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お酒はクズホイホイ

 居酒屋ランドシャフトが開店した。

 店名は、僕たちの村の名前をそのまま使った。

 

 セシリアと村の女性のリアフさんも調理を担当してくれる。リアフさんは、30歳くらいのスラリとした美人で、貴重な氷の魔法が使える。魔力がそう多くはないので、一日に作れる氷の量は少ないが、焼酎に入れる氷を作ってもらうので十分だった。

 僕が、注文を取り、お金をもらって商品を渡す。主にお金にかかわるところを担当した。


 「いらっしゃい!」

 セシリアの声が店内に響いた。

 料理を渡すカウンターの中がセシリアの調理場だ。店内のどこからもよく見える。


 最初のお客は、3人の男。見た感じ、あまりガラがよくない。居酒屋をやる以上、こういう客が多いことは想定済みだ。

 こっそり〈鑑定〉で見る。どうやら悪い人たちではなさそうだ。


 3人は、店内をキョロキョロ見渡している。

 1人がセシリアとリアフさんに気づいて、他の2人に肘打ちで教えている。

 これも想定済みだ。


「ご注文は、こちらで」

 コミュ障の僕には、接客は、はっきりいって苦手だ。でも、やらなければならない。

「とりあえず酒だ。でもちょっと高いな」

「味は保証しますよ」

「本当か?つまみも聞いたことがないものばかりだしな……」

 笑顔だ、笑顔だ。自分に言い聞かせる。


「おまちどおさまです」

 出された陶器のコップに入れた焼酎を手にして

「おい、冷たいぞ」

「うめえ、なんだ、これが500円か!」

「こちらはサービスです。あまり知られていない料理なので試してみてください」

と、唐揚げ1個、小さいハンバーグ、フライドポテトを小さな皿に盛って出した。

「おい、これもうめえぞ!」

「なんだ、初めて食べたぞ」

「おい、それぞれもっと出してくれ!酒もおかわりだ!」

「ありがとうございます」


 この客の声が、店の外にも響いていた。

 その声につられて客が入ってきた。

 また、その客の「美味い!」というのが店外に響く。

 あっという間に満員になった。


 入ってくる客は、すべて僕が〈鑑定〉した。

 問題がありそうな客はいない。順調だ。


 ところが、そう簡単にはいかなかった。


*****


 開店の翌日、その日も賑わっていた。


 昨日のお客さんから薦められたというお客さんもちらほらいた。

 やはり口コミは強い。

 あっという間に店内はほぼ満員だ。


 セシリアとリアフさんには、もうファンができていた。

「ねえ、今度遊びにいかない」

「あ、この娘のお父さんはギブルだから。お誘いするともれなくお父さんもついてくるからね」

 リアフさんが、うまくあしらう。

「えええっ!あのギブルの……。それじゃあ諦めるしかないか。でもギブルにこんなかわいい娘がいるなんて……」

 男たちはがっくりと肩を落とした。効果は抜群だ。

 セシリアもこれまでだったら父親をこんなふうに言われると嫌な気持ちもしたかもしれないが、今はギブルも真面目に働いている。それがわかっているからリアフさんのあしらいを笑ってみていられるようにもなってきていた。


「それじゃあ、お姉さんは?」

 リアフさんがターゲットとなった。

「あたしは、もう旦那も子どももいるから」

「そうなの……」

 こんな感じのやりとりが、何回もあった。

 とはいえ、みなしっかりと常連さんにもなってくれた。


******


「なんだ、満員じゃないか」

 大きな身体の男が5人連れで入ってきた。

 腰には剣をぶら下げていて、いかにもな怖い人アピールをしている。

 これはダメな客だ。

 〈鑑定〉で見ると、〈暴力C〉というのが目立つ。〈脅迫C〉もいる。

 まあ、でもこれも想定のうちだ。


 まっすぐカウンターにやってきた。

「流行っているようじゃないか。まだ用心棒はいないんだろう。せっかくだから俺たちがなってやるよ」

「いえ、結構です」

 変にあれこれ言うより、きっぱりと断るほうがいい。

「へえ、そうすると、この店がぐちゃぐちゃになっちゃうかもよ」

 2人が、僕に顔を近づけて脅してきた。

 今にもカウンターを乗り越えてきそうだ。


「ほう、ぐちゃぐちゃにするとな」

 ぬっと厨房から、カンさんが現れた。孤児院の仕事のあと、手伝ってもらっているのだ。

「なんだてめえは」

 カンさんの大きな身体を見て、少し引き気味に威嚇してくる。


「隊長!」

 そのとき、客席の一団が立ち上がった。

「おう、お前たちも来てくれたんだ」

「隊長こそ、なんで……」

「この店の連中に世話になったからな。手伝いだ」

 

 一団は、どうやらカンさんの元部下のようだ。

 客席からは「槍のカンターか?」とささやく声も聞こえてくる。

 カンさんは、実は有名人だ。


 5人の男たちを無視して話が進む。

 

「それなら、隊のメンバーにも声をかけておきます」

「ありがとうな。お前たちがいれば、俺も心強いよ」

「お金もたくさん落としますよ」

「それがいちばん助かるよ」

 カンさんと隊員たちの笑い声が響く。


「何、俺を無視してんだ」

 男の1人がくってかかった。

 それを見た客席からは失笑がもれた。


 カンさんと話していた隊員が、その男の腕をグイっとつかんだ。

 男は逃れようと身をよじるが動かない。

「どうします」

「連れてってくれ」

 隊員はうなずく。

「我々は王国の防衛隊だ。脅迫の罪でお前たちを逮捕する」

「えっ、ちょっと待て……」

 男たちは、あっという間に隊員に囲まれて連行されていった。


 そんなことが、その日に3回、翌日には2回あって、全部で18人が連行されていった。

 居酒屋を開くとクズが集まる。これもすべて想定のうちだ。

 だからカンさんに手伝ってもらっていたし、それで十分だとも思っていた。防衛隊は想定してはいなかったが、結果オーライだ。

 ただ、クズと言ってもまだまだ小物だ。かわいいものだ。


 しかし、店が繁盛して金が動くと、とんでもないクズがやってくる。


 それは、まさかの想定外だった。


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