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ギャンブルをやってみた

ブラウザで翻訳ができる方は、翻訳してみてください。呪文の意味がわかります。

 僕がいた世界ではギャンブルは違法だし、パチンコや競馬ができる年でもなかったからギャンブルの経験はまったくない。ゲームのガチャくらいだ。

 「運ゲー」もきらいだった。「運」なんかに人生を任せられるか。そう思ってた。


「ところでギャンブルってどんなのがあるの?」

 クレバーが来てくれたので、早速聞いてみた。クレバーの商会では賭場の経営もしている。


「俺たちもいろいろとやってきたからな……。まずパチンコだ」

「パチンコ?パチンコって、あのパチンコ?」

「ああ、知ってるのか?」

「僕がいた世界でもあったよ」

「それじゃあ、お前のような召喚者が伝えたのかもな」


 よく聞いたら、僕がいた世界のとは少し違う。やはり複雑なものは作れないからだろうか。

 板に釘が打ってあり、上から鉄の玉を落とすのは変わらない。まず板も玉も大きい。そして、どの穴に入るのかを賭けるようになっていた。これならシンプルだ。

 一番上にある小さい穴は掛け金の10倍、その下のやや大きい穴は5倍、そしてその下の穴は掛け金と同じ金額が支払われる。最後の穴までいくと0だ。

 1つの台に4,5人の客がついて、ディーラーが玉を落とす前に賭ける。そして当たると、その場でディーラーから配当が支払われる。


「これはイカサマができるんだ」

 クレバーは言う。

「玉が鉄だから、台の裏に磁石をしかけて操作するんだ。適当に勝たせて、きちんと負けさせて金を巻き上げるのがディーラーの腕なんだ」


 ほかにもいくつかのギャンブルがあるという。


「それで、その母親にギャンブルを止めさせるのはどうすればいいの」

「無理だな……」

「無理なの?」

「そりゃそうさ。今まで誰もできていないよ。よっぽど怖い目にあうとか、1円ももっていないとか、そんなことでも無い限り無理だ」

「それじゃあ、ギャンブル自体を禁止するとか……」

「それも無理。下手すると暴動が起きるよ」

「そんな……」

「そんな連中ばかりだ」

「じゃあ、どうすれば」

 僕は頭を抱える。


 そのとき「失礼します」と兵士が来た。この間、僕とセシリアを招待してくれた兵士だ。

「タク様、この間はありがとうございました。それで……、報告がございまして……。タク様が子どもたちに服を買ってあげましたね。3着ずつを。その2着ずつを母親が売ってしまったそうです」

「ああ、そうきたか……」

 子どものためにそこまではやらないと思っていたが甘かったな。

 これは急いだ方がよいかもしれない。


******


 机上で考えていても埒があかない。そこでまず賭場に行ってみることにした。この領地には5カ所ほどの賭場があるという。その中から、あの母親が行っているという賭場にした。


「ちょっと考えがある」

 クレバーの提案で、僕たちはかなり良い身なりに整えた。いかにも金持ちのボンボン、そういう感じだ。

「これって危険じゃないの?」

「そうだろうな。でも、タクなら大丈夫だろう?」

「まあ、そうかもしれないけど……、相手がわからないからな」

 ここのところ度胸もついてきたが、賭場となるとさすがにビビる。大丈夫だろうか。


 その賭場は、領都(といっても小さい街だが)の郊外の森の中にあった。木造の結構大きな建物だ。中を見ると、バスケットボールのコート1面くらいの広さで、パチンコだろうか、5つくらいの台が並んでいて、人が群がっていた。そのほかのギャンブルのテーブルもある。そこにもいるから、だいたい100人くらいの客だろうか。昼から酒を飲んで真っ赤な顔をしているのもいる。まあ、そんな連中なんだろう。


 中に入ると、客、ディーラー、そして店員らしき男たちが僕たちに目を向けた。それからじっと僕たちの動きを目で追う。ライオンの檻に入ったウサギが、いきなり襲われないでじっと観察される。そんな感じだ。

