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もう1つの反乱

 グレゴーリウス侯爵の反乱は、王城を揺るがす事件となった。

 しかし、僕とバルトリアンは、その反乱にできることはない。それぞれの持ち場に戻ることになった。


 またオストールの牢に戻ると、暇そうなクレバーが待っていた。

 とりあえずニセ金の根拠地を潰したことを詳しく伝えた。


「グレゴーリウス侯の反乱だけど……、これもドクトルが関わっていると思う?」

 クレバーの意見を聞きたい。そう思った。

「忠義の士と言われたグレゴーリウス侯に反乱を起こさせるのだから……、さすがにドクトルでもむずかしいとは思うよ。でも……、ドクトルだからなあ」


 そんな話をしていると、クリスティアンが飛び込んできた。

「たいへんだ!ハルシュタットが……」

 旧アルブレヒト辺境伯領、現在はハルシュタットと名称を変えていた。そこで大規模な暴動が起きたのだ。数万人規模の群衆が、王都に向かって歩み始めた。


「防衛隊も出陣することになった。前に、お前が治めていた土地だから一緒に来てくれるか」

「もちろんだ」

 あの土地の人々が暴動? 信じられない。何人かの顔が浮かぶが、どう考えても暴動に結びつかない。

 すでにハルシュタットとの境界にある深い森を抜けて、オストールに近づいているという。

 

 防衛隊は、ヴァイスさんが率いていくので、僕とクリスティアンは、空間魔法で一足先に現地に向かった。


*********


 着いてみると、そこでは小規模な戦闘が起きていた。地元の貴族の領兵が、領地を通さないように立ちはだかっていたのだ。

 すでに夕方近いので、それぞれ兵を引いたところだった。


「我々は! 戦うつもりはない! ただ、王都に直訴に行くだけだ!」

 森の方から、大きな声で聞こえてきた。

「それならば! 少人数でかまわないはずだ!」

 領兵も大声で応える。


「私は、クリスティアン・フォン・シュパイエル。東部方面防衛隊の副隊長です。防衛隊は、こちらに向かっておりますが、私が先乗りしました。現在の状況をお聞かせください」

「あのシュパイエル家の……。群衆は、約3万人です。現在、森を背に布陣しております。陳情のため通りたいと申しておりますが、武器を持ったこれだけの群衆を領地に入れるわけにはいきません。今日の昼過ぎから、あちこちで衝突がありましたが、今のところは双方で犠牲は出ておりません」

 領兵の隊長が、そう説明してくれた。


「犠牲者がいなくてよかった。僕は、あの群衆のところに行ってくるよ。知っている者もいるはずだ」

「気をつけろよ」

「大丈夫」


 それから一気に群衆の陣営に転移した。たくさんの人が忙しく動き回っている。ちゃんとした兵士ではない。市民、農民ばかり。手に持つのは鍬や鎌。農機具ばかりだ。武器を持つ者はいない。

 僕が突然現れても、誰も気づかないし、誰も気にしていない。その群衆の中を、知っている顔を探しながら歩いた。


「タク様……」

 後ろから声がかかった。ふりむくと、ボウラー子爵邸の執事をしていたニクラスさんだ。

「どうしてここに?」

「みなさんを助けたいと思って来たのです」

 ニクラスさんは、慌てて上着を脱いで僕にかぶせた。

「気をつけてください。貴族だとバレると危険ですから」

 それから僕を引っ張っていく。


「こちらへ……」

 案内されたのは大きめのテント。中に入るとそこにはソーゲン師がいた。

「タクじゃないか」

 ソーゲン師は、大きな笑顔で僕を迎え入れてくれた。

「いろいろと活躍しているようだな。聞いているぞ」


「ソーゲン師がリーダーなのですか?」

「わしは頼まれただけじゃ。ハルシュタットが酷い状態になってしまっての……」


 ソーゲン師の話だと、今の領主グランドルフ侯爵は、優秀で、領民思いの良い領主だという。しかし、ニセ金問題で、隣国の聖アンナ国との貿易がすべてストップしてしまった。食料が輸入できず、そして商品も輸出できない。王国内よりも聖アンナ国との結びつきが強いハルシュタットの経済がまったくストップしてしまった。

 王国内からも食料が届くが、ごくわずか。パンの値段が10倍にもなった。

 そこに届いたのが、王城からの税の徴収の指示だった。基本的に税は領主に納め、王国に納めることはない。ただし、戦争など特別のときに徴収されることはある。そして今回は王女の摂政への就任を祝うための特別税だという。


「こんなものを払ってしまったら、ハルシュタットの領民は飢え死にだ」

 それで、領民の中で農民の代表、商人の代表などが集まって、王城へ陳情にいくことにしたのだ。

 それが、数人で行っても無理だろうと、次々と人が増えて、この人数になってしまったのだった。領主のグランドルフ侯は屋敷に軟禁されている。

 軍との衝突も想定されるので、ソーゲン師がアドバイザーとして、同行しているのだった。


「1人も犠牲者は出さない」

 ソーゲン師はそう言う。その日も、数カ所で小さい衝突があったが、ソーゲン師の指示で、神出鬼没、うまく立ち回り、犠牲者を出さないようにできたという。


 僕は、その特別徴収という税に、ものすごく違和感を感じた。そんな話は聞いたこともない。ここのところ、いくつかの地域にも行ったが、そんな話は初めてだった。

「その税は本当なんですか?」

「ああ、グランドルフ侯に王城から勅書が届いたと言っている。候は、決して嘘をつく人間ではないし、それを着服して利を貪るような人間でもない」

 

