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二人でおでかけしたのに……

 夢を見た。前の世界、日本での暮らしの夢だ。

 学校へ遅刻しそうになる。急いで準備するが、父、母が妨害してくる。外に出ると同級生、教師が妨害してくる。なぜか、そろって僕を遅刻させようとする。もがく。まとわりつかれてなかなか進めない。もう学校だ。時間が迫る。焦りが身体をしばりつけてくる。

 始業のチャイムがなった。ああ、もう遅刻確定だ……。

 そのとき目が覚めた。


「夢か……」

 僕が起きたのはいつものベッド。隣ではセシリアが静かな寝息を立てている。


 遅刻を心配したなんて笑ってしまった。もうそんな心配なんてないのに……


 横で寝ていたセシリアを見た。そういえば、こんなにじっと見たことはなかった。相変わらずきれいだ。でも僕が彼女に惹かれたのは、彼女のやさしさだ。自分より他人を気にする彼女の心根だ。


 ふと思う。僕は、この世界にきてよかったのだろうか。

 前の世界だと、こんなすばらしい彼女ができることはないだろう。

 もう大学生になっているか、それとも働いているのか、どちらにしろこんな責任のある仕事を任せられることもない。グダグタと毎日過ごしているに違いない。

 そして、心を許せる友人も……。


 そう考えると、あのクズ王子に感謝したい気もするが、あのクズがやってきたことを考えると、やはり許せない。女性を誘拐したり、反乱を唆したり……。

 もうすぐ、あの王子にも手が届く……。


「どうしたの?こんなに早く」

 セシリアが僕に気づいて目を覚ました。

「夢を見たんだ。すごく嫌な夢を」

 セシリアは、起き上がって、僕の頭を抱えた。やばい、胸があたる。

「大丈夫よ、私がいるもの……」

「そうだな。何も心配ないな」


「そうだ。お昼に二人で出かけよう。特に予定はないよな」

「いいわね。ちょっと一緒にいきたいお店があるの」

「どんな?」

「それは秘密よ」


 もう完全に目が覚めたので、朝食まで、いろいろと話をした。これからの二人のことなど……。やはり今が一番幸せだ。


******


 お昼前に二人で、屋敷を出た。この領地の中心街へ馬車で送ってもらう。といっても小さな街だ。


 出がけに、セシリアは侍女たちの突進にあった。

「そのままでは外に出しません」

と、通せんぼをする。

「今日は、目立ちたくないの。普段の平民のスタイルでいたいの」

「いえ、平民のスタイルでも御髪を整えてお化粧をさせていただきます。このままお外に出しましたら、私たちが怒られます」

 しぶしぶセシリアは承諾した。


 真っ白なシャツに、薄い生地の花柄のスカートが翻る。うっすらと化粧を施してもらったセシリアは、清楚という言葉がぴったりで、また見とれてしまった。

 実際に、一緒に街を歩いていても、多くの男たちが振り返った。目立たないはずがない。


「ここに連れてきたかったの」

 こぢんまりとしたレストランだ。

「おやいらっしゃい」

 ふっくらとした年輩の女将さんが迎えてくれた。

「ここは、屋敷の料理長さんのご実家で、一緒にこの土地にあった料理を考えたの」

「おかげで、メニューも増えて大助かりよ。美味しいって評判にもなってお客も増えたわ」

 聞くと、この店で試したレシピは、あちこちのレストランにも伝えて喜ばれているという。

「セシリアなりに、この土地のために働いていたんだね」

 僕がそう言うと、うれしそうに笑う。


 ランドシャフトでも出しているハンバーグはクズ肉を美味しく食べられる。

 そのほか、いろいろな芋の料理だ。土地が痩せているから芋が多くなる。これまで、ほとんどが塩をつけて食べるだけで(だから塩が必要なのだ)、誰もが飽きていた。それがフライドポテト、ポテトサラダ、こうした料理のおかげで、飽きることなく食べられるようになっていった。


「これってサツマイモ?」

 サラダに、サツマイモが入っていた。

「ああ、甘藷よ。甘いお芋。これでスイーツを作ったりもするの」

 この世界に来て、初めて食べた。何か懐かしい。


******


 僕たちが食べ終わるころ、男たちの集団が入ってきた。どうもガラがよくない。

 女将さんは、ちょっと嫌な顔をしている。

 〈鑑定〉をしてみると、やはり問題だらけだ。だから、もう少しこの店にいることにした。


「おひさしぶりですね」

「ああ、なんか料理が美味くなったと聞いたから、わざわざ来てやったのだぞ」

「それはありがとうございます」

「まず酒だ。それから、その美味いという料理を適当に持ってきてくれ」

「お代は払っていただけますね」

「当たり前だろう」

「それなら、すぐにご用意します」

 女将さんと男のやりとりも怪しい。


 酒が入った男たちは、大きな声でしゃべっている。聞いていると、どうやら前の領主に仕えていた高官らしい。〈鑑定〉だと、かなりの悪人だ。引き連れているのもろくな者ではない。


