ケモミミの少女
ランドシャフトの休みに、セシリアを誘って買い物に出かけた。
本当は、二人で遊びに行こう、そう言えばいいのだが、やはり僕はヘタレだ。そういう誘い方はできない。だから、ヨネさんにいつもお世話になっているお礼をあげるので、それを選んでもらいたい、それを口実にして誘ったのだ。それでも楽しかったのだが。
「良い物が買えたよ。本当にありがとう。ヨネさんも喜んでくれるよ」
「ええ、きっと喜んでもらえるわ」
「帰ったら、ヨネさんと一緒にご飯を食べようよ」
「いいわね。私が何かつくるわ」
そんな話をしながら、帰路についたときだった。
「そいつを捕まえてくれ!」
その声に振り返ると、ケモミミの少女が走ってきた。しかも小さい女の子を両手でしっかりと抱えている。その後を男たちがおいかけてる。
僕がこの世界に来たばかりのときに、肉串を渡してきた少女だ。また、何かやらかしたのだろうか。
僕は、その少女の前に立ちはだかった。
「お願い、逃がして」
「ダメだ。そいつは俺の財布を掏ったんだぞ!」
追ってきた男たちがそう言う。
いったいどっちが本当なんだ。〈真実の目〉で見る。少女が青く、男たちが真っ赤だ。男たちが嘘を言っている。
「こっちだ」
僕は、少女を呼んで路地に入った。セシリアも続いた。
「待つんだ!!」
男たちも追いかけてくる。
僕は ਪਵਿੱਤਰ ਆਤਮਾ ਦੇ ਨਾਮ ਤੇ, ਮੈਨੂੰ ਬਰਫ਼ ਦੀ ਸ਼ਕਤੀ ਦਿਓ. と唱えた。
その瞬間、道路の一面に薄い氷が張った。
「氷魔法?」
セシリアが聞いたので、うなずく。追いかけてきた男たちは、その氷の上で滑って転んだ。
そのすきにいくつかの路地を通り抜け、ランドシャフトに逃げ込んだ。
******
「おっ、休みなのに来たのか?」
中に入ると、公爵様がいた。
「タク兄様だあ」
シシィと双子のアナとグレタもいる。
「どうしたんですか?休みの日に……」
「娘に会いに来たんだよ。他の場所でもよかったんだが……」
「レナータお姉様に、おやつを作ってもらうの」
アナとグレタが声を揃えて言う。
「そういうわけだ。それで屋敷よりもこっちがいいとなったんだ」
「そういうことなら私もお手伝いしますね」
セシリアが、そう言ってくれた。セシリアのおやつをよく知っている娘たちが喜んでいる。
「あっ、かわいい」
シシィが、僕が連れていたケモミミの少女をみつけて言った。確かに見た感じはかわいい。そして抱えていた女の子も、まるで子猫のようだ。
「どうしたんだ。いったい……」
公爵様が、僕が獣人の少女を連れていることを不思議に思って、聞いてきた。
「セシリアと街を歩いていたら、彼女が男たちに追いかけられていたんです。それで見ると、追いかけている方が悪い連中だったので、助けようと……」
「おかげで助かりました」
その獣人の少女が、半泣きで、事情を説明しはじめた。
名前はニケ、抱いていたのは妹のリケ。街を歩いていたら、突然男たちに腕を掴まれたと言う。
「ここのところ、獣人の女の子が連れ去られることがあったので、もしかしてそうじゃないかと思って、隙を見て逃げ出したんです」
「保安隊には言ったの?」
「そんなの無理です。私たちは獣人ですから」
「そうだな。獣人には差別意識を持っている者も多いからな。適当にあしらわれることが多いだろうな」
公爵様が、情けなさそうな表情で言う。
「そ、そんな……」
「残念だが、それが現実なんだ。俺もなんとかしたいとは思っているんだがな」
「できたわよ」
セシリアが、焼きたてのパンケーキを運んできた。上にたっぷりと生クリームと果物が乗っている。
子どもたちを見ると、もうリケとシシィ、双子は仲良くなっている。
「ねえ、その耳さわってもいい?」
「いいよ」
「わあ、モフモフしている」
やはり、子ども同士だ。獣人族だからと特別に扱うこともない。
そして一緒にパンケーキを食べて、満面の笑みだ。
僕も、公爵様とニケと一緒にパンケーキを食べる。甘く、ほっとした気持ちになる。無事でよかった。あらためて実感した。
そのとき、バタンとドアが開いて男たちがズカズカと入ってきた。
「みつけたぞ。こんなところに隠れやがって」
そしてニケの腕をつかもうとする。
「お待ちください……」
公爵様が、哀願するように言う。公爵様なら、止めさせることもできるはずだろう。でもやらないで哀願するのだ。また何かを企んでいる気配がする。
公爵様はお忍びで来ているので町人のような身なりをしている。娘たちも町娘だ。とても貴族には見えない。
そして、護衛が何人も来ていたのだが、店の奥に待機してパンケーキを食べていた。公爵様は、その護衛に手で、手出し無用と、合図もしていた。
「この娘が、いったい何をしたんですか」
