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王女の本当と新たな力

「メサリーナ……。あいつはかわいそうなやつなのだ……。だから助けてやってほしい」

 老人が言う。これが頼みか……。あの王女を……。

 面倒だなとは思ったが、王女からも自分のために働けと言われている。断る必要もないだろう。


「すでに王女殿下のために働くように命令され、了承しておりますが……」

「そのような命令されてやるようなことではない。メサリーナの本当をわかって、その上で、メサリーナの味方になって、力になってやってほしいのだ」

 王女の本当?僕は、老人の言うことがよく理解できない。


「メサリーナは、小さい頃から聡明で優しい娘だった」


 あの王女が優しい?聡明?とても信じられない。しかもあのスキルだ。

 老人は僕を見ている。表情から僕が疑っていることに気づいたようだ。


「お前はスキルだけで人を判断しているな……。メサリーナが何を為したかを思い出してみるとどうだ?」

 そう言われて、ハッと気づいた。それは、まるでテストの点だけで人をランクづけている父や教師のようなものではないか。あれほど嫌っていた連中と同じことを、僕はしていたのだ。


「カッツェの娘たちは、しっかりと気づいていたぞ」

 確かにそうだ。子どもの純真な目で見ると、本当の王女が見えたのだろう。


「メサリーナが小さいときだった……」

 老人は話を続けた。


 第一王女のディアナも小さいときから聡明だと言われていた。そして妹で第二王女のメサリーナと仲も良く、王国の優秀な学者たちが家庭教師となり、一緒に学んでいた。

 2人は父王を尊敬していて、父王の力になりたいと願った。学んだことをもとに政策の提案などもしていた。

 最初のうちは、かわいい娘たちの提案を誇らしく思い、家臣に自慢をしていた。


 提案された政策は、どれも国民によりそったものだった。学校をつくって子どもを教育することや、街道を整備して物流をスムーズにして商業を振興するなど、大人でも考えないようなものだった。

 それを家臣が褒め称える。それが続くうちに、王である自分がないがしろにされるのでは、そう不安に思った父王から次第に遠ざけられた。

 兄である第一王子のグスタフは、最もそれを感じていた。優秀な妹たちとわがまま王子、そういう家臣たちの視線が常につきまとう。

 

 動いたのは、王子派の貴族たちだった。まだ12歳のディアナをフィヒテル王国へと嫁がせた。同じ年齢の第二王子。それが今は王となり、ディアナは王妃となって、幸せに暮らしてはいるが、実のところは王城からの追放であったのだ。


 そしてメサリーナは悲惨だった。まだ5歳で他国に嫁がせるわけにもいかない。それで起きたのは暗殺だった。王子派の貴族、そして王位継承権がある側室の王子、王女に与する貴族たちによって、馬車が狙われ、毒がもられた。


「だから、わしが手を差し伸べたのだよ。離宮に住まわせて、信頼のできる者をまわりにおいた。シャテーのメンバーも、常に護衛をしている。もう暗殺されることはないだろう」


 そして、王女は、美しく着飾り、聖女として国民の支持を集め、そして王宮で悪女を演じる。それらのすべては、生き残るためだった。


「王宮内では、本音を出せない。嘘ばかりつかなくてはならない。〈虚言〉のスキルが高くなるのもそのためだ。男たちにも狙われる。そのために〈性技〉のスキルの取得をシャテーの部下に教えさせた。誓って言うが、彼女は乙女だし、経験もまったくない。それでも、生き残るために懸命に勉強して、スキルと魔力を高めていったのだ。メサリーナは努力しているのだ。遊んでいるわけではないんだよ」


 話を聞いて、王女の言動を思い出した。

 人質の救出を依頼されたときには、兄である王子を”クズ”、”バカ”と言い、「国民のために少しでも早く戦争を終わらせたいのだ」とも言った。あれは本心だったのだ。


 平和のためにゴツトツ国と休戦協定を結んだ。でも王と王子からの命令でバカ貴族が領主となってしまった。

 王都風邪で、教会がインチキ護符を販売したのも、金に目がくらんだ一部の司祭が勝手にやったことだった。国民の心のよりどころである教会の信頼を失墜させてはならない。そのためにあの絵本を出させた。そのおかげで教会の権威を守ることができた。もちろん一部の司祭は、教会内部で処分されている。


「メサリーナは、国民のために働きたいと願っている。それでも彼女は孤独で、ひとりぼっちだ。たまに手助けしようと現れるのもクズばかりだ。唯一味方なのはカッツェンシュタインだけだが、彼は逆に力がありすぎる。彼が味方になると王位継承に影響が出て、また危険に巻き込まれるだろう。だから、タクに彼女を助けてほしいと思ったのだ」

「わかりました。王女殿下がそう考えられているのなら、全力を尽くします」


「ありがとう。それで、ここからが本当の頼みだ」

 えっ、王女を助けるだけでなくて……。


「まだ名乗っていなかったが、わしの名はガイウス・バックス・レミュス。レミュス家の当主だ」

 レミュス家?どこかで聞いたな。なんだっけ? ………………。

 思い出した!…………アンタッチャブルの一つだ!


