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第3王子を誘い出せ

 僕とクレバーは、ホテルに戻った。


「やはり金では動かなかったね」

「いや、そうでもないぞ。少なくともフルディーネ妃は動きそうだった」

「でも、やたら金を持っていそうな感じもあったけど」

「1時間程待たされたな。あの間に何をやっているのか……、化粧じゃないよ。あの部屋の準備をしていたのだよ」

「あの部屋の?」

「そうだよ。高そうな調度品が並んでいただろう。小さい部屋だからできたのだろう。大きい部屋だったら、スカスカだよ。あちこちの部屋から集めて、あの部屋を準備していたのだ」

 そう言われればそうだ。


「なんでそういうことをしたの?」

「それは、お金なんて有り余っているって演出したかったんだ。交渉を有利にしたかったのだろう。少しくらいの金では説得されないぞと」

「なるほど、そういうことだったんだ」

「だから、フルディーネ妃は金でなんとかできる。問題は王子だ。王子がうんと言わないからデニスは解放されない。フルディーネ妃は、王子の言いなりみたいだからな」

「それでどうする?」

「ルイトポルト王子を釣り上げるのが、手っ取り早い」

「王子は金では動かないよね」

「ちょっと考えがある。〈Mary〉を使うんだ。少し時間がかかるがな」

「時間がかかるとなると……、デニスは大丈夫かな」

「おそらくだが、デニスは大切にされると思うよ」

「そうだといいんだが……」

 王位継承権を餌にしたのだから、これ以上、関係を悪化させることはしないだろうとクレバーは言う。


*****


 フルディーネ妃からの連絡を待ちながら、〈Mary〉とも連絡をとってクレバーの依頼を実行していった。

 こういうとき、空間魔法は助かる。王都とオストールは歩くと3日、馬で1日いっぱいかかる距離だ。


 クレバーが〈Mary〉に依頼したのは、女の子の姿絵を作ってもらうことだった。前の世界のブロマイド、ポスターだ。元々王女の絵本と姿絵の販売のために設立した会社だから、そういうのもお手のものだ。


 女の子は架空の存在。実在だと狙われるかもしれない。それを絵師に自由にイメージしてもらった。

 その1枚のブロマイドとポスターが3日でできた。


 それをクレバーがムータン宮に届けにいった。

 まずブロマイドを1枚だけ、王子への贈り物として渡した。

「まだ、大きなポスターなどもありますので、デニスとの対面と差し入れが許されるのならば、お渡しいたします」

 渡すときに、そう告げた。ここでクレバーの〈交渉〉のスキルが生きてくる。


 取り次ぎの男は、奥に行ったと思ったらすぐに戻ってきた。

「対面と差し入れが許されました」


 クレバーは、中に案内された。

 デニスは、ムータン宮の一番奥の部屋に軟禁されていた。

「最初は牢だったんですが、この部屋に替えられて、結構快適です。暇ですが……」

 そう言って笑ったという。暇だからトレーニングばかりしているともいう。


「デニスは元気そうだったよ。差し入れの食べ物、着替えを渡して、励ましてきたよ」

 クレバーは、そう報告してくれた。


「取り次ぎの男の話では、王子は絵姿をものすごく喜んでいたらしいよ」

「それなら、次の作戦も……」

「ああ、バッチリだ」


*******


 〈Mary〉では、最初に王女の絵本、絵姿のPRのために使った、女の子による合唱隊を人数を12人に増やして、Mary12として活動させていた。主に孤児院から集められた〈歌〉のスキルが高い子どもたちだ。