「俺たちは、あのクルップ商会の者だ。貴族様の依頼で、罪人を捜していたんだ」
「商会?商会がですか?保安隊ではなくて」
「ああ、特別な罪人だ。だから俺たちなんだ」
しばらくすると、もう一人の男が店に入ってきた。いかにも貴族らしい身なりの、小太りな男だ。とにかく偉そうだ。
「いたのか?」
「ええ、見つけました」
「うむ。おお!他にもかわいい娘がいっぱいいるではないか!かまわぬ、こいつらも連れていけ!」
店を見渡して、セシリアやレナータさん、そして公爵様の娘たちに目がいったようだ。
「じゃあ、いつもの手で……」
貴族らしい男は黙ってうなずいた。
「お前たちはとんでもないことをしてくれたな」
クルップ商会の男が、大きな声で言う。手には、金色に輝く腕輪をもっている。
「このザロモン男爵の盗まれた腕輪が、この店で発見された。お前たちが犯人だ。貴族特権で、お前たちを屋敷まで連行するから、おとなしくしろ」
そう宣言した。
公爵様は、それをニヤニヤ笑いながら聞いている。なんか楽しんでいるみたいだ。
「ほう、私を、その貴族様の屋敷に連行すると?」
「そうだ。無事に済むと思うなよな。よくて強制労働だ。お前みたいな親父は、すぐにくたばっちまうぞ」
公爵様は、親父と言われて、ちょっとカチンときたようだ。
「それは、こっちのセリフかな」
手を軽く振って店の奥へ合図をする。
5人の屈強な男が出てきた。ドアの外を見ると、10人ほどが店を囲んでいる。公爵様の護衛の兵士だ。もう逃げ出すことは不可能だろう。
クルップ商会の男たちと、ザロモン男爵は、何が起きたのかと、キョロキョロまわりを見ている。
「名乗るのが遅れたが、私は、カッツェンシュタインと申す。一応だが、公爵の爵位を賜っておるが……。その私と私の娘たちを、でっち上げた罪で連行すると言うのだな」
そう言われても、男たちは状況を理解できていないようだ。
「ついでに言うなら、その娘はシュパイエル家に嫁ぐことになっておるが、それでも連れていくのか?」
「いや、嘘に決まっているだろう。公爵がこんなところにいるわけがない」
屈強な男たちに囲まれてビビりながらもザロモン男爵という男が必死の形相で言う。
「なんか、証明できるようなものを持っていないんですか?印籠とか」
日本の時代劇でありそうなシチュエーションなので聞いてみた。
「印籠?なんじゃそれは。まあ、証明するものなんていらんよ」
そう言うやいなや、またドヤドヤと男たちが入ってきて公爵様の前にひざまずいた。防衛隊だ。ヴァイスもいた。外にはクリスティアンもいる。外の者をあわせると50人以上はいるだろう。さらに店の外には保安隊も集まっていて100人以上になっている。店の奥にいた護衛が、最初の合図で各所へ連絡を飛ばしていたのだった。
「私が誰でもいいが、この状況で、どうやって連行していくのだ?」
公爵様は、いじわるそうに、ザロモン男爵の耳元でそう言った。
「いや、それは……」
男爵は、ようやく事態を理解したようだ。もう何もできずに顔面蒼白で固まっていた。
「連れていけ。」
公爵様からそう言われて、クルップ商会の男たちは保安隊が、そしてザロモン男爵は防衛隊が連行していった。
「楽しんでました?」
あまりに、意地悪そうな公爵様に、つい聞いてしまった。
「ああ、せっかくなので楽しませてもらったよ」
そう言って、公爵様は笑った。
娘たちも、何も心配をしていない感じで、一緒に笑っている。
「そうそう、ニケとリケと言ったな。家族はいるのか?」
ニケは首を横にふる。
「そうか、それなら今日から私の屋敷で働きなさい。食事と寝るところを用意しよう。侍女になっても良いし、庭師でも良い。それとも女性兵士か?何でもよいから何か仕事を覚えなさい」
「いいんですか?」
「もちろん」
そう言われてニケは、笑顔で何度も何度もうなずいた。
こういうところが公爵様だ。
******
後日、街に流れたニュースでは、ザロモン男爵は、何人もの獣人の少女を誘拐していたことが判明し、その罪で極刑となった。もちろん少女たちは全員無事に解放された。
クルップ商会の男たちも同罪で、中心になった男は極刑に、その下で働いていた男たちは30年以上の期間の犯罪奴隷となった。
商会は、男たちが勝手にやったことで、関係ないことを力説したが、国民からはどこまで信用されただろうか。
そして、僕はこの一件で獣人族とも関わりができ、それが僕にとって強力な力になった。ただ、これでクルップ商会に目を付けられることになってしまい、僕自身が大きな事件にまきこまれることになってしまうのであった。
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