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事件が次々と……

 魔神の噂は消えつつあるが、そのかわりに僕とクレバーは狙われ続けた。


「見つけた!」

 そう叫んでいきなり切りつけていたのがいた。それも、すぐに氷魔法で固めてしまって、保安隊に引き渡す。


 黙って近づいてきて、ナイフで刺そうとしたのもいた。

 5人くらいに囲まれたこともある。

 それも、今の僕には問題ない。

 護衛もいてくれるが、だいたいが、その前に片が付いた。


 それがドンドン増えてきた。1時間に1回、いや、それ以上のこともあった。


 しかも、セシリア、ランドシャフト自体も狙われた。護衛をつけているので無事だったが、捕まえた連中を尋問すると賞金がかかっていたと言う。そう書かれたチラシが貧民街でばらまかれていた。安いので100万、それ以上もいくつもあった。


 これでは埒があかないと、保安隊が貧民街のボス格を集めて申し入れをした。賞金は、全部嘘だと。

 ボス格が、チラシの連絡先に行ってみたが、まったく関係ないところだった。それで、説明もしてくれたが、それでも止まない。チラシは王国中にばらまかれていたからだ。わざわざ遠方から来る者もいた。


 ほんの数日で、保安隊の牢は僕たちを襲った連中で溢れた。こいつらは、まるごと犯罪奴隷になる。きっとどこかの鉱山あたりに連れていかれることになるだろう。


「それでも、ドクトルは俺たちを殺せるとは思っていない。たぶん……。ただ動きを止めたいだけのはずだ」

「それじゃあ、やっぱり捕まったことにしたほうがいいかな」

 クレバーに聞いた。

「安全よりも、ドクトルをおびき出すためにもな」


 それで、王国捜査局に逮捕されたことにした。

 罪状は難しかった。

 窃盗や傷害、殺人は、後々面倒だ。痴漢などももってのほかだ。それで、不敬罪とした。相手が誰かが問題になる。一応子爵だから、伯爵以上でなければならない。人気のある貴族だと、一般の人達から反感を買うことになる。

 そこで、宰相のネルツ公になってもらった。高位だが、実はあまり知られていない。僕の安全のためと、王女から話を通してもらったら簡単にOkしてもらえた。


 それから形式的に逮捕してもらい、オストールの王国捜査局の詰め所の牢に入れられた。そこは、ちゃんとしたベッドもテーブルもあり、快適だ。侍女もつけて、お茶も出してもらえる。差し入れに来たセシリアとミアさんも、それを見て笑っていた。

 これは外にはわからない。ただ、僕とクレバーが逮捕されたことは、貧民街を中心に広められた。

 それを聞いた獣人族が、心配して駆けつけてくれたが、申し訳ないけど追い返してしまった。ほかにも心配してくれる人がいそうだが、申し訳ない。これもドクトルをあぶりだすためだ。


*******


 クレバーの想定通り、僕たちが牢に入るとドクトルがすぐに動き出した。

 いろいろな犯罪のシナリオをつくって、貴族に持ち込んだようだ。

 今は貴族の子弟が王国捜査局に入っている。だから、その情報はすぐに僕たちのところにも届いた。


 やはりドクトルは自分では動いていない。わずかばかりの金で、そのあたりのチンピラを使っていた。

「もう、ドクトルに使える手足はないんだよ」

 僕は、そう言うが、クレバーは違っていた。

「それは違う。たとえなくても何とかするのがドクトルだ。なんだろう、ドクトルが失敗したとしても、ものすごく不安を感じるんだ」


 そのシナリオは、いくつもの種類があった。どれも緻密で、実行すればそれなりに王国を混乱させることができるだろう。

「もしかしたら、実行されたシナリオがあるかもしれない」

 クレバーは、それを心配していた。


 牢の中は暇なので、些細なことでも報告してもらうようお願いしていた。

 そうしたら、とんでもないニュースが飛び込んできた。それもいくつも……


*******


 その1つはフィヒテル王国でのことだった。フィヒテル王国はヴェステンランドの第1王女だったディアナ様が嫁いで王妃となっている。ヴェステンランドと最も親密な友好国だ。

 ゴツトツ国からの脱出でもお世話になった。


 そのフィヒテル王国で、ヴェステンランドの王の御落胤、つまり隠し子の男の子が見つかったという。それが本当ならば、新たな王位継承者の1人となる。


 その話にのったのは、旧第1王子派の貴族たちだ。第1王子が王籍を剥奪され、幽閉されてから宙ぶらりんとなっていた。新たに王女派についても、第2王子派についても、新参者だからうま味はない。