 この世界には娯楽がない。Mary12は、あちこちのイベントに呼ばれて、大好評を博していて、絵本や絵姿の売上に貢献していた。

 一部では熱心なファンもいて、”おっかけ”もいるという。


 このMary12を使って王子を釣り出すという。

 ただ、釣り出すのでは意味が無い。なんらかの交渉に有利な材料を見つけるのだ。


「それでも王子は出てくるのかな」

「今までも外に出ているよ。変装するか何かをしてね」

「僕たちに顔も見せないのに……」

「ああ、エマに執着していたよね。あれは手下の秘密警察に薦められたからじゃない。実際に見たからだよ。そうじゃないとあそこまで執着はしない」

「それじゃあ、デニスが捕まったあの場に……」

「確実にいた。そしてデニスとエマが仲良くしているのを見ているから、デニスを解放しない。解放するとエマの所に行ってしまうだろう。それが許せないのだと思うよ」


「Mary12の女の子をおとりに使うようなものだから、安全に対しては万全にしなければならない」

「もちろん。シャテーのメンバーも総動員してもらう。それに僕も全力を尽くすよ」

「ああ、オストールの保安隊長さんの紹介で、王都の保安隊が警備もしてくれることになった」

「じゃあ、準備は万全か」

「それに、もう1つ対策をしたから、大丈夫だろう」

 あとは、当日を待つだけだった。


******


 Mary12のライブは、王都のはずれにある広場で開催される。

 ポスターもたくさん刷って、王都のあちこちに掲示した。もちろんルイトポルト王子にも届けてある。


 王子を引き出すための無料ライブだが、せっかくなので〈Mary〉のグッズも販売する。ヴィリギスは、そのあたりはしっかりしている。


 当日は、大勢の客が集まった。娯楽に飢えているのだ。2000人以上はいるだろう。少し、警備が心配になる。王子ではなく、これだけ多いと普通の客も問題を起こすかもしれない。


 そして、想定外のことが起きてしまった。

 入り口に、豪華な馬車がついた。出てきたのは、公爵様の双子の娘、アナとグレタだ。

 これはヤバい。この二人はマジ天使だ。Mary12よりも王子のターゲットになりやすい。警備の段取りが変わってしまうほどに。


「タク兄様ああ」

 2人が声をそろえてやってきた。

「どうして?王都までわざわざ来たの?」

「ううん。王城でお姉様のパーティがあるので来ていたの。そしたら、ここでライブがあるって聞いて、来たらタク兄様がいたの」

「そう。それじゃあ楽しんでいってね」

「うん!」

 2人揃って笑顔でうなずいた。


 舞台では、準備が進められている。会場の人もそろそろ一杯だ。

 アナとグレタは、僕の両側でしっかりと手を握っている。その方が安心だ。


 僕は、〈鑑定〉と〈探査〉を使って王子を探す。しかし、人数が多すぎる。一度でも会っていればわかるのだが、何かヒントがあれば……。

 そう思っていると〈武力〉が高い集団がいくつもある。私服の保安隊員かもしれないが、この集団の1つに秘密警察がいるのだろう。


 そうこうするうちにMary12の子たちが舞台に上がってきた。ひときわ高い歓声が上がる。

 小さくお辞儀をしてから歌い出した。まずはあの聖女の歌からだ。この子たちの活躍で、王国内で広まっていた。

 2曲目、3曲目とライブは進んでいく。観客も盛り上がり、一体感もズンズンと高まっていく。僕も、ついステージへと目をやる。


 そのとき、グレタが僕の手を軽く引っ張った。

 見ると、顔にターバンのような布をまいて帽子を深く被った男が、グレタの後ろにピッタリとくっついている。それから手を伸ばして抱きつこうともする。痴漢か?

「何をやってる!」

 僕はすぐに男の手をつかんだ。アナとグレタは、すぐに彼女の護衛に引き渡して守ってもらう。


「無礼者!」

 そう声がして、となりにいた男が僕の腕をとろうとした。

 無礼者?こいつがルイトポルト王子だ。最初は、市民の痴漢かと思ったが、まさかだ。


 僕は、とっさに手をひっこめ、呪文を唱えた。

ਪਵਿੱਤਰ ਆਤਮਾ ਦੇ ਨਾਮ ਤੇ, ਮੈਨੂੰ ਬਰਫ਼ ਦੀ ਸ਼ਕਤੀ ਦਿਓ.

