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謎の王子

 オストールの街で、ばったりとニールスに会った。

 あまりに突然ことで、なぜ?とも思ったけど、久しぶりに会えた嬉しさのほうが勝った。彼は、反乱事件の人質となって以来、何度も力になってもらって、その元気のよさからも力づけられてきた。だから本当の弟のようにも思っていた。


 その元気者のニールスが半泣きで、デニスが大変だと言う。

 いったい何があったのか、とりあえずランドシャフトに連れていった。


 温かいミルクを飲ませて、落ち着かせてから話を聞いた。こうして見ると、まだまだ子どもだ。落ち着いたのか、ゆっくりと話し始めた。


「デニスが、第3王子の配下に捕らえられたのです。不敬を働いた罪で……」

「不敬?どうして……?アルブレヒト辺境伯領にいたんじゃないの?」

「いえ、デニスの父親のバグナー様が、ベルンハルト様の護衛として王都に来たので、一緒についてきたのです」

「同じく、騎士爵のクヌート様と長女のエマも来ていて、その日、デニスはエマと王都を散策していました」


 賑わう王都の屋台を見て回っていたとき、突然男たちに呼び止められたという。そしてその男たちは、第3王子の護衛を名乗り、いきなりエマを拘束しようとしてきた。それをデニスは止めようとしたら、「不敬罪」で捕らえられてしまった。

 デニスに逃げろと言われて、エマは人混みに紛れて逃げ切り、父親のクヌートの元にたどり着くことができたのだった。

 そのときの状況をエマが父親に説明した。


「エマはデニスの婚約者なのです」

「デニスに婚約者が……」

 確か、13,4歳だよな。僕はちょっと驚いたが、この世界では珍しくもないようだ。


「婚約と言ってもエマが生まれた直後に親同士で決めたものです。それでも、ずっと一緒に育ったので、デニスはエマを妹のようにかわいがってました」


 その話を聞いたベルンハルトが、すぐに王城を尋ねたが、門前払いされてしまったともいう。


「辺境伯様はご存知?」

「もちろんです。今、いろいろと掛け合ってくださっています。ただ、僕はいてもたってもいられなくて……、それで王都に来ても何もできなくて……、気がついたらこの街に来てました」

「僕をすぐに頼ってくれればよかったのに……」

「この街に来て、もしかしたらご迷惑でないかと……」

「迷惑なんて……。そんなことは絶対に無いよ」

 そういうとニールスは、泣き出してしまった。


「話は聞いたよ」

 いつものように突然に L が現れた。

「お久しぶりです」

 L を見たニールスの表情がほころぶ。反乱軍事件のときに助けてもらったから、彼にとっては僕より心強いのだ。


「第3王子は、謎となっていて、我々もよくつかんでいないんだ」

 L はそう言う。


 第3王子の名前はルイトポルト。王位継承権第4位。

 ふだんはムータン宮に引きこもり、表には滅多に出ないという。だから、誰も顔を知らない。

 母親は、側妃のフルディーネ妃。隣国デーンの第一王女だった。

 デーン国は農業大国で、王国の麦の4割近くをデーン国から輸入していたから、良好な関係を維持することが必要だった。つまりは政略結婚だったのだ。

 正妃ではなく側妃となったのは、それほど美人ではなかったので、王が渋ったせいでもあった。

 力関係では、軍事力は王国の方が遙かに上だ。デーン国は、そうしたところからも側妃であることを受け入れた。将来、生まれた子が、王となる可能性もある。そして実際に王子が生まれた。


 ただ、王位継承権については不満をもっている。これは王子のルイトポルトではなくてフルディーネ妃だ。小国とはいえ王家の出身と、男爵家の出身のパウラ妃では格が違う。当然、自分たちのほうが上だと思っている。


「それでもルイトポルト王子がどう思っているかは、まったくわかってない」

 L は申し訳なさそうに言う。


「我々も情報を集めるのが仕事だから、ムータン宮を辞めた侍女などに聞いてみた。かなり厳しく箝口令が敷かれていたので、かなり金を使うことになったのだが」


 それによると、ルイトポルトはデーン国の王である祖父の配下を使って、秘密警察を組織しているという。今回デニスを捕まえたのが、それだろう。

 実際の警察権はないが、王子の権利を盾に、好き勝手をやっているらしい。


 さらに、王子は小さい頃から、虫や小動物を求めた。侍女が届けると、翌日にバラバラになったものを廃棄するように言われたという。トンボやセミだけでなく、ウサギも切り刻まれて、捨てるように侍女に渡された。それが嫌で辞めた侍女がかなりいたという。