 第4王子となれば、それを支持することで、また復活の目がある。そう考えたのだ。


 でも、さすがにこれはドクトルとは関係ないことだろう。フィヒテル王国でのことでもあり、しかも長い年月をかけなければならない。


 もう1つは、大量のニセ金貨が出回っていたことだ。金によく似た黄銅が使われていて、本物の金貨と並べればすぐにわかるが、庶民にはわからない。金貨一枚が50万円だから普段は見たこともない。

 すでに王国全体で1万枚以上が出回っていると推定されていた。


 「ニセ金が出回っている」という不安が王国を覆った。銀貨や銅貨もそうでないかという不安、店でもお客の金がニセ金でないかという不安、買い物のおつりがニセ金でないかという不安。そういう不安が、王国中に広まっている。

 そうなると商品の売買ができない。取引が滞り、経済が停滞する。商品が手に入らない、食べ物が手に入らない、そうしたことも起きていた。


 これは、ドクトルが仕掛けた可能性もあった。


 そして3つ目は、王国全体、特に国境寄りの地域での暴動が増えていることだった。理由は様々だ。

 ニセ金による不安もそれを後押ししているようだった。

 ドクトルが関わっているかは、まったくわからない。

 しかし、そこに”何かがある”気がしてしょうがない。ドクトルのせいで過敏になっているかもしれないが、クレバーもそう言う。


*******


 王女から使者が来た。例のフィヒテル王国でのご落胤の件だった。


 使者から、この件についての説明を受けた。クレバーも興味津々で聞いている。まあ、暇なのだ。


 ご落胤という男の子は10歳。それが本当ならば14歳の成人で王位継承権が発生する。

 母親は男爵令嬢だが、その子が生まれてすぐに亡くなっている。

 そして父親は、長く不明とされていた。だから恥ずかしいこととされ、実家の男爵家の奥で誰にも知られないように育てられていた。


 その父親が判明したのは、最近になってのことだった。亡くなった母親の荷物から、それを示す品物が出てきたのだ。ヴェステンランド王家であるバートリ家の紋章が入った短剣と、それが収められていた箱に書かれた「わが子へ」という国王エリク・バートリの直筆の文字。これが証拠となったのだった。


 母親である男爵令嬢は、ヴェステンランド国王エリクがフィヒテル王国来訪時の侍女をしていた。娘のディアナが嫁いだとき、王妃に就いたときなど訪問の機会は数多くあった。そのすべてで、男爵令嬢が世話をしていたという。だからそうなるのは、何も不思議なことでない。


 王に質すと、うまく答えられない。病で伏せっているせいでもあるが、自覚もあるのだろう。


「それで、タク様に真偽を見てもらいたいとのことです」

 そう使者は言った。


「しかし、僕がわかるのは嘘かどうかです。たとえ間違っていることでも、その子が正しいと信じている場合は、嘘とは判定されません」

「それでもかまいません。できるだけ、いろいろな方法で見てほしいとのことでした」

「わかりました。それならば伺いましょう」

「ありがとうございます。それでは牢を出られる手配をいたしましょう」

「それにはおよびません。いつでも出られるので日時と場所を教えてください」

「わかりました。後日、お届けします」


 それから連絡があった日に王城まで空間魔法で飛んだ。第一門で来訪を告げると、前に来た使者の方が来て、案内してくれた。


 小さな部屋には、公爵様の長男で宰相補佐のヘルマンが待っていた。

「ひさしぶりだな。今回も面倒をかける。いやっ、もうタメ口はだめか」

「いえ、今までどおりでお願いします。その肩書きは、あの会議だけにしてますから……」

 ヘルマンは、軽く微笑んで、ソファに座っていた男の子と横にいた老夫婦を紹介してくれた。


「ヤニック・コールバッハと申します」

 その子は、しっかりした口調で名乗った。横の老夫婦は、コールバッハ男爵夫妻で、この子の祖父母だった。

「タクヤ・ジークフリート子爵です。今日はよろしく」


 それから、ヤニック、コールバッハ夫妻に質問をしていった。

「君は、ヴェステンランド王の息子だと言われていますが、それは本当ですか」

「まわりがそのように言っておりますが、私にはわかりません」

 そう言うヤニックは、青いままで嘘はついてない。


「ヤニックが王の息子だと知ったのはいつですか?」

 コールバッハ男爵夫妻にもたずねた。

「3カ月程前です。娘……、この子の母親の荷物を整理していたら箱に入った短剣が出てきまして、貴重な物のように見えたので、知り合いの詳しい侯爵に見てもらったら、そうではないかと言われました。それからあっという間に、フィヒテル王国の王宮、王妃様にも広まって、みなさんがそう言われたので、そうではないかと……」

