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手が届いた……

 王の食事の塩分や脂を増やされていた。

 これは、成人病の原因としては常識だ。テレビでも、ネットでも、そして保健の授業でも取り上げられていた。

 しかし、この世界には、その認識はない。そもそも健康、衛生の観念がない。料理人も、それが王の健康を損なうとは、まったく思っていなかったのだ。


 いったい誰がそれを仕掛けたのか。それは自明だった。

 それでも最高評議会での報告のためには証拠が必要になる。そのための調査を開始した。


 しかし、料理長は行方不明になっていた。その家族もだ。

 王の主治医も行方不明だ。

 最高評議会で話をして、その日のうちということは、やはりその場にいた者が関わったということがはっきりした。


 料理長以外の料理人に聞くと、

「料理長の指示です」

としか答えない。〈真実の目〉で見ても青い。嘘はついていない。

 塩分が濃いのは、普段の食事で、晩餐会などでは通常の塩分量にしていたという。それも料理長の指示だという。


「陛下は、気づかなかったのか」

「陛下は、味がわからなくなっていたそうです」

「それはいつから」

「2年くらい前からですね。我々は、厨房にしかいませんから、料理長しかわかりませんが」

 

 やはり、キーになるのは料理長か。


「料理長と主治医を探してくれ」

 僕は、L に指示を出した。シャテーを総動員しての大捜査だ。

 それでも、時間は1週間しかない。もし殺されていたら、それで終わりだ。


「ローゼ宮の中ということはない?あそこだと、僕たちも手を出せないし……」

「その可能性があるので、とりあえず見張ってはいる。ただ、料理長の家族も行方不明だから、その可能性は低い。王城は出るのは簡単だが、入るにはいくつもチェックがある」

「そうだな……、第一門の衛兵などは、王子の息がかかっているかといえばそうでもないからな」


 食材を納入している業者に聞くと、塩などの量が増えたのは、2年くらい前からだ。すべて料理長の指示だと言う。


 調査は行き詰まりそうだった。


 調査を開始してから4日経ったが、何も見つかっていない。あと2日。

 休暇をとっていた料理人が出勤したというので、藁をもつかむ思いで話を聞きにいった。

「それは、料理長の指示でした」

 嘘もついていない。結局は、何もわからなかった。


「料理長のレシピはどこへ行った? 公爵様からの指示があって、新しくなったやつ……」

 僕たちの後ろから聞こえてきた。

「レシピって、いうのは?」

「ここで作っている料理は、すべて料理長が書き残して、それに基づいて作っているんです。大勢で料理を作ってますから、味がバラバラにならないように、調味料の量なんかも細かく書いてあります。この間、公爵様から変更するように指示があったので、全部書き直したんです」

 現在の厨房の責任者である副料理長が答えてくれた。

「ありました。これです」

 念のために見せてもらうと、そこには材料の詳細な分量、料理の手順などが細かく書かれていた。

 そして、そこには日付とともに、 ”カッツェンシュタイン公より、陛下のご健康のために、可能な限り塩を減らすこと、脂を減らすことの指示があり、レシピを大幅に修正した”と書かれていた。


「これだ! 過去のレシピはありますか?」

「いつくらいのものですか?」

「過去3年分くらいです」

「3年分ですか? ありますよ。ご必要なら案内します」

 案内?と思ったが、若い料理人に連れていかれたのは、厨房の奥の食材倉庫のさらに奥の部屋だった。

 そこは図書室のように本棚が並んでいる。かなり広い。

「ここには、100年以上前からのレシピが保管されています。3年分でしたら、そちらの棚ですね。持ち出しは禁止されていますので、ご覧になられるなら、そこのテーブルをお使いください。

「ありがとう。助かるよ」


 それから、人を集めてレシピを確認していった。王子の名前がないか。


******


 最高評議会が再び開かれた。


 通常のメンバーに加えて、第1王子のグスタフも参考人として参加している。


「それで、陛下を暗殺しようとした犯人について報告していただきます」

 議長のネルツ公が話を進めた。


「まず結論から申し上げますと、犯人はグスタフ殿下でした」

 公爵様がそう告げた。

「何を言う! そんなはずあるか。私が父上を暗殺するはずなどない!」

 グスタフは、声を荒らげて反論した。

「証拠がございます。2年ほど前に、陛下の料理番の料理長にレシピを変えるように殿下が指示されていますね」

「それがなんだ。そんなことを言った覚えなどない」

「いえ、料理長がしっかりと記録しておりました。私がそれを確認しました」

「私も確認しました」

 ネルツ公も言う。真面目で、最も信頼されているネルツ公が言うのだから、インチキっぽい公爵様が言うよりも説得力がある。


「そんなものは、いくらでも偽造できるだろう」

 グスタフは強弁する。

「それは無理です。紙もインクもその時期のものは全部同じです。その時期の記録を全部偽造するとなると、数百枚ではききません……」


 何を失敗したのか……。グスタフは反論を一生懸命考えているようだが、何も言えなくなってしまったようだった。


「これで決まりですね」

 ネルツ公は、王を心の底から慕っていた。王とは幼なじみで、親友でもあった。王の能力が低いことも見抜いていた。だから、自分が支えねばと、宰相にも就いていた。その王の暗殺未遂とは、彼にとって絶対に許されないことだった。


 デアヴァル公と第2王子のシュレックは何がなんだかわからないという顔で成り行きを見ている。

「説明を願います」


「それでは私から。王の病気は、成人病と言われるものです。これは、長い間、塩と脂の多い料理を食べ続けるとなる病気です。これに罹りますと、頭の中の血管が切れたり、心臓の血管が詰まったりして……、死に至ります。幸い、早く気がつきましたので、食事からは塩と脂を減らして、身体にいい食べ物に切り替えておりますので、これ以上悪くなることはないでしょう」

