表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/100

美少女とクズ親父

 最近幸福を感じる一つの理由が、セシリアだった。

 村長の家には作業場があり、僕の他にも何人もの村人が働いていた。

 セシリアもそのひとりで、年は僕と同じくらい、金髪で薄く青い瞳の美しい少女だ。

 こっそりと鑑定でステータスを見た。

 いくつもの一般スキルを持っているが、特筆できるのは〈料理 A〉と〈掃除 B〉だ。力仕事はだめなようだが、この2つはすごい。


 でも、セシリアの父親は、どうしようもないクズらしい。働かないでお酒を飲み、ギャンブルにあけくれる。セシリアの給料を村長さんに直接もらいに来て、追い返されてもいた。日本のドラマの中で描かれているようなクズの父親の典型だった。


 ときどき、頬が赤く腫れているときもあった。

 夜中に酒がなくなり、殴られたそうだ。

 コンビニなんてないから、夜中に買いに行くわけにもいかない。

 それがわからない、クズ親父だ。

 母親は、ずっと昔に亡くなったそうで、そのクズの父親と二人で暮らしている。


 そのセシリアの存在に、僕は癒やされていた。

 見た目だけでなく、僕を気遣った言葉をかけてくれる。

 重い荷物を運んでへたりこんでいる僕に、冷たい水をコップに入れて駆けてきてくれたこともあった。

 ちょっとした失敗で落ち込んでいるときには、「どんまいよ」と励ましてくれる。

 いつもまわりの人たちのことばかりを考えている。そんな彼女をすばらしいと思った。

 そしてなんとか助けてやりたいとも思った。


*****


 ところが、ある日のことだった。

 朝、セシリアに挨拶しても、返事がない。いつもは元気な声で返してくれるのに。

 心なしか、元気がなさそうだ。よく見ると目の周りが赤くなっている。


 セシリアは村長さんと何やら話をしている。

 ヨネさんが、困った表情で僕の所に来た。

「どうやら、セシリアは父親の借金で売られるらしい」

「売られる?」

「そう」

「売られるって、どこに?」

「たぶん、街の娼館……」

 そう言ってため息をついた。

(売られる?娼館?)

 僕の頭の中で、その言葉がグルグルと回る。


「何とかならないんですか?」

「こればっかりは……」

 ヨネさんは頭を振るだけだ。


 僕は、セシリアと村長さんのところへいった。

「借金って、いくら?」

「言っても無理だから……」

「でも……」

「百万くらいらしい。それくらは私にも貸せるが、そうするとあの父親ならまた借金をするだろう……。それがわかっているから……」

「それなら、僕に貸してください」

「タクに?それでも同じだろう」

「いや、そのお金で僕がセシリアを買うんです」

「君が買う?」

「ええ、セシリアがいるから相手は金を貸したんでしょう。セシリアを僕に売ってしまえば、もう借金の形になるものはないから、金は借りられないでしょう」

「確かにそうだけど……」

「村長さんに借りたお金は僕が全力で働いてお返しします」

「私からもお願い」

 ヨネさんも一緒に頼んでくれた。

「わかった。ただし、タクがセシリアを買うというのはダメだ。私が買おう。いったんセシリアを父親から奴隷として買う。そして折りを見て奴隷から解放しよう。確かに私の奴隷になってしまえば、もう借金の形にはできない」


(奴隷制度ってあるんですか?)

 こっそりとヨネさんに聞いた。

「ええ、ただし、認められているのは2つで、犯罪を犯した者の犯罪奴隷と借金が返せない者の借金奴隷。それぞれ期間を定めて奴隷とされるの。それ以外は違法よ。ジルベールが、セシリアに金を貸したことにして、それでセシリアを借金奴隷にするの。そうすれば合法よ」

「なるほど、そうなんですね」

 セシリアが奴隷、という表現には抵抗も感じるが、村長なら大丈夫だろう。


「私は、売られなくていいんですか……。ここにいてもいいんですか……」

「ああ、私にまかせなさい。今から君の父親のところへ行ってくる」

 泣きじゃくっているセシリアの肩をヨネさんが優しく抱いた。

「もう泣かなくてもいいのよ」

「いえ……、悲しいんじゃなくて……、うれしくて……」

 そんなセシリアを見て、僕ももらい泣きしてしまった。


 村長は、無事に父親と話をつけ、その足で街へ行き、借金を理由にして役所でセシリアの奴隷登録をしてきた。これで父親も手をだせない。


*****


 これで平穏になるかと思っていた。

 それから数日後に、十人程の男たちが押しかけてきた。どう見ても真っ当な連中ではない。

 鑑定で見ると暴力系のスキルばかりだ。〈殺人 E〉なんてのもいる。本当にクズばかりだ。

(やばそうだな)


