建国祭で
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建国祭が近づいて王都が活気づいてきた。人の往来も増え、あちこちで準備が進められている。
トントンと金槌をふる音が響き、あちこちから笑い声が聞こえてくる。
僕とセシリアも、楽しい気分になってきて、散歩がてらに準備している広場を見て回った。
建国祭は、文字通り、建国を祝うものだ。別名レミュス祭。実際の建国者であるレミュス家に敬意を表し、その名称を使っている。そしてレミュス家の象徴である金の龍があちこちで飾られるのだった。
それは、3日にわたって開催される。初日と3日目に、王が国民の前に出て祝いの言葉を述べることがメインだが、国民は、王都内のあちこちの広場で開かれるイベントを楽しみしている。
業種別の商業ギルド、職工ギルドが、商品を販売して見本の無料配布を行う。有力貴族も、領地の特産品を展示販売する。
普段、なかなか目にすることがない商品も並ぶ。
王都全体がデパートになるようなものだ。
昨年からは、アルブレヒト辺境伯領で話題になった100m走、やり投げなども開催されていた。賞金付きの自由参加。初日から予選が始まって、3日目に決勝だ。
初めて開催した昨年も、たいへんな盛り上がりで、これがきっかけとなって競技自体が地方にも広まっていった。
そして、教会の展示が最も人気のあるイベントだった。教会の奥に安置されている貴重な女神像や聖遺物などが開帳される。女神様が、初代レミュス王に与えたとされる聖杯と聖剣は、毎年の展示の目玉で、多くの人が参拝し、祈りを捧げた。
女神やその他の神々の聖画像も販売される。家に置いてお祈りを捧げる。僕の世界の神棚や仏壇のようなものだ。
建国祭で販売される聖画像は、普段よりも御利益があるとされてもいた。
聖アンナ正教会は、新興だから聖遺物などは所有していないはずだから、御守や聖画像の販売しかできないだろう。
建国祭では、王城も国民に開かれた。といっても第一の門だけだが。
第一の門を通り抜けると、噴水庭園が広がる。広さは野球場くらいだろうか。中央に噴水があり、正面の第二門の上のバルコニーに、王様、王族、高位貴族が並ぶのだ。
その右側に教会本庁の展示スペースがあり、そこの中央に白い布がかけられた5mほどの大きさの女神像が立てられていた。王国で最も古いものだという。
「みなさん、女神様にお会いできるのを楽しみにしているんですよ」
イレーネ卿が僕とセシリアに気づいて声をかけてきた。となりにはミアさんもいる。
「僕は、建国祭のときは、だいたい地方におりましたので、楽しみなんです」
「それでは、2日目のお昼ぐらいいらしてください。特別な祝歌を、子どもたちと歌うんですよ」
「それは、ぜひ聴きたいですね」
セシリアが嬉しそうに言う。
「それでは女神様のご加護を」
そう挨拶して、そこを離れた。
第二門のバルコニーを挟んで反対側には聖アンナ正教会のスペースが用意されていた。
ここにも白い布がかけられた大きな像が立っている。
僕とセシリアが見ていると、
「今年の目玉になりますよ。聖アンナ様の立像です。王国最古で最大と言ってもいいでしょう」
助祭らしき人が説明してくれたが、〈真実の目〉で見ると真っ赤だった。
たぶんニセモノなのだろう。
適当に相づちをうって、その場を離れた。
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「どうだった?」
クレバーが聞いてきた。
「なんかニセモノを置いてたよ」
「まあ、連中にホンモノは用意できないものな」
「それで、決行は予定通り明日だ」
僕はうなずいた。
建国祭で、聖アンナ正教会をぶっ潰すのだ。
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その日も、準備で人が溢れていた。
王城内の噴水広場に、僕とクレバーは向かった。
途中、イレーネ卿とすれ違った。
魔神対策のため、あちこちで聖句を唱え、聖水を撒いて回るのだという。僕たちのインチキで苦労をかけて申し訳ない気もする。イレーネ卿も魔神は僕たちがやっていることはご存知だが、少しでも国民の不安を軽くしてあげたいと、あえて回っているのだという。
僕たちは、聖アンナ正教会のブースの前に立った。白い布がかけられた立像の前に大きなテントが設営されている。この中で、聖画像などが販売されるのだが、まだ入り口はかたく閉まったままだ。
クレバーはあちこちに手で合図を出す。
「あとは待つだけだ」
僕たちの後ろでは、たくさんの人がせわしなく行き交う。建国祭の本番まで2日。今日中に完成させなければいけないのだ。
人の出入りが多いと、警備も厳重になる。第一門は出入り自由なので衛兵がいない分、第二門には普段以上の衛兵がいた。
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クレバーが目を閉じて、両の手を耳に当てる。人々の足音、ざわめきの中で、音を探している。
そろそろかと、僕は、気持ちを集中させた。
「よし!今だ!」
クレバーの声で、僕は呪文を唱える。
ਪਵਿੱਤਰ ਆਤਮਾ ਦੇ ਨਾਮ ਵਿੱਚ, ਮੈਨੂੰ ਹਵਾ ਦੀ ਸ਼ਕਤੀ ਪ੍ਰਦਾਨ ਕਰੋ
つむじ風、というより小さな竜巻が起こり、目の前の聖アンナ正教会の大きなテントが真上に舞い上がった。
いったい何事が起きたのだと、衛兵とまわりにいた人々が目を向けた。
飛ばされたテントのあったところには、ほぼ衣服を身につけていない男女が絡み合っていた。
その男女は、あわてて起き上がってまわりを見ると、衛兵、作業をしていた人々が凝視している。
