娯楽をつくろう
”男が本当に好きなものは二つ。危険と遊びである”とニーチェという哲学者が言ったと倫理の教師が言ってた。そして”女は危険だから好きなんだ”と話して、ヒャヒャッと勝手に笑っていて、クラスの生徒はしらけて笑っていたっけ。
クレバーと話をしていて、その先生のことを思い出した。つまらない授業だったけど、マイペースでわりと好きな先生だった。
屋敷に戻って、辺境伯様に2つのことを提案した。
1つは、賭場を許可制にして常に一人の兵士を常駐させることである。イカサマ防止のためだ。
「でも、イカサマはなくならないよ」
馬車の中でクレバーが言った。
「だって、イカサマはバレないことが前提だもの。バレないと思っているからやっているんだ。それに見つかったって、部下の誰かに責任をとらせればいいと思っているからな。トカゲの尻尾切りだよ」
それでも、そうしないよりもいいはずだとも言う。あまり派手なことはしないだろうし、暴力による脅しはなくせるからだ。
もう1つの提案は、ハンゼ商会による賭場の開設だった。
「ギャンブルをする連中は2種類。1つはギャンブルに狂っているやつ。そしてもう1つが、暇なやつなんだ。この暇なやつに、ほかに楽しいことを教えてやれば、ギャンブルから離れるだろう。ギャンブルの客が減ると、それぞれの賭場も客を集めるのにサービスをよくするはずだ」
僕の提案を聞いたクレバーがそう言う。
「だから、別の楽しいことを教えてやるのに、タクのアイディアが使えるんだ」
僕たちの提案を聞いた辺境伯様は即決した。
「それはいい。すぐにでもやろう」
賭場の許可制については辺境伯様の優秀な執事たちが、規約を作成して翌日には領内の賭場に通達された。そしてその翌日から兵士が常駐した。
これは領民からも歓迎された。イカサマがやられているという噂が流れ(真実なんだが)、不安に思っていた領民も多かった。
ハンゼ商会による賭場は、辺境伯様から場所の提供を受けた。リネールという元役人の屋敷だったところだ。
「あの役人の屋敷か……。この豪華さ……。かなりあくどいことをしていたんだな」
役人とは思えないような豪華な屋敷だ。適当な広さもあって庭も広い。そしてよかったのは、屋敷の裏に草原が広がっていたことだ。
それから突貫工事で賭場の開設を進めた。あわせて庭と草原も。完成が楽しみだ。
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それから2週間。許可制になった賭場でも何回かイカサマが見つかった。これまでは怪しいと思っても怖くて言えなかった。それが兵士がいることで声を出せる。それぞれ3日ほどの営業停止になってから再開しているが、以前から比べると安心して遊べるとかえって客が増えているという。
そうしてハンゼ商会の賭場も開業の準備ができた。賭場といっても、今までとは全く違った。
屋敷の数部屋を賭場として、そのほかの2部屋をレストランとカフェにした。働いているのはもちろん兵士の夫人たちだ。
そして庭には、ブランコやすべり台、ジャングルジム、シーソーなどの遊具を設置して子どもの遊び場にした。僕の世界ならどこにでもある公園だが、この世界にはまったくなかった。子どもたちは大喜びで遊ぶだろう。
裏にある草原はグランドにした。といっても簡単なトラックを作っただけだ。真横にある小高い丘は観客席にもなる。
賭場も、ほかよりも配当を高くした。例えばパチンコでは倍率を12倍、6倍、2倍にした。それもイカサマ無しで。
そして、一番の目玉がジャックポットだ。カジノのスロットマシンであるそうだが、そこまでの技術はない。
そこで、大型のガラスの箱を用意した。これに小銅貨1枚(100円)を入れると、サイコロを6個振れる。そして、すべてが1の目、オール1が出ると、箱の中のお金をすべてもらえるというものだ。こちらの儲けは一切無いが集客力がある。
サイコロ6個でオール1が出る確率は、6の6乗で、4,6656分の1だから、かなり厳しい。
最初の銅貨は、僕が10万円分を入れた。イカサマでせしめた金だ。残りもこの施設の運営に使うことにしている。
屋敷には、まだ空いている部屋があるので、いろいろな店も考えたが、街の商店を圧迫するのでやめることにした。また、これから考えていけばいいだろう。
そして、施設の名称を”アルブレヒト・ランド”とした。僕がいた世界のアミューズメントパークのような名前だが、そういう施設にしたいと考えたからだ。
この名称を辺境伯様も嫌がったが、反乱での汚名を雪ぐチャンスだと説得した。だからこそ、必ず領民に喜ばれる施設にしなければならない。