 僕の手を取ろうとした男、そして王子と思わしい男の下半身を氷で固めた。人が多いところでは、火や水は使わない方がいい。

「こいつ!」

 それから4人の男が、僕に迫ってきたが、同じように氷漬けにした。


 騒ぎを聞いて、ステージのMary12は歌うのを止めていた。


 それから保安隊が来た。

「我々は何もしていない。その男がいきなりやったのだ」

 そう必死に言う。こんなところで王子の名は出せない。

 しかし、まわりにいた人達が、

「そのかわいい女の子に抱きつこうとしていたのを見たわ」

と、次々と証言してくれた。

 本来、貴族に、保安隊は手は出せない。しかも王族だ。だけどそれを名乗るわけにはいかないから、保安隊の前で、黙ったままでいた。


「我々も見ていました。連行するのを手伝います」

 そう声をかけてくれたのは、僕の後ろにいた〈武力〉が高い一団だ。

 近衛兵だと言う。

 ここは、すぐ近くに近衛兵の宿舎があった。非番だった近衛兵が、家族と見に来ていたのだった。元近衛兵のベルンハルトに、このライブを紹介してくるように声をかけてもらっていたのだ。これがもう1つの対策だった。


 僕は、氷魔法を解除し、また暴れないように保安隊隊員と近衛兵がまわりをがっちりと押さえた。

 そのとき、王子の顔を覆っていた布が落ちて、顔が露わになった。


「王子!」

 近衛兵の一人が、つい叫んでしまった。

 ルイトポルト王子の顔は、直属の近衛兵第5部隊の兵も知らないが、各隊長クラスは知っていたのだ。

「すぐにこちらへ」

 近衛兵と保安隊にステージの裏に連れていかれた。


「王子だって……」

 会場はざわついている。

「女の子に痴漢したらしいわよ」

 そういう話も、あちこちでささやかれる。


「さあ、まだまだ歌いますね」

 いいタイミングでMary12の子たちが歌い始めた。おかげで客の注目はステージへと向いた。いいタイミングだ。


 ステージ裏では、連れてこられた王子がしょんぼり座っていた。秘密警察の連中は黙ってうつむいている。王子とバレたとしても、自分たちからは何も言えない。もう、どう言い訳もできない。

「どうぞお帰りください」

 僕と保安隊の隊長、近衛兵の方々と相談して、王子はこのまま解放することにした。


「あなたが手をかけた令嬢は、公爵のカッツェンシュタイン公のご令嬢です」

 僕は、そっと王子に伝えた。王子は、一瞬驚いた表情をして、そのまま帰っていった。


 近衛兵は、第1から第5までの全部隊の隊員が数名ずつここにいる。彼等の口に戸は立てられない。つまりは、明日には全隊員が知り、そして仕えている王位継承権を持つ者、さらに王にまで伝わるだろう。


 結果は、まさかだった。僕とクレバーの考えでは、ルイトポルト王子の趣向を確認して、それに見合う贈り物をして交渉を有利にすることだった。

 Mary12の子たちに関心をもってもらって、どんなグッズを欲しがるかを知る、それができれば充分だった。

 女の子に近づくことも想定したが、ステージの上、できることは限られる。心配なのは王子本人より、秘密警察だった。だから保安隊、シャテーと何十もの壁をつくっていた。


 これで、次の対応が難しくなってしまった。

「まだまだ甘いな。ドクトルならこういうことはないだろう」

 クレバーは、ため息交じりに言う。


******


 ところが事態は急変した。

 デニスが、僕たちが滞在するウィルシャーホテルにやってきた。

「解放されました」

 ニコニコと笑っている。何事にも動じないデニスらしい。


 僕は、空間魔法で、デニスをすぐにアルブレヒト辺境伯様のところに連れていった。

 辺境伯様、それからたくさんの人がデニスの無事を喜んだ。

 ニールス、そしてエマも泣いている。


「ありがとうございました」

 エマが、思い切り頭を下げてきた。

「大事な婚約者を無事に連れてきましたよ」

 僕がそう言うと、デニスもエマも真っ赤になっている。かわいいカップルだ。


 一応は、これで解決になった。

 フルディーネ妃からは何の連絡もないが、王位継承についてかなり不利な立場になったのだから、デニスを解放して恩を売ったつもりかもしれない。


 クレバーとホテルを引き払う準備をしていると、公爵様からの使いが来た。

「一緒にデーン国に行くぞ」

 渡されたメッセージにはそれだけしか書かれていない。

 いったい何が?


ブラウザで翻訳ができる方は、翻訳してみてください。呪文の意味がわかります。


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