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反乱の終結、そして……

 帰り道は、フィヒテル王国の手配によっていたれりつくせりだった。

 夜の宿泊は、経路上の貴族の屋敷で豪華な食事でもてなされた。

 でも……、心は晴れない。

 夫人たちは准貴族階級だから、応対してくれた方々への儀礼も完璧だが、心はここにはない。

 僕も同様だ。反乱軍がどうなったのか、それがずっと気になっていた。


 3日目。予定どおりならば、ニールス・フォクトマンとデニス・バグナーの二人の若者は、戦場に到着しているはずだ。

 しかし、情報はまったくない。不安に押しつぶされそうだ。

 僕らは馬車だから1週間はかかる。その馬車の中では、誰もが一言も発しない。


 5日目にヴェステンランドに入った。もう大勢は決しているのだろうか。

 フィヒテル王国の馬車だが、乗り換えることなくオストールまで連れていってくれるという。


 ただ、久々のヴェステンランドは、戦時独特のピリピリした雰囲気はなくなっていた。

 街道を歩いている人がいたので状況を聞いてみた。

「戦争?とっくに終わったよ。反乱軍が降伏して終わりだったよ」

 それを聞いて、僕はこみ上げてくるものを感じた。僕たちは、本当にやったのだ。クレバーと顔を見合わせて喜んだ。


 しかし、それを聞いた夫人たちの表情は暗い。

「これからご主人の処遇が決まるからだろう……」

 クレバーが、僕に耳打ちした。そうだ、夫人たちのご主人は責任ある立場だ。処刑ということもありえる。だから僕たちのようには素直には喜べない。


「ゴツトツ国の軍はどうだったの?」

「ゴツトツ国の軍?そんなの聞いてないよ……。辺境伯軍の反乱だったんじゃないの」

「ああ、そうでした……」

 戦争は終わった。ゴツトツ国の軍も届かなかった。それが結論だった。

 本来なら喜ぶべきだろう。しかし重い空気をまとったまま馬車は走り続けた。


 馬車は、僕たちの街であるオストールを抜け、最前線の軍の陣地まで行く。そこには降伏した反乱軍がとどまっていた。夫人たちをそこに届けるのだ。


 そこにはヴァイスとクリスティアンが待っていた。

「よくやったな」

 会うなり、僕の肩を思い切り叩かれた。僕とクレバーが関わったことは極秘のはずだが、この二人には知らされていた。おそらくクリスティアンの父親からなのだろう。


 夫人たちは、馬車を降りて、迎えの兵士たちの前に整列した。

 その凜とした佇まいは美しかった。静かで、まっすぐな眼差しには、何か、すべてを悟っている、そのような感じがした。


「私たちはどのような処分でも受け入れます。ただ1つ、できれば私たちの子どもの処遇についてご配慮いただきたくお願い申し上げます」

 リーダー格の夫人が頭を下げて、そう述べた。

「わかりました。私の父はシュパイエル辺境伯です。みなさんのご要望は父からあげてもらうように伝えます。そしてみなさんのお子様は、何かありましたら我が家で責任をもってお預かりいたしますので、ご安心ください」

 クリスティアンが夫人にそう答えた。

「おお、あの北の狼の……。失礼しました。ご配慮いただき感謝いたします」

 その振る舞いは気高く、どこまでも騎士の妻だった。


「覚悟はできているんだな」

 クリスティアンが、僕にささやいた。

「覚悟?」

「ああ、ご主人が処刑されると後を追うんだろうな」

「そんな……」

 まだ、確定してはいないが、どんな理由であれ反乱を主導したのだから処刑される可能性は高い。

「どうにかならないのかな」

「僕も父には伝えるけど、それ以上のことは僕たちにはできない……」

「そうだよな」


 ここで別れることになる。

「これまでありがとうございました。さようなら」

「さようなら」

 夫人たちは、同時に頭を下げた。その言葉には今生の別れを意識させた。

 僕とクレバーは黙って頭を下げるだけだった。

 あの湖を脱出してからずっと一緒だった。

 森の藪を抜けるのにドレスを破き、少ない食べ物を子どもたちと分け合って、そして僕のような平民にも礼儀正しく接してくれた。

 あのクズ王子が生き延びて、この夫人たちが処刑されるなんてことになると……。

 

