王国最高評議会のメンバーになってしまった
それは突然起きた。そして王国中を揺るがせた。
王が、突然倒れたのだ。
僕がシュパイエル辺境伯領から戻ったばかりのときだった。
それは L が伝えてくれた。
今のところ命に別条はないという。
これからどうなるのだろうか?
そう考えていたら、レミュス老人が現れた。
「いろいろと活躍しているようだな。ルイトポルト王子のことも聞いたぞ。よくやったな」
「王が倒れたことは聞いたな。めまいがして、言葉がうまく話せず、目もよく見えないらしい。今は、治まっているようだが、しばらくは寝たきりになる。だから、摂政を置くことになるだろう」
「摂政ですか」
摂政と言えば、聖徳太子か藤原道長のイメージが頭に浮かぶ。
「それを決めるための最高評議会に、わしの代わりに出てくれ」
「ちょっと待ってください。僕が……、そんな会議に出るのですか?」
「ああ、もうお前はレミュス家の当主……みたいなものだ。会議に出て自由に発言していいし、議決のときは自由に決めてもいい」
「そんな……、責任重大なことですよ」
「何を言ってるんだ。今までやってきたことも同じだぞ」
考えてみると、貴族の首を切ったり、戦場で捕虜の命を助けたり、デーン国との交渉で発言したり、いろいろな決定に参加してきた。それでも、王の代わりを決めるような会議はレベルが違うだろう。
最高評議会は、王国の最高意思決定機関で、通常なら王を議長に、それから王位継承権を持つ者、王国の三公と呼ばれる宰相、宮廷書記官長、枢密院議長、そしてレミュス家当主で構成される。
王国枢密院ともメンバーは重なるが、枢密顧問官のメンバーは増やすこともできる。
それと比べて、最高評議会は、このメンバーが絶対で、他のメンバーは認められない。
王が自身で判断できないことがあると、最高評議会で検討するのだ。例えば、開戦の決定などは最高評議会で決めることが多かった。
「それじゃあ、頼んだからな。これを持っていけば、会議に参加できる。そしてこれを着ていけ。レミュス家の正装みたいなものだ」
そう言って、金のメダルと真っ黒なローブを置いて、消えてしまった。
今の僕なら追いかけることもできるが、話をしても無理だろう。レミュス老人に言われたなら、行くしかないのだ。
******
翌日に王城から使者が来た。5日後に最高評議会が開かれるので出席についての打診だった。
レミュス家は出席が自由なので、打診、つまりは、出ますか? という問い合わせなのだ。
「謹んで出席いたします」
これは断れないから、そう伝える。
当日、僕は、渡された黒のローブを着て、王城に向かった。古いもので、よれよれだった。歴史があるのだろうと思うが、僕には全然似合わない。なんというか、スターウォーズの暗黒卿のような雰囲気になってしまう。完全な悪役だ。
王城の第一門で、使者からの通知書を見せる。すぐに案内の担当者が来た。
噴水庭園を抜け、第二門から王城に入る。王城の本体部分に入るのは初めてだ。手前が、いわゆる官庁のようなところで、奥が王家の住まいになっている。王城の外部分にローゼ宮、リリエ宮、ムータン宮といった王子が住む宮殿がある。そこには訪問というか呼ばれたことがある。
案内された部屋の前に来た。扉の両側には屈強な衛兵が立っている。その衛兵に、通知書とメダルを見せる。ガチャリと音がして、扉が開けられた。
部屋は、教室くらいだろうか。装飾は、いたってシンプルだ。その真ん中に長いテーブルが置かれていた。まだ誰も来ていない。僕が一番最初だった。
案内してくれた男に言われた場所に座った。
独りでいると、だんだん緊張感が高まってくる。どう考えても場違いだ。
ガチャリ、と音がして扉が開く。入ってきたのは王女だ。僕はすぐに立ち上がって礼をした。王女は驚いた顔で僕を見ている。
「どうして……、お前が……」
「レミュス老人に行けと言われたんです」
「ということは……」
レミュス家を継ぐのか、ということだろう。
「その通りかと思います」
そう言うと、王女は微笑んでから、自分の席に着いた。
それから、次々とメンバーが入ってきた。第2王子も僕を見て驚いた表情を見せたが何も言わない。一番驚いていたのはルイだ。それでも何も言わないまま席に着く。公爵様は、知っているから表情を変えない。
ちなみに第1王子は、謹慎中なので欠席だ。公衆衛生局の詐欺に関わったのは王の耳にも入っている。それでより厳しい謹慎となっていた。