「村長を出せ!」

 大声でわめき散らす。

「何の用だ!」

「娘を出せ。あいつは借金の形だ」

「いや、借金は返したんだろう」

「返さずに逃げたんだ」

「ええっ!」

 僕たちも驚いた。まさかだ。あの親父は、想像のはるか上を行くクズだった。


「だから娘を出すんだ」

「いや、すでに奴隷登録もしてあるから無理だ」

「奴隷登録をした?」

「ああ、役所の証明もある。なんなら役所に問い合わせてみろ」


 男たちの後ろから、一人の男が前に出てきた。

「そうすると父親から回収するしかないけど、もう金はないでしょうね。その場合は命で払ってもらうしかないか……」

「そんなことするわけないだろう。殺しても1円にもならない。それより父親を借金奴隷として売った方が得だろう」

「いやいや、借金を踏み倒して無事でいられると真似する奴がでてくるからね。ここでしっかりと見せしめになってもらったほうが得なんだよ」


「そっ、それなら……、やはり私が行きます」

 セシリアが涙ながらで言う。クズでも、やはり父親だ。

「ダメだ。君はもう私の奴隷だから、勝手にはできない」

「ど、どうすれば……」


「あのお……」

 僕は、意を決して前に出た。

「何だお前は」

 思いっきり威嚇される。

「その方と、二人で話ができれば……」

「何を言ってるんだ」

「いや、かまわない。で、なんだ話は」

「できれば二人で……」

 その男は、歩き出した。ついてこいということらしい。後を追いかける。


 家の外の大きな木の下まできた。

「それでなんだ?」

「あの、僕は召喚者なんです。違う世界からの……」

「何!」

 驚いた顔で僕を見る。視線は頭から足下へ。品定めをしているように。


「だから、内緒でお願いします。僕は、この世界と違う世界の知識があります。今回のは貸しにしませんか。きっと役に立てることがあります」

 男は、しばらく考えている。

「そんなことを話して、俺たちに食い物にされるとは思わなかったのか?」

「あなたが、そんな人ではないことがわかりましたので」

「鑑定か?」

 僕はうなずいた。

〈鑑定〉で、この男を見ると、暴力的なスキルはない。〈交渉 B〉〈商売 B〉と出ている。話は通じるし、利に聡いようだ。セシリアを娼館に売るよりも大きい利益があれば、話にのるだろう。不安もあったが、そういう勝算もあった。


「よし、わかった。それで手を打とう」

「ただし、あなたのために働くのは1回だけですよ」

「3回だ」

 僕は、ちょっと考えた。3回くらいなら、まあ大丈夫だろう。

「わかりました。それでは3回で」

「俺はクレバーだ」

 男は笑って、手を差し出してきた。

〈真実の目〉を使うと、青く光っている。嘘はない。

「僕はタクです」

とクレバーの手を握り返した。


 みなのところへ戻る。

「よし、話はついた。みんな帰るぞ」

「娘は?」

「いらない」

「金は?」

「いらない」

「それじゃあ……」

「もっと良いものを手に入れた。これで十分だ」

 クレバーは振り向いて

「お前の親父の命も助けてやる。見つけて俺の借金奴隷にして、しばらくお前に貸してやる。借金を返せるまで、こきつかいな」

とセシリアに告げた。

 セシリアは、涙目で、深く頭を下げた。

 クレバーは、それを見て大声で笑いながら手下を引き連れて帰っていった。

(やはり、実はいいやつだったんだな)


「いったい何を話したんだ」

 村長さんとヨネさんが声をそろえて言う。

「いや、ちょっと取引を……」

「何の?」

「それはまだ言えないけど。安心して、絶対に悪い人じゃないから」

「いや、悪い奴らだぞ」

「タクが絶対というなら、大丈夫よ。信じましょう」

 ヨネさんは、僕のスキルを知っている。だから信じられると思ったのだろう。村長さんも不審そうな顔だけど、とりあえず認めてくれたようだった。


*****


 しばらくしてクレバーがセシリアの父親であるギブルを連れてきた。

 首には隷属の首輪をつけている。これをつけていると主人には絶対の服従をすることになるらしい。

 今の主人はクレバーだが、セシリアへその権利を移すという。


「村長さんの言うことを聞いて働きなさい」

 セシリアは、うれしそうに命令をする。

「はい……」

 ギブルは、不満そうだが、言うことを聞かざるを得ない。


 畑に出て働くギブルを、セシリアはうれしそうに眺めている。

(本当によかった)

 そのセシリアの姿に、異世界に来て一番の幸福を感じていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