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アンタッチャブル

 あれから数日が経った。


 開店の準備をしているとクリスティアンがレナータさんとやってきた。行き帰りはいつも一緒だ。念のための護衛だという。

 婚約の話が出てからクリスティアンの行動は早かった。まず防衛隊の詰め所の隣の建物を買い取って、レナータさんの住居にした。それが翌日だった。あっという間にレナータさんが住めるようにもした。1号店にも近くなるし、行きも帰りも防衛隊の誰かが護衛してくれるという。これで安心だ。


「これから時間がとれないか?」

 クリスティアンはそう言う。

「なんで?」

「近衛兵と防衛隊の一人の尋問が終わったが、それが正しいのかお前に判断してもらいたい。そういうスキルがあるようだからな」

「スキルは内緒だけど、たぶん役には立てるよ」


 クリスティアンに連れられて防衛隊の詰め所に来た。奥に通されると、そこには三人の近衛兵と一人の防衛隊隊員が座らされていた。あの王都方面にはいないと嘘をついた隊員だ。

 ヴァイスさんが、それまでの証言を確認するように尋問をしていく。それを僕が聞いて、嘘ならば指摘する。


 尋問の結果、次のことが判明した。

 まず防衛隊員は、近衛兵から、美しい若い女性がいたら報告することを依頼されていた。隊員は借金があったので、その話にのることにした。このあたりで一番の美人はレナータさんだろうと近衛兵に報告した。レナータさんはただの平民の娘だと思っていたという。

 近衛兵は、王子より直々に美人を集めろと命令されていた。命令されたのは近衛兵の全員ではなく、この3人。文書もなく、口頭での命令だった。そして出世が約束されていた。

 今まで、王都やその周辺で14人の女性を誘拐した。どのようにして女性を誘拐したのか、その手口も詳しく話をさせた。


 レナータさんを誘拐しただけの事件だと思っていたが、14人もの女性が誘拐されていた。しかも王子の命令でだ。とんでもないことだ。誘拐された女性、その家族の気持ちを考えるといたたまれない気持ちになる。

 その話を聞く中で、隊員たちが、わなわなと怒りに震えているのを感じる。歯ぎしりも聞こえてきた。元々国民を守りたいと防衛隊に志願している者たちだ。ぶん殴りたいのを我慢している、そうも見えた。


 僕も、胸くそ悪さを感じてはいたが冷静な気持ちで〈真実の目〉で彼等を見た。青のままだ。嘘はついていない。


「王都やその周辺で女性が消えたという事件が頻発していると聞いているが、お前たちなのか?」

「たぶん、俺たちのことだろう」

「それで、誘拐した女性たちはどこにいるのだ」

「王都の郊外の、古い城跡に監禁している。王子がときどき行っているようだ」

「お前たちは行かないのか?」

「俺たちは行かない。誘拐してそこに連れていくまでだ。そこから先は知らない」


 男が赤く光る。

「嘘をついてます」

「嘘はばれるんだ。助かりたかったら、素直に白状しろ」

「わっ、わかりました……。俺たちも楽しみました」

「楽しんだ?」

「はい」

 そこからの話は聞くに堪えないことだった。こいつらも信じがたいクズだった。王子の責任にもしているが、実は自分たちもだった。

 誘拐したときは、そういう目でレナータさんをみていたことでもある。クリスティアンは怒り心頭の表情だ。


「それで私たちはどうなるのでしょうか?」

「王子の命令だったかどうかを問い合わせてもしらばっくれるだろうな。つまりは、お前たちが王子の命令を騙ったことになる。つまりは極刑だ」

「そんな……」

「ただ、素直に白状したこと、それと誘拐された女性を救出できたら、命だけは助けてやる。それは約束しよう」

「なんでもします。なんでも……」


「でも、どうするかな。相手は王子だし……」

 部屋を出て、ヴァイスが頭を抱えている。女性たちを助けたい。でも王子相手だとできることが限られている。

「僕にまかせてくれませんか。なんとかできると思います。僕は許したくはありません」

 クリスティアンがきっぱりと言った。


*****


 この事件は、防衛隊とは関係のないところで終結を見せた。


 シュパイエル辺境伯の軍隊が盗賊を追跡していた(という設定らしい)。その盗賊が逃げたところに踏み込んだら、なんとビックリ、そこには誘拐された女性たちと王子がいたのだ。しかも、そのときの状況がたいへんだった。王子は何も身につけていなかった。

 辺境伯の軍は、盗賊をすべて討ち取って、王子を救出したとして王宮には報告された。

 ただ、女性たちについては、何も報告書には記載されていない。女性は誰もいなかった。そして何もなかったことになっている。女性たちはただ散歩に出て、ただ帰っていった、そうなっているのだ。