*******


 あれから3週間が経った。王国の正規軍は反乱軍を武装解除してから王都に引き連れていった。

 街には、平穏が戻った。


 そんなときにバルトリアンがランドシャフトにやってきた。

「処分が決まったぞ」

 反乱軍の処分について知らせに来てくれたのだ。

 僕は一緒のテーブルに座って彼の話を聞いた。


「まずマグヌスは極刑に決まった。最後まで王子のせいだと叫び続けたが、聞き入れられることはなかった。そして王子のグスタフは無罪だ」

「無罪?だって、王女様だって王子が背後にいることは知っていたのに……」

「政治的な判断だ。王も、そのあたりはわかっている。だからグスタフは王城内に謹慎になった」

「それだけ?」

「ああ、その代わりにアルブレヒト辺境伯とその長男、家族、そして部下はみな無罪で放免された。これまでの功績もあるからな。ただ辺境伯は領地替えとなったんだ」

「どこへ?」

「フィヒテル王国との国境の僻地だ……。まあ、良い土地とは言えない。ある意味島流しだな」

「そうか……。でもみんなが無事でよかった」

 僕は、あの夫人たち、そして子どもたちの顔を思い浮かべていた。よかった……。あの人たちなら生きていればなんとでもなるだろう。


「そして……」

 バルトリアンが、もったいぶっている。

「あの辺境伯領は、メサリーナの直轄になった」

「メサリーナ? 王女殿下?」

「そうだ。といっても実際に赴任するのは、何人かの貴族だが。まだ決まってはいない。でもメサリーナは、その土地と軍を手にしたことになる」

「もしかして、それが最初から狙っていたとか……」

「ありえるな……。あいつなら……」

 バルトリアンと王女、王子は従姉弟同士になる。幼い頃からお互いをよく知っていた。


「またお前に頼みがある」

 いつのまにかあの老人が、僕たちのテーブルに現れた。あまりの突然の出来事に、僕たちは言葉も発せずに固まってしまった。


「すまん、すまん。驚かせてしまったようだな。タク、このたびはありがとう。思った以上の成果を出してくれた。これはほんのお礼だ」

 そう言って、老人はビロードの布に包まれて小さな箱を出した。

「これを受け取ってくれ」

 僕は、それを受け取って箱を開けた。金色の小さなバッジが入っていた。

「こっ、これは……」

 それを見てバルトリアンが驚きの表情を見せた。

「何なの?」

「これは貴族の徴章ですよね?」

「ああ、そうだ。タク、褒美として子爵の地位を与えることになった」

「ぼっ、僕が貴族?」

「ああそうだ。それぐらいの仕事をした。ただ、本来なら王城で王から叙爵されるものだが、それをやると今回の裏側がバレてしまうのでな。それで形式抜きで叙爵することになったのだ。後日、お前の家に正式に子爵の徴、書類が王宮から届けられるので受けてくれ。今日は、嬉しかったので、わしが先に届けに来たのだ」

「ありがとうございます。といっても何がどうなるのか実感がありませんが……」

「そうだろうな。ちなみに領地はないからな。いくつかの貴族の特典があるくらいかな。税の免除とか」

 老人は嬉しそうに言う。本当に嬉しそうだ。


「それで、頼みとはなんですか?」

「ああ、それが本題だ。アルブレヒトの新しい領地は酷いところだ。そこにあいつを慕って5千人の兵士も一緒に行く。でも、それだけの人数を養える土地ではないんだ。そこで、タク、お前にしばらくアルブレヒトを手伝ってもらいたいんだ」

「僕がですか?そんな力はありませんよ」

「いや、お前ならできる。なんならアヒレス、お前も一緒に行け」

「僕を知っているんですか?」

 いきなり、バルトリアンを本名で呼んだ。

「ああ、もちろん。カッツェンシュタインの三男だろう。将来の領地経営の勉強になるぞ」

「わかりました。おもしろそうですね。ここのところ退屈していたので、いい暇つぶしになりそうです」

 バルトリアンは即決で快諾した。


「ちなみに、ご老人。あなたは何者なんですか?子爵の徴章を持ってこれるなんて普通はできませんよ」

 バルトリアンが聞いた。さすがに貴族社会に詳しい。

「それは、まだ知らんほうがいいだろう。それじゃあ、またな」

 そう言って、老人は音もなく消えてしまった。


「もしかして、あの老人は……」

「バルトリアン、何か心当たりがあるの?」

「いや、そういうわけではないが……。今は知らない方がいいかもしれない……」


 こうして、僕は、アルブレヒト伯爵領へと行くことになった。

 といっても、すぐではなくて3カ月後である。伯爵もすぐに行くわけではない。いろいろと準備もある。


 はたして、僕は何ができるのだろうか……。

 それにこの街でやり残したこともある。まずはそれからだ。


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