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いったい何が……

 翌日、早朝、日が昇り始めたばかりの頃に僕とセシリアは家を出た。ビルギッタさんにも一緒に来てもらう。


 セシリアはまだ暗いうちから僕の家に来て、ヨネさん、ビルギッタさんと、ご飯を炊いて、おにぎりをつくっていた。あの子どもたちのためだ。夜の食事も用意をしていたが、それでもお腹をすかせていないか、ずっと心配に思っていた。


 教会に向かいながら、僕は「親ガチャ」という言葉を思い出していた。

 僕の両親もクズだった。それでも「親ガチャ」という言葉で、あのクズを受け入れてしまうことはできないと思っていた。クズ親だからこそ、早く独立したいとも思っていた。だから、嫌いでも勉強しようと……。

 でも、あの小さい子たちはどうだろう。自分では何もできない。自立する力もない。勉強する場もない。僕は恵まれていたのだろうか。何日もご飯がないということもなかった。


 教会に到着した。近くに停めてあった馬車の中では、子どもたちはまだぐっすりと寝ていた。

「特に問題はありませんでした」

 保安隊の人は、交代で子どもたちを見守ってくれていた。

 僕たちは御礼を言ってから、保安隊の人たちにおにぎりを差し入れた。

「これは初めて食べましたが美味しいですね」

 子どもたちの見守りを苦労とは思っていない。みんな優しい人だ。


 僕たちの話し声のせいか、それともおにぎりの匂いなのか、子どもたちが起き出してきた。よく寝たのかスッキリとした顔をしている。

 それで、セシリアとビルギッタさんが、おにぎりを配ってみんなで食べた。いい笑顔だ。子どもは、こんな笑顔でなければ。


「こんなに美味しいものを食べられて、こんなに柔らかいところで眠れて、いつもよりも幸せ」

 そう言った子どもがいた。馬車のシートが柔らかくて寝やすいと。もう不憫で泣きそうになる。


 保安隊の人と、子どもたちの両親の名前を聞いて教会に突撃した。

「この方たちは教会の中にいるようですが、連れてきてもらえますか?」

 教会の入り口で助祭にお願いした。

「こういうお名前の人はいませんね」

 調べもしないで、素っ気ない返事だ。〈真実の目〉で見ると真っ赤だ。

「すみませんが、教会の方ですよね……」

「そうですが……、何か?」

 真っ赤だ。

「聖フリッグ様の祝祭の祝詞を言えますか?」

 僕も知らないが、適当に言ってみる。

「いやっ……。とにかくお引き取りください」

 そう言って中に入ってしまった。聖職者でないのが完全にバレている。


「行方不明の捜査ということで中に入れないのですか?」

「確実な証拠がないと、中に入るのは難しい。普通の家庭ならともかく、教会だからな」


 証拠か……。僕は〈探査〉をしてみる。でも、子どもたちの両親の顔もイメージもわからない。できるだろうか。

 ところが……。おかしい……。教会の中はまったく〈探査〉できない。どういうことだ。


「とりあえず、今日は引き下がりましょう。子どもたちにも聞いて証拠も集めてみます」

 僕は、保安隊の人にそう言う。あまりの状況に、むしろ保安隊の人がいないほうがやりやすいとも考えたのだった。

「そのほうがいいですね。我々も心配ですので、子どもたちから何か情報があったらお知らせください」

 そう言って、帰っていった。


「アイスクリームって食べたことある?甘くて冷たいの」

 セシリアが子どもたちに聞いた。

「知らない、どんなの?」

 子どもたちは興味津々だ。

「それじゃあ、食べに行こう。お父さんもお母さんも、もう少し時間がかかるみたいだから、アイスクリームを食べて待っていようね」

「うん」

 子どもたちの目がキラキラしている。このままランドシャフトに連れていって、しばらく2階の部屋で預かることにした。レナータさんを匿った部屋だ。ランドシャフトへ行けば、いろいろな料理もある。子どもたちも両親のことを少しでも紛らわすことができるだろう。

 

