと思われたのだろう。
でもセシリアには武器があった。そのおかげでコールバッハ男爵夫妻、特に奥方とはすぐに仲良くなった。
セシリアが最初に持っていった試作品のケーキは大好評だった。
侍女たちも集めて、試食会をかねたお茶会を開いて、セシリアは女性陣の心をつかみとったのだった。
「奥様から教わったの」
僕が帰ったら、セシリアはフィヒテル王国の郷土料理を用意していた。
料理をきっかけに、すっかり打ち解けているようだった。
セシリアは、毎日離宮に通って、夜にその日あったことを教えてくれた。しかし、有力な情報はまったくなかった。
「ヤニックってかわいいの」
離宮に行くようになり、しばらく経ってから、ようやくヤニックもお茶会に出るようになったもいう。しだいにセシリアにもなついてきたようだ。
最近は、フィヒテル王国でのことをよく話してくれるという。やはり遠い国に来て、寂しさもあるのだろう。
そんなヤニックを、セシリアは弟のように感じていた。
「よく見ると……、王女殿下に似ているところもあるのよね」
「どこが?」
「 目元とか……、鼻もおんなじね」
そう言われればそうだ。やはり弟なのだろうか。
「今度、僕も一緒に行ってみるよ」
「それがいいわね」
******
そんなある日のことだった。
その日は、僕は屋敷にいて、諸々の報告書をまとめていた。
そこにシャテーの予備チームの一人が現れた。セシリアの護衛を頼んでいる女の子だ。
「離宮が……、襲撃されています」
「何!!」
「男たちがいきなり入ってきて、今は正規メンバーが1人で対応してます」
G だ。彼女にずっとセシリアの護衛をお願いしていた。今は、研修を兼ねて予備チームの1人もつけていたのだ。
「すぐに、応援を呼びにいって。僕はすぐに離宮へ行く」
予備チームの女の子は消え、僕は離宮へと転移する。
セシリア……。無事でいてくれ。何か、心臓を掴まれたような恐怖が僕を取り巻く。
離宮へ行くと、G が短剣を構えて立っている。その後ろにコールバッハ男爵夫妻、ヤニックがいる。しかしセシリアがいない。どこだ?
僕は、氷魔法を唱える。
ਪਵਿੱਤਰ ਆਤਮਾ ਦੇ ਨਾਮ ਤੇ, ਮੈਨੂੰ ਬਰਫ਼ ਦੀ ਸ਼ਕਤੀ ਦਿਓ.
しかし、男たちの動きが速すぎてかわされてしまう。
「それなら!」
僕は、コールバッハ男爵夫妻、ヤニックを僕の空間に転移させた。これで彼等は大丈夫だ。
「セシリアは?」
「申し訳ございません。男たちに連れ去られました」
G はそう言う。
「なんだって!」
僕は、男たちを無視して、部屋の外に出た。
「セシリア!」
呼ぶが返事はない。
男たちが追ってくる。
「うわっ」
その男たちを、もう1つの空間に閉じ込めた。全部で5人。きっと何が起きたかわかっていないだろう。
廊下には、護衛の兵士が倒れている。屋敷の外もだ。
そこにL をはじめとしてシャテーのメンバーが現れた。
「セシリアが連れ去られた」
僕は、全力の〈探査〉を展開した。10キロ四方にいれば見つかるはずだ。
「いた! 王城の方向へ高速で移動している。おそらく馬車だ」
距離は2キロ先。僕とL はその方向に向かって転移した。これくらいの距離なら L やベテランのシャテーならばついてこれる。
僕たちは、馬車のちょっと先に転移した。
もう一度〈探査〉する。
「あの馬車だ」
ਪਵਿੱਤਰ ਆਤਮਾ ਦੇ ਨਾਮ ਵਿੱਚ ਮੈਨੂੰ ਅੱਗ ਦੀ ਸ਼ਕਤੀ ਦਿਓ
馬車の前に大きな火柱を立てた。
馬が驚いて前足を上げて立ち上がる。馬車が大きく揺れた。
馬車に乗っていた男たちは、すぐに飛び出して戦闘態勢に入った。よく鍛えられているのだろう。でも、シャテーの敵ではない。そもそも戦い方が違うのだ。
「うああああああ」
全員が、叫び声だけを残して影の中に引き込まれていった。
馬車の中では、縛られたセシリアが寝かされていた。
「セシリア!」
「タク……。私は大丈夫よ。ヤニックは?」
僕の呼び掛けに、自分よりもヤニックの心配をしている。
「無事だよ。みんな無事だ」
「よかった……」
セシリアは無事で、ケガなどもまったくなかった。
捕まえた男たちは全部で10人。9人をヘルマンに引き渡した。
1人は、ハカセのところだ。
セシリアを連れ去ったということは、ねらいはセシリアだったのか?それとも……、ヤニックか?