「それでは、最高評議会を開会します。本来の議長は陛下であらせられますが、みなさんご承知の通り、ご療養中ですので、私、宰相のオットー・ネルツが代理いたします」
「ところで、見慣れない者がいるのだが……」
宮廷書記官長のユップ・デアヴァル公爵が発言した。
「タクヤ・ジークフリート・レミュス様でございます」
後ろに立っていた役人が答えてくれた。自己紹介すべきかドキドキしていたが、助かった。僕は立って、軽く会釈をした。
「レミュス家か……」
デアヴァル公爵がつぶやいた。
ルイの目が大きく見開いている。むちゃくちゃ驚いているのだろう。
それから議長の進行で話が進められた。
まず王の状況の説明があった。重篤な状況ではないが、話ができず、目もよく見えなくなっているという。どういう病気かはわからない。ただ、公務は不可能だという。
それで第1の議事が、摂政を置くかどうかだった。
議事については、よほどの異論がない限り、発言しないつもりでいた。
第1の議事は、摂政は必要ということで、簡単に決まった。
問題は、第2の議事だった。摂政が必要ならば誰がなるか、ということだ。
これが決まらない。
何かもめるとしたら第1王子なのだが、今回は欠席だ。だからすんなりかと思ったが、そうでもない。
「グスタフ殿下が謹慎の今は、メサリーナ殿下が就かれるのが順当なのではないでしょうか」
ネルツ公がそう発言した。そりゃそうだろうと思う。
「いや、摂政は激務だ。だからこそ私が就こう。メサリーナには、聖女としての公務もあるし、ルイトポルトには公衆衛生局の業務もある。だから、ここは私しかいないだろう」
第2王子のシュレックが強く主張する。
「お待ちください。摂政は王族とも決まっておりません。それに国の顔とも言えます。そして殿下は、まだお若い。ここはカッツェンシュタイン公にお願いするのがよいのではないでしょうか。公は、枢密院議長の職しかございません。比較的余裕もあるのではないでしょうか」
そう言うのはデアヴァル公。
「いや、それは断る。そんなの引き受けたら過労死するわい」
公爵様は、必死に断る。
こんな感じで議論は堂々巡りを繰り返す。
結局、翌日に持ち越されることになった。
「グスタフ殿下のご意見も聞いたらどうでしょうか。謹慎の身ですから、あくまでも参考人としてですが……」
デアヴァル公が提案した。話を聞いていると、デアヴァル公は第1王子派なのだろう。王女や他の王子になられるのが一番困る。王が亡くなろうものなら、摂政がそのまま王になる可能性は高い。だからそれを阻止するのだ。
*******
その日は王城に部屋が用意された。夕食も用意してくれるという。
王女のお誘いで、カッツェンシュタイン公と3人で夕食をとることにした。
そんな話をしていると、デアヴァル公が遠くから見ていた。
「叔父様は、ご存知だったんですね。タクとレミュス家の関係を」
「ああ、ご老人からも相談を受けたよ」
「私だけが知らなかったのですね」
王女はちょっとすねている。これだけ見ると可愛いんだが。
それから食事が出てきて驚いた。
「しょっぱい」
僕も王女も公爵様も、それを真っ先に感じた。
それに脂っこい。不健康の塊のような食事だ。
あまりのしょっぱさに王女が料理長を呼んだ。
「失礼しました。ただ、この味付けにと指示されているんです」
「誰に?」
「グスタフ殿下です」
「それは陛下のお料理もそうなのですか?」
僕は気になったので聞いてみた。
「はい。むしろ陛下の食事をそうするようにご指示いただいております」
「そうか、下がってよい。できればもっと薄味のものを用意してくれ」
「承知しました」
この食事は、前の世界では絶対にダメだった。母親がよく言っていたのを思いだした。
「こういう料理は、前の世界では健康を損なうと言われていました。成人病になると」
「成人病?」
「はい。主に大人がなるから……かな。そう言われているみたいですが、塩が多くて脂が多いものばかり食べていると罹りやすい病気です」
「それじゃあ」
「陛下は成人病と言われる病気のどれかに罹っている可能性があります」
「それもグスタフの指示で……」
「治療法はあるのか」
「あると思いますが、この世界には、その薬はないと思います。基本は塩と脂を減らした料理で、あとは痩せることです。酒もだめだったと思います」
「わかった。すぐに料理長に伝えておこう。わしの名前で」
「それがいいと思います」
「父には毒味もいるから毒を盛ることは無理だが、こうしたことができるとは……」