 この2人も嘘はついていない。

 その後、質問を重ねたが、すべて本当だった。


「みなさん、嘘をついていませんね。僕ができるのは、ここまでです」

 僕は、ヘルマンにそう耳打ちした。


 それからヤニックらを帰して、2人で話をした。


「悪かったな……、早く決着をつける必要があるからな」

「どうして?」

「第1王子派だった貴族が、いろいろと画策している。今後の王城の人事、利権、いろいろと関わってくるんだ」


 ヘルマンの説明によると、宮廷書記官長のユップ・デアヴァル公爵は、はっきり言って無能だという。彼は、第1王子の肝煎りで宮廷書記官長という重職につけているのだった。

 宮廷書記官長は、王以外では王国のNo.2にあたる。宰相、宮廷書記官長、そして枢密院議長が、王国の三職と呼ばれる最重要な官職であった。

 第1王子の王籍剥奪によって、デアヴァル公がこの職から解任されるのは必須だった。デアヴァル公は、その官職で様々な利権を得ているという黒い噂が絶えない。おそらく、留任のために、ヤニックを使おうと考えているらしい。

 ヤニックがご落胤であるという主張の先鋒が、デアヴァル公でもあった。


「だから、できるだけ早く、そして慎重に結論を出さなければいけないんだ」

 ヘルマンは、そう言った。


 あの牢に戻ったら、暇に飽かしているクレバーが興味津々で聞いてきた。

「どうだった?」

「まったく嘘はついていなかった。残念だけど、おもしろい話はないよ」


 それから、今日聞いたことを一通りクレバーに話した。

 でも、彼は僕とはまったく違った評価をしていた。


「その男爵、娘の荷物を整理したのは占い師のアドバイスだというのは、かなり怪しいな」

「でも、それは本当だったよ」

「怪しいのは男爵でなく占い師だ。なぜ突然に占いを?」

「昔の上司だった侯爵の薦めだったって言ってたな」

「それもグルか?」

「えっ、どういうこと? でも短剣は本物だったって言うし……」

「そうだな短剣は本物なのだな……」

 クレバーはそう言って考え込む。


 それからクレバーの提案で、その占い師を調べることにした。

 L の部下をフィヒテル王国に派遣した。ついでに、その侯爵も。


「それから、そのデアヴァル公も監視した方がいいかもね」

「確かに、そう思う。何人かつけよう。G がいいかな」

「なんか……、タクって、シャテーを自由に使ってるね」

「ああ……、……、L が良いって言ってくれてるんだ」

「ふーん」

 やはりクレバーはするどい。


*****


 しばらくして、それぞれの報告が来た。


 デアヴァル公の屋敷には、怪しい商人が幾人も出入りして、それぞれ怪しい話をしているが、ヤニックの話は出ていないという。どうやら、宮廷書記長を解任された後の利権をどうするかばかりを話しているみたいだという。


 そしてフィヒテル王国の占い師は、行方がわからないという。それも3カ月前から。

「やはり……、そうだな」

 クレバーは、これを想定していたという。


 占い師は、半年くらい前にフィヒテル王国の王都に現れたという。事前予約制で、一日に1人の客しかとらないが、とにかくよく当たるということで評判になった。2カ月もすると、客は貴族か大商人になったという。


 また、占い師を紹介した侯爵は悪い噂だらけだった。金と女しか頭にないというクズだ。ただ、占い師が消えた今となっては関係はわからない。


「事前予約制で、一日に1人しか客をとらないというのは、事前にその客を調査するんだ。近所の噂とか、場合によっては家に忍び込んだりしてね。そりゃ当たるよ。それで信用させて獲物を狙うのが、詐欺のよくやる手だよ。そうでなかったらまだ続けているよ。たとえ嘘の占いでも、それだけの客が来るんだもの。消えたと言うことは、理由があるんだ」

 なるほど……。言われればそうだ。

「でも、なぜ本物の短剣があるのか? そしてなぜ短剣があることを知っていたのか? 家に忍び込んで、たまたま見つけたのか? それがわからないとね……」

「確かに、そうだ」

「でもね……。確実に、そこに短剣があるのかわかる方法があるんだ」

「それは何?」

「今は内緒だ。それに……、これもドクトルの企みだ。これができるのは彼しかいない」


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