旧領の貴族はクズばかり
セシリアのことが気になって眠れなかった。覗かれるというのはどうなったのか?
日が開け始めた頃、ニールスとデニスがもぞもぞと動いている。これから鍛錬をするのだろう。もう少し、寝たふりをすることにしよう。
もう1つ、気になったのは、僕の任務だ。ずっと考えていたが、まったくわからない。
しばらくして、ドアがノックされた。
「朝食のご用意ができました」
「ありがとう。すぐに向かうよ」
僕は、二人と身支度を調えて、朝食用のダイニングに向かった。
セシリアは、すでに来ていた。薄いピンクのドレスで、うっすらと化粧もしている。
「侍女さんが、無理矢理……」
「いいじゃない。きれいだよ」
僕も言うようになったなあ。しみじみ思う。
朝食は、僕たちだけだった。
「昨日ね、部屋に入ったら天井から子爵様が落ちてきたの」
セシリアは、僕の耳元でささやいた。シャテーが言っていたあれだ。僕は、思わず噴き出した。
「ネズミを探していたらしいんだけど……。それでお怪我をされて、私も部屋を替わることになったの」
シャテーのおかげだ。ちゃんと対策をしてくれていたのだ。
二人の若者も、知っているから笑っている。セシリアは、不思議そうだ。
「たいへんだったね」
「私は大丈夫よ。タクも眠れた?」
「今日は、考え事をしていて眠れなかったけど。もう大丈夫だよ」
そう言うと、セシリアはニッコリと笑った。
******
食事を終えると、僕とニールスとデニスは、この地域バルスフェルト内の資源の探査に出かける。
旧領は、バルスフェルト、ヒルダ、ニューディンゲン、ゲッダの4つの地域からなっている。
バルスフェルトが中心地でボウラー子爵が治めている。そのほかの地域もそれぞれ貴族が治めていて、今日の夜に、その4貴族との晩餐会が予定されている。
ニールスとデニスは、このバルスフェルトで生まれ育っていて、地理も詳しい。彼等に案内されて、〈探査〉をしてまわった。
セシリアは屋敷に残って、侍女や執事から、この地域の食材などを聞くことにしていた。
結果から言うと、その日はめぼしい資源は見つからなかった。鉄の鉱脈があったが地面から奥深い。掘り出す手間と費用を考えると、辺境伯領の砂鉄にはかなわないだろう。
今日は、それくらいの報告だ。
「やはりおかしいですね」
デニスが言う。そういえばずっと考えごとをしているようだった。
「何が?」
「いえっ、母が言っていたことを思いだしたんです。若い女性を召し上げたりをしていると……。それがボウラー子爵様なのか……。それで馬で走りながら見ていたんですが、若い女性がいないんです。どこにも……」
「僕もそれが気になっていました」
ニールスも言う。
「それも調べてみよう」
僕たち3人は、小さな村に入った。元々人は少なそうな村だが、〈探査〉をしても、確かに若い女性はいない。
「この村には、若い女性はいないんですか」
歩いていた老人に聞いてみた。老人は、恐れた表情で僕を見て、何も言わない。
「すまない。我々はアルブレヒト様の手の者だ。心配いらない。若い女性が酷い目にあっていると聞いて調べに来たのだ」
デニスが、そう言って剣の紋章を指し示した。アルブレヒト辺境伯の部下の証だ。
「おお、それは……。アルブレヒト様の……」
老人は、涙を流した。
「新しいボウラー様は酷い者です。それで村の若い娘は、全員山奥に匿っております」
「なんと……。そうなのか」
「それに税も……。我々の食べ物ももっていてしまいました。だから山で採れる草や木の根をかじって生きてます……」
なんということだ。もしかしたら、王女は、これを……? いや、まさかだ……。
「おじいさん、できるだけ早く、みなさんの暮らしが平常に戻るようにいたします。それまで頑張ってください」
僕は、そう言うので精一杯だ。本当にできるのか。おそらく僕を〈真実の目〉で見ると真っ赤なんだろう。でもそう言わずにはいれなかった。
それにしても、これだけ税をとって、まだ赤字なんて……。いったい。
僕たちは、〈探査〉を切り上げて屋敷に向かった。
もしかして……。屋敷に近づいたとき、〈探査〉を使う。全力で。
見つけた。
屋敷の地下に、膨大な金がある。隠していたのだ。〈金集め〉というスキルを駆使して集めて、それでも王女には赤字だという。
おそらく、他の3つの領地もそうなのだろう。
******
屋敷に戻って、すぐに部屋に行った。
「シャテーのみなさん」
僕は、呼び掛けるとすぐに現れた。そこで、今日あったことを伝えた。村の老人の話、それと貯められた金。
「それはどこだ。我々も探していたんだ」
「この方向に30メートルの地下ですね」
「馬小屋の地下か……。そこは調べなかったな。藁の中までだ。まさか地下とは……。助かった。主にすぐに伝える。村のできごともな」
「ありがとうございます。その村人たちを何とかしたいんですが……」
「それはすぐには言えないが、きっと大丈夫だ」
そう言われて僕もほっとした。
