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クズが村にやってきた

 翌日、一緒に村長の家へ行った。

 家は大きくはないが、作業場のような建物や収穫した作物を保管する倉があり、それを守るためだろうか、周りをしっかりと柵に囲まれていた。


 村長は、ジルベールという名前から勝手にイケメンを想像していたが、普通の禿げたおっさんだった。

 でも、やさしそうな笑顔で僕を迎えてくれた。


 こっそりステータスを見ると、農業、栽培のレベルがB、工作がC、そのほかいくつものスキルがある。おもしろいのは献身がAだ。きっと良い人なんだろう。


「何ができるの?」

「農作業はしたことがありませんが、がんばります」

「そうだな、まずはあせらずみんなの手伝いから始めてくれ」

と僕の肩をポンと叩いた。

「よろしくお願いします」


*****


「こんにちは」

 仕事について村長から説明を受けていると、一人の男が入ってきた。

「やあ、いつもありがとう」

「彼は、商人のセラーだ。村の作物を街で売ってくれているんだ。彼は、この村に住むことになったタク君だ。これから仕事を手伝ってもらうことになったんだ」

と紹介してくれた。

「よろしくお願いします」

「よろしく」

「タク君、向こうの倉庫に積んである野菜を持ってきてくれないか」

「はい」

 僕は、倉庫に行って箱に入っている野菜をもってきた。大根やキャベツといった野菜だ。

「これで全部です」

 その野菜の数を数えたセラーは、

「ええと、大根が15本ですね。1本80円だから980円。キャベツが120円で12個で1020円。あわせて2000円ですね」

(えっ、金額が違ってる……)


 そのときパッとひらめいた。

(真実の目)

 タクの目が青白く光る。

(こ、これは)

 セラーの身体が淡い赤い光につつまれている。

 村長やヨネさんは淡い青い光だ。

(嘘をついていると赤くなるんだ。それなら……)


「ああ、いつもありがとう」

 村長がお礼を言ってお金を受け取ろうとする。

「ちょっと待ってください。金額が違ってますよ」

 二人は驚いた顔で僕を見た。

「大根は1200円、キャベツは1440円、あわせて2640円になるはずですよ」

「そんなすぐに計算ができるものか」

 セラーは、怒ったような口調で言う。

「すぐにわかりますよ」

 僕は、数式は通じないだろうと思って、地面に個数と金額の対照表を書いてみた。


   大根 1本 80円

      2本 160円

       ・

       ・

      15本 1200円


 キャベツも同様に書いた。

「これならわかるでしょ。何か間違いがある?」

「いやっ、ちょっと待って、もしかしたら計算違いかも……」

 セラーを包んでいる光がより赤くなった。

(まだ嘘をついてる……。やはり、こいつもクズだ)


 村長は、表を見て考え込んでいた。

「タク、今までの記録もあるから、それも見てくれないか」

「うん、いいよ」

 村長は、家に戻って紙の束をもってきた。今までの売買の記録だ。

「税金を納めなきゃいけないから、すべて記録しているんだ」

 僕は、それを手にして、一枚二枚をめくって金額を確認した。

 どれも間違っている。そして金額が低くなっていた。

「全部違ってますね」


「どういうことなんだ……」

 セラーはうつむいて黙ったままだ。

「君のおかげで、村はずいぶんと助かっていた。だから大事にはしたくはないんだ」

 セラーはゆっくりと口を開いた。

「足りなかった分は、すべてお返しします……」

 まだ、うっすらと赤い。

「全部返せるのか?」

「今は無理ですが、必ず」

(赤い光が消えた。どうやら本気のようだ)


「どうしてこんなことをしたんだ」

 村長は、かなり厳しい声で言う。

「僕は、孤児院出身で、その孤児院の子どもたちに、少しでも多くの食べ物を届けたくて……」

 セラーの身体が青く光ってきた。

(嘘は言っていませんよ)

 僕は、ヨネさんに小声で伝えた。

 ヨネさんはうなずく。僕のスキルのことを察してくれたようだ。


「信じてみたらどうですか」

 ヨネさんが言う。

「そうだな。これからちゃんとやってくれるか?」

「ありがとうございます。これからはきっちりとやります」

 セラーは深々と頭を下げた。


「それと、孤児院のことも相談してくれたらよかったのにな。売り物にはならない野菜もあるし、麦も、そこの一袋を持っていってやれ。お金はいらないぞ」

(本当にいい人たちだなあ。セラーさんもクズではなかったようで、実はいい人だったし……)

 なんとなく、この世界に来られてよかった、そう感じてきていた。


 セラーは、何度も頭を下げながら野菜と麦を積んだ荷車を押して帰っていった。

 それから僕は、これからする仕事のいくつかを教えてもらった。

 しばらくの仕事は、村の家をまわって収穫物を集めることだった。


*****


 その日の夜、僕はステータスを確認してみた。

  〈数学 B〉

  〈荷物運搬 F〉

と増えている。今日、簡単な計算をしたときにステータスが追加されたようだ。

 〈数学 B〉と最初からレベルが高いのは、学校での勉強のせいだろう。



******


 それからは、ヨネさんと村長の家へ行って農作業の手伝いの毎日だった。

 夜に寝る前に確認すると、〈栽培〉など、いくつかのスキルが増えていた。もちろんFのままだが。


 村長もヨネさんもやさしく、日本に居たときとは正反対ともいえる穏やかで幸福な日々を過ごした。ここでは数字に追いかけられることもない。誰かと比べられることもない。


 あれからセラーさんも頻繁に来る。

 もう、お金をごまかすこともない。誠実に商売をしているようだ。

 孤児院に寄付する食べ物ももらって、本当にうれしそうだった。


*****


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