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異世界の街にもクズがいた

 外に出ると、そこは広場のようだった。

 思ったよりも人がいて賑わっていた。

 獣っぽい者、大きい者、小さい者、人類とは違う印象の者が多い。

 建物の周囲には屋台のようなものが並ぶ。

 地球と同じように、教会や城のまわりに人が集まり、店ができたのだろう。

 クズ王子のことは忘れて、俄然興味が出てきた。


 キョロキョロと、あちこちを見ながら通りを歩く。

「ねえ、お兄さん」

 後ろから女の子の声がした。

(僕か?)

 振り向くと、ケモミミのかわいい少女が笑顔で立っていた。

 某海外系の遊園地に行く女の子が頭につけているアレが実際についているのだ。

 かなりかわいい。


「これ、食べない?」

 手には、焼き鳥のように焼いた肉を串に刺したものをもっていた。

(売り子か?)

「ごめん、お金はないんだ」

「お金はいいの……。お兄さんに食べてもらえたら……」

「いいの?」

「お兄さんに食べてもらいたいの……」

 こんなかわいい娘に言われて、断るなんて僕にはできない。

 しかも、お腹も空いていた。

「ありがとう」

 僕は、それを受け取って食べた。

 美味しくない。いや、はっきり言うと不味い。グニャグニャとしたガムのような肉だ。

 それでも、これがこの世界の普通の食べ物かもしれないとも思った。

 こんなにかわいい娘がくれたのだから食べないわけにもいかない。


「そこのお前」

と声がする。

 おそるおそる振り向くと、犬のような耳をした男が数人いる。

 身体も僕よりも大きい。


「お前だ」

「何か?」

「今、それを食べたよな」

 僕は、うなずいた。ちょっとびびってる。

「その代金をもらいたいんだけど……」

「いや、お金はