表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/100

悪貨を駆逐する

 「悪貨は良貨を駆逐する」だったかな。よくわからないけど、ニセ金が混乱を生み出すということなんだろう。

 牢にいて耳に入るのは、暴動とニセ金の話ばかりだ。


「これを鑑定してもらえないか?」

 バルトリアンがニセの金貨を持ってきた。確かにぱっと見は区別がつきにくい。

「捜査局や王軍にも〈鑑定〉を使える者はいるんだが、タクもスキルが高そうだしな……」

 確かに僕の〈鑑定〉はSだ。

「まかせて」

 そう言って〈鑑定〉をする。


   原料:銅60%、亜鉛40%

   産地:スベルク鉱山、ゴスラ鉱山

   鋳造:スーザ


「わかるのは、これくらいかな」

「すごいな。原材料の産地から鋳造場所までわかるのか……。いったいスキルレベルはどれくらいなんだ」

 僕は人差し指を自分の唇にあてた。スキルレベルは内緒なのだ。


「作っているのはスーザ。でも、いったいどこなんだ?」

 クレバーが聞いたが、誰もわからない。

「わが王国では聞いたことがない。事務所ですぐに調べてくる。


 しばらくしてバルトリアンが戻ってきた。

「スーザは、フィヒテル王国だ。ヴェステンランドとの国境にある小さな村だ。スベルク鉱山もフィヒテル王国だ。スーザに近いところだな。そしてゴスラ鉱山は、わが王国だな」

 バルトリアンは、それがわかっても複雑な表情をしている。

「フィヒテル王国だと手を出しにくいな……。どうしようか……」


「その村と鉱山の領主はわかる?」

 クレバーが聞いた。バルトリアンが、資料をめくりながら探す。

「ええと……、スーザの領主はライヒェナウ侯爵。それにスベルク鉱山も同じだ。……、ゴスラ鉱山の所有者は……、なんとデアヴァル公だな。これは話が早いな……」

 それを聞いて、僕とクレバーは驚いた。

「また繋がったな……」


 ライヒェナウ侯爵は、コールバッハ男爵に占い師を紹介した人物。そしてデアヴァル公も……、ご落胤問題に関わっている。

 それの詳細をバルトリアンに伝えた。

「それじゃあ、デアヴァル公に話を聞くのは止めた方がいいな」

「そのほうがいいね。今のこっちの状況を知られるのは悪手だ」

「それじゃあ……、まず証拠が必要だからフィヒテル王国との国境でニセ金の流入について調べよう。それで確認できたらフィヒテル王国に捜査を任せる」

「それじゃあ、国境には僕が行くよ。そのほうが早い。それに今はアルブレヒト辺境伯領だから協力もしてもらえるはずだ」


*******


 まずアルブレヒト辺境伯様の屋敷に行き、辺境伯様に面会を求めた。


「どうしたんだ。突然に」

「ニセ金問題はご存知だと思いますが、そのニセ金がフィヒテル王国で作られているのがわかったんです。それで国境でこれ以上の流入を止めるために来ました。もうすぐ王国捜査局の捜査員が来ますが、先にお知らせしようと思って……」

「ニセ金が?フィヒテル王国で? それはいかんな。すぐに対応させよう」

 辺境伯様は、すぐに部下たちに指示を出した。


 僕もニールスとデニスと一緒に国境に向かった。


 フィヒテル王国は友好国だから、国境の往来は多い。主に荷物を馬車に積んだ商人だ。

 国境警備隊が、国境で見張ってはいるが、基本はフリーパスだ。

 そこで、〈探査〉〈鑑定〉のスキルを持った者を集めて、その荷物をチェックしていくことにした。


 驚いたことに、ほとんどの入国者はニセ金を持っていた。普通の旅人は、さすがに金貨は持っていないが、商人となると、さすがに持っている。


「申し訳ないが、この金貨はニセ金なので、ヴェステンランドには持ち込めません。入国されるならば、ここで破棄していただくしかありません」

 こちらはできるだけ丁寧に話すが、納得しない者も出てくる。


「私は、王室御用達商人だぞ。貴様ら兵ごときが何を言う!」

 そう怒鳴った商人もいた。

「私は、子爵ですが何か?」

 そう説得しようとするが、どうも僕は貴族には見えないらしい。

「そんなわけあるか! 私は、お前たちが口も聞けないような貴族とも知り合いなんだぞ」

 これがパターンだった。

 そして、だいたい偉そうに文句を言うやつは、他人の権威で威張る。


「しょうがないな。不敬罪で逮捕しろ」

 めんどうなので、そうすることにした。

「何をする。後で泣きを見ても知らんぞ。私は、王国の第3王子殿下を知っているのだぞ」

 〈真実の目〉で見ると、真っ赤な嘘だ。

「ルイトポルト殿下なら、私もよく知っている。殿下の髪は何色だ?」

 商人の男は黙っている。ルイは引きこもっていたから、あまり知られていない。だから、簡単に名前を使われるのだった。

「王族の名を出したのだから、覚悟はできているな」

 普段の平民だけの国境警備兵ならば、これで通じていたのだろう。男は、真っ青な顔になって地面にへたり込んだ。

「連れていけ」

 まあ、本来なら極刑だろうけど、お説教で解放してやることにしている。


 1人当たりの枚数は少ないが、何組もの商人が来ると結構な量になる。1枚でも王国に入れるわけにはいかない。


――考えろ。それがお前の仕事だ

 ソーゲン師の言葉が蘇ってきた。

 そうだ、僕が考え、僕が決めなければ……。そして、今はそれができる立場にいる。


「しばらく、国境を封鎖します。何人も通すことはできません」

 そう決めた。

 それから使者を出して、両国の街道沿いの宿場町に国境封鎖の布告を出した。

 当然、反発はあるだろう。でも、やらなければならない。


 しばらくして、フィヒテル王国の兵がやってきた。使者が来るかと思っていたが、いきなり兵だ。


「なぜ、国境を封鎖したのだ」

 その兵士は、馬上から僕に聞いてきた。

「ニセ金を国に入れないためです」

「それくらいのことで、封鎖するとは。両国の協定を知らんわけではないだろう」

「緊急の措置です。ご理解ください」

「お前じゃ話にならん。もっと上の者を出せ」

「僕が、一番上です。タクヤ・ジークフリート子爵と申します。ここの責任者で、王城から権限を委譲されています」

「嘘をつくな! お前が貴族のはずはないだろう……」

 やはり、僕の見た目は貴族には見えないのだ。もう何回目だろう。


「それより、そちらは名乗られていないんですが……。しかも、ずっと馬上で……」

「俺は、ライヒェナウ侯爵家領兵の隊長だ」

 まだ、馬を下りない。

「フィヒテル王国兵ではないのですね。なぜ、領兵が国の取り決めに口を出すのですか?」

 僕は、できるだけ丁寧に話しているのだが、なんだか怒ってきている。顔が真っ赤だ。

「いい加減にしろ。俺が言っているのだから国境封鎖を早く解け!」

 そう言って剣に手をかけた。

 黙ってみていたこちらの国境警備兵にも緊張が走る。


 下手すると外交問題だ。

 ライヒェナウ侯爵家領兵30名と、国境警備兵30名がにらみ合う形となってしまった。


「ちょっと待ってください。戦争を起こすつもりですか? そんなことになったらあなたの主の首が飛びますよ」

 僕は間に入って、説得を試みた。しかし領兵は、まったく聞こうとはしない。

「そんな心配はいらない。主より、必ず封鎖を解けと命を受けているからな。どんなことをしてもかまわないとも……」


 そんなことを言うなんて、ライヒェナウ侯爵がニセ金に関わってますと言うようなものじゃないのか。これで確認ができた。


 領兵の1人が、近づいてきて馬上から僕に剣を振り下ろした。

「危ない!」

 国境警備兵が叫ぶ。


「全然平気だから」

 僕は、いったん僕の空間に入る。彼等からは、消えたように見えるだろう。


ਪਵਿੱਤਰ ਆਤਮਾ ਦੇ ਨਾਮ ਤੇ, ਮੈਨੂੰ ਬਰਫ਼ ਦੀ ਸ਼ਕਤੀ ਦਿਓ.


 ズドン、ズドン、ズドン…… と、5mほどの長さの氷柱が、何十本も領兵の周りに落ちてきた。砂煙が上がる。ヴァイスさんから教わった氷魔法の応用だ。

「なっ、なんだこれは」

 氷柱は、領兵を囲んで、氷の檻に閉じ込めてしまった。


「とにかく落ち着いてください。いいですか。これは国の決めたことですから、力尽くだと大問題になります。まず、それを主に伝えてください。封鎖を解きたいのなら、フィヒテル王国から正式な要請を出してもらってください……。わかりましたか? それともやりますか?」


「わかった。今日のところは引き下がろう」

 隊長らしき男は、不利を悟ったようだ。

「ありがとうございます。タクヤ・ジークフリート子爵と申します。フィヒテル王国政府にも伝えてください。そして、こちらでは、ちゃんと記録しておきますね。ライヒェナウ侯爵の領兵が、馬上から僕に剣を振り下ろしたことも」

 自分で言っていながら、なんて慇懃無礼なんだろうと思う。皮肉たっぷりで。


 去っていた領兵を見ていると、バルトリアンがやってきた。

「なんだ……、そんな面白いことがあったんだ。もう少し早くくればよかったな」

 まじで残念そうに言う。


「ちょっと待って」

 バルトリアンと話をしていると〈探査〉にニセ金が引っかかった。かなりの量だ。

「北に5キロの山道だ」

「さっきの連中は、おとりだったんだな。こっちに目を向けるための……」

「たぶんそうだな。これでターゲットがハッキリしたよ」


 実は、国境封鎖をしたのは、こうした連中を引き出すためだった。

 すぐにその方向に国境警備兵を急行させた。

 そして、20人ほどの男たちだったが、抵抗もなくあっさりと捕まった。

「領主様からの命令で、しかたなく運んでいるだけなんです」

 男たちは、スーザ村の農民だと言う。そして村でニセ金を作っているとも。

 1人20キロくらいのニセ金を背負わせられていた。金額にすると膨大だ。

 届け先は、王都の手前の小さな村だった。そこを拠点にあちこちにばらまかれているようだった。


「証拠はそろったな。すぐにでもニセ金づくりをしているスーザ村を摘発しよう。アルブレヒト辺境伯に兵を出すように頼んでくれ」

「わかった。バルトリアンは?」

「俺は、フィヒテル王の了解をもらってくる」

「いきなり行って大丈夫?」

「ディアナが王妃だろう。昔からよく知っているから問題ない」

 そういえば王妃も従兄弟だった。


 アルブレヒト辺境伯様への連絡は、国境警備兵の隊長にお願いした。

 そして僕はバルトリアンを空間魔法でフィヒテル国の王城へと運んだ。


「OKだ。国王も、ニセ金については心配していた。この国でも増えているそうで、国民も不安になっていると。だからフィヒテル国軍も出してくれることになった。ただ急いだ方がいいから、こっちが先に動こう」


*******


 翌日、バルトリアンの王国捜査局のメンバー、アルブレヒト辺境伯様の5000の軍勢でスーザ村を急襲した。

 まず、3000の兵で村を取り囲み、それから2000の兵で村の入り口に迫った。


「村長はいるか?」

 バルトリアンが、呼び掛けた。

 そうして出てきたのは、あのライヒェナウ侯爵家領兵の隊長だった。

 これで、ニセ金を作っている本体が誰なのかがはっきりした。


「ここはフィヒテル王国内だぞ。ここで軍事行動を起こせば、それこそ戦争だぞ」

「お前が心配することではない。フィヒテル国王直々に許可をいただいた。これが証の勅書だ」

 バルトリアンは、そう言って王からもらった勅書を見せた。

「今、フィヒテル王国軍もライヒェナウ侯爵家に向かっているはずだ。お前らは終わりだ。おとなしく投降しろ」


「くそっ!これまでだ。各自切り抜けろ!」

 隊長は、そう叫んで剣を抜いて斬りかかってきた。往生際が悪い。


ਪਵਿੱਤਰ ਆਤਮਾ ਦੇ ਨਾਮ ਤੇ, ਮੈਨੂੰ ਬਰਫ਼ ਦੀ ਸ਼ਕਤੀ ਦਿਓ.