「それと……。シャテーのみなさんは名前がないんですね」
「ああ、そうだ。常に影にいるからな。名前は不要だ」
「それじゃあ、僕たちも困るんで……。リーダーっぽいあなたは”L”、そしてそちらの女性は”G”、そちらの方は、”M”と呼んでもいいでしょうか」
「うむ……。今までそういったことはなかったが……。……いいだろう。ここだけだぞ」
「ありがとうございます。それでやりやすくもなります」
「それじゃあ、引き続き頼んだぞ」
そう言って.3人と消えてしまった。
「さあ、これから晩餐会だ。気を引き締めて行こう」
*****
晩餐会には、僕はセシリアをエスコートして席に着いた。
セシリアは、いつもと違って深紅のドレスで濃いめの化粧をしている。3人の侍女に全力でこうされたと嘆きながら言う。でも、今日のセシリアは、一段ときれいだと思った。
ニールスとデニスは末席なので、遅れて入室した。
怪我のボウラー子爵は欠席だ。ヒルダを治めるダリューゲ男爵、ニューディンゲンを治めるピルモント子爵、ゲッダを治めるディールス男爵が、それぞれ夫人を伴って参加した。
僕が来賓なので自己紹介をかねて挨拶することになっていた。
「本日は、このような場を設けていただき、ありがとうございます。タクヤ・ジークフリート子爵です。そしてこちらが婚約者のセシリアです。どうぞよろしくお願いします」
セシリアがカーテシーで敬意を表する。ずっと侍女から習って練習していたそうだ。
「私は、王女殿下より、この地の産業復興についてのアドバイスをするようご指示いただいております。若輩ですが、何卒、ご協力を賜りますようお願い申し上げます」
僕は、精一杯の挨拶をしているが、誰も聞いていないし、見てもいない。3人の貴族は、ずっとセシリアを見ている。もう目がいやらしい。
乾杯もすませて食事となった。まず話しかけてきたのはピルモント子爵だ。爵位は同じ。他は男爵なので、順は。これが適切なのだ。
「セシリア様は、本当にお美しい。タク様がうらやましいですね。でも……、平民だともお聞きしましたが……」
最初が、僕のことではなくてセシリアとは……。しかも”平民”と聞いて、夫人たちの目が変わった。
「ええ、そうです。ただし、後見人にはカッツェンシュタイン公になっていただいております」
「あの公爵様の……」
「ええ、セシリアは公爵様のお嬢様と親しくされていて、以前よりずっとかわいがっていただいておりました。もう、目に入れても痛くないともおっしゃって……。私との婚約も、公爵様にとりはからっていただいたんです」
セシリアには手を出すな、そう釘をさした。これで男性貴族は大丈夫だろうが、まあ夫人たちは、もう蔑んだ視線になっている。想定の範囲だ。
「そういえば、今日、バルスフェルトを見て回りましたら、鉄の鉱脈を見つけました」
「ほう、それはすばらしい」
「ただし地中深くなので、採掘はできるかどうか……。明日からみなさんの領地も見て回りますね」
「ぜひ、お願いします。よい資源が見つかるとよいのですが……」
「ところで……」
ダリューゲ男爵が近くに来て、小声で耳元で話す。
「タク様は、王女殿下には……。あれをしていただけました?」
「あれ……?、ですか……」
「そうあれです」
おそらくあれだろう。スキル〈性技〉のことだろう。そうか、この連中は、あれで支配されているんだろうな。
僕は、あえて知らんぷりをすることにした。
「王女殿下には、何度もご一緒させていただきましたが、あれとはわかりませんね。そういえば、王女殿下とセシリアと一緒にお風呂にも入りました」
そう言ったら、横でセシリアが真っ赤になってしまった。
「お風呂……ですか……。服を着て?」
「いえ、お風呂ですから裸です」
「王女殿下が?」
「ええ、何か?」
気がつくと2人の貴族も聞き耳を立てている。
「それはうらやましいですね」
「そうですか……?」
僕は、あえて無関心を装う。実際に無関心……だったはずだ。
そのあとも王女のことを聞かれ続ける。もう面倒くさい。
話は、王女のこと、セシリアのこと、そればかりだ。関心は女性だけ。
領地を盛り上げるために来たのだが、そんな話はカケラも出ない。
*****
晩餐会も終わり、それぞれの貴族との話を反芻した。
3人とも(おそらく4人とも)、王女のスキルで支配されているのだろう。
それにもかかわらず、王女に内緒で金を集めている。これはいったいなんだ。
領地の経営にも関心がない。でも金を無理矢理集める。若い女性も……。
軍事力はどうなのだろうか。ゴツトツ国と戦えるのだろうか。
疑問だらけだ。
部屋に戻ったらLが待っていた。
「明日は、ニューディンゲンの調査をしてくれないか」
「ピルモント子爵の領地ですね」
「ああ、そうだ。そこがゴツトツ国との最前線なのだ」
「そこで何を?」
「行けばわかる」
どうやら、そこに今回の任務の確信があるのだろう。
そして、それはまさかの事態だった。




