調べてみると
保護した子どもたちのストレスが限界になってきた。
とにかく急がねばならない。
子どもたちの両親はどうなんているのか?
まだ時間はかかりそうだが、とりあえず獣人族の人たちに、お願いした調査の報告をしてもらった。
狼族のラムさんには、子どもたちの両親の行方を、臭いで捜してもらっていた。
「申し訳ないけど、まだ見つかってはいない。周辺の臭いからして、まだあの教会の中だと思う」
「そうですか……。中なら、手の出しようがないですね」
「あと……。教会の中から不思議な匂いがするんです。今まで嗅いだことのない、甘く、不思議な……」
「それは、どんな匂いでしたか?」
クレバーのアンテナに、何か引っかかった。
「なんというか……、甘いんですが、それが鼻ではなくて、頭のずっと奥のほうで感じるんです。俺たちは匂いには敏感だけど……。これは匂いでなく、味でもなく、どう表現していいかわからない甘さなんです」
「もしかしたら……。Lさん、幻想草はご存知ですか」
「ああ、知っているが……。それか!ちょっと待て、すぐにもってこさせる」
「それって何なの?」
「燃やすと、人に幻覚を見せる煙を出すんだ。めったに採れなくて、値段も非常に高い」
Lさんの部下が現れて、幻想草の粉末をもってきた。
「この匂いですか?」
「ああ、これだ。間違いない。この匂いが、集会所から漏れているんだ」
「ずっとですか?」
「ずっと匂ってるが、それは建物に染みついたものだと思う。俺たちでようやくわかるくらいの匂いだ」
「なるほど……」
Lさんとクレバーは、考え込んでいる。
次に深夜の教会を監視してもらった猫族の報告だ。
「毎日、人や物の出入りは多かったよ。普通じゃありえない。それも深夜……、かなり遅くなってからの出入りだったよ」
「物というのは?」
「それはわからない。箱だったりカバンだったり、いろいろだけど、中身まではわからない。それで、後をつけてみたんだ。臭いもあるからずっと離れていても簡単に尾行できたよ。毎日の行先は、同じ……。王都と街の中間地点にある倉庫。そこには他からも荷物が届いていたようだった。そこに集まった荷物が運ばれたのが、王都の近くの城跡」
「城跡?もしかして……」
「ん?心当たりがあるんですか?」
「ええ、以前、王都近くの城跡で、とある事件があったんです」
「もしかして王子の……」
クレバーも気づいたようだ。
「倉庫に集めているというのは、同じような教会が王国にいくつもできているんです。王都でも10カ所できてました。そこから集められているのかもしれません。その倉庫と城跡は、我々が調べてみます」
Lさんが言う。
「お願いできますか」
「まかせてください」
最後に、ウサギ族の人たちにお願いしていたことを報告してもらった。
「私たちは、弱いほど耳が良くなるので男女ペアで調査しました。教会の裏の家を借りて、交代で聞こえてきた話し声を記録しました。内容は、ほとんどが司祭による説教です。ここにまとめました」
記録した用紙は、結構な量がある。
「ところどころ聞こえないところもありますが、話の内容はそれほど変わりません。ただ、よくわからない話もよくあるのです」
記録を読むと、いかに神様が偉大かを説明している話が多い。
ただ、その中に不思議な話がいくつもある。確かにウサギ族の人の言うとおりだ。
例えば、”これは赤色だな?” ”はいそうです”を延々と繰り返しているだけというのもある。
”王都風邪のときに、神は救ってくれなかった。救われたのは、神を深く信仰した者だけだ。信仰が深くなければならない。彼が大金を得ることができたのも神が深い信仰に報いたからだ”
これはお札のおかげでジャックポットを当てたことを言っているのだろう。
”神への信仰は、言葉だけではダメだ。行動で示せ”というのは、あちこちに出てくる。
”神は偉大だ。神は偉大だ”を全員でひたすら繰り返しているのもあった。
獣人族の話を一通り聞いた。ただ、これだけではあの教会の何が問題かわからない。何をやりたいのかも。そして子どもたちの親がどうなっているのかも。
あとはLさんとクレバーの3人で相談することにした。
******
Lさんの話にあったように、この教会は、王国内に急速に増えているという。最初にこの街にできて、2、3週間のうちに王都で10カ所、そのほかの王家直轄領で5カ所できているという。
建物は、それまであったものを適当に使っているようだ。そしてどこも隠蔽の魔法が掛けられていた。
そして、この街で起きたように、子どもの置き去りも各所で起きていた。今のところの問題は、この子どもの問題だ。
クレバーが調べてくれたのは、クルップ商会との関係だ。
「クルップ商会が背後にいるのは間違いない。ただ、潜入している者でもよくわからないと言っている。クルップ商会は、様々な組織の集合体だから、そのうちの1つが活動していても、ほかの組織にわからないことも多いんだ」
とりあえず今までの教会本庁と区別するために、この教会をK教会と呼ぶことにした。クルップ商会のKだ。
K教会のお札が売れるきっかけはジャックポットで当たりが出たことだ。
