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侵攻する反乱軍

 知らないことから不安と混乱が生まれる。

 今、街で誰かに会うと必ず戦争の話になる。噂ばかりで、確かな話はほとんどない。誰もが不安なのだ。不安を少しでも解消したい。だから話すのだ。


 ”東の熊”はなぜ反乱を起こしたのか?目的は何なのか?王政打倒なのか?それとも王国からの独立なのか?わからないことばかりだ。


「極秘だからな。誰にも言うなよ」

 クリスティアンが現在の状況を教えてくれた。極秘だ、で始まる話はよくあるが、クリスティアンが言うのだから本当に極秘なんだろう。


「反乱を起こした理由は、王家による圧政からの国民の解放だと言っているそうだ。おそらく建前だと思うけどな。”圧政からの解放”をうたっているわけだから、王宮としては国民に知られるわけにはいかない。同調する者が続くかもしれないからな。だから極秘扱いなんだ。知っているのは、上位の貴族と王宮内の高官だけなんだ」

「わかった。誰にも言わない」


「そして、反乱を起こしたのは、アルブレヒト辺境伯の次男のマグヌスだ。辺境伯は、ケガの治療で王都にいて、長男で嫡子のベルンハルトは近衛兵として修行中で王都にいた。その隙に兵を挙げたのだ。それで2人ともすでに幽閉されている。場合によっては処刑されるだろう」

「その次男は、そうなることはわかっていたんでしょ」

「自分が跡継ぎになるために起こしたのだろうな。処刑された方が都合がいいはずだ。だから、圧政からの解放は建前なんだと思われている。」

「家の内紛か……」

「ああ、でも”圧政からの解放”をうたったおかげで、これまで占領した貴族領でも歓迎されているんだ。あのあたりの貴族は、クズみたいな政治しかしていなかったからな」

 確かに、そういう貴族は多いみたいだな。


「ただ一番の謎は、辺境伯の軍には有力な3人の将校がいるんだが、この3人が次男についた理由なんだ。3人とも忠誠心が強く、そして兵士からも慕われている。次男のマグヌスが反乱を起こすといくら言っても、3人の将校が認めないと兵は動かないらしい」

「”圧政からの解放”に賛成したとか?」

「いや、それは建前だとわかるだろう」

「そう言われると、確かに謎だな……」


******


 反乱が起きてから、公爵様に呼ばれることが多くなった。

「いろいろと聞いていると思うがな。知恵を貸してほしいんだ。お前がいた世界の知恵があればな……」

 そう言われるが、戦争に役立つ話は僕にはできない。すごい兵器があることを知っていても、それをつくることは僕にはできないし、この世界につくる技術もない。


 ただ、桶狭間の戦いのような話は、いろいろとできた。少ない兵で大軍を破った話だから、おもしろがってもらえた。でも役に立つのかどうかはわからない。

 時には公爵軍の将校、参謀が呼ばれていたこともあった。威厳があって、気安く話せる雰囲気ではなかったが、ロシアが焦土戦術でナポレオンを苦しめた話あたりは、関心をもってもらえたようだった。


 それと僕自身で、兵器を試作もしてみた。これで誰かが死ぬのは嫌だが、公爵様が、同じ国民だから最小限の犠牲者にしたいと言っていたので、その役に立てばと思った。

 原爆のような大量殺戮兵器ではないし、そんなに強力なものはつくれない。ただ、少しでも早く戦争を終わらせたい、そのためにと試作してみたのだ。


*******


 反乱から3週間が経った。

 これまで反乱軍が占領した貴族領は全部で5つ。王国全体の1割を越えるくらいになってきた。

 ただ、辺境伯領と占領された貴族領は、深い森や山々に囲まれていて、守りやすい地形らしい。だから王国軍はこの街の近いところで迎え撃つようになるだろうと言われている。

 今は、辺境伯の兵は動きを止めていて、王国軍とにらみ合っているだけになっているとも噂されている。


「このまま進軍してこないのでは」

 街では、それを期待してか、そういう噂が流れ、一時の緊張感がなくなってきていた。

 誰もが情報を自分の信じたいように解釈してしまう。自分だけは安全だと。


 しかし、その期待はあっけなく裏切られることになった。


*******


 反乱軍が動き出した。

 この街へ向かって一直線に軍を進めてきた。兵数は1万5千。

 その途中の貴族領を順に侵攻して、街の手前20キロくらいの台地に陣をはった。


 歩きでも半日の距離に最強の軍が布陣して街はパニックになった。

 そして侵攻された貴族領からは大量の難民が来ていた。その難民の姿が、また街の人の不安を煽ることになった。自分たちも難民になるのではないかと……。


 迎え撃つ軍は、防衛隊、王国の正規軍、そして各貴族の私兵。合わせて3万を越えたという。

 その全軍を街の外の平原に布陣した。

 防衛の要の街といっても、強固な壁があるわけでもない。いや、あったのだが、”東の熊”が強力だから不要だと、わずか30年で大部分が取り壊されたのだった。通行の邪魔になるからと。