 王子も言いたいことがあるだろうが言える状況ではない。そして王だけには王子がしたことが詳細に報告された。

「配慮に感謝する」

 シュパイエル辺境伯が聞いたのは、王のその一言だけだった。それで十分だし、それ以上のことは期待しない方がいい。


 もちろん、シュパイエル辺境伯の軍隊を動かしたのはクリスティアンだった。父親に詳細な情報を伝え、綿密に計画を練った。王子がそこにいることも確認してのことだった。

 女性たちが監禁されていたところにいた者は、一人残らず軍隊に討ち取られた。そこで何が行われたのかを永遠に葬るためだ。


*****


 日常が戻ってきた。


 その日、ランドシャフトの開店と同時に大きな男が入ってきた。

「50人だが大丈夫か?」

「ええ、大丈夫です。どうぞ、どちらの席でもご自由にお座りください」

 そう言うと、ドヤドヤと大きな男たちが入ってきた。

 一応〈鑑定〉で見る。驚くようなスキルの人たちだ。一見怖そうだが、大丈夫だろう。


「とにかく酒と食べ物はまかせる。どんどん持ってきてくれ」

 そう言われて、僕とレナータさんはフル稼働で走り回った。食べる量も飲む量も半端ではない。手伝ってくれる人たちは息つく暇もない。


「うわっ、満員だ」

 いつものようにクリスティアンが来た。開店早々の超満員に驚いて、空いている席を探して店内を見渡す。

「えっ、親父?」

「おう遅かったな。一度この店に来たかったんだ」

 この一団は、シュパイエル辺境伯とその配下の軍人たちだったのだ。


「良い娘を選んだな」

 辺境伯はそう言う。

「彼女だろう。ずっと見ていたんだ。こんな見た目が怖い連中にもやさしく対応してくれている。それも細やかに。ほら、あいつはこの間の戦いで利き腕をケガしただろう。料理を細かく切って食べやすくしている。そしてあいつは見た目ほど酒は強くないんだが、一緒に水も出しているだろう。一人一人をよく見てくれているんだ。お前が誰を選んでもよいと思っていたが、こんなに良い娘を選ぶとは、俺もうれしいよ」


 それからレナータさんを呼んで、お互いを紹介した。

「俺は、君がどんな素性で、どんな生活をしてきたか、それは一切気にしないからな。ただ一つ、あの公爵の娘というのが、唯一、残念なんだ。でもあの公爵から奪い取って俺の娘になると思うと、もう楽しみだよ」

と言ってガハハと笑った。


 僕は、横で見ていて、なんてスケールの大きな人だろうと感心してしまった。公爵様といい、辺境伯様といい、クズで無い人もまだまだたくさんいるんだ。


 クリスティアンは、ついでに僕も紹介してくれた。

「君については、いろいろと噂を聞いていたよ。もちろん良い噂だからな」

と、またガハハと笑う。

「また、息子たちに力を貸してやってくれ」

「もちろんです。力の限りがんばります」

 それを聞いて、またガハハと笑った。


*****


 その日の遅くにクレバーがやってきた。

「大変だったな。いろいろと聞いているよ」

「ああ、まさかと思うことが立て続けだもんな」


「それにしても、お前もすごいな」

「何?」

「あのシュパイエル家とも関係ができたんだろう?」

「ああ、そうなんだけど、そんなにすごいのか?まだこの国の仕組みがわかっていないからよくわかってないんだけど……」


 クレバーが説明してくれた。

 この国には、王も手を出せないアンタッチャブルと言われる5つの存在がある。

 1つが公爵様だ。王族にも近い名門で数ある公爵家の筆頭だ。

 そしてシュパイエル辺境伯だ。北の国境沿いを守る国防の要で、”北の狼”の異名もある。

 もう1つが東の辺境伯であるアルブレヒト家だ。”東の熊”の異名がある。

 この2家は、ずっと国防を担っていたから、その兵は正規軍より強いとも言われている。この2家が離反すると王国の防衛が破綻してしまうから、王もなかなか口をだせない。

 そしてレミュス家。まったくの謎とされている存在だ。最初にこの国を建国した一族の末裔らしく、陰の影響力があると言われている。

 最後は教会だ。この国の宗教の根幹でもあり、王家もこれを無視することはできない。


「このアンタッチャブルのうち2つの勢力とつながりがあるんだから、お前は、ホントにすごいよ。普通だった絶対にできない」

「いまいち、ピンとこないしな。でもクレバーも公爵様とタメ口で話せるじゃない」

「あれは、公爵様からの命令だ。実際に頼りにしているのはタクだよ」

 クレバーは、そういうが実際にはどうか、実感がまったくない。


「ただな、アンタッチャブルのうちの2つが近づいたとなったら、この国では大慌ての連中もかなりの数がいるんだぞ。権力のバランスが崩れるからな。しかもそれをお膳立てしたのが、タクなんだぞ」

「そんなこと言われても、僕はただなるようにしか動いていないんだけどな」

「それでも周りから見ていると、すごいとしか言えないぞ」


 クレバーから褒められてくすぐったい気持ちにもなってくる。


 平穏な日々が続きそうだったが、突然、危機が訪れる。それに対抗したのは僕の力でない。ただ前の世界の常識だった。そしてまたクズと対決することになるのだった。


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