「まったく吐かない。単なる暗殺者ではないな。軍人、それも鍛え抜かれた兵士だ」
ハカセがそう言った。
それならと、僕がいくことにした。僕はかなり怒っている。今までになかったくらいに。
いつものハンゼ商会の部屋に、その男は椅子に座らされていた。
「首を振るだけでいい」
僕はそう言って、質問を始めた。
「今回のねらいは、ヤニックなのか?」
男はまったく動かない。しかし、男は薄く青く光っている。心の中で反応しているのだ。
「ねらいは、あの連れ去った女性なのか?」
その質問にも動かない。しかし薄く赤くなる。セシリアではなかったのだ。
「人質にしようとしたのか?」
薄い青だ。つまりはヤニックを仕損じたときのことを考えての人質なのだ。
「背後を聞くことは不可能だろうな」
ハカセはそう言った。そもそも知らされてもいないのだろう。それよりも彼等は単独でいるのではない。その組織を調べた方が早いとも言う。
僕は、〈鑑定〉で男を見た。驚くことにゴツトツ国出身だ。元ゴツトツ国兵士だった。
王城でのヘルマンの取り調べも同じだった。まったく話をしない。そして〈鑑定〉で見ると全員が元ゴツトツ国兵士だった。それも特殊部隊の。
「我が国に恨みをもっている元兵士が犯罪者集団になったのだろう。おそらくだが、金で雇われただけだ。背後を掴むのは難しいな」
離宮の警備は、さらに厳重にされた。
侍女が1人消えたという。犠牲になったわけでもない。
セシリアが言うには、ヤニックと王女が似ているという話を、その侍女としていたそうだ。たぶん襲撃犯の背後の存在と内通していたのだろう。
*******
いったん平穏が戻り、セシリアはまた離宮通いを始めた。コールバッハ男爵夫妻ともすっかり仲良しだ。
今日も、フィヒテル王国の素材を使った夕食をつくって待っていた。
「男爵様も、故郷の食べ物が恋しいというので、セラーさんに頼んでたくさん取り寄せてもらったの。これなんか珍しいでしょ。ねっとりとしたお芋よ」
そう言って、小芋の煮っ転がしのような料理を出してくれた。ただ塩をつけて食べるだけだが、僕も、なんだか懐かしさを感じてしまった。お芋にはそんな力があるのだ。
「そうそう、奥様が言ってたけど……、短剣は突然出てきたんだって」
「どういうこと?」
「奥様は亡くなった娘さん、ヤニックのお母さんね、その娘さんの部屋を毎週掃除していたそうよ。だから、何があるかはわかっていたって。それが突然あったから、これなんだろうと男爵様に相談したそうよ」
「ということは……」
僕は、すぐにオストールのクレバーの所へ転移した。
そして、今聞いたことを伝えた。
「やっぱり……。占い師が、そこに短剣があることが確実にわかる方法があると言ったよな」
「ああ、確かにそう言った」
「それは、自分で置くんだ。自分で置いたからわかるんだよ」
「そういうことか……。それじゃあ。短剣は……」
「占い師を雇っていたライヒェナウ侯爵が用意して、誰かを使って娘さんの部屋に置かせたんだ」
「なるほど……。そうするといろいろとつながるな」
僕は、翌日王城へと向かった。
「ヤニックの短剣を見せてもらえませんか」
ヘルマンに頼み込んだ。今、唯一の証拠だ。王城で厳重に保管されていて、本来は誰も見ることができない。
僕は、昨日わかったことをヘルマンに伝え、僕の〈鑑定〉のスキルも説明した。
それならばと、短剣が保管されている保管庫へと連れていってくれた。宰相のネルツ公も一緒だ。そうでなければ、この保管庫には入ることはできない。
保管庫の前には、屈強な衛兵が扉を護っている。
扉も分厚い鉄で、どんな魔法でもビクともしそうになかった。
ギイィィと音がして扉が開けられた。中には王国のありとあらゆる極秘のものが収められている。
「他の物は〈鑑定〉するなよ」
「大丈夫です。わかってます」
ヘルマンは、僕を短剣が収められた箱の前に連れてきた。
「これだ」
僕は、早速〈鑑定〉を使う。そして見えたことは……。
「所有者がグスタフとなってます。第1王子殿下のものです」
「何!」