王女は、黙って考え込んでいる。
「許せない……。父上を」
******
翌日の会議は、いきなり紛糾した。
デアヴァル公が、グスタフを支持するという貴族の署名を集めて持ってきた。
「やはり、これだけ多くの支持があるのですから、グスタフ殿下がよろしいのではないでしょうか」
開口一番がこれだった。
「そんな貴族の意見を集めて決めるのなら最高評議会は不要ではないか」
温厚な公爵様が、ちょっと怒っている。
「おっしゃる通りですが、摂政に就いた後のことを考えると、こうした意見も必要かと思いますよ」
デアヴァル公が、ニヤニヤしながらグスタフの方を見て言う。
「それならば、私にも支持者は多いぞ。少なくともグスタフよりも」
シュレックが言い出す。
また堂々巡りの始まりだ。
「あのお……。現在の候補の方に、それぞれどういう方針で陛下の補佐をされるのかをお聞きしたいのですが」
僕は、初めて発言をした。このメンバーから注目されるのは、緊張を通り越して怖い。全身を締め付けられる気分だ。それでもがんばった。
グスタフは、僕を見て驚いている。これまで存在感がなかったから気づかなかったみたいだ。
「それがいいな。わしも聞きたい」
公爵様も賛成してくれた。
「それでは、グスタフ殿下から順番にお願いします」
グスタフは、いきなり立ち上がった。演説モードに入ったみたいだ。
「私は、王の代理として……、王の権威を代表する。王国のトップとして、国民を従えて国を前へ進めるつもりだ」
やはりこいつは馬鹿だ。権威しか頭にない。 ”国民を従える……”、何様だ。あっ王様か。
「王国を停滞させてはならない。そのためには、強い力必要だ。まわりの国々にもその力を見せつけるのだ。ヴェステンランドを史上最強の国にするのだ」
勢いはあるようだが、具体的に何をするのかさっぱりわからない。
それでもデアヴァル公は拍手をしている。
「それでは、次は私ですね。陛下は倒れられたと言っても、まだ意思疎通は可能です。ですから、陛下と相談しながら国事を進めて参ります。何か難題が発生しましたら、この最高評議会とともに解決を進めます。そして、現在の急務は、教育です。子どもだけでなく大人も職業訓練を行い、労働の質を上げて、工業生産力、農業生産力を高めます。それで王国の税収も増えるでしょう」
さすがに王女殿下だ。悪女の雰囲気はまったくない。ネルツ公も感心して聞いている。
「では、私が。良い国にすることが第1でしょう。そのために私は尽力します。あと……、なんだっけ。あっ、国民の健康を高めて、孤児を減らすのも必要です。それから、軍備を再編成して強い国にします」
シュレック、こいつもやはり馬鹿だった。良い国がなんだかわからないし、一部はルイのパクりだ。
「最後は、僕ですが、僕は辞退します。昨日言われたように、公衆衛生局の業務が忙しいこともあります。それと……、メサリーナ殿下のお考えは、僕と同じであることはお伝えします」
ルイが、そう言ってしめくくった。
この方針だけなら、王女が圧倒的だ。
それなのに、グスタフもシュレックも自信満々だ。馬鹿だから王女の話の良さがわからないのだろう。
「それでは、どうしましょうか。みなさんで多数決で決めますか」
議長のネルツ公が提案した。
「ちょっと待ってください」
公爵様が手を挙げた。
「実は、陛下の暗殺未遂の疑惑が出ているのです。そして容疑者と考えられる1人は、この場にいます。ですから、まず調査をして、事の真偽を明らかにして、それから決めた方がよいのではないかと思います」
”暗殺” という言葉に、誰もが表情を変えた。僕は、そのときの全員の表情を確かめた。やはり一番反応しているのはグスタフだ。青ざめて、凍り付いた表情をしている。
「それは本当なのか。陛下はご病気ではないのか?」
グスタフ王子が驚いたという表情で言う。それも演技なのだ。
「はい、残念ながら。毒と言うより、病気になるように仕向けられていたのです。まったくご存じなかったですか?」
「いや、気づかなかった」
〈真実の目〉で見ると真っ赤だった。
公爵様からの提案で、調査に1週間ほど置くことになった。そしてその間の王の代理を、三公で分担することにした。
あの馬鹿王子だから、こんなことは自分で考えられないだろう。
だから背後には、あのドクトルがいるのだ。
もし、これが確認できれば、王子は完全に終わりだ。王の暗殺未遂では謹慎で済むはずはない。
ついに王子に手が届く。




