暗躍するバルドリアン
「準備があるから1週間ほど時間をくれ」
バルドリアンは、そう言う。よく見るとニヤけている。
「また詐欺をしかけるの?」
「失敬な。今回は真っ当な商取引だよ……。たぶん」
バルドリアンが準備?をしている間に、僕たちは塩の採掘を進めた。
辺境伯領に塩が見つかったことは秘密にしてくれ、バルドリアンはそう言い残していた。
だから採掘には、辺境伯軍の兵士を動員した。彼等なら秘密を守ってくれる。
兵士たちが、ツルハシで塩を掘り出していく。王国に名を轟かした兵士たちが塩の採掘とは、もしかしたら屈辱ではないのかと心配もした。
「これは鍛錬になりますな」
兵士たちは、笑顔でツルハシを振る。その力強い一振り一振りが塩を掘り出していく。
「お役に立てるのがうれしいんです。私たちは、勝手について来たようなものですから……。それを受け入れてくれた主に、少しでもお返しがしたいんです」
まわりの兵士たちも、ウン、ウンとうなずいていた。
掘り出された塩は、袋詰めをされて積み上げられていった。それを運ぶのも兵士だ。5000人もいるのだから交代で作業をして、あっという間に辺境伯の屋敷の蔵がいっぱいとなった。ざっと30トンはあるだろう。
*******
バルドリアンが戻ってきた。またニヤニヤしている。うまくいったのだろう。
それからバルドリアンの指示で次々と準備を進めていく。
翌日に、屋敷に商人が集められた。
もちろん、ターゲットにしているぼったくり商人もだ。
数十人の商人の前に、一人の男が出てきた。ヴィリギスだ。なぜ?
「私はカッツェンシュタイン公の執事をしておりますヴィリギスと申します。公は、この地の住民の塩不足を心配されて、その購入の費用を出すと申されました。今、この地には1万以上の住民がおります。一人1キロの塩を購入するとして10トンの塩が必要です。それで、いくらでもかまいません。みなさんの言い値で買います。10トンの塩をご用意ください。ただし、早い者勝ちです。10トンになった時点で購入は打ち切ります。何かご質問は?」
一人が手を挙げた。セラーだ。
「言い値とおっしゃいますが、例えば王都なら1キロ2000円くらいです。それが1キロ1万円でもよろしいんですか?」
「ええ、1キロ1万円でも、2万円でもかまいません。10万と言われても購入します。それぐらい、この地では塩が必要になっています」
「公爵は、そんなに払えるのか?」
「バカ、公爵の財力はトップクラスだ。まあ、あまりふっかけすぎて睨まれても困るがな……」
ヒソヒソと話しているのが聞こえた。
「10トンになった直後に安い塩が入ってきてもですか?」
「はい、値段ではなくて早さを優先します」
「一度に10トンは難しいのですが、最初に3トンを納入してもよいのですか?」
「はい、その場合は次の7トンが、ほかのどなたかになるかもしれません。とにかく全体で10トンになるまで購入いたします」
また、一人の男が手を挙げた。どうやらこいつがぼったくりらしい。いかにもクズの顔つきだ。
「失礼ですが、本当に公爵様がそう言われたのですか?」
「ここに、公爵様直筆の署名入りの文書があります。正式な印も押されております。これを偽造したとなると、私だけでなく、辺境伯様の首が飛びますね。ここに掲示しておきますので、詳細はこの文書をご覧ください」
ヴィリギスは、横にあったボードにその文書を貼った。
男は前に出てきて、食い入るように文書を見る。
「それではご質問はございませんね。ではみなさんよろしくお願いします」
「急がねば……」
ぼったくり商人は、部屋を飛び出していった。後にも何人か続いて飛び出す。みなぼったくり商人だ。
「残ったみなさんには、もう少しお話しがあります」
ヴィリギスが、それまでの厳しい表情を崩して微笑みながら話を始めた。
*****
それから二日後、屋敷には山のような塩が届いた。ずいぶんと急いだのだろう。
「私が早かったな」
「いや、私のほうが早かった。門の中に入ったのは私だ」
「お前が入ったとしても、塩が入っていないじゃないか。最初の塩を持ち込んだのは私だ」
3人の商人が言い合っている。
そこにヴィリギスが出てきた。
「みなさま残念ですが、すでに10トンの塩は納品されています」
「そっ、そんなバカな……。もう王都や周辺には塩が全くないはずだぞ」
「ええ、そうだとは思いますが、一昨日の説明会の後にこの地で岩塩が発見されたのです。それを納品いただいたので、早かったのですね」
「それじゃあ」
「お持ち帰りください」
ヴィリギスは冷たく言い放った。
「塩は本当にあるのか?」
納得いかない商人が聞く。
「こちらへどうぞ」
ヴィリギスは蔵へ案内した。そこにうずたかく積み上げられた塩の袋があった。まだ信用できない商人は、いくつもの袋を開けてみるが、どれも塩だ。