「カモが来たな」

 ディーラーも、きっとそう思っているだろう。


 その向けられた視線をまったく無視して、パチンコ台の一つ一つを点検するように歩いて行った。おどおどしてはダメだ。精一杯余裕があるように歩く。


「ここは初めてですか?」

 店員の一人が聞いてきた。丁寧な口調だが、品定めをしているのだろう。こういう会話から、いくらカモれるのかを判断するらしい。

「ここは初めてだが、わかっているから気を遣うな。しばらくは見させてもらう」

 クレバーが余裕をもって答える。クレバーにとっては賭場は仕事場でもあり、日常だから慣れたもんだ。


「やはりイカサマをしているな」

 クレバーが僕の耳元でささやく。

「ほら見ろ。あの台は、客の全員が5倍にかけているだろう。たぶん10倍に入るよ」

 客の前のテーブルに、1倍、5倍、10倍と書かれた枠があり、そこに金を置くと賭けたことになる。そして見ると全員が5倍に賭けていた。

 ディーラーが、上から玉を落とす。玉はいくつかの釘にはじかれながら、ストンと10倍の穴に入った。クレバーの言うとおりだった。


「ああやって、10倍にも入るんだよということを見せつけるんだ。それから安い金額を賭けているときも当てさせてやるんだ。目の前で当たったのがいると、次は自分がって思うだろう。そうやって金を吐き出させるんだ」

「なるほど……。ほめられることではないけど、頭を使っているんだな」

「ああ、本当に悪いやつほど頭を使うんだ」


「僕もやってみよう。イカサマを使うけどいいよな」

「全然かまわない。できれば派手に勝ってくれ」

 僕は指でOKサインを出して台の前に座った。


「いくら賭けてもいいの?」

 僕は席についてディーラーに聞いた。

「かまいませんよ。金貨でも銀貨でも、何枚でも」

「それはありがたいね。悪いけど、店の金を全部いただくよ」

 僕は、そう言って金貨1枚を10倍に賭けた。金貨1枚は50万円。ディーラーだけでなく同じ席についていた客も目を丸くして僕を見る。


「大勝負だぞ!」

 誰かが叫んで、僕たちの台のまわりに見物人が集まった。50人はいるだろう。そのほうがいい。これだけの人が見ていると、後で払わないとは言えなくなるだろう。


「それではいきます」

 ディーラーが、ニヤリと笑って玉を落とす。玉は釘にはじかれながら10倍の穴の横を通り、5倍の穴にストンと入った。

「やった、当たった」

 隣の客が立ち上がってガッツポーズをする。そりゃあ金貨一枚だから、まわりを勝たせても痛くはない。適当に勝たせると、次は自分だ、と思う客も増える。店の狙い通りだ。


 それから僕は立て続けに負けた。5倍でも1倍でも当たらない。そろそろ負けが500万円くらいになった。

「お客さん大丈夫ですか?」

 ディーラーは心配そうに聞くが、顔がにやけている。


「それなら勝たせてよ。そうだな……、ここらで大勝負をするか」

 僕は、そう言って金貨30枚を10倍に賭けた。当たれば1億5千万だ。

「そっ、そんなに……」

 さすがのディーラーもビビっている。イカサマをしているが、それでも万が一ミスると大変なことになる。


 ディーラーは、ゆっくりと玉を落とす。


 ਪਵਿੱਤਰ ਆਤਮਾ ਦੇ ਨਾਮ ਤੇ, ਮੈਨੂੰ ਬਰਫ਼ ਦੀ ਸ਼ਕਤੀ ਦਿਓ. 