 何かある……。僕の違和感は、心の中でどんどん大きくなってきた。


「ソーゲン師、3日ほど時間をもらえませんか? その間に、必ず納得できる答えを持ってきます」

「3日か……。わかった。その間は一歩も前に進まない。その代わり3日を過ぎるとわからんぞ」

「はい。必ず」


 僕はテントを出て、クリスティアンのところに飛んだ。

 そして、クリスティアンを通して領兵に3日我慢してほしいとお願いした。群衆は一歩も動かないからと。

 ここでもシュパイエル家の威光は大きい。さすがにアンタッチャブルだ。領兵は了解してくれて、領主にもそう伝えると言ってくれた。


 それから、すぐにグランドルフ侯の屋敷に転移した。

 屋敷は、ボウラー子爵邸をリフォームしていたので、勝手知ったるだ。それに使用人もほとんど知っている者だった。

「タクさん、どうして?」

 驚きながらも、僕をグランドルフ侯のところに案内してくれた。


 グランドルフ侯は40くらいだろうか。ゆったりとした体格で、温和な印象だ。夜遅くにもかかわらず、やさしい笑顔で僕を迎え入れてくる。

 僕は、挨拶早々、本題を切り出した。

「特別徴収の勅書を見せていただけませんか?」

 候は、しばらく考えた後、勅書を持ってきてくれた。

「普通は、誰にも見せられないものだが、君を信用するよ」


 ただ、渡された勅書を見ても、書いてある内容がよくわからない。でも〈真実の目〉で勅書を見ると、赤く光っている。

「ニセモノだ……」

「何っ!ニセモノだって?」

「はい、これはニセモノです。間違いなく」

「それじゃあ……。税を徴収する必要は?」

「ありません」

「よかった……。領民も救われる」


「今日は移動できませんので、明日、すぐに領民を止めるようにします」

「できるのか?」

「必ず」


 さすがに転移で移動できる1日の距離の限界だった。休めば、明日の朝一に戻れるだろう。


「私も連れていってもらえないか?」

 朝食をとって出ようとしたらグランドルフ侯から頼まれた。

「危険ですよ」

「承知の上だ」

「それならば」

 僕は、グランドルフ侯と一緒にソーゲン師の元に転移した。

 グランドルフ侯は馬か馬車かだと思っていたようで、空間魔法での転移で、あっと言う間に着いて、目を白黒している。


 ところが、転移したそこは戦いが始まったところだった。

 領兵が遊びで放った矢が、ハルシュタットの農民に当たってしまったのだ。

 それまでの我慢が一気に崩れた。崩壊したダムから水が噴き出すように、群衆は領兵に向かった。

 双方が大声を出して走り出す。衝突寸前だ。ソーゲン師の策があるわけでもない。犠牲者が出る。


 僕は無我夢中だった。


ਪਵਿੱਤਰ ਆਤਮਾ ਦੇ ਨਾਮ ਵਿੱਚ ਮੈਨੂੰ ਅੱਗ ਦੀ ਸ਼ਕਤੀ ਦਿਓ 


 双方の間、1キロ以上にわたって火の壁ができた。

 氷魔法での壁は、落下のタイムラグがある。そして間違って人の上に落ちるかもしれない。僕はとっさに火魔法で、火の壁をつくった。万が一触れてもすぐに死ぬことはない。

 でも、魔力を使いすぎてしまった……。


「待ってくれ! 止まれ!」

 グランドルフ侯の叫び声を聞きながら、僕の意識は消えていった。


******


 目が覚めると、ヴァイスさんの顔が見えた。

「無茶をするなよ」

 最初の一言がそれだった。


「目を覚まされたぞ!」

「タクさん!」

 周りから歓声が轟いてくる。


「魔力切れを起こして倒れたんだ。ちょうど俺が来たからよかったものの、死ぬところだったぞ」

 魔力切れで僕が倒れたのを見て、ヴァイスさんが自分の魔力を僕に流してくれたのだった。本当にラッキーだった。


「みなには私から説明しておいた。もう心配はいらない」

 グランドルフ侯が笑顔で言う。

「よかった……」

 僕はよろけながら立ち上がった。周りを見渡すと、ハルシュタットの人たち、領兵、そしてクリスティアンが、僕を心配して集まっていた。


「また助けられましたね……」

 ニクラスさんが、目に涙を浮かべていた。


「でも……、急がなきゃ」

 グレゴーリウス侯の反乱も、もしかしたらニセの勅書のせいかもしれない。とにかく早く王城に伝えなければ。ここからは馬でも3日はかかる。僕が行けば……。


 それを聞いたヴァイスさんが防衛隊の魔法兵を集めてくれた。その魔法兵から大量の魔力を流してもらう。


「それにしてもタクの魔力量はすさまじいな。まだまだ送れそうだ」

 ヴァイスさんは驚いて言う。そういえば、最初に魔法を教わったのはヴァイスさんだった。あれから結構経った。それからずっと練習を重ねてきたから今の僕がある。


 ヴァイスさんと魔法兵から十分な量の魔力をもらったので、王城に一気に行ける。グランドルフ侯から預かったニセの勅書をもって王城へ向かう。


「グレゴーリウスは戦友だ。頼んだぞ」

 ソーゲン師から肩を叩かれた。

「いいか。大事なのは領民にわかってもらうことだ。グレゴーリウスはそんなやつだ。領民が納得しない限り、あいつは納得しない」

 ソーゲン師の言葉を、しっかりと受け止めて、僕は転移した。王城へ向かって。




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