ネルツ公をヘルマンが、同時に声を上げた。
「それじゃあ……」
「ニセモノということですね……」
ネルツ公とヘルマンは、すぐに王女のもとに報告に行った。
王女は、目をつむったままネルツ公の話を聞いていた。
そして目を開けて、一言だけ言った。
「すぐにヤニックを呼べ」
*******
ヤニックが王城に呼ばれた。
王女は、小さな執務室で待っていた。
そこに、僕とネルツ公、ヘルマンが同席した。ほかがいると、面倒なことになるからだ。
「残念だが……、ネルツ公の報告の通りだ。何か言うことはあるのか?」
「いえ、特に申し上げることはございません……。……、ただ、祖父母は、関係はございません。祖父母には寛大なご処置を……」
そう言うヤニックの目には、うっすらと涙が見えた。
「処置というのは……?」
僕は、ヘルマンに小さな声で聞いた。
「王家を騙ったのだから極刑は免れないだろうな。かわいそうだが、後に真似をする者が出ても困る。だから、ここは厳罰しかない」
「そんな……」
ヤニックもそれを覚悟しているようだ。だからこそ、コールバッハ男爵夫妻を案じているようだった。
きっと王女も助けてやりたいと思っているのだろう。何かないのか?
「あっ」
セシリアの言葉を思い出した。
「僭越ですが、よろしいでしょうか?」
「かまわぬ」
「ヤニックは、自分から王の子息であると言い出したわけではありません」
「ふむ、そうだが……」
「ただ、家に置いてあった短剣を見たライヒェナウ侯爵が、勝手に言い出したことです。ライヒェナウ侯爵はニセ金を作っていた人物でもあります。さらにコールバッハ男爵家に短剣を持ち込んだのもライヒェナウ侯爵との疑いもございます。すべてはライヒェナウ侯爵の企み。ヤニックは、その犠牲者とも言えるのではないでしょうか」
「確かにそうだ!」
王女は、大きな声で、僕に同意してくれた。やはり助けたいのだ。
「それに……」
「まだ、何かあるのか?」
「はい……、私の婚約者のセシリアが、殿下とヤニックはそっくりだと……」
ネルツ公とヘルマンが王女とヤニックの顔を見比べる。
「確かに……」
「こっちへ来い」
呼ばれて、ヤニックは王女の隣に来た。王女は鏡を出して、比べて見た。
「確かにそうだ。鼻も同じだな。目元も……。私も化粧を落として素顔になると、そっくりになるな」
王女はそう言って笑った。
「実は……、父上も、母上の手前言えないが、心当たりがしっかりとあるようなのだ……。ふむ、わかった。ヤニックとコールバッハ男爵の罪は不問とする。そしてそのライヒェナウ侯爵は、徹底的に調べよ」
「御意」
僕たちは、王女の言葉に頭を下げた。本当によかった。
「それから、ヤニックと申したな。お前とは、義姉弟の契りを結びたい。こたびは迷惑もかけた。それに、たぶん……、公には言えないが、弟なのだろう。これからフィヒテル王国に戻ることになろうが、我が国との外交担当となって、時折、顔を見せにきてくれ。……、これから姉上と呼ぶことも許すぞ」
王女は、照れた顔で、そう言った。ヤニックは、感激して震えている。
「弟が見つかったのもライヒェナウ侯爵のおかげでもあるな。罪は一等だけ減じてやるか」
皮肉っぽく言って、さらに笑った。
「もう1つよろしいでしょうか」
盛りあがっているところ申し訳ないが、言わなければならない。
「なんだ?」
「王城から、その短剣を持ちだした人物がいるはずです。それにニセ勅書を作るための印を持ち出してもいるはずです。おそらく同じ人物かと。その人物の特定を」
「確かに、それは緊急だ。ネルツ公、ヘルマン。すぐに動いてくれ。王城内だと、できるのはそなたたちしかいない」
「御意」
「タクも手伝ってくれるな」
「もちろんです」
王国を騒がしていたいくつかの問題は、一挙に解決に向かう。しかも、それはすべて繋がっていたのだ。
その背後にはドクトルが見える。ただ、彼にはまだ手が届かない。いったいどこにいるのか、そして今、何をしているのか……。
ブラウザで翻訳ができる方は、翻訳してみてください。呪文の意味がわかります。




