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セシリアが……

 アルブレヒト辺境伯爵領へは、馬車で向かった。僕とセシリア、バルドリアンの3人だ。


「何か話せよ」

 バルドリアンが、少しあきれた感じで言う。

 僕とセシリアは、婚約以来、何かギクシャクしていた。会話も続かない。

「ええと、今日も良い天気だね」

「そうですね……」

 天気の話題は、無難で鉄板だ。

「どこがだ! 曇ってるじゃないか!」

 バルドリアンが突っ込む。

 こんな調子で辺境伯領へと向かっていた。


 オストールを出てから3日で辺境伯領に入った。

 確かに荒れた土地だ。緑が少ない。むき出した土に、所々に薄い草が生えている。

 畑らしいものも見えない。

 西部劇の映画で見たような風景だ。

 

 宿場町もないから、夜は馬車で眠る。遠くに狼の遠吠えが聞こえた。

 そんなところだ。


 翌日には辺境伯の屋敷についた。

 前の領主の屋敷をそのまま引き継いだのだが、それほどきれいな建物ではない。やはり、元々貧しい土地なのだろう。


 アルブレヒト辺境伯が直々に出迎えてくれた。

「よく来てくれた。我々が無事なのも君のおかげだと聞いている。本当にありがとう」

 そう言って、僕の手を握った。

 その横には、ゴツトツ国を一緒に脱出した夫人たちの姿もあった。

「ご無事で……」

 その姿に、思わず涙がこぼれた。

「こちらこそ、ありがとうございました」

 夫人たちは、そろってきれいなお辞儀をした。


 一緒に脱出した夫人たちが伝えてくれたおかげで、辺境伯をはじめ、みなさんは僕を信頼してくれているようだった。居心地がいい。


「それでは食事を用意してありますので、こちらへ」

 広いダイニングテーブルには、辺境伯の家族、そして部下の一同がそろっていた。 

 長男で嫡子のベルンハルトは近衛兵を辞して、父親のサポートをすることになっていて、辺境伯の隣に座っていた。


「格好をつけることはしない。これが今の我々のすべてだ」

 辺境伯はそう言う。ここに来る前に、この領地は貧しいことは聞いていた。それを最初に伝えるために、この晩餐が用意されていたようだ。

 ぱっと見たところは、量はあるが、豪華とは言えない料理だ。豪華な料理を無理に用意されるよりも、好感がもてる。やはり実直な人柄なのだ。


 しかし、セシリアは違った。

「タク、見てこの料理……」

 目が輝いている。

「この材料は栃の実ですよね。天日で干してから灰汁でアク抜きをして、さらに水でさらして……、何回も、何日も。ものすごく手間がかかってますね。だから美味しいんです。それにこの山菜は、そのままでも美味しいのに、一度干してますね。こうすると柔らかくなって……。なんてすばらしい料理なんでしょう」

 セシリアの饒舌が止まらない。


「ほう、よくご存知で」

「彼女は、料理が得意なんです」

「本当に素晴らしい料理ですわ。どれも一仕事も二仕事もされていて、少しでも美味しくしようという気持ちが伝わってきますわ。タク、この肉も食べてみて。よく熟成されていて、あと一日経つと腐ってしまうかもしれない、そのギリギリのところで調理しているの、肉をよく知らないとできない技法だわ」

 確かに、今まで食べたことのないような柔らかさで、美味しい。お金をかけずに、手間をかけて、最高のものでもてなそうという辺境伯の気持ちが伝わってくるようだ。


「わかってもらえてうれしいわ。後で料理人を紹介しますね」

 辺境伯の夫人が、うれしそうに言う。

「ぜひ、お願いします。この技法はぜひ知りたいですわ」

 セシリアは、この場にいたすべての人の心をつかんだ。

 誰もが粗末な料理だと引け目を感じていた。それが大絶賛されたのだ。しかももてなしたいという真意を汲み取って……。これはうれしい。

「タク様という婚約者がいなければ、ベルンハルトの嫁に迎えたいところですわ」

 夫人は、マジにそう考えているようだった。


 それからの話はスムーズだった。辺境伯は隠すところなく、領地の現状を話してくれた。


 まず、第一の課題は食料だった。元々8000人の領民のところへ辺境伯を慕った私兵が5000人も来た。これで、もうパンクだった。

 それに、前の領主がここを去るときに、「反乱軍と対するために」と臨時の税を徴収していた。本来ならば、その前の領主が悪いのだが、領民の矛先は、反乱軍だった新領主へと向かったのだった。だから、領民とはうまくはいっていない。