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そして開業の日、施設には大勢の人が殺到した。その大部分は子どもだ。
開業の前に、街や周辺の村にはポスターを貼りまくった。そこには「子どもたちにはキャンディを無料配布!」と書いた。子どもがくれば親も来る。
子どもが遊んでいる間は、お父さんはギャンブルで、お母さんはカフェだ。
今、この領地の人口の半分以上が辺境伯の兵士とその家族だ。最初に遊びに来たのも兵士の家族が多かった。
石炭や塩、製鉄に砂金のおかげで収入が安定した。それが兵士へ給金として支払われ、昔からの領民の店で使われる。それから商品をつくる職人、作物を作る農家へとお金がまわる。好循環ができ、領民全体に余裕ができてきていた。
お昼の鐘が鳴った。
屋敷の裏のグラウンドでは、100m走とやり投げの予選が始まる。予選への参加は誰でもできる。お昼の鐘まで現地で申し込めばいい。
それぞれの優勝者には賞金50万円が出る。2位、ベスト4まででそれぞれ賞金総額100万円である。今回は100人以上がエントリーした。
上位はすべて兵士だろうと思っていた。兵士の鍛錬にもなるし、兵士の強さを領民にアピールできる。そして苦労してきた兵士に報いることにもなる。
実際に予選を開始したらほとんどが兵士だった。
やり投げの槍は、普段から使っているものだ。だから慣れてもいる。やり投げの上位はすべて兵士だった。
ところが100m走には、ダークホースが現れた。若い伝言屋の男だった。確かに普段から走っている。決勝ではギリギリで兵士に負けたが、それでも2位で賞金30万円を手にした。彼のおかげで、次から一般の参加者が増えることにもなった。
ニールス・フォクトマンとデニス・バグナーの二人も100m走に参加して、そろってベスト32だった。
「馬のようにはいきませんね。次はがんばります」
と息を切らしながら言う。
そして、この競技場の横の丘には1000人を越える観客も集まって声援を送った。今まで、こうしたスポーツ観戦などなかった。新しい娯楽の誕生だ。
観客席の周囲では、兵士の夫人たちの露天も出ていた。
これから、3日ごとに砲丸投げや長距離走、重量挙げなどの、誰でもできて兵士の鍛錬に役立ちそうな競技を開いていく予定だ。賞金も潤沢に残っている。
この世界には、日曜日のような休みはない。ただ、交代で休む習慣があるので、ある意味、毎日、お客がくるのだ。
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それから1週間ほどが経った頃に驚いたことが起きた。
ジャックポットに並んでいる人の中に領外の人がちらほらと増えてきたことだ。すでに王都まで噂が広まっていると、クレバーも言う。
「インバウンドだ」
僕は、クレバーに話をして、屋敷の別館を宿泊できるようにと改装を進めた。
豪華な部屋から庶民的な部屋まで、いろいろと用意できる。
そして、もう1つ進めていた施設の準備ができた。来週にはオープンできる。
あのギャンブル狂の母親も、他の賭場にいかないで、ここのジャックポットに並び続けている。ジャックポットだと、1日でもせいぜい数百円だ。
ついでにその母親には、いくつかの軽作業を与えて雇うことにもした。どうせ毎日来るのだから。
遊んで働いて、子どものご飯を買って帰れる。そんな日常にすることができた。
元々、この母親をなんとかしたいと始めたことだったので、そうできたことは、本当に嬉しい。
そんな中、ついにジャックポットでオール1が出た。ガラスの箱からは、スコップで銅貨を掘り出すレベルにまで貯まっていた。総額1528万6300円で、ざっと家庭のお風呂の半分以上の量はある。数えるのに半日もかかってしまった。
”100円をかけて1500万円を越えた賞金をゲット”このニュースは、領内、そして領外へあっという間に広まっていった。
これでまた領外から人が押し寄せてくる。
当選者は若い男で、足がガクガクブルブル震えている。当選金を一度に渡すのは危険なので、毎月少しずつ支払うようにした。それでもこの領地ならば1年以上は遊んで暮らせる。
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すべてが良い方向に動いている。
そんなときに、王宮から使者が来た。それも辺境伯様ではなく、僕にだ。
いったい何だろう。
その使者が伝えたのは、驚愕だった。
王女が、この地に来ると……