「もう破滅だ……」
3人の商人は、その場にへたりこんでしまった。
さらに翌日、2人の商人が塩を運んできたが、まったく同じリアクションだった。
「彼等の財力は知らないけど、かなりの損失になるよ」
バルドリアンは、何をして何が起きたのかを説明してくれた。
まず、公爵家に戻り、公爵様に文書を用意してもらってヴィリギスを借りた。
それから王都の塩を取り扱っている業者に接触した。そこはクレバーが協力してくれた。
辺境伯領での塩のぼったくりをしている商人がいることを伝えると、
「なんてクズな奴らだ。商人の風上にもおけない」
と怒ってくれたという。
それと辺境伯領で膨大な岩塩が発見されたことも伝えた。
「それは困ったな……。塩の値段が暴落する……」
そこで、王国内の製塩業者で、塩の製造・出荷量を管理・調整する機関を立ち上げることを提案した。これで暴落が防げる。
「それはありがたい。何でも言ってくれ」
塩の業者は、完全に味方になってくれた。
ぼったくり商人は、こうした塩の業者をまわって塩をかき集めた。バルドリアンからの話もあって、どの業者もぼったくり商人にふっかけてくれた。
「普段は、商人の仕入れ値は1キロ300円くらいだが、塩がたりないんだと1キロ5000円くらいにしてもらった。それで10トンだから、5千万円だ。それ以上の金を出した商人もいるだろうな。それでも買ってくれたそうだ。だから業者が一番儲けたな」
バルドリアンは、笑いながら言った。
「それに運搬の代金。往復だからかなりになる。ざまあみろだ」
それを聞いて、僕もスッキリした気持ちになった。
説明会で残った人たちには、ヴィリギスから次のような説明があった。
「ここに残られた方は、おそらく10トンの塩を集めることは難しいかと存じます。それに無理をしないでください。10トン集まりましたら、みなさんには各家庭への配布のご協力をお願いします。販売で得られる利益以上の手数料をお支払いします」
これから領地で協力してもらいたい真っ当な商人は手厚く対応をするのだ。
「さて、とどめを刺しに行こう」
「何をするの?」
「いいから来て」
バルドリアンに連れられて街道に来た。ぐったりと落ち込んだ様子の5人の商人が大量の塩を運んで王都に戻ろうとしている。
それぞれ、何かを言い合っているようにも見えた。
「雨が降らないかな」
バルドリアンがそう言う。それで僕は理解した。
ਪਵਿੱਤਰ ਆਤਮਾ ਦੇ ਨਾਮ ਵਿੱਚ, ਮੈਨੂੰ ਪਾਣੀ ਦੀ ਸ਼ਕਤੀ ਪ੍ਰਦਾਨ ਕਰੋ.
僕は呪文を唱えた。
その瞬間、商人の荷車が水に包まれた。塩は水に弱い。水は布袋を浸透して塩を溶かす。
商人たちは慌ててはいるが、何もできない。布袋は、どんどん縮んでいく。塩が溶けて流れているのだ。
その後、布袋だけになった荷車を商人たちは呆然と見ているだけだった。
「また、魔法の力が上がったな」
バルドリアンが感心している。確かに、少しずつ上がってきていた。
少しやりすぎのようにも思ったけれど、この領地に手を出すやつは許さない。その決意の表れでもあった。
******
これで塩の問題は解決したが、課題はまだまだある。
今日も、寝室でセシリアと話をする。やはりこれが楽しいし、癒やされる。
「今日、料理人の方たちと、山に山菜とかを採りにいったの。そこで見つけたの」
そう言って、皿に盛られた山葡萄を出してくれた。甘いが、かなり酸っぱい。
「酸っぱいでしょ。でもそれで疲れがとれるのよ」
今日もバルドリアンと領地内をまわっていたので、身体を気遣ってくれていたのだ。
「見て、これ。真っ黒だけど、艶々と光っていてきれいで、不思議な石でしょ」
セシリアは、僕に真っ黒な石を手渡してくれた。光っていてきれいだが手に黒いものが付く。〈鑑定〉で見ると”石炭”だ。
「石炭だ……。これをどこで?」
僕の真剣な表情を見て、そんなにすごいモノなの?と不思議そうな顔をしている。
「えっ、これは南の山の入り口あたりで拾ったの。ちょうど馬車を降りたところで、まわりは荒れ地で何もないところよ」
「そうだ! 資源だ……。セシリア、またお手柄だ!」
辺境伯領の課題を解決する糸口が見えた。
僕はうれしくってセシリアを抱きしめた。彼女の顔は真っ赤だ。
とんでもないことをしてしまったと、慌ててセシリアを放した。
「大丈夫よ……。ちょっとうれしかった……」
真っ赤なままそう言う。僕は、どうリアクションして良いかわからない。二人で黙ったまま、時間が過ぎていく。
翌朝、バルドリアンをたたき起こす。
辺境伯領にとって、大きな一日になるはずだ。
わかりやすくするため、時間や距離、長さ、重さ、そして通貨などの単位、名称はなどは地球のものに翻訳してあります。ご了承ください。
ブラウザで翻訳ができる方は、翻訳してみてください。呪文の意味がわかります。




