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ドクトルか?

 派閥……。政治のニュースでよく出ていたけど、裏金とか、だいたいが悪いニュースとセットになっていたっけ。この世界の派閥も同じなのだろう。


 僕は戻ってから、ローゼ宮でのことをクレバーに説明した。もちろんドクトルとおもわしき人物についてのこともあるから、L にも来てもらった。


「確かに……、そのレベルのスキルだとドクトルの可能性が高いな」

「やはりそうか」

「もしドクトルでなかったら、王子のバカな行為にも、まともなアドバイスをしているはずだ……」

 言われて、確かにそうだと思う。王家の信用を貶める女性の誘拐、王国全体を混乱させたアルブレヒト辺境伯領の反乱、正教会の不法行為の数々、真っ当な側近なら、こんなことはさせないだろう。

 僕を召喚した老師を切り捨てたあの王子だから止められないとも考えられるが、〈知力S〉に〈策略S〉だ。うまく王子を操ることもできただろう。

 逆に、悪い方向に操ったと考えると、すべてがしっくり来た。


「それにな、あそこにいると我々も手を出せない」

 L が吐き捨てるように言う。

 王城には、様々な防御が張り巡らされている。物理的にも魔法的にも。

 24時間交替で魔法兵による〈探査〉がされて、侵入は難しい。最上の監視カメラのようなものだ。〈隠蔽〉も施されているから、誰がどこにいるかは、外部からはつかめない。


 ドクトルは犯罪企画を立てて売るだけだから、どこにいてもできる。うってつけの場所がローゼ宮なのだ。


「でも、タクの対応は失敗だったな」

 L が笑いながら言う。

「どうして?」

「ドクトルは、タクを調べていると思うよ。邪魔になると思ったから冤罪で引っかけようとしたんだもの」

「そうだけど……」

「タクが、王子になびかないことは想定しているはずだ。それが、あからさまに尻尾を振ったらどう思う」

「絶対怪しいと思う……」

「そう」

 そうか、怪しまれないようにと思ったけど、逆だったんだ。


「第一王子とドクトルは、監視を強めて、様子見だな。心配なのは、我々に直接攻撃してくることだろう。ドクトルだから、直接ではないけど、なんらかの計略を仕掛けてくるはずだ。しばらくは我々も護衛を強化する」