 その元高官だという男が、こちらじっと見ている。

「そこの女。こちらにこい」

 大きなセシリアを呼んだ。これは想定のうちだ。必ずこうなると思っていた。そして今までの修羅場の経験からすると余裕だ。

 もちろんセシリアは無視する。少しビビってはいるようだけど、僕を信用してくれているのだ。


「リネール様がお呼びだぞ」

 2人の取り巻きが、息巻いて迫ってきた。

 それでも無視をした。セシリアの表情は少し硬い。僕はテーブルの下のセシリアの手を握った。

「大丈夫だよ」

 セシリアはうなずいた。セシリアの手に触れたのは、いつ以来だろう。どさくさに紛れて……。少し反省をする。


「この野郎!!!!!」

 ずっと無視をしていたので、怒った一人が剣を抜いた。


 ਪਵਿੱਤਰ ਆਤਮਾ ਦੇ ਨਾਮ ਤੇ, ਮੈਨੂੰ ਬਰਫ਼ ਦੀ ਸ਼ਕਤੀ ਦਿਓ. 


 小さく呪文を唱えた。


「なっ、なんだ……」

 男たちは動けない。男たちの足下を見ると、ふくらはぎから下が大きな氷の塊に包まれていて床に貼り付いている。

「ちょっ、ちょっと待て」

 男たちはジタバタしている。

「いくらでも待ちますよ」

 かなりの余裕が出てきた。今まで相手をしてきたのと比べると、まったく怖くはない。


「貴様は、なんなんだ。わしは、この地の執政官だぞ!」

「元ですよ」

 女将が言う。あきれ気味だ。


「だまれ、虫けらの分際で……」

 女将さんを”虫けら”だと……。その一言にぶち切れそうになった。そのとき。


「全員、動くな」

 辺境伯様の兵士が入ってきた。


「みんな、こっそりとお前の護衛についてきたんだ」

 見ると、隅っこのテーブルでバルドリアンが一人で食事をしていた。

「屋敷を出るのを見たので、こっそりついて来たんだ。どうなるか気になったし、お邪魔もしたくないしね。それに兵士たちも、お前が心配だったようだよ」


「じゃあ、ずっと?」

「ああ、お前がセシリアしか見ていないから気づかなかったんだな」


「こいつらどうします?」

 兵士が聞いた。

「わしは、今は……、あのカッツェンシュタイン公の筆頭執事もあるのだぞ。下がれ!下郎!」


「知ってる?」

「知らない」

 バルドリアンは笑って首を振った。


「嘘ですよね」

「いや、本当だ。助けてくれ」

「僕は、カッツェンシュタイン公のお屋敷で働いたこともありますが、お屋敷の玄関に飾ってある物は何ですか?筆頭執事なら答えられますよね」

 僕が聞くと、黙り込んでしまう。

「公爵家を騙ったとなると罪が重くなるよ。確実に首と胴とが離れるな」

 僕が、そう言うと、床にへたり込んでしまった。


「この店の飲食代を踏み倒しているんだよね。まず、それを払ったら少しは罪を軽くしてもらえるかもしれませんね」

「いくらだ?」

「とりあえず100万くらい?」

 女将がうなずく。

「それで命は助かるなら……」


「それにこいつは、前領主様が大きな借金を作って領地替えになったときに、どさくさに紛れて追加の徴税をしたんだ。今の領主様の反乱の責にして……」

 女将が教えてくれる。

「それも返してもらおうか」

「わかった。わかった。それで手を打つ。だから命だけは……」

「それを決めるのは今の領主様だけど、お優しい人だから、その追加の税を返せば許してくれると思うよ」

 そう言われて、少しほっとしたような表情を見せたリネールと取り巻きは、兵士たちに連れていかれてしまった。


「ごめんね。久しぶりのデートは散々だったな」

「いいえ、楽しかったわよ。タクの氷魔法も久しぶりに見れたもの」


「また、二人の世界かよ」

 バルドリアンに突っ込まれる。


「それにしても酷いやつだった。”虫けら”と言ったときは、ブチ切れそうになったよ」

「こういったクズは、どこにでもいるよ。特に貴族がらみで……。僕も嫌と言うほど見てきた」

 バルドリアンは、しみじみと言う。


 そして、これからしばらく、僕も嫌と言うほど見てしまうのだった。


ブラウザで翻訳ができる方は、翻訳してみてください。呪文の意味がわかります。

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