お金を儲けよう
孤児院事件が落ちついた頃、クレバーとセラーがそろってやってきた。
「孤児院のことは、ありがとうな。おかげで助かったよ。ボスも喜んでいる」
「ボスも?」
「ああ、あのクソ貴族に雇われていたのが俺たちと敵対した組織だったからな。ああなって、やつらの評判はだだ下がりだ。お前と取引してよかったよ」
笑いながら言う。
「次の相談だが、金を作りたいんだ。前の借金の補填をしなければならないしな」
ストレートに言ってきた。僕にできるのか?
「僕の店を通して物を売るんだ。君の世界では、僕たちの知らない商品があるだろう。それを教えてほしいんだ」
僕の心配そうな表情を見てセラーが言う。
「それならできそうですが、どんなものがこの世界では売れますかね」
「お前のいた世界に酒はあった?」
「さっ、酒ですか?そりゃ、いろいろとありましたけど……」
クレバーとセラーが何を製造して販売すればよいのかを相談したそうだ。便利な道具を製造してもそれが普及してしまえば終わりだ。
人々が、毎日必要とする物が確実だった。そこで考えたのが酒だった。毎日必要とする物が酒というのも、裏社会にいるクレバーらしい発想だ。
「それを造れるか?」
僕は、ちょっと考えてみた。
こんなときにネットがあれば調べられるのに、そう思った。
たしか理科の実験で、おかゆから麹を使って甘酒を造ったことがある。微生物による発酵の実験だ。これは難しくはない。確か、これに酵母を入れると酒になる。
麹や酵母といった微生物を特定することは、素人には難しい。無理と言ってもいいだろう。しかし、僕には〈鑑定〉と〈探査〉がある。これを使えば、身体に有害な微生物でなく、酒の発酵のための微生物を見つけ出すことができるはずだ。
「僕の世界は、お酒は二十歳以上でないと飲めなかったので、お酒のことは詳しくはありません。美味い不味いも、わかりませんが、おそらく造るのだけはできると思います」
「今、売られている酒は2種類ある。1つは葡萄酒。これは美味いが量も少なくて値段は高い。貴族様や金持ち用だ。もう1つは麦酒。安いけど不味い。でも庶民はこれを飲むしかない」
「葡萄酒の生産を増やしてくれればいいんだが……、ブドウじゃ腹はふくれないから、畑は麦を優先しているんだ。だから葡萄酒は量が少ない」
「麦酒って、ビールではないんですか?」
「ビール?ああ、北の方のやつだな。ビールは冷えていないと美味くはないから、このあたりではないな。このあたりの麦酒は、麦から造ったただの酒だ」
「どんな酒なんですか?」
「酸っぱいし、匂いもきつい。まあ、それでも値段を考えるとましかも……」
そう話しているとセラーが村長から一杯もらってきた。
「これだ」
確かに匂いはきつい。味は元々わからないから、口にはしなかった。
そのとき、パッとひらめいた。
「ちょっと待ってくださいね」
僕は、そう言って酒をもって台所へ走った。
台所で、ヤカンに酒を入れて火にかけた。
しばらくすると注ぎ口から湯気が出てくる。
そこに冷たい水を入れたコップをあてた。コップのまわりには水滴がつく。
その水滴を別のコップに集めて、2口分ほど溜まると二人のところへ持って行った。
「少ないですから、一口ずつ試してください」
そう言われて、最初にクレバーが、次にセラーが口に含んだ。
「美味い!」
「ええ、美味い酒です」
「どういうことだ!」
「蒸留したんです」
「蒸留?」
「説明は難しいですが、僕のいた世界では、焼酎と言ってこういう酒があったんです」
「すぐにできるのか?」
「簡単です」
二人を台所に案内して、実際にやってみた。
理科の授業でワインを蒸留してアルコールをつくる実験をしたことがあった。赤いワインから透明なアルコールを蒸留するのだ。
もちろん飲めないが、火をつけてアルコールがあることを確認もした。それを思い出したのだ。勉強は好きではないけど、実験は楽しかったのでよく覚えていた。
「このやり方だと、一から造る必要はありません。今売っている麦酒を安く買って、蒸留して高く売ればいいじゃないですか」
「なるほど!」
「確かにそれならすぐにできるし、醸造所を造る必要もない。最初に投資する金も少なくてすむ」
それからトントン拍子に話が進んでいった。
「たくさんつくるならば、それなりの設備は必要になります」
「すぐに用意させる。設備の作り方を教えてくれ」
「わかりました。あとでメモしますね」
「ああ、頼む。それと、これをもう少し作れないか?」
「僕も……。せっかくだからもっと飲みたい」
僕には、お酒の味はわからないが、美味しいみたいだ。
台所にある道具を工夫して、なんとか1杯分の焼酎を造って二人にわけた。
「乾杯だ」
「君も飲めるといいんだがな」
「僕はまだ遠慮しておきます」
「これは売れますね」
「ああ、値段をどうつけるかは難しいが、絶対に売れる」
二人の顔は、気持ちが高ぶっているのと酒のせいでほんのり赤くなっていた。
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クレバーの手配で、村から離れた森の中にあった小屋に蒸留施設を造った。
蒸留の仕方は秘密にしておきたかったから、誰も来ないようなところだ。ちょうどよい具合に使われなくなった小屋があった。
施設は、まだ小規模だ。お金を貯めながらだんだんと大きくしていく。
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焼酎の生産の目処はついた。だが、まだ大量には造れないから、まず街に居酒屋を開くことにした。
運営はセラーの商会が行う。
酒だけでなく食べ物でも稼ぐのだ。
村で採れた食材を使うから、村も潤う。
料理人はセシリアだ。料理のスキルがAだ。
そして、セシリア目当ての客もでてくるだろう。
料理のアイディアは僕が出した。
残念なことに、この世界の料理は不味い。
もちろん、美味いものもある。ただ、それは値段相応だ。安くて美味いとなるとほとんどない。
最初にケモミミの少女から渡された肉串もガチだった。庶民の多くは、あんな肉料理を食べていたのだ。
そこで考えたのが唐揚げとハンバーグ。この世界にはない。
ハンバーグも元々はクズ肉を美味しく食べるために発明されたものだ。
そもそも焼くこと、煮ることしか料理方法がないのだから、揚げ物はインパクトがあった。フライドポテト、キノコや野菜の天ぷら、村での試食会でも大好評だった。
準備は着々と進んだ。
店では、酒、料理はすべて現金引き換え式にした。無銭飲食への対策にもなるし、細かい注文が多いと、客も店員も誰も計算できない。
酒一杯500円。通常は麦酒が300円くらいで、葡萄酒が3000円くらいだ。麦酒よりも割高だが、この値段でも大丈夫だろうと判断した。
ただ、コップを持ち帰るのもいるだろうから、コップを戻すと50円をバックした。だから実質は450円だ。
麦酒を仕入れて蒸留しての販売だが、麦酒は大量に購入しているから、かなり割り引いてもらっている。十分すぎるもうけが出る。
料理も一律500円にした。ハンバーグもフライドポテトも500円だ。ただし、分量で差をつけている。これで面倒な計算もない。おつりの準備も簡単だ。
これでお金儲けの道が見えてきたが、残念ながらまたクズが現れてくるのだった。