 子どもたちの馬車を見送った後、Lを呼び出した。

「〈探査〉が使えないのですが……」

「この教会は隠蔽されていますね。我々の空間魔法もはじかれました。侵入できないようになってます」

「教会ってそういうものなんですか?」

「教会本庁などは、そうなってますが、こうした街の教会では考えられません。膨大な魔力も必要になります。それを続けるとなると、専門の魔法師が必要ですね」

「ということは……、真っ当ではない、ということですね」

「そうです。我々が調べた範囲でも……」


 それからLは、シャテーが調査したことを話してくれた。


 この教会は、王国全土を統括している教会本庁から独立している教会だそうだ。

 王国や周辺国は、宗教と言えば女神聖アンナを信仰するものしかない。だから信教は自由だった。だから聖アンナを信仰するのであれば宗派が違っても認められた。旧ゴツトツ国での宗教も同じ聖アンナを信仰する異なる宗派だった。カトリックとプロテスタントとの違いのようなものだろうか。


 独立した教会だから、教会本庁から指示や指導をすることはできない。そして王家も貴族も口出しできない。


「それじゃあ、犯罪もやり放題なんじゃないですか」

「さすがに犯罪になるようなことをすれば、保安隊か防衛隊が介入します。そのためには確実な証拠が必要になりますが」

「そうか……。それで隠蔽を……」

 Lはうなずいた。


 でも、どうやって……。クルップ商会だけでできるのか?

 何か、別の力が裏にありそうな気もする。クズ貴族とか……。


 もしかしたら王女が”調査だけでよい”と言ったのは、このためか?

 報告すると王女が知ることになる。知らないままに問題を解決してほしいということなのだろう。

 ということは、裏にいるのは王家か?それとも有力貴族か?


 いったい何が問題なのか?それすらわかっていないが、何か不気味なものを感じる。

 そして、とにかく子どもたちだけは悲しまないようにしたい。

 そのためには……。


 僕はLに、クレバーと協力してほしいと、いくつかの指示を出した。クルップ商会がいるとなるとクレバーは頼りになる。

 人質事件でもLとクレバーは一緒に行動して、お互いに信頼もしている。


 それから僕はあるところに向かった。


*******


「お久しぶりです」

 みんなが声をかけてきた。ここは獣人族が多く住む地域だ。


 僕が逮捕されたときに、助けてくれた人たちだ。

 ゴツトツ国との戦争でも活躍してくれた。

 彼等には感謝しかない。

 そして、今回の件でも彼等の力を借りようと思ったのだ。


「ラムさんたち見かけました?」

「いつもなら、そろそろ来ますよ」


 狼族のラムさんたちを待っている間、みんなの近況を聞いて回った。戦争で活躍したことが報道されて、以前よりも差別が減ったという。戦争の結果でよくなったというのは複雑だが、よかったと思った。


「タクさん、お久しぶりです」

 ラムさん、サムさん、タムさんの3人がやってきた。

「またお願いしたいことがあるんです」

「何でも言ってください。もうタクさんのためならば何でもします。いや、させてください」

 いつも本当にありがたい。


 それから、教会の調査について、いくつかをお願いした。魔法がはじかれるならば、彼等の特殊能力に頼ろうと思ったのだ。


 狼族の3人には、子どもたちの両親の臭いを追ってもらうことをお願いした。まだ教会にいるのか、それともどこかに行ってしまったのか、それを調べてもらう。

 ウサギ族の人たちには、教会の外から、どんな会話がされているのか調べることをお願いした。おそらく、ヤバい話もされているだろう。

 そして猫族の人たちに、夜中の教会を見張ってもらう。怪しいものが運ばれたりするのは夜中のはずだ。

「中に忍び込みましょうか。私たちなら簡単ですよ」

 そう言ってもらったが、それは断った。

「相手は教会なんですが、非常に危険があるんです。絶対に中には入らないでください。みなさんも危険だと思ったら、すぐに逃げてください。これは絶対です」


 シャテーのメンバーには、総動員で獣人族を守ってもらうことをお願いした。


******


 セシリアは、ランドシャフトの2階に子どもたちと一緒に住んでいた。すっかり慣れてくれたけど、やはり本当の母親とは違う。小さな子どもたちは母親が恋しい。

 美味しい物を食べさせて、なんとかごまかしてはいるが、そろそれお限界だ。子どもたちは寂しさとストレスで、爆発しそうだと言う。


 それで現状がどうなっているのか、とりあえず集まることにした。

 クレバー、L、そして獣人族の人たち。

 それぞれの情報は小さな断片だったが、付き合わせてみると、とんでもないことが見えてきた。

 背後に見えるのは……。


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