獣人族の活躍
朝、牢で朝食を食べていると看守さんが来た。いつもなら取り調べだが、それにしては時間が早い。
「おめでとう。釈放になったぞ」
看守は笑顔でそう言って、鍵をあけた。
ヴィリギスは何度も面会に来てくれて、なんとなくだが釈放が近いことを匂わせていた。だから、近いとも思ってはいたが、実際に言われるとやはり感慨は深い。身体から力が抜けて膝が震えた。
看守に付き添われて、保安隊の建物の外に出た。そこにはたくさんの人が僕を待っていた。その光景に、ウルッとくる。
その中をセシリアが駆けてきて僕に抱きついた。顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
「よかった……。無事で……」
「心配かけたね」
僕もセシリアの背に手をまわした。
「ううん。絶対に大丈夫だと思ってた……」
「おかえり」
ヨネさんが、セシリアと僕の肩に手をやって言った。
「よかったな。おかえり」
と村長さん。
公爵様、ヴァイスさん、レナータさんにクリスティアン、クレバーにセラー、村の人たち、みんないて口々にお祝いを言ってくれる。そして、獣人族の人たちも。
公爵様は、こんな場だから、さすがに町民の身なりだ。貴族のスタイルなら、全員がひれ伏しているだろう。そう思うと笑いそうにもなる。
それからランドシャフトでお祝いの会になった。リアフさんは、その準備に追われていた。
昼間だけど、もう酒が振る舞われる。
「ありがとうございます。僕が出られたのもみなさんのおかげです。今日は、無料での飲み放題、食べ放題にしますので、どんどん飲んで食べてください」
僕が、挨拶をすると、「おめでとう!」と次々と言葉が飛んできた。
獣人族の人たちは、普段はランドシャフトに誘っても「迷惑になるから」と遠慮するのだが、今日は特別だ。店の中も外も人であふれていた。
それから、クレバーがこの事件について詳しく教えてくれた。
まず力になってくれたのは、狼系の獣人族の3人だ。
「騒ぎがあって来てみたら大変なことになっていて、床が血まみれでした。でも、俺たちはすぐに分かったんだ。あれは”ブタの血”だとね」
「ブタの血?」
「そう。それを保安隊に伝えたけど、まあ人の血もブタの血もああなっては区別はつかないからね。でも保安隊の面々は証拠にはならないと言いながら、タクさんの無罪を確信してくれていたよ」
「そういうことだったのか。保安隊の人たちはみんなやさしかったんだ」
「それで、翌日に保安隊が、男が担ぎ込まれた病院へいったんだ」
クレバーが補足する。
「ところが、もう死んでいて火葬もしてしまったと言うんだ。怪しいところだらけだけど、とにかく証拠が無い」
「そこで、また俺たちだ。保安隊の隊員に、ナイフの臭いを嗅がせてもらったんだ。俺たちの嗅覚は人類の1万倍だからな。でも1人だと不安なんで、こうして3人で臭いを覚えるようにしたんだ」
「それから、あちこちを歩いて回って、臭いをするやつを探してくれたんだ」
「まあ、本当に歩いたよな。毎日毎日。でも全然見つからないんだ」
「ここからは、あたしたちね」
ウサギ系の獣人族の女性陣だ。見た目もかわいい。妹がザロモン男爵に捕まっていたのが、僕のおかげで助かったと、お礼も言ってくれる。
「あたしたちは、死んだと診断書を書いた医者を探したの。保安隊が、病院で事情を聴こうとしたら出張した言うのね。どこに行ったとも病院は言わないの」
「俺たちも、臭いのわからないやつは探せないからな」
「それで、あたしたちが交代で病院へ通ったの。あたしたちの得意なのは耳だからね。何か手がかりが聞こえないかと思ったの」
そう言って、耳を揺らした。
「何日目かに、看護師がその医者の噂をしているのが聞こえたの。病院の地下室に隠れているとね。ストレスがたまっているみたいで、看護師に無理ばかり言っていたのよ」
「そこからは、俺だ。彼等に手伝ってもらってな」
クリスティアンが話に割り込んできた。横には大きな熊系の獣人族がいる。
「彼等に、病院の待合室で暴れてもらったんだ。これだけ大きいから保安隊では無理だ。防衛隊の出動だとね。そのまま地下室に行って、その医者を拉致したよ。王子から女の子を助けたのと同じやり方だ」
クリスティアンは、笑いながら言う。かなりお酒が入っているようだ。
「この事件は、クルップ商会が絡んでいたんだ。潜入させている手下からも報告があった。病院もクルップ商会が裏にいるんだ。暴力とか裏で起きているケガとかの治療に使われるための病院なんだ。医者もみんなグルだ。それで、この事件はあのドクトルが仕切っていたらしい。ドクトルとの知恵比べで負けるわけにはいかないからな」
クレバーが力を込めて言う。
「それでタクから聞いた〈釣り〉のスキルの連中だ。クルップ商会の根城の一つの港町があるんだ。船での密輸なんかに使っている港だ。この街からもかなり遠い。歩きだと1週間はかかる。隠れるにはうってつけだ」
「そこへ私たちが行ったの」
猫系の女性たちだ。ニケのお姉さん的存在だという。
「私たちは、夜に動くのが得意だし、視力もいいのよ。そして見つけたの。夜の港町の飲み屋街で酔っ払って歩いている手に三日月の傷のある男をね」
「俺たちも行ったんだ。クレバーさんが、そこだろうと言うのでついて行ったんだ。そして死んだはずのあいつの臭いがはっきりとそこにあったんだよ」
それから、ハンゼ商会のクレバーの部下を動員して、全員を捕まえて連行してきたそうだ。
そして、ハカセの出番だ。
「その港町まで行くのに時間がかかっちまったが、あとは簡単だったな」
クレバーが、自慢げに言う。
「全員が、金で雇われた関係だから、落ちるのも早かったよ」
その後、保安隊へ連れていき、すべてを吐かせて、そのまま投獄されたという。
僕のために、こんなにたくさんの人たちが……、そう考えると涙があふれてきた。
「ありがとう、本当にありがとう」
深く頭を下げた。
「何を言ってるんだ。俺たちもタクさんのおかげでどれくらい助かっていると思ってるんだ」
「そうだよ。働くところも、住むところも用意してくれたし」
「孤児院もつくってくれたんだよな」
「あの男爵から娘を助けてくれたんだ。もう、何でもするよ」
もうダメだ。涙が止まらない。
そんな僕の肩に公爵様が手を乗せた。温かい手だ。
「こうして人をつなげるのが、お前の最大の力だな。スキルとかじゃない」
僕はうなずくだけだ。
「ようし、まだまだ飲むぞ!」
公爵様がそう宣言して、夜中まで宴会は続いていった。
横には、ずっとセシリアがいてくれた。またいなくなるんじゃないかと心配なのだそうだ。
でも、平穏な日は続かない。またドクトルの企みが動き出した。




