王女からの依頼
その日も早めに王女が住む離宮に着くようにした。
ルイーゼさんは、当然のように僕を待っていった。背筋がピンと伸びて完璧な侍女モードだ。
「今日は、どんなご用なんですか」
「私も承ってはおりません」
ルイーゼさんが緊張している。返事が堅い。何かあるのだろうか。黙ったまま僕を部屋に通した。
部屋ではすでに王女が待っていた。今日は、普通のドレスだ。胸を強調するわけでもなく、清楚な聖女のイメージでもない。それでも美人なのには変わりがなかった。私ってきれいでしょ、そういうオーラがひしひしと伝わってくる。
そして、王女の横には全身が黒いマントに包まれた老人がいる。
「王女殿下には……」
僕が型どおりの挨拶をしようとしたが、王女がそれを手で遮った。
「よい。話というのはほかでもない。反乱のことだ」
意外な言葉に、戸惑ってしまう。僕に?
「わかりました。それでは何をすればよろしいのでしょうか」
王女にNoは言えない。
王女は、横の老人を見てから話し始めた。
「今回の反乱はな、裏で兄上が糸をひいていたのだ」
まさか、あの王子が?なぜだ?僕の頭の中では?が飛び交う。
「兄上……、あのクズが、辺境伯の兵力をほしいと思ったのが始まりなのだ。それでマグヌスを唆した。あいつもバカだからな。反乱が起きて、平定すれば兄上は英雄になれるし、国の防衛の要だからと兄上の直轄にするつもりだったんだ。あのバカが……」
王女は、あきれと怒りで、言葉の端々がきつい。
「それも、あの”北の狼”にいいようにやられたことへの復讐として考えていたらしい。本当に自分のことしか考えないバカだ」
「タイミングを見てマグヌスが兄上に降り、兄上はマグヌスを辺境伯の後継にする、そういう予定だった。それがマグヌスが兄上を裏切った。どうやら自分の力で王国を征服できると考えたのだな。どうしようもなくなった兄上は、知らぬ存ぜぬを決め込むつもりだ。それが今の状況だ」
「それで私に何をしろと?」
「それは私が話そう」
横にいた老人が話し始めた。何者だ?〈鑑定〉を使おうとした。
「おっと、私に〈鑑定〉は効かんぞ」
「失礼しました」
「ああ、気にするな」
でもいったい何者だろう。
「マグヌスは、辺境伯領でも最悪の評判だった。父の辺境伯が厳しくしていたが、辺境伯がひとたび戦場に出ると好き勝手をする。跡を継げないことへの不満もあったようだ。それがなぜ反乱を起こすのに将兵が従ったのか?それは、有力な将兵の家族を人質として監禁しているからなのだ」
「監禁ですか?」
「そうだ。その監禁場所がわかれば反乱は一気に終結だ。だがその場所がわからない。私も、〈探査〉は使えるし、目や耳になってくれる部下もたくさんいる。それでも見つからない。それで君に手伝ってもらいたいのだ」
「僕にできるのですか?」
「ああ、私の部下がオストールで起きたことを調べていると、必ず君の名前が出てくる。〈探査〉のスキルもあるようだし、獣人族も協力してくれるのだろう。私が直接辺境領へ出向けば可能だろうが、年だからな。だから代わりに行ってほしいんだ。これは軍には頼めない。かといってなんとか商会に頼むのももってほかだ。信頼できる個人でなければならないんだ」
「それで戦争が終わるのであれば」
老人は、微笑んでうなずいた。
「私からも頼む。いや命令する。国民のために少しでも早く戦争を終わらせたいのだ」
「王女殿下らしからぬ発言ですな」
老人が笑って言う。僕もそう思った。国民のため?
「一応聖女だからな。それに”私の国民”、”私の国土”が好き勝手されるのは許したくないの。こうしてご老人にも恩を売れるのも悪くはないでしょ」
王女が照れながら反論をしている。もしかして王女は良いやつなのか?
「それでは、詳しいことはルイーゼを通してお伝えしましょう。ただし、このことは信頼できるものだけに話すように、そうでなければ……」
老人はそう言って指で首を切る真似をした。僕は黙ってうなずいた。
「公爵様はご存知なのですか?」
「叔父上か?知ってはいるだろうな」
「正式ではないが、ほぼ同じことをつかんでいるはずだ。そして、すでに独自に動いてもいるはずだ」
「承知しました。それでは公爵様と一緒に動いた方がいいのではないでしょうか」
「いや、別に動いてくれ。腕は2本あったほうがいい。どちらかがケガをしても、なんとかなる」
「わかりました。独自に動きます」
「頼んだぞ」
王女にそう言われてから、部屋を後にした。
「王女殿下のスキルを使う必要はなかったですな」
部屋の中からは老人の笑い声が聞こえてきた。
それにしても、あの老人は何者なのだろう。王女も、「ご老人」と呼び敬意を持って接していた。あの王女がだ。
それにルイーゼさんの緊張も気になる。それはあの老人に対してなのだろう。おそらくそれほどの人物なのだ。
でも、これから何をすればよいか、難しい宿題を与えられた。僕は王女の用意してくれた馬車の中で、それを考えながら街へと向かった。