「それをお願いできるとありがたい。特に、僕のまわりの女性たちを……」

「ああ、シャテーの予備チームに交替で張り付いてもらう。彼等も監視だけなら大丈夫だ。危険を感じたら本隊へすぐに連絡する」

「よろしく頼む」


 ドクトルにも、もう少しで手が届きそうだ。


******


 王都での作業も、ほぼ終わった。

 あの子どもたちと親たちは、まだ共同生活をしながらのリハビリだが、少しずつよくなっている。あとは時間が解決してくれるだろう。

 数年後、子どもたちが大きくなった頃に、あんなこともあったねと笑って話せるようになるはずだ。きっとそうなる。セシリアとそれを信じて、子どもたちと別れた。


 最後の日には、ミアさん、セシリア、クレバーと食事をした。教会本庁からのご褒美だ。王都で一番のレストラン。思い切りドレスアップしてテーブルについた。


「あのゴロツキの前に出たときにミアさんはかっこよかったね」

「もう……、あのときは足がブルブルと震えていたんですよ。でもタクさんが絶対大丈夫だからと、それを信じてました」

「あれ、俺は?」

「もちろん、クレバーさんも信じてましたよ」


 短い期間だったけど、たくさんの思い出があった。ほとんどが悪いことばかりだったけど、最後にハッピーエンドを迎えられた。そう思っている。いろいろと……。


 ミアさんとは、これが別れではない。オストールの教会へ転勤になった。イレーネ卿が気を利かしたらしい。


 クレバーが、ミアさんにオストールの観光名所を説明している。どうやら一緒に回るらしい。

 これもハッピーエンドになるといい。たぶんなるだろう。


******


 オストールに戻る前に、王女の離宮を訪問した。報告しなければならないこともあったので、ルイーゼさんにアポイントをお願いしていた。


 ルイーゼさんは、いつものように玄関で背筋をピンと伸ばして待っていた。

 今日はセシリアも一緒だ。


 まず、2人で王女に挨拶をする。

 王女は、花柄のカジュアルドレスに身を包み、ソファに深く座っていた。

「ご苦労様でしたね」

「いえ、やるべきことをやっただけです」

「期待以上でした。感謝します」

 王女は、そう言ってやさしく微笑んだ。

 それを見てセシリアは、また感激している。


「王女殿下と話があるから……」

 僕に言われて、セシリアはルイーゼさんと出て行く。別室で一緒にお茶をするという。


「すでにお耳に入っているかと思いますが、グスタフ殿下、シュレック殿下にそれぞれ呼ばれました」

「派閥に入れと言うことだろう」

「そうでしたが、ちょっと失敗しまして……」

「そうなるとは思っていたから、気にすることはない」


 それから、グスタフ殿下のところにドクトルがいる可能性が高いことを告げた。

「ドクトル?誰だそれは?」

「アルブレヒト辺境伯領の反乱、聖アンナ正教会の活動、これらすべてを発案した者です。自分では実行しませんが、このような企画書を書いて犯罪者に売っています」

 僕は、そう説明してドクトルの書いた企画書の写しを渡して、ドクトルについて簡単に説明した。

 王女は、それをペラペラと開いてみて、何かを考えている。


「これを書いた者が、兄上の下にいるのか?」

「まだ確定ではありませんが、その確率は高いと……」

「それでか……。いろいろとつながってきたな」

「はい。我々も、監視を続けることにしておりますが、殿下もお気をつけください」

「わかった。ここにいれば安心だが、気をつけよう。また、引き続き頼む」

「もちろんです。いつでもお呼びください」


 王女は軽くうなずき、僕は一礼して部屋を出ようとした。

「待て」

 王女に呼び止められた。ん?何だ?……。少しだけ期待もしてしまった。


「忘れていた。これをセシリアに渡してくれ」

 小さな箱を渡された。セシリアの名も覚えてくれているんだ。うれしい。

「婚約の祝いだ。セシリアの瞳の色に合わせたブローチだ。なかなか見つからなくてな」

「ありがとうございます!彼女も喜びます!」

 僕の言葉に、王女は、やさしく微笑み返してくれた。


********


 セシリアは、帰りの馬車の中で、何度もブローチを出して見ている。

「私の名前も覚えて頂けたんですね」

「ああ、しっかりと”セシリアの瞳の色に合わせた”ともおっしゃっていたよ」

 それを聞いたセシリアは、感激で気絶しそうだ。


 村に帰って、ヨネさん、ギブルと一緒に夕食をとった。王都での土産話はたくさんあるが、言えないことも多かった。

 王との建国祭あたりの話を、セシリアが一生懸命話している。建国祭は、やはり王都は違う。セシリアも楽しかったのだ。

 それと、王女からいただいたブローチを見せた。昔だったらギブルに換金されてしまったろうが、もうその心配はなくなった。真面目に働いている。


 翌日、ランドシャフトに顔を出した。

 セシリアは、リアフさんと王女に会ったときの話で盛りあがっている。さすがにブローチを持ってくるわけにいかないが。


 そんなとき、ヴァイスさんがやってきた。

「タク、たいへんだぞ。焼酎を飲んで倒れた人が出た」

「どうしてですか?」

「今のところ2件だが、毒が入れられていたらしいんだ。今、保安隊と防衛隊が協力して、街の酒屋を回っている」


 ヴァイスさんの説明では、酒場ではなく、家庭用の瓶詰めの焼酎に毒が混入されていたらしい。

 その瓶には「毒入り 危険」と書かれていたが、飲んだ2人は字が読めない。一口飲んで、しびれた感じがしたので吐き出したが、それでも気分が悪くなり、寝込んでいる。吐き気も止まらないらしい。


「いったい誰が……」


 そこにクレバーもやってきた。街で、防衛隊の隊員にあって聞いたという。

「もしかしてドクトルかも……」

 クレバーがつぶやく。


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