 僕は小さな声で呪文を唱えた。

 すると、玉は釘にはじかれた後、ストンと10倍の穴に入ってしまった。

「うおーっ!!!!」

 大勝負と言うことで、ほとんどの客が見ていたが、玉が入った瞬間に、ほぼ全員が声を上げた。その声で建物が揺れる。

「すげえ!こんな勝負初めて見たよ」

 誰もが興奮している。これがギャンブルなんだな。僕は、大金を手にしたのだが、割と冷めた気持ちで客たちを見ていた。イカサマを使ったから、勝ったという嬉しさはまったくない。

 ディーラーは、その場にへたりこんで、ガクガクと震えている。責任をとらされるのだろう。もしかしたら、命で、ということもあり得る。

 ちょっと心配になってクレバーを見たが、察してくれたのか「大丈夫」とサインを送ってくれた。


「おめでとうございます」

 この賭場の店長らしき人物が出てきて、僕に金貨300枚を渡してくれた。

「まだまだお遊びください。できればそれを全部使っていただけるとうれしいですね」

 ジョークのつもりだろうか。笑顔だが目は笑っていない。そりゃそうだろう。


「いや、今日はここまでにしますね。ギャンブルは引き際が肝心というのが当家の家訓なので」

「でも、待ってください……。まだ他にもいろいろとございますが……」

 引き留める店長を振り切って、クレバーと素早く店を後にした。


「で、どうやったんだ?」

「氷魔法で、見えない釘をつくって10倍の穴に誘導したんだ」

「なるほど」

 クレバーは、感心して笑っている。


 それから馬車に乗って、走り出そうとしたはずが動かない。

「どうした?」

「それが……」

 御者が震えた声で言う。窓の外を見ると、いかにも怖そうなお兄さんに取り囲まれていた。


「このまま帰れると思ったのか」

 どうやら金を出せ、ということらしい。クズの発想で、よくあるパターンだ。クレバーも想定済みで、余裕でいる。

 二人で外に出た。数えると5人の男だ。身体も大きい。〈殺人〉のスキルを持っているのもいる。でも余裕だ。

 戦闘になれた本物の兵士ならヤバいが、見た目だけ強面なんか、全然怖くない。


 ਪਵਿੱਤਰ ਆਤਮਾ ਦੇ ਨਾਮ ਤੇ, ਮੈਨੂੰ ਬਰਫ਼ ਦੀ ਸ਼ਕਤੀ ਦਿਓ. 


 僕が呪文を唱えると、全員の首から下が氷の塊となった。雪だるまから顔だけ出しているようにも見える。


「何をしやがる。出せ、出さないと」

「出しても酷いことをするんでしょ」

「いいから出せ!」

 こういう輩の言うことはワンパターンだ。この格好でいきがって見せても滑稽にしか見えない。


「お待たせしました」

 辺境伯様の兵士100人程がドヤドヤとやってきた。来る前に、クレバーが手配していたのだ。


「後は、おまかせします。賭場の中の連中もお願いしますね」

「わかりました。すぐに連れていけ」

 まず5人の男たちは連れていかれ、兵士たちは賭場へと向かった。


 賭場では、客たちの前で僕たちが襲われたこと、そしてイカサマがあったことが兵士たちから暴露された。それから店長、店員以下の全員が逮捕されて連行された。だから、あのディーラーも無事だろう。


「ほら、ベアル男爵のときに口コミで炎上させたろう。あれくらいまではいかないけど、今日の客が口コミで広めてくれるよ。イカサマがあるとか……。ああいう連中の酒場での話題は、まずギャンブルだからな」

 クレバーは、そのために僕たちの身なりを考えて兵の手配をしていたのだった。

 そして実際に、その日の酒場での話題の第一になった。1億5千万勝った客がいたとか、イカサマで店長や店員が逮捕されたとか……。


 これで、この賭場は終わりだ。

 でも、賭場を潰すのが目的ではない。まだ賭場はあるし、ここの代わりもすぐにできるだろう。

 本来の目的ではなかったが、このおかげでギャンブルにはイカサマがあって、勝っても力ずくで金を取り戻される。それが知られただけでもよかっただろう。


 さて、次はどうしようか……。

 ふと、前の世界のことを思い出して、クレバーに話してみた。

「それ、おもしろいよ!絶対にいける」

 クレバーは乗り気だ。

 帰りの馬車の中で、なんだか二人で盛り上がってきた。

 明日からが楽しみだ。

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