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4貴族の結末

 電光石火。

 とにかく急がなくては。


 僕たちは屋敷に戻る。夕食までは時間がある。僕は、まずセシリアとセシリアの侍女を部屋に呼んだ。それから執事も……。


「おそろいです」

 セシリア付きの侍女が僕の部屋をノックした。

 よし!まず僕は、ニールスに頬を平手打ちしてもらった。普段の僕ならこれからやるようなことはビビってしまってできない。だから気合いだ!


 ダイニングに行くと、ボウラー子爵とその夫人が夕食をとっていた。

「何だ。失礼ではないのか?」

 ボウラーはそう言うが、まったく無視した。

「ボウラー子爵。あなたが天井から落ちたのは、私の婚約者であるセシリアの着替えを覗くためだったのですね」

 思い切り、指さして言ってやった。

「何を、そんなはずはないだろう。失敬な」

「いや、もう調べはついている。入りなさい」

 屋敷の執事、侍女が続々と入ってきて、順番にボウラー子爵が覗こうとしていたことを証言していった。

「私は、あの部屋を覗き専用に改造することを指示され、大工に工事をさせました」

「侍女としてセシリア様のお着替えを手伝うのですが、その際の時間、部屋の中の場所、どういう角度で着替えるかなど詳細に指示されました」

 それから次々と証言が出てくる。


 夫人の顔がだんだんと赤くなってくる。沸騰寸前だ。


「お前たち、何を言っている。全員クビだ。出て行け!」

「あなた!言っていることは本当なの?どうなの?」

「そんなわけあるはずがないだろう。私は子爵だぞ」

 夫人は納得しない。誰が聞いても言い訳にもなっていない。グイグイと詰め寄り、ボウラー子爵はたじろぐだけだ。


「よろしいですか。私は王女殿下より、あなた方を更迭する権利を授けられております。これがその書状です」

 その書状には、王女が旧領での人事をすべて僕に委ねると書かれている。Lが急遽用意してくれた。

「ボウラー子爵。あなたは、この地の領主をクビにします。爵位は残りますが、それは王都に帰ってからの処分になるでしょう」

「処分?」

「ええ、処分です。この地であなたがしてきたことは、すべて調査済みです。3日後の王都の新聞にも、覗きについての記事も載るでしょうね」

「なんてことだ……。そうだ、金だ。金があれば……」


 執事が前に出た。

「申し上げます。馬小屋の地下にございました金貨、銀貨はすべて盗まれました」

 淡々と、まったく表情を変えずに事務連絡のように言う。

「なにい!すぐに探せ!すぐに犯人を見つけろ!いったいいくらあったと思ってるんだ!」


「残念ですが、すでにその命令をする権利はございません。明日、王都への馬車を出しますから、それまで荷物をおまとめください。持ち出せる物は決まっておりますので、彼がお手伝いします」

 そう言って執事の一人を指名した。

 ボウラー子爵は、呆然と僕を見ていた。


 これでボウラー子爵は終わりだ。僕としてはかなり無理をしたが、うまくいった。それもほとんどの使用人が味方になったからだ。使用人に酷い扱いをして、嫌われていた。心底クズだった。

 屋敷に戻ってから、侍女、執事でこちらに味方してくれそうな者を順次呼んで話を聞いた。そうすると誰もが喜んで協力してくれるという。それで予定通りに進めることができたのだ。


 それでも僕にとっては厳しいことだった。威圧的にこられると反射的に引き下がってしまうのが身体の奥まで染み込んでいる。そうならないようにニールスに気合いを入れてもらったのだ。


