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本当の任務

 今日は、朝食も摂らずにすぐに屋敷を出た。とにかく広い範囲を回る必要がある。

 セシリアが、大量にサンドイッチをつくってもたせてくれた。僕の好きな卵たっぷりのサンドイッチだ。これならば馬で走りながら食べられる。


 まず、シャテーのLからの依頼のとおりニューディンゲンへ向かった。距離は約30キロ。1時間はかかるだろう。


 途中で、近くの資源を〈探査〉するが、ほとんど何も見つからない。


 しばらくして、ニューディンゲンの中心に着いた。

 ピルモント子爵の屋敷まで数キロ。ここから〈探査〉をするが、”金”は見つからない。

 そんなはずはない。そう考えて、もう少し近づいてみたがやはりない。


「もしかしたら……。この先から、砦がいくつもあります。そのどれかではないでしょうか」

 デニスが、そう進言してきた。

「でも、そういうところは、シャテーも調べていないかな。ボウラー子爵は馬小屋の地下だった。そういう彼等も気づかないようなところがあれば……」

「そうですね……。あっ、そうだ!思い当たるところがあります」


 行くと、そこは50年以上前の砦跡だった。当時の国境はここにあり、小高い丘の上からゴツトツ軍に睨みをきかせていた。国境が10キロほどゴツトツ国寄りになったので、使われなくなり、そのままになっていたところだ。今は、誰も来ないはずだ。

 しかし、そこに行ってみると、いないはずの守備兵がいる。しかもかなりの人数。やはりここだ。

「よく二人で、ここで遊んだんですよ」

「そういえば、やたらに地下室があったな」


 〈探査〉をすると、やはりあった。具体的な金額はわからないが、大量の金と銀がある。それは金貨と銀貨だ。


 それから、ヒルダ、ゲッダをまわって屋敷に帰った。かなり時間もかかって、すっかり日が暮れてしまっていた。

 それでも、ニールスとデニスのおかげで、すべての金の隠し場所が明らかになった。彼等に来てもらって本当によかった。


 部屋に戻ってから、Lを呼び出して、金の隠し場所を伝えた。

「どこも我々では見つけられなかった。この地に詳しい者にも協力してもらったのだがな……。さすがだ」

 そう言われた、二人は鼻を高くしている。


******


 翌日は、通常の資源の探査をしながら、ニューディンゲンを中心にまわってみた。


「おかしいな……」

「うん、やはりおかしい……」

 ニールスとデニスが言う。

「何が?」

「兵がいないんです。ここはゴツトツ国への最前線です。僕たちが居た頃は、どこに行っても兵士がいました」

「新領へ行ったから?」

「いえ、新領へ行ったのは5000人程です。1万以上の兵士は、老いた両親がいるとか、事情があって残っているはずです。それに、たとえいなくなっても補充はされるはずです。そうしなければ防衛線は維持できません」

「確かにそうだ。おかしい……」


「ソーゲン師を尋ねませんか?我々の剣の師匠です。師匠なら、何かご存知かも」


 ニューディンゲンの郊外、この世界のどこにでもあるような石造りの小さな家にソーゲン師は住んでいた。僕たちが尋ねると、家の前でソーゲン師は薪割りをしている。

 年は、70を越えているだろうか。身長も160センチはない。宇宙で戦争する映画に出てくる主人公の師匠のような雰囲気だ。


「師匠!」

 二人が声かけると、ゆっくりとこちらを向いて笑顔で手を振る。

 デニスが、馬から降りるやいなや手刀をソーゲン師の頭に向けて振り下ろす。

 ソーゲン師は、一瞬消えたが、あっという間にデニスの後に立って頭をポカリと小突いた。

「まだまだだな」

 年をとっても、剣豪の片鱗が垣間見える。その技に僕は言葉も出なかった。


「1年ぶりくらいか……。元気にやっているみたいだな」

「はい、変わらず鍛錬も続けてます」

 ソーゲン師は、笑顔で二人の頭をくしゃくしゃとなでた。


「タクヤ・ジークフリート子爵様です。我々は、この方のお供で戻ってきました」

 ニールスが紹介してくれたが、まだその呼び方は慣れないから気恥ずかしい。僕は、軽く会釈をした。

「ふむ、よい目をしているな」

 それが、僕へのソーゲン師の最初の言葉だった。


 それから家の中に案内された。

「むさ苦しいところで申し訳ない」

「いえ、私の家も同じです」

「なんと……、子爵様が?」

「はい、ついこの間まで平民でした。それで今もその家が実家です。ただ、子爵になってからは、王国が召使いを雇ってきましたが……」

 ソーゲン師は、ホッホッと笑う。

「それで、この年寄りに何の用ですかな?」


 僕は、この地に来た理由を話し、ニールスとデニスが感じた疑問について率直に尋ねた。


「これは、天が使わしたのか……」

 ソーゲン師は、じっくりとこの地の現況を話し始めた。


 ゴツトツ国とは、休戦協定が結ばれていた。王女が来て、4貴族とゴツトツ国の宰相が会談を持って決まったという。ただ、それを知っているのは、王宮と、この地の高官だけ。休戦となると、戦時の追加税がとれなくなる。そのために秘密にされてきたそうだ。ソーゲン師は、弟子に高官も多くいるから知っていたのだった。