 2人は、なんとなくわかったという顔をしているが、たぶんわかっていない。

「それで、陛下の料理番に、陛下のお食事の塩と脂を増やすように指示した者がいます。それがグスタフ殿下です。2年前に……、2回目の謹慎になられた頃です。毒ではなく、普段食べるものですから、誰も気づきませんでした」


「なぜ、そのような指示を出したのですか?」

 ネルツ公がグスタフに尋ねる。でもグスタフはうつむいて黙っている。


 しばらく、沈黙が続いた。

 その沈黙を破ったのはグスタフだった。


「なぜかって? それは父に死んでもらいたかったからだ!」

 グスタフは、そう言って剣を抜いた。この部屋では帯刀は許されていない。こっそりと持ち込んでいた。こうなることを想定していたのだろうか。誰もが無防備だ。


「衛兵!」

 ネルツ公が叫んだ。

 扉が、バタンと勢いよく開き、2人の衛兵が入ってきた。すでに剣を抜いている。しかし、その衛兵は、グスタフの横に立って、僕たちに対した。


「今日は……、第2部隊だったか……」

 ネルツ公が、力なくつぶやいた。第2部隊は、グスタフ直轄兵だ。


ਪਵਿੱਤਰ ਆਤਮਾ ਦੇ ਨਾਮ ਤੇ, ਮੈਨੂੰ ਬਰਫ਼ ਦੀ ਸ਼ਕਤੀ ਦਿਓ. 


 僕が唱えると、衛兵は息ができるように頭だけを残して、全身が氷に包まれた。そしてグスタフも。

 まったく身動きはとれない。


「頭を出しておいたのは、温情だ。それとも……、頭も氷付けにするか?」

 そう聞くと、グスタフは、ブルブルと首を横に振った。


 これで決着した。あの王子に手が届いたのだ。しかも僕がトドメを刺すような形で……


 それから近衛兵第1部隊が呼ばれて、グスタフと2人の衛兵を連行していった。


 シュレックは、まだガチガチと震えている。修羅場の経験はないからだ。温室の中で、ぬくぬく育ってきたから、剣に対したこともない。

 その点、王女は落ち着いていた。まったく動じない。

 ただ、その目に小さな涙が見えた。それは、実の兄が、実の父を暗殺しようとしたことへの悲しみなのだろう。

 

「お茶でも飲みましょう」

 公爵様の提案で、一息つくことにした。シュレックは、まだ震えていて、手にしたカップからお茶がこぼれそうだった。


 最高評議会が再開して、摂政を決めることになった。

 こうなったら、すんなりと決まった。

 もちろん、王女だ。


 そして、グスタフの処遇も決めた。王の暗殺なのだから極刑が基本だが、王族でもあり、摂政となった王女からの願いでもあった。

 グスタフは、離宮の1室で、一生幽閉されることになった。王籍は剥奪。外部との連絡は不可。世話をする侍女が2人だけ。衣食は保障されるが、生涯、そこを出ることは許されない。

 後日……、王女は月に一度ほど訪問して、世間話をしていた。


 行方不明だった料理長とその家族、主治医は、デアヴァル公の屋敷にいた。デアヴァル公はグスタフから頼まれただけだと言っていたが、確かにそうだろう。僕たちにとってもデアヴァル公の屋敷は想定外だった。


 グスタフを幽閉したので、ローゼ宮の捜査をする。ねらいはドクトル。

「レアル・デサンクが……」

 連行されるグスタフが、そうつぶやいていた。


 レアル・デサンク……、アレクサンデル……、ドクトルの本当の名前だ。

 やはり、ドクトルだったのだ。

 しかし、レアル・デサンクことドクトルは、グスタフが捕まったそのときに、ローゼ宮を脱出していた。スルリと、僕たちの手から抜け出るように。


 今回の王の暗殺未遂もドクトルのシナリオだったのだろう。2年以上の時間をかけて、そして、この世界では知られていない成人病を利用する。あのグスタフには無理だ。

 おそらくだが、誰か召喚者から情報を得ていたのだろう。ヨネさんのように普通の国民に溶け込んでいる召喚者はまだいるだろう。


*******


 王女は摂政に就いて、その住まいを離宮から王城へと移した。

 父である王の看病もしながら、摂政としての公務をこなしている。


 そして、また王女から呼び出された。

 ルイーゼさんは、まったく変わらない。


「いろいろとありがとう」

 王女と会って、まずそれを言われた。

「今の王国に問題があることは、わかっているが、急激に変えることはできない。昔からの貴族を敵にまわしては、政治が進まないからな。緩やかに変えていくつもりだ」

「それがよろしいと思います」

「そう言ってくれると助かる。それで、また頼みがある」

「なんでしょうか?」

「一つは、ドクトルという男を捕まえてくれ。政治の第1は国民の安寧だ。今、一番脅かしているのは、ドクトルという男だ。兄上についていた近衛兵第2部隊を、そなたにまかせる。なんとしても捕まえてくれ」

「もちろんです。ずっとそのつもりでおりました」

「そうか……。頼むぞ」


「もう一つだが……、これはドクトルが捕まってからでよいか……」

 なんか王女が真っ赤になっている。何なんだろう。


「とにかくよろしく頼む」

 そう言われて、王城を後にした。


 いよいよドクトルとの直接対決だ。それには、やはり彼の力が必要だ。

 まず、行こう。彼のいるランドシャフトへ。


ブラウザで翻訳ができる方は、翻訳してみてください。呪文の意味がわかります。

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