 隊長の下半身を凍りづけにした。もう動けない。

「ちくしょう!」

 上半身で剣だけを振り回すが、こちらの兵に剣をたたき落とされてて観念した。

 まあ、歴戦の辺境伯領兵に、そのままでも勝てるはずはない。


 あっという間に、スーザ村は制圧された。


 村の中を調べると、ニセ金を作る鋳型、ニセ金の材料、作りかけのニセ金がゴロゴロと出てきた。隠滅が不可能なほどの証拠だ。

「領主様から作るように言われて……」

 村長はそう証言した。村人は悪くない。罰せられることもないと伝えた。


 詳しく調べるには、フィヒテル王国の協力も必要で時間がかかるだろう。これでニセ金の生産拠点を潰すことができた。大成果だ。


 ニセ金をばらまく王国内の拠点へも、すぐに王国捜査局を向かわせることにもなった。


 それから僕とバルトリアンは、王城へ飛んだ。このことをいち早く伝えるためだ。


 王城では、王女、宰相のネルツ公と宮廷書記官長のデアヴァル公に集まってもらって報告をした。

「ニセ金の生産拠点を潰しました。首謀者はフィヒテル王国ライヒェナウ侯爵です。フィヒテル王国軍がライヒェナウ侯爵を捕らえて、事件の調査に協力していただくことになっています」

「よかった……。私からも姉上によしなにと伝えておこう」


 この話の間、僕はデアヴァル公をずっと観察していた。顔が青ざめている。

「ご体調がすぐれないのですか?」

 僕は、わざと聞いた。

「いや、大丈夫だ。朝から、ちょっと風邪気味でな……」

 そうごまかすが、〈真実の目〉で見ると、完全に嘘だ。これでデアヴァル公は完全に黒だとはっきりした。

 

「タクも、ありがとう。また助けられたな」

「いえ、たまたま私ができるところにいただけです」

「アヒレスもな。よくやってくれた。やはりお前はできる男なのだな……」

 王女は、そう言ってバルトリアンを見つめている。


「大変です!」

 そこに王城の官吏が飛び込んできた。

「反乱です!」

「誰がだ」

「グレゴーリウス侯です。兵を挙げ、王国からの独立を宣言しました」

「あのグレゴーリウスがか?信じられない……」

 ネルツ公がそうつぶやいた。


 グレゴーリウス侯爵は王国で最も忠義の士と称えられ、領民にも愛されているという。誰もが、信じられないという表情だ。

 そして問題なのは、グレゴーリウス侯は年こそ70を越えているが、シュパイエル辺境伯の前に辺境を護っていた王国でも最強の武将の1人だった。その息子たちもそう言われている。

 年をとって、今の領地でのんびりとくらしていたはずだが、いったいどうして?


 使者の話だと、独立を宣言しただけで、王国へ向けての侵攻はないという。

「すぐに情報を集めよ。そしてシュパイエル辺境伯に伝令を。近くで対応できるのは彼しかいない。それからもうしわけないが、デアヴァル公は使者として向かってくれ。グレゴーリウス侯ならば話す余地はあるだろう」

 王女は、続けざまに指示を出していく。

 

 次々と起こる問題。ニセ金は生産拠点は潰したが、王国内にかなり出回っていて、対応できていない。王のご落胤ヤニックの問題も結論は出ていない。それなのに反乱とは……。


 ただ、その1つ1つが繋がっていく。背後に見えるのは、やはり彼だった。

ブラウザで翻訳ができる方は、翻訳してみてください。呪文の意味がわかります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