 おそらく王女はスキルを使ったんだな……。ゴツトツ国の宰相も骨抜きにされて言いなりになったんだろう。


「それから……」

 話し続けようとしたソーゲン師は、いきなりコップを部屋の隅に投げた。僕たちは、驚いてその方向を見た。

「失礼しました」

 そこからは、キャッチしたコップを手にしたLが現れた。Lの隠蔽を見破るとは、さすがにただ者ではない。


「まってください!大丈夫です!この方は味方です。僕たちが人質だったときに助けてくれました」

 ニールスがとりなした。それを聞いたソーゲン師は、Lをじっと見る。

「確かに悪いやつではないな」


 それからソーゲン師は、話を続けた。それは、とんでもなく酷い話だった。


 休戦協定が結ばれて、4貴族がやったことは人身売買だった。若い娘を召し上げたというのは口実で、娘たちは全員がゴツトツ国に売られていた。300人を越えるという。1人100万円で3億円だ。

 そして、元からの兵士も労働者としてゴツトツ国に貸し出された。アルブレヒト辺境伯様にかわいがられた兵士は扱いが面倒だ。真面目で融通がきかない。それで遠ざけられたのだった。

 そして貸し出したことで、1人が1日に5000円、1万人近いから5000万円が1日にもらえることになる。

 そうして集められたのが、あの蓄えられた金だったのだ。


「私たちは、その娘たちの行先をつかんでいます」

 Lが言う。

「そうか、それで助けられるのか?わしも心配してはいるんだが……」

「まだ、そこまでいっておりませんが、タクがうまく働いてくれましたので、近いうちに助けられるでしょう」

「僕が?僕がやったこと?」

「ああ、後は我々がやる」

 僕は、わけがわからない。それでも娘たちがたすかるのならばよかった。


「ただ、事態は変わりました。急がなければなりません」

「どうしたのだ?」

 ソーゲン師が聞く。

「昨日、ゴツトツ国の宰相が更迭されました。王の意に背いたと……。近く休戦協定が破棄されます」

「また戦争になるのだな」

 Lは真剣な面持ちでうなずいた。

「今回は、ゴツトツ国も本気です。軍部が先走って準備を進めてました。反乱の時に振り上げた拳が落とせないままで、ゴツトツ国の国民の不満も爆発しそうです。あと一月くらいで準備ができ、休戦協定を破棄して攻め込んでくるでしょう」

「また戦争か……」

 ソーゲン師の表情が曇る。ニールスもデニスも不安そうだ。


「タクも、現状をわかってきたようだから、すべてを話そう。主と王女が君に期待したのは、4貴族を成敗することだったのだ」

「ぼっ、僕が……?」

「ああ、関所の役人を見事に成敗したじゃないか。ああなることを期待したのだ。事前にそれを言っておくと、不自然になると思ってな。君なら、自然とそうなると思ったのだ」

「なぜ?」

「王女殿下も4貴族を指名した手前、よほどの問題を起こさないと更迭できない。無能を任命した王女殿下の責任になるからな。それで君だ。一応は子爵だから、男爵の2人は君に無礼を働けば君の権限でどこかに飛ばせる。場合によっては処刑もできる。子爵の2人が問題を起こせば、君が王宮に伝えればどこかに飛ばせるだろう。それが子爵という階級だ」

「もしかして……、それでセシリアを?」

「それを狙ったわけではないが、カードの一つだ」


 それで王女が浴場に呼んだのか……。ジロジロと見て。そして一緒に行けと……。いろいろと疑問が解消したが、セシリアをおとりに使おうとは……。少し怒りも湧いてきた。


「王女殿下を悪く思うな。売られた女性たちを心配してのことだ」

「あの王女が?」

「ああ、この件のついては心を痛めておられる。自分が休戦協定を結んだことで女性が売られるとは思ってもいなかったようだ」

 王女が、そう考えるとは……。信じられない気もするが……。


「それで、これから僕は何をすれば?」

「もう自然に……とは言っておれない。強行しよう。まず、ボウラー子爵について告発してくれ。天井事件でもいい。関所の役人の責任を負わせてもいい。とにかく力を削いでくれ。それから男爵を排除してくれ。どんな手段でもかまわない。最後のピルモント子爵は、我々がなんとかする。ただ、最後の一手はお前だ」

 僕は、うなずいた。今、この地をなんとかできるのは、ここにいるメンバーだけだろう。


「この老体も使ってくだされ。最後のご奉公をしたい」

 ソーゲン師が言う。ぜひ、と僕は師の手をとった。これほど心強いことはない。


「戦争への対処は、我々が主に伝える」

「それならば、いくつか伝えてもらえませんか?」

「かまわないが、何だ」

 僕は、以前から考えていたことをLに伝えた。Lは、それを聞いて少し笑って影に消えていった。


「やることも明確になった。我々は屋敷に戻ろう」


 まずはボウラー子爵だ。


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