 そしてそれを口外しようものなら、秘密警察がやってくるのだった。

 その話をした元侍女は、大金を渡して聖アンナ国へ逃げさせた。退職してもしょっちゅう秘密警察が様子を見に来る。王国にいるほうが、心配でしょうがなかったという。


 その話を聞いたニールスは、デニスが切り刻まれないか心配になってきた。

「さすがに人間は……」

 僕はそう言ったが、

「それは確認されていない」

と L が言う。こういうところは真っ正直な分、融通が利かない。ニールスが真っ青になっている。


「ルイトポルト王子は人が怖いとも言っていた。特に大人、大人の女性が」

「だからエマなんですね」

 ニールスは、青い顔のまま言う。

「なんで?」

「エマは10歳です。見た目なら、もっと下、8歳と言っても納得しますよ」

「それじゃあ、王子は小さい女の子を……」

「可能性はあるな」

 L のその一言に、何も言えなくなってしまった。


「まず、これから何をするかだな」

「ただ、我々も王城には入れない。デニスが捕らえられて王城内にいるのなら、まったくわからない」

「そうだよな。辺境伯様はどう考えているの?」

「もし、お金で解決できるならと考えられているようです」

「そうか、ちなみにニールスは、家の人に言ってきたの?」

「いえ、デニスが心配で何も言わずに来ました」

「それは、ダメだよ。いますぐ辺境伯領へ行こう。L はその間に、情報をあつめておいて」

「わかった。必要だったら連絡をくれ」


*******


「それじゃあ、僕の手を握って」

 ニールスは、不思議そうな顔で僕の手をとった。

 僕は空間魔法を発動して、ニールスと一緒に空間に入る。


 それから一緒に空間を出ると、そこはもうアルブレヒト辺境伯様の屋敷の前だった。

 ニールスは、何が起きたのかと、まわりをキョロキョロ見回す。確かに辺境伯様の屋敷だ。門構え、植木、そして遠くに見える山々、すべてがそこがアルブレヒト様の屋敷の前であることを語っている。

「空間魔法だ。あのゴツトツ国脱出の時に使えたら良かったんだけど、あのときはまだ使えなかったんだ」

 そう言われてもニールスは、まだ理解できていない。ほんの数分前にはオストールにいたのだ。


 L もシャテーのメンバーも空間魔法は使える。ただ、移動できるのは自分一人だけ。そして構築できる空間も一人分が精一杯だった。ゴツトツ国脱出に使えるレベルではない。

 僕は何度も使う内にレベルも上がり、魔力量も増えたので、人を連れてこれくらいの距離は移動できるようになっていた。


「まず、家に行って説明してきなさい。僕は辺境伯様と相談しているから」

 僕にそう言われて、ニールスは家に向かった。まだ、不思議そうな顔をしてまわりを見渡していた。


 僕は、屋敷の門をくぐり、玄関で案内を請う。以前、住んでいたのだから慣れたものだ。

「お久しぶりですね」

 前にお世話になった執事が案内してくれた。


「どうしたんだ?」

 辺境伯様は、突然の訪問に驚いた様子だった。

「デニスのことを聞いたので……。こちらで勝手なこともできないと思いましたので参上しました」

「そうか……。気にかけてもらって申し訳ない。まだアンタッチャブルなどと言われていた頃なら、こんなことにならなかったと思う。本当に申し訳ない」

「いえ、これは第3王子がバカだから起きたことです」

 僕は、そう言って L から聞いた第3王子についてを伝えた。


「そうなると、デニスが心配なるな」

「ええ、それでまず彼の身の安全を優先したいと思います」

「そうだな」

 それから辺境伯様と対応策を相談した。


「食事でもしていけばよいのに……」

 辺境伯様は、そう言ってくれたが時間が惜しい。

「これが解決したときにでも」

 そう言って、屋敷を後にしようとした。


「デニスお兄様をお願いします」

 小さな女の子が現れて頭を下げた。目がクリクリとして肩までの金髪を揺らして、とても愛らしい女の子だ。デニスの婚約者のエマだ。ニールスが連れてきた。狙われないようにすぐに領地に帰ってきていたのだ。