クレバーの調査では、K教会のお札のおかげで当たったというのは、すべてクルップ商会の賭場だった。
ジャックポットは、客が入れて貯まった金を当てた者が総取りするシステムだ。だからそれが払い戻されても賭場はまったく損はしない。
当たりが多いと客が増えるから、当たりやすくする賭場も結構ある。客が増えると他のギャンブルでお金を落としてもらえる。それはある意味イカサマだが、客にとって嬉しいイカサマだから、誰も文句は言わない。
だから、K教会とクルップ商会が結託するのは理解できる。お札をもっている客に目の出やすいサイコロを渡して当選させる。K教会のお札のおかげだと吹聴すれば、お札も売れ、クルップ商会の賭場の客も増える。双方が儲かる。
最初は、それが狙いだと考えた。
「なんか僕のせいにも思えてくるな」
ジャックポットを考案したわけではないけど、辺境伯領に導入したのは、僕だから少し責任を感じてしまう。
おかげでギャンブル狂いが増え、子どもを置きっぱなしにするパチンカスのような親も増える。それは問題だが、それだけじゃないとクレバーは言う。
「最初は、お札の販売での儲けかとも思ったんだ。でもそれだけじゃないと思う。幻想草は非常に高価だ。これを使わなくてもお札は売れる。なんで幻想草を使うのか。それがわからない」
「何人かの親は、教会に泊まり込んでいるよね。何をしているんだろう」
「我々も侵入できないので、それがわからないのです」
しばらく、3人で知恵を絞る。
「これは、どうですか?」
Lさんがウサギ族の報告書から見つけたところを見せてくれた。
”ニールスさんは、全財産を神に寄贈されました。これが深い信仰です。みなさん拍手を”
報告書に、そう書かれた1節があった。
「僕の世界でもあった……。信者の財産を搾り取るという……」
「それが狙いか……。でも、全財産を寄贈してしまえば、もう用無しになるんじゃない」
「それだけじゃなくて、毎月、毎月、働いたお金も食費とか最低限だけを残して寄贈し続けるんだ」
「それが何百人もいると……」
「おそらくだが、これが幻想草を使った理由だろう。幻覚草を効かせて判断力を無くす。お札の売れ行き以上の金が入るのだから、高価な幻想草を使う理由もわかる」
クレバーが言う。
「でも、幻想草くらいでこうなるのかな?」
「タクが、この集団の中に入って、白い物を見せられて”これは赤色だな?”と聞かれて、まわりの全員が”はいそうです”と答えていたらどう思う」
「まわりが間違っていると思うんじゃない?」
「それが繰り返されると、だんだんと自分が間違っているんじゃないかと思うようになってくるんだ。幻覚草で、頭もボーッとしていることもあるし。そうして自分は間違っている。相手の言うとおりにしようという気持ちになっていくんだ。あとは言いなりだ」
クレバーが続けて説明してくれる。
「まず外との繋がりを絶つ。それから現状を否定する。そしてもっと良いことがあると、それを示す。最後にそのために何をするのかを自分で選ばせる。詐欺師が、よく使うテクニックだよ。例の詐欺師が教えてくれた」
最初はギャンブルに勝つためだったろう。それでK教会と接触し、もっと神の恩恵を得るには……、つまりギャンブルに勝つにはと、内部に取り込まれる。
それから洗脳だ。
K教会内部で寝泊まりし、外との接触がない。その間、王都風邪や戦争の不安で現実世界をディスる。信仰を深めると必ず勝てると唆す。
そして選択を迫る。命令されるのではなくて、あくまでも自分で選んだ、とされるのだ。
まわりの誰もが、信仰を深めると言い始め、全財産を寄贈していく。自分もそうするしかないと考えてしまい、自分の選択として寄贈してしまう。
それが、落ちていく道筋だったのだ。
あの子どもたちの両親もどうなるのだろうか。
「ちょっと待って、これを見てくれ」
報告書を読んでいたLさんが、また何かを見つけた。
そこには次のように書かれていた。
”神の兵士となり、神に命を捧げる。これができることが至高の信仰と言えます”
”戦いは近い。神の兵士として、あの悪魔と戦わなければならない”
”神の兵士として楽園を建設するのだ”
「これはいったい何を意味しているのだろう」
僕たちは、報告書を隈無く読んでみた。
”悪魔は、我々を使役し、我々から糧を奪い続ける。悪魔に支配されては幸せにはなれない”
と書かれた1節もあった。
「これだと、悪魔というのは王家や貴族のようにも読めますね」
「これも狙いの1つなのか?」
「狙い?」
「ああ、王家や貴族を悪者にして、自分たちの勢力を拡大するんだ」
「でも、この背後には王子がいるような気がしていたんですが……」
「王子の今の立場は?王位継承権はどうなっているんだ?」
「あっ!」
少しずつ繋がってきたような気がしてきた。
それが正しいのかはまだわからないが、なぜ王女が、僕に調査を依頼したのか、報告はいらないと言ったのか、それの答えが見え隠れしているようにも思えた。
しかし、それがわかったからといって、何ができるのか……。
あの子どもたちの元へ両親を帰してやれるのか……。