 さて、次は男爵の2人だ……。


*******


 次の日、3貴族にボウラー子爵を更迭したことを伝える使者を出した。暫定的に僕が領主となることも。

 それから、2人の男爵には、領地の再編について相談したいから来てほしいとも伝えた。


 夜、2人の男爵が来た。もしかしたらこの領地を分けてもらえるのかという、期待も見える。

 僕は、少し忙しいので、先に食事をしてほしいと伝えてもらった。

 おもてなしをするのはセシリアだ。鼻の下を伸ばしていることだろう。容易に想像できる。

 セシリアに頼んで、ワインに焼酎をたらふく飲ませてもらった。


 僕がダイニングに来たときは、完全にできあがって、そしてセシリアに絡んでいた。手を握ろうとし、胸や尻に手を伸ばしている。


 もはや、気合いは不要だ。


「何をしている!ひとの婚約者だぞ!」

 2人の男爵は、一瞬ビクッとはしたが、また呆けた顔でセシリアに手を伸ばそうとする。

 僕は、マジに頭にきた。僕がそうさせたにもかかわらずだ。

 すぐに、屋敷の衛兵を呼んで縛り上げて一緒の部屋に放りこんだ。


「セシリア。ごめん。嫌な思いをさせたろう」

 セシリアは、普段は絶対に着ない露出の多いドレスを着ている。この2人をはめるためだ。

「ううん。大丈夫。これで売られた女の子が助かるのなら、お安いご用よ」

 そう言ってもらって、少しは心苦しさは薄れるが、王女の策略にのったような気もして複雑だ。


 翌日、2人の男爵を呼び出して、領主を更迭することを伝えた。

「これから王都に戻って謹慎を命じます。処分はおってなされるでしょう」

 王女の書状を示して、命じた。

 それぞれ、必死に弁明したが、まったく無視した。昨晩のセシリアへの……、思い出してまた腹が立ってきた。同情の余地はない。


 さらに翌日、ピルモント子爵が駆けつけてきた。相当なお怒りのご様子だ。

「3人の貴族を更迭したそうじゃないか!いったいどんな権限があってだ!」

「私は、王女殿下から、この地の人事についてすべての権限を委任されております。すべてはこの書状をご覧ください」

 ピルモント子爵は、その書状をひったくって、穴が空くのではないかと思えるほど凝視している。

「確かに君に……、その権限はあるな……。それじゃあ、金は、あの金はどこへやったのだ?」

「金?ですか?まったく存じ上げません」

 それは本当に知らないのだ。

 たぶん、シャテーが盗み出したのだろう。金がどこにあるのかさえわかれば、彼等にとっては容易いことだ。

 盗んだと言うと人聞きが悪い。返してもらったのだ。


「知らないはずはないだろう!」

「本当に知りません。もしかしたら、ゴツトツ国に女性を売ったお金ですか?それとも……」

 ピルモント子爵は、言いかけたことをグッとこらえた。図星だったのだ。


「それで……。ゴツトツ国が休戦協定を破棄して攻めてきそうというのはご存知でしょうか?」

「何!知らないぞ……。ほ、本当か?」

「残念ながら本当のようです。それに対応するよう王女殿下から指示がありました」

 ゴツトツ国の宰相が更迭されたのは5日前だ。それも極秘のうちに。ゴツトツ国の国民も知らない。おそらくピルモント子爵もまだ知らないはずだ。むしろ知らされていないだろう。


「それじゃあ……。わかった……。話はまた後だ」

 そう言って飛び出していった。


 それからピルモント子爵の行方はわかっていない。

 Lが言っていた”一手”は、休戦協定の破棄を伝えることだった。

 最前線でのうのうとしていられたのは、休戦協定だけではなかった。ゴツトツ国とは裏で通じていたのだ。Lはそれもつかんでいた。

 Lは、ピルモント子爵は裏切るという情報をゴツトツ国に流していた。ゴツトツ国のスパイも目星をつけている。そのスパイが知るようにしただけだった。

 休戦協定が破棄され、戦時に戻るというときに敵国へ行くのは愚かなことだが、金がなくなったことで正常な判断はできなかったのだろう。この状況でも、”自分だけは”と保身に走ったのかもしれない。

 どっちにしろ、その結果がこれだ。おそらくだが、ピルモント子爵は、ゴツトツ国へ確認に行き、裏切り者として処刑されたとLは推察している。


 これで、4貴族の成敗は終わった。王都に送られた3貴族も、後に王女から厳しく罰せられることにもなったのだ。


******


 これで、僕がこの領地の4地区を治めることになった。もちろん次が決まるまでの暫定だ。


 売られた女性は312人。すべてをシャテーが商人を通して買い戻してもらった。売られたときよりもはるかに高い金額だが、4貴族がため込んでいた金を使ったので問題ない。


 女性たちは、いったん王都に行き、そこで侍女の見習いをする。

 この世界は、侍女になるのは花嫁修業のようなものなのだ。高位の貴族の侍女をしたとなれば、引く手あまたになる。娼館で働かされた者もいたから、ある意味ロンダリングだが、それもクズ貴族のせいで彼女たちは犠牲者だ。

 公爵様や心ある貴族が侍女として引き受けてくれて、1カ月見習いをしてから戻るのだ。侍女を経験したとして。もちろん仕事をしているのだから給料ももらってだ。しかも高額の。


 貸し出された兵士も、適当な理由をつけて戻すことができた。まだ宰相が更迭されて、戦争が近づいていることは、ゴツトツ国の末端は知らない。だから戻してくれたのだ。

 これから戦争の準備をしなければならない。そのために彼等は重要な存在だ。


 あの老人のはからいで、アルブレヒト辺境伯も5000の兵とともに参戦してくれるという。

 シュパイエル辺境伯も援軍1000をよこしてくれる。王国最強の精兵だ。そして指揮をするのはクリスティアンだ。


 そして、カンさんも来てくれた。カンさんには、4貴族が残していった5000の兵の指揮をお願いする。ほとんどが素人っぽいから、練兵からだが、それもカンさんの得意分野だ。


 そして獣人族も駆けつけてくれた。数百人と多くはないが、僕の役に立ちたいと言う。涙が出そうになるほどうれしい。

 獣人族は、この地では恐れられているが、アルブレヒト辺境伯様が取りなしてくれたから大丈夫だろう。


 ただ、王国正規軍は動かない。様子見だ。それも想定のうちだ。


 総大将は、アルブレヒト辺境伯様がふさわしいのだが、反乱にかかわった責任があると固辞され、王都正規軍の重鎮のファビウス将軍が就いた。ファビウス将軍は、王国の盾とも呼ばれ、防衛戦では絶対的な強さを誇った。それも亀のように固く閉ざすのではなく、防衛戦をしながら、気がついたら敵が削られ、殲滅してしまっている。そんな戦いをする将軍だ。だから攻めるのも強力だ。

 そして軍師にはソーゲン師となった。アルブレヒト辺境伯様の兵法の師でもあり、剣豪と言うだけでなく、王国随一の兵法家でもあった。


 この25000の兵で、ゴツトツ国55000を迎え撃つ。敵の兵数は倍以上。厳しい戦いになるだろう。


 それから僕がLに伝言した物資も届きつつある。王国も正規軍は送らないが、兵糧を送ってきた。見殺しというわけでもないようだ。


 こちらの準備は整った。ただし、それぞれの軍は、まだヒルダの奥の盆地に陣営する。ゴツトツ国に準備が悟られないようにするためだ。

 すでに双方のスパイが暗躍しているはずだ。ここからは情報合戦にもなるだろう。


 もちろん、戦争はしたくない。回避できるのならば回避したい。しかしゴツトツ国がそのような状態でないのだ。


 もうカウントダウンは始まっている。


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