「それで頼みというのは、当家を継いでほしいのだ」

「僕が?レミュス家を?」

「ああ、そうだ。わしには親族は1人もいない。誰かに当家を継いでもらわなければ、消滅してしてしまう。それは、この国にとっても大問題なのだ」


 そう言われても、僕にはあまりにも荷が重い。継ぐというのは、アンタッチャブルの一つになるということだ……。


「確かに心配もあろう。でも大丈夫だ。わしもまだ長生きするつもりだからな。ちゃんとサポートもしてやるよ」

「そう言われましても……」

 僕は迷う、いや迷うなんて言うレベルじゃない。どうやって断ろうか……。そればかりを考えていた。


 迷っている僕に、レミュス老人は、レミュス家について話してくれた。


 レミュス家の初代が召喚者だった。しかし召喚されたのではなく、偶然、次元の裂け目から落ちてきたと考えられている。

 もっていた前世界の知識を使って王国を建国し、初代の王になった。

 3代目の王のときに、国も安定したので宰相に国を譲って影の存在になった。その宰相の一族が現王家である。


 影の存在というのは、貴族としての爵位はなく、貴族譜という戸籍に名が載ることもない。だから国民も貴族も、噂だけの存在としてしか知られていない。知っているのは王族か、それに準じる貴族だけだ。

 しかし、公爵の上の位階とされていて、国からはかなりの金額の俸禄が支給もされる。

 そして大きいのが、国を譲るときに定めた盟約があることである。王位継承など、いくつかの国の決定に関与できるという。


 レミュス家も、系統が残っているのではなく、何回も養子をとっている。

「だから、お前が継いでも何の問題はない」

 老人はそう言う。


 そして当主が交代するときに、一子相伝の魔法が伝えられる。その魔法を使える者が、レミュス家の当主となる。


 そうした説明を聞いて、よけい荷が重いと感じるようになった。


「お前が、この国の権力のバランスを変えているんだぞ」

 煮え切らない僕に、責任をとって引き受けろ、と言わんばかりだ。


 この国には、アンタッチャブルと言われる存在がある。王家が5の権力を持っているとすると、公爵様が1、辺境伯の2人が1ずつ、そして教会が1、レミュス家が1でバランスがとれていた。


 それが公爵様がレナータさんを養女にしてクリスティアンと婚約させた。アンタッチャブルの2つが親戚となったのだ。これで2の力を持つ存在ができたことになる。

 そのお膳立てをしたのが僕だという。

 その中で、王子が女性誘拐事件などの失態で王家の力が落ちた。これを暴いたのも僕だ。そして、これがきっかけで王子が唆して反乱が起きた。

 元々王家の人気は低かったが、王女を聖女とすることでなんとか現状を維持していた。それが、クズ王子の失態でどんどん信頼が落ちている。


 こうした権力のバランスが揺れるところに僕がいるという。


「ゴツトツ国との戦争にタクを同行させたのは、試験でもあって、そして勉強もさせたかったのだ。ソーゲンにお前のことを聞いたら、褒めておったぞ。それもあって、お前に当家を譲りたいと思ったのだ」

「確かに、この戦争でソーゲン師からたくさんのことを学びました……。でも……」


「心配もあると思うが、お前は特に何もすることはないんだ。名前がタクヤ・ジークフリート・レミュスとなるだけ。レミュスも普段は名乗らない。今まで通りの暮らしでかまわない。居酒屋で働いても問題ない。王国に何かあったときに、好きなようにすればいいだけだ。あと……、シャテーの200人に命令を出せる。それだけだ」


 僕は、それでも考え続けていた。というか考えているのではなくて思考が停止しているだけだった。


「それじゃあ、あのクズ貴族たちみたいなのが当家を継いでもいいのか?」

「それはさすがに……。でもそういうクズは選ばないでしょう」

「継がせてみたらクズだった、ということもあるだろう」

 この老人だったらそんなことはないだろうとは思ったが……、権力を持つと変わる人もいる。僕は、決心した。


「わかりました。微力ですが引き受けます」

「おお、そうかありがたい。当家を継ぐ場合は、いくつかの儀式もあるのだが、その準備もある。準備ができしだい連絡をする。それまでは今までのように暮らしていてくれ。もちろん、継いでからも今までどおりだ」

 老人は、僕の両手をとって強く握りしめた。しわだらけの手だが、力強いエネルギーが伝わってくるようだ。


 とんでもないことになってしまった。

 しかし、老人が言ったように、大きく変わることはなかった。

 戦争も終わり、平穏も戻るだろう。だから特に僕が何かをするということはないはずだ。


 それでも、いろんなクズがまだまだいる。

 例のクルップ商会がまた動き出していた。



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