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クルップ商会

「やられた。王女だ……」

 ランドシャフトの開店と同時にクレバーが来た。

「いったいどういうことだ?」

「それが……、あの絵本が……」

 クレバーが説明しようとしたとき、ドアがバタンと開いて防衛隊がドヤドヤと入ってきた。

「酒だ。酒をくれ」


 ヴァイスが、僕たちを見つけた。

「クレバーも来ていたのか」

「ああ、聞いたか?」

「聞いたよ。ひどい話だ」


 二人はわかっているようだが、僕には、何がなんだかわからない。

「いったい何があったんだ?」

「例の王都風邪の詐欺事件だよ。保安隊が捜査をやめやがった」

 ヴァイスが吐き捨てるように言う。

「だから、今日はみんなでやけ酒だ」

「防衛隊で捜査はできないんですか?」

「それが難しいんだ。防衛隊はあくまでも軍だから、保安隊を飛び越えての捜査はできない。協力することはできるんだが、保安隊がやめたことを防衛隊がやると越権行為になってしまうんだ」

「そうなんですか」


「それにな、この件も王女が絡んでいたんだ」

 クレバーも吐き捨てるように言う。ヴァイス同様に怒っているのだ。

「この間、出版した王女の絵本が引き金になっている。おそらく保安隊にもいろいろなプレッシャーがあったのだろう」

「どいうこと?」


 クレバーが怒り混じりで説明してくれた。


 王女から頼まれた絵本のストーリーは、次のようなものだった。


 あるところに信心深い貴族令嬢がいた。そして隣には不信心な貴族令嬢がいた。

 魔物が出る森に近いところだったので、教会が二人の令嬢に加護のお札を与えた。

 信心深い令嬢は、お札の加護で宝物を発見し、魔物からも身を守ってもらえた。

 しかし、不信心な令嬢は、宝物どころか虫や蛇に追いかけられ、魔物にも襲われてしまう。


 日本の「花咲かじいさん」や「こぶとりじいさん」のような物語だ。

 僕は、最初に読んだときには、どこにでもありそうな物語だと思った。


 そして、この絵本は「メサリーナ・バートリ著」、つまりは著者が聖女様ということで、ものすごく売れたのだ。僕たちも儲かったのだから、よかったとも思っていた。


「そして、この物語が本当のことだと信じられるようになったんだ」

「本当のこと?」

「そうだ。俺も最初に読んだときは、実際にあった話だと思ったよ。でも、あの王女と思ったら、作り話だと気がついたんだ。普通ならば誰でも作り話だとわかるはずなんだが、なぜだか事実だと信じてしまったんだ。それで俺の部下たちに読ませてみたんだが、みんな事実だと思っていたよ」

「事実だと思われたら問題なの?」

「絵本を読んだみんなが、王都風邪で売られたお札に効果がなかったのは買った者の信仰不足、つまりは不信心のせいと考えるようになったんだ。だから教会に責任はないと……。それで教会本部が訴えを取り下げたんだ」

「そういうことか……。これって王女のスキル?」

「おそらくそうだろう。巧みに物語を事実と思うように仕組まれていたんだ」

「〈虚言〉か……」


「あと医者については、多くの医者が反対意見をまとめて出してきたんだ。治療して回復しないと詐欺となるのなら、もう診療はしないとね。その医者たちを支持する貴族も出てきて、もう終わりだ」

 ヴァイスが説明してくれる。ヴァイスも結構怒ってる。


「そういうことで詐欺の捜査はおしまいということらしい」

 もう、どうしようもないとヴァイスもクレバーも、そして防衛隊の面々がやけ酒をあおった。


「ということは、わざわざ僕を呼び出して、新しい絵本を出版させたのも、詐欺の捜査を止めさせるためだったのか……」

「たぶん、そうだろうな。クルップ商会に潜入させているやつらから聞いたのは、そんな話だった」

「でも、なぜ王女は動いたんだ。もうザラブ男爵とも切れてるし、クルップ商会とも切れたんじゃないの?」

「単純に金じゃないのかな。やったことはタクを呼び出して命令するだけ。それだけで、絵本が売れれば印税も入るし、教会、商会、それぞれから金が入る。楽に金が入るんだもの」

 やっぱりそうなんだな。王女は金が一番か……。


「そういえばクルップ商会って、どんな商会なの? いつも悪さをして、問題を起こしているのはクルップ商会ばかりじゃない」

「そういえばタクには教えてなかったな」


「クルップ商会は、俺たちのハンゼ商会のような一つの組織じゃないんだ。いくつもの集団の集まりと考えた方がわかりやすいな」

 クレバーは説明してくれた。

「たとえば、俺とタクとが組んでクルップ商会の本部に金を払うと入ったことになるんだ。それから毎月の上納金を納める必要があるがな。その代わり、下手をうったときに守ってくれる。そういう関係だ」

 だから、クルップ商会を名乗っている輩はいっぱいいるそうだ。

 とはいえ、勝手な活動をすることはできない。守ってくれるのは、事前に活動を届けて認められたことだけだ。教会でお札を売りますとか、医者と一緒にニセ薬を売りますとか、そうした活動を事前に届け出る必要があるのだという。本部に届け出ないで勝手にやったことは、失敗しても何もしてくれない。

「そんなわけだから、クルップ商会といってもカスのようなチンピラから、結構大きな組織までいろいろいて、俺たちも実体はつかめていないんだ。でもおかげで、手下を何人も潜入させることもできているんだ」


「今回の絵本を使って詐欺の告発を取り下げさせるってのは、かなりの知能犯だよね」

 これまでの話から、僕はそう感じた。

「おそらくだが、ドクトルと言われている男がかかわっているんだろう。ドクトルは、謎の存在で、俺たちでもつかみきれていない。とにかく頭が切れるらしい。酒類販売公社を考えたのもドクトルと言われている。かなりの年輩だが、本当の名前も姿もまったくわかっていないんだ」

「ドクトルか……。いったいどんなやつなんだろう」


 クレバーの話を聞いていて、ドクトルが僕らにとっての一番の障害なんだろうと思った。ただ、今の僕たちに何かできることはない。

 そして、しばらくクルップ商会のチンピラたちに悩まされるのだった。



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