 エマは、ずっと心配で泣いてばかりだろうか、目が真っ赤だ。

「心配しないで、僕にまかせて」

 頭を上げたエマは、僕の言葉に少し微笑んだ。

 こんな子に頼まれたら、がんばるしかない。


*******


 僕は、いったんオストールに戻り、クレバーと一緒に王都に向かった。

 二人なので、空間魔法を使う。


 翌日の朝イチ、ムータン宮を訪問した。


「アルブレヒト辺境伯の使いのタクヤ・ジークフリート子爵と申します。約束はございませんが、フルディーネ妃にお目通りをいただきたく参上いたしました」

「ご丁寧なご挨拶をありがとうございます。すぐにフルディーネ妃に聞いて参ります」

 取り次ぎの男は、そう言って中に入っていった。


 ところが、その後まったく現れない。もう30分は経っただろうか。

「駆け引きだよ。こっちがどこまで譲歩するか、みているんだろう」

 クレバーがそう言う。


 ちょうど一時間した頃、先ほどの男がやってきた。

「たいへんお待たせしました。お会いになられるそうです」

 男は、そう言って僕たちを案内した。


 小さい部屋で、フルディーネ妃は待っていた。小さいけど、調度類には金がかかっていそうだ。実家は王家なのだから金はあるのだろう。今回の手土産の効果はどれくらい効くだろうか。


 フルディーネ妃は、部屋に入った正面のソファに深く腰掛けていた。ドレスも華やかだが、見た感じは普通のおばさんだ。姉妹っぽい芸人のような。


「ご多用中、お時間をいただき、大変恐縮です。アルブレヒト辺境伯より、ご挨拶と贈り物を言付かって参りました」

「長い時間、待たせたな。女性は準備が必要だからな。許せ」

「もちろんです。時間がかかるのは承知しております」

 フルディーネ妃は、軽くうなずいて、僕たちをソファに座るように手招きした。


「さて、このたびは当家の者が王子殿下に不敬を働いたと聞きました。辺境伯は、深くお詫びしたいとのことです」

 フルディーネ妃は黙ってうなずく。

「そして、これがお詫びの品です」

 僕がそう言うと、隣にいたクレバーが、箱を出し、直径30センチほどの絵付きの大皿をフルディーネ妃の前のテーブルに置いた。ムータン宮(牡丹宮)にふさわしい牡丹の絵柄の見事な大皿だ。

「当家の領地の特産品です。どうぞお納めください」

「ふむ、なかなか良いものだな。ありがたく頂戴しよう」


「それから、これも領地の特産品です」

 クレバーが、カバンから革の袋を出した。カバンの中には革袋がいくつもつまっているのが見える。

 その革袋を開け、中身を大皿の上に出した。

 その中身は、キラキラと輝きながら皿の上に積み重なっていく。


「砂金にございます。当家の領地は砂金がとれます。いかがでしょうか」

 クレバーは、二つ目の革袋を出して、大皿の上にゆっくりと砂金を落としていく。皿の上にできた砂山が、光ながら徐々に大きくなっていく。

 これもクレバーが考えた演出だ。ただ、出されるよりもインパクトはある。フルディーネ妃の後ろに立つ執事がゴクリと唾を飲んだ。


「当家の者を返していただけるのであれば……」

 クレバーは三つ目の袋を出そうとして、動きを止めた。

 ここからが交渉だ。


「ふむ。王子に聞いてくるから、しばし待て」

「よいお返事がいただけることを期待しております」


 部屋からは男が出て行く。王子の所へ行ったのだろう。

 しかし、戻ってきた男は首を横に振る。

「期待に添えないようじゃな」

「それでは、どうすれば……」

「王子殿下は、あの娘を所望されています」

 エマを差し出せと言うことか。

「大変残念ですが、それはできかねます」

「そうか、残念じゃな」

 フルディーネ妃は、そう言うが、まだクレバーのカバンを見つめている。砂金に未練があるのだろう。


「辺境伯様は、かつてはアンタッチャブルとも言われておりました。例の反乱で地位が下がったと思われている方も多いようですが、今でもその力は健在です。王位の継承にも、意見を述べる権利をお持ちですが……」

 僕たちは、そう言いながら席を立った。切り札の1つを切った。


「ちょっと待て。そうだな。また王子とは話をしてみる。どこへ連絡すればよい」

「私たちは、しばらくは王都のウィルシャーホテルに滞在しております。こちらに連絡いただければ、いつでも参上いたします」

「わかった。また会えることを期待しておる」

「私どももお待ちしております」

 僕たちは、礼をしてから下がった。


 とりあえず交渉は終わった。成功とは言えないが、感触はよかった。

 それでもエマを要求するとは、なんてやつだ。それを聞いたとき、爆発しそうだった。


 とはいえ、デニスを解放してもらって終わりにするのか。秘密警察とやらは、何か黒いものを感じる。

 そうしたモヤモヤしたものを胸にかかえて考えていた。


「ねえ、王子……、顔をみせなかったね」

 クレバーが話しかけてきた。

「ああ、そういうやつだって。引きこもって、誰も見たことがないそうだ」

「その ルイトポルト王子の顔を見たくない?」


 あの王子の?確かに見てみたいが……。


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