クズ貴族を燃やす
「ちょっと相談がある」
クレバーとセラーが一緒に訪ねてきた。実は二人は孤児院時代からの知り合いだったのだ。
「僕にできることですか?」
「わからないが、とりあえず聞いてくれ」
僕はうなずいた。
「二人が出た孤児院が、狙われているんだ」
「狙われている?どういうことですか?」
「正確には、その土地なんだが、売らないから、いやがらせもされているし、子どもたちも危険にさらされている」
「クレバーさんでも、どうにもできないんですか?」
「それをやっているのは、うちと敵対している組織なんで、俺が出ると面倒なことになる。そしてやつらのバックには貴族がいるんだ」
「貴族?」
「そう、ベアル男爵という、強欲な貴族だ。孤児院の建っているところが、街を見下ろせる丘の上なので、そこに別宅をつくりたいらしい」
「貴族だから手もだせないと……」
「そうだ。そこで、お前が元いた世界で、こんなときはどうしたらよいのか、知っていないかと思ってな。セラーには、お前が召喚者だとは教えてある」
「だから、算術ができたのですね。私からもお願いします」
ベアル男爵のことを、いろいろと聞いたが、許しがたいクズだった。
元々は商人で、あこぎな商売と金貸しで成り上がり、国王に多額の献金をして叙爵されたという。
一番の稼ぎは、高利で貸し付け、返せなくなった者を奴隷として売り払うことだそうだ。
ターゲットは、ギブルのように酒とギャンブルに溺れたようなものではない。
普通家庭でも美しい娘がいると狙われた。
まず、雇われた悪者が、娘の父親に因縁をつけてケガをさせる。治療費が必要だ。働けないから収入も減る。そこにベアルの部下が甘い言葉で金を貸すのだ。
気がついたときには、利息すら払えず、娘は売られてしまう。美人だから高値だ。
そういうことで金を稼いでいたのだ。
孤児院は、ベアルから金を借りたわけではない。
何度も金を貸すと、声をかけてきたが、断っていた。
そこで、クレバーの敵対組織を使っての地上げを企んだのだ。
こんなやつは許してはおけない。
僕は、しばらく考えた。
「成功するかわかりませんが、こんなのはどうですか?炎上させるのです」
「火を使うのか?」
「いえ、実際の火ではありませんが……」
思いついたところを話してみた。
「なるほど、やってみる価値はありそうだな」
「お金も少しかかりますけど」
「いや、これくらいは俺のポケットマネーで十分だ」
それから3人で夜遅くまで作戦を練った。
******
「そろそろいい話を聞かせてくれないか」
孤児院の一室で、話し合いがもたれた。今日は、決着をつけようとベアル自身も乗り込んできた。
院長は、だまって首をふる。
クレバーもセラーも院長を「母さん」と呼んでいた。孤児院の子どもたちにとっての実質的なお母さんだった。やさしく、しっかりとして芯も強い女性だった。
「子どもたちだって心配だろう。事故に遭う心配もあるんじゃないのか」
その一言に、院長の後ろにいたカンが、睨む。
カンは、名をカンターと言い、元は軍の部隊長だった。身体も大きく、「槍のカンター」とも呼ばれた超一流の兵士でもあった。
それが、王と王子に嫌気をさして、今は孤児院を手伝い、子どもたちに勉強を教えていた。
カンがいるおかげで、ベアルも暴力に訴えることはできなかった。ただ、一人で守るには限界がある。子どもが外に出たときには守り切れない。
「金なら出すぞ。50万でどうだ?」
「そんな金額では、新しい孤児院は建てられません」
「いや、もう孤児院自体をやめればよいではないか。子どもは、わしが引き取るぞ」
それを聞いて、カンが一際強く睨んだ。
「そうすると、子どもたちを奴隷として売るのではないですか」
「ああ、そのほうが飯も食えるし、寝るところもある。そして危険もない。よっぽど子どもにとっては幸せなんじゃないか」
「子どもを奴隷に売るなんて……」
「今日の夜あたり、風が強そうだな。火でも出たら、その男に消せるのかな」
「火をつけると!」
「まさか、わしがするわけないだろう。でも誰かが、わしに気に入られようとするかもしれんな……」
まさにそのときだった。ドアがバタンと開いて、
「聞いたわよ」
何人ものおばさんが乗り込んできた。ドアの外には、まだ何十人もいる。
「子どもを奴隷として売る?孤児院に火をつける?そう言ったわね。全部聞いたわよ」
おばさんたちは口々に言う。
その勢いにベアルもたじろぐ。
孤児院には教会も併設されていて、その礼拝堂に百人近い人が集められていた。
セラーが、特別なお菓子の試食会をするといって集めたのだ。だから、ほとんどがおばさんだ。
話し合いをしていた部屋から礼拝堂へパイプが通され、ラッパのような拡声器で、会話がすべて伝わっていた。よく船の操舵室から機関室などに連絡をするあれだ。
そして、院長とベアルの話し合いを聞いたおばさんたちが、怒りで乗り込んできたのだった。
「今日のところは、引き下がる。またくるから考えておけよ」
おばさんたちに圧倒され、そう捨て台詞を残して、ベアルは部下を引き連れて帰っていった。
「うまくいったな」
クレバー、セラーとハイタッチで喜んだ。
「でもね。まだまだこれからだよ。みていてよ。燃え上がるから」
********
結果として、ベアルが孤児院に来ることはなかった。孤児院の購入もあきらめた。
それだけでなく、とんでもないことが起きていた。
おばさんたちは街に帰ってから、その出来事を、会う人、会う人に伝えていった。そして聞いた人も知人に伝える。噂が噂を呼ぶ。
その日のうちに街の人全員が知ることとなった。
大炎上だった。
噂というのは、誤っても伝わる。
いつの間にか、
「ベアルが、子どもを勝手に売ってしまった」
「ベアルが、孤児院に火をつけた」
と実際にあったことになって広まった。
「幼子を変態貴族に売った」
「悪魔の儀式の生け贄にするために売った」
という話も出てきた。
変態貴族と思われてはと、何人もの貴族が、
「自分じゃない」
との声明を出す。
街の飲み屋街の話題も、こればかりだった。
ベアルの屋敷の前には、何百人もの人が殺到して批判の声をあげた。
「国から出て行け!」
「この人でなし!」
元々、嫌われてもいたし、苦しめられた者、犠牲になった者もいる。
ベアルは、戸や窓を堅く閉め、ベッドに潜り込んで耳を塞いだ。
王宮には早馬で翌日には伝えられた。
3日後には、王宮から使者がベアルの屋敷に来た。
使者の前で、必死に弁明するベアルだが、結局は爵位と領地を剥奪されて、国を追放されることになった。
このすばやい対応が、王族への批判をかわすことにもなった。国民の敵を追放したのだから少し評価もあがった。
そして後からクレバーから教えてもらったのだが、ベアルの全財産は没収されて、王と王子の懐に入ったという。これは国民には知られてはいない。
やはり一番のクズは王家だ。
この一番のクズをなんとかしなければ、その思いは強くなるばかりだった。