 それで”東の熊”の侵攻を許すことになったのだから皮肉なものだ。


 倍近い兵数の差があるが、その兵力で対抗できるのか?誰もが無理だと思っている。

 逃げ出した兵がいるという噂も流れていた。


******


「君たちは逃げた方がいい。王都のルイーゼさんを頼るんだ」

 僕は、セシリアに言った。とにかく女性と子ども、お年寄りを逃がさなければ。

「でも、タクが……」

 セシリアは心配する。

「僕は戦うわけではないから、心配いらないよ。それに僕一人の方がなんとでもなるんだ。それにセシリアにはヨネさんをお願いしたいんだ。一番心配なんだ」

「わかった……。そうね、ヨネさんが一番心配だよね。でもホントに気をつけてね」

 僕は、大丈夫だよと、精一杯の笑顔で言った。

 これから多くの街の人が避難していくだろう。公爵様も、それを心配して炊き出しをしたりして援助している。


******


 戦闘の初日は、双方がにらみ合ったままで閉じた。

 反乱軍も、王国軍が何か罠を仕掛けている可能性もあると考えていたのか、様子見だけだった。

 王国軍は、落とし穴をつくったり罠を設置したりする時間はあったのだが、実際は何もせずにその日を迎えていた。


 しかし、その日の夜のことだった。

 

 猫族の男たちが十数人、反乱軍の陣地に忍び込んだ。それぞれの手には数本の瓶を抱えている。

 猫族は、夜でも目が利く。そして忍び足で音を立てずに歩ける。そして耳もいい。

 新月で真っ暗な闇を抜けて陣地に近づく。陣地の周囲には、かがり火が焚かれ、衛兵が見張ってもいる。

 でも、それは猫族にとっては、無いも等しい。びっちりと隙間無くかがり火が焚かれているわけではない。その火が揺れている合間のわずかな隙間を音も無く抜けていった。


 めざすのは輜重隊。荷車にたくさんの荷物が積まれている。その風上の荷車に、手にしていた瓶の中身をかけてまわった。中身は、蒸留で度数を高めた焼酎で、僕が開発をすすめていたものの1つだ。

 そして、それに火をかけた。


 アルコールの純度の高い焼酎は、油よりもはるかに燃えやすい。あっという間に数十台以上の荷車が燃え上がった。そして、それは強い風に煽られて、瞬く間に荷車全体に広がっていく。

「火事だ!」

 気づいた兵士が叫ぶ。

「早く消せ!」

「水がありません!」

 怒号が飛び交う。兵は走り回るが、どうすることもできない。無事な荷車を動かそうともするが、すでに火がついた荷車が邪魔になって、どれも動かせない。

 小麦が焦げる香ばしい匂いがしている中、兵士は、ただ呆然と燃えているのを見ているだけだった。


 猫族の男たちは、それを見届けると、混乱している兵の間をスルリと抜けて帰っていった。


 それからの反乱軍の行動は早かった。焼かれた荷車は兵糧だった。1万5千の兵の3カ月分の食料だ。これがなくては戦えない。

 侵攻した貴族領からの徴収を考えたが、領兵、領民が避難するときにすべての食料を持ち出していた。徴収しようにも食料がない。つまりは焦土作戦だったのだ。

 公爵様の参謀が、僕の話を参考にして、作戦を立案していたのだった。


 反乱軍は、あっという間に森の向こうまで撤退していった。こういうところも鍛えられた強兵は違う。


 翌日、目の前から敵がきれいに消えた陣地の跡を、王国兵は見ていただけだったという。

 誰一人死ぬことがないまま、反乱軍は撤退していったのだ。


 そして、同じ時に、アルブレヒト辺境伯の城の倉庫が火事になった。これも忍び込んだ猫族の仕事だった。前線の輜重隊以上の兵糧が焼けた。

 ”圧政からの解放”をうたっている手前、領民からの追加の徴収は難しいだろう。

 次の麦の収穫まで、兵を動かすことはできなくなった。


 わずかな時かもしれないが、しばらく侵攻はしてこないだろう。

 街には安堵の声が聞こえてきた。


 そんなとき、僕は王女に呼ばれた。何かあったときは、ルイーゼさんを通してのはずだったが、直接来いと言う。

 しかたなく、僕は王女のいる離宮に向かった。



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