 そして追い打ちをかけたのが商人だった。値段を上げて暴利をむさぼる。そして、おきまりの借金奴隷としての人身売買だ。

 そのほかにも、木々が少ないので燃料不足だったりと、課題は山積みだった。


「なんとかできるのか?」

 辺境伯から、そう尋ねられたが、全力をつくします、と答えるだけだった。


******


 僕たちの寝室は、屋敷に用意されていた。

 ところが、僕とセシリアは同室だ。しかもベッドが1つ。

「バルドリアンがしくんだんだな……」

 そう思ったが、時はすでに遅し。


「セシリアがベッドで寝なさい」

 そう言うが、

「タクのほうが疲れているし、明日からのお仕事も大変でしょ」

と僕を気遣ってくれる。一緒のほうが寝れないのだが……。

 お互いに主張し合ってはいたが、堂々巡りで、結局一緒に寝ることにした。

 風呂上がりのセシリアは良い匂いがする。寝息も聞こえる。ドキドキがとまらない。

 でも疲れていたので、その日は何事もなく眠りに落ちた。


******


 翌日から、バルドリアンと僕は活動を開始した。

 特に何かをしなければということはないので、まず街へ出て、情報を集めることにした。

 幸い、僕らの顔は知られていない。


 街へ出て驚いたのは、物価が異常に高いことだった。特に塩だ。内陸にあるこの領地は外から塩を買うしかない。それが以前の10倍以上になっていた。

「商人がこの値段でなければ売ってくれないの」

 商店主は、申し訳なさそうに言う。


 すぐにセラーに連絡をして、大量の塩を送ってもらうようにしたが、それも途中で妨害にあった。どうやらクルップ商会がまた関わっているらしい。

 あいつらは本当にクズだ。

 弱い人をさらに追い詰めるのが、あいつらのやり口だ。


 娘を借金の形に奴隷にされそうな領民がいた。これは、辺境伯から支払いを待ってもらうように働きかけた。ただ、できることはそれまでだ。借金の肩代わりまでの余裕はない。


******


 夜にセシリアと寝ることにも、少しずつ慣れてきた。といってもまだ手を握ることすらできない。僕のヘタレは筋金入りだ。


 その代わりに、よく話をできるようになった。今日は何をしたのかを話し合う。楽しくて、それだけで十分だった。


「どうして畑を増やせないの?」

 セシリアが疑問に思って聞いてきた。

「塩が含まれている土地があって、作物がよく育たないらしい」

「でも……、塩がなくて困っているんでしょ」

「あっ!」


 セシリアの一言から一筋の光が見えた。


 翌朝早く日の出とともに、まだ寝ているバルドリアンをたたき起こした。

 そして馬を借りて飛び出そうとした。

「どこへ行かれるのですか」

 あのニールス・フォクトマンとデニス・バグナーだ。朝早くから鍛錬をしていたという。

 塩を探すのだと伝えると、

「我々が案内します」


 まず畑に向いてないと言われている地方に向かった。

 近くまで来て、僕は〈探査〉を使った。

 すると見つかった。5キロほど東に大きな塩の塊がある。

 これが原因で畑にならないのだ。


 東に向かう。気持ちははやる。少しでも早く、そう思った。ただ、2人の若者の馬は、とてつもなく早い。僕も、ここのところ乗馬の練習をしていたのだが、ついていくだけで精一杯だ。

「あの早馬をもらえたんです」

 それなら、ついていけるはずもない。


 10分ほどで目指すところに着いた。

 そこには、干上がった小さな湖があった。そこを埋めているの真っ白な塩だ。岩塩だ。

 そばに降りて、舐めてみた。

「しょっぱい」

 確かに塩だ。それも膨大だ。

 ここは高い山に囲まれ、雨雲がずれて雨が少ない。だから溶けずに塩のまま残っていたのだろう。たまの雨で染み出た塩が、近くの土地を侵していたのだ。


 すぐに辺境伯に伝えて採掘にきた。

 辺境伯も大喜びだ。もう、領民が塩で困ることはない。また、逆にこの塩を近隣に売れる。掘るだけだから、安くもできる。収入の道も見えた。


「せっかくだから、あの商人に一泡吹かせないないか?」

 いたずらっぽく言う。さすがにあの公爵様の息子だ。

「それはいいね」

 それでは、どうするか。バルドリアンを見ると、ニヤニヤしている。もう何か考えたようだ。


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