女性は声を上げて、手近の衣服で身体を隠すが、もう遅い。
「何をしているんだ!」
衛兵がかけつけて男女を取り押さえた。
「わしは伯爵だぞ」
男から、そう言われて一瞬ひるむ。それでも衛兵だ。
「ここは、王城内です。王城内、しかも建国祭の……、なんというか正教会のブースでこのようなことをなされては、見過ごせません。それに伯爵様と証明できる物をお持ちですか?」
そう言われても、何も身につけてはいない。服も一緒に飛ばされてしまった。両手で下半身を隠すのが精一杯だ。
「今はない。しかし、王城内には、わしのことを知っている者もいるはずだ」
男は全員が全裸で手で隠しているだけで、女性は、そのあたりにあった適当なもので、
可能な限り隠そうとがんばっている。
どんどん野次馬が集まってきた。
このままではかわいそうと思ったのだろう。衛兵は、自分たちの上着を女性にかけた。横柄な男たちは、そのままだ。
「それなら、こちらに来てください」
全員が、そのまま第二門の中に連れていかれてしまった。
白い布が飛ばされて露わになった女神像だけが、そこに残った。
「いったい何があったんだ」
そこにいた人たちに聞かれた。
「聖アンナ正教会の聖座、司祭が、テントの中で貴族とHなことをしていたみたいですよ」
そう答えた。何度も聞かれたので、その都度、同じように答えていた。
「うまくいったな」
「ああ、これで正教会は終わりだな」
僕とクレバーはハイタッチをした。
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この貴族たちは、タルクニウス伯爵の屋敷の宴会に来ていた連中だ。金と女しか頭にないクズだった。
そして、聖アンナ正教会の聖座、司祭は、すべてこの貴族たちの愛人だった。自分たちの愛人を、正教会の幹部にしていた。まあ、正式な儀式をするわけでもないので、誰がなっても同じだった。
こうしたことを潜入していたGから聞いていた。
それからシャテーのメンバーを、この貴族たちの屋敷にも潜入させた。誰と誰とが愛人で、誰が誰をねらっているのか、それをすべてつかんでいた。
そして、この日に全員がここに集まるようにしていた。
タルクニウス伯爵は、魔神の恐怖で屋敷に閉じ籠もって何もできなくなっていた。その魔神から逃れるためと、この貴族、愛人の幹部をこの日、この場所に集まるように指示させたのだった。
伯爵は、自分が助かるために仲間を売った。
最後は、王女の出番だった。
第二門の側というのが幸いした。
王女は、第二門の中からテントに向けてスキルを使った。
テント内の男女の気持ちが高まっていく。
王女の強力なスキルで、男女ともに快感で、もう正常な判断ができない。
ここがどこで、何のためにここにいるのか、それすらわからない。
頭の中にあるのは……、快楽を求めることだけだ。
愛人であり、普段からしていることだ。何もためらう必要もない。
そして始めてしまった。
その行為の音、声をクレバーは待った。そして聞こえて、さらにその声が高まったとき、僕に合図を出したのだ。
僕は、ただ風魔法を使うだけだった。少し力を入れすぎてしまったが、結果はオーライだ。
あとは、見たとおりだった。
これで、すべて終わる。
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建国祭の、しかも王城内を穢したのだから、その罪は大きい。王の怒りも相当なものだった。
王子も助けてやりたいと思ったみたいだが、宰相、大臣、誰もが怒っている。助けられる状況ではない。
聖アンナ正教会のブースは、王女の提案で、聖アンナ国のブースとすることにした。
新しい国との国際交流の場とするのだ。
元々、名前が似ていたのだから、それはスムーズにできた。ニセモノの女神像もいつのまにか撤去されていた。
しかし、あの現場を見ていた人たちから何が起きたかが広められて、多くの人が知ることになった。
王宮以上に国民の怒りは大きかった。娯楽が少ないこの世界で、一番の楽しみが建国祭だ。それを中止になりそうなことをしたのだから……。前の世界で考えるなら、一番の推しのイベントをぶち壊すようなものだ。どんな理由があれ、許されないことだ。
建国祭を無事に開催するために、何もなかったことにする。それは為政者も国民も一致した考えだった。
だから、無事に、何事もなかったように初日を迎えた。
王が、建国祭の開催を宣言する。
噴水広場を埋め尽くした人々が歓声を上げる。
王女が第二門のバルコニーに立ったときは、ひときわ高い歓声があがった。それを王子はつまらなさそうに見ている。頼みの正教会はもう終わりだ。
王や王族の挨拶に、聖アンナ正教会のことはまったく触れられていない。そもそも、そんな教会なんてなかったことになっていた。それを国民も受け入れていた。
集められたお金、洗脳された人々、まだまだ事後処理はあるが、王宮と教会本庁が協力して対応することになった。
「とりあえず、楽しみましょう」
セシリアに言われて、建国祭を楽しむことにした。貴族の領地のブースでは地方の名産が展示されていて、セシリアは新しい料理のアイディアがどんどん湧いてくると喜んでいる。
この時期に王都にいられて、本当によかったと思った。
歩いていると、クレバーが見えた。声をかけようとしたが、ミアさんと一緒だ。
「気づかなかったの?あんなにいつも一緒なのに」
セシリアが、あきれた顔で言う。
「ええ?どういうこと?」
「いい感じよ……」
「全然気づかなかった」
「タクは、本当に鈍いわね。リアフさんも気づいていたわよ」
どうやら、もう1つ、いいことがあったようだ。
建国祭が終わると、しばらくは事後処理を手伝うことにもなる。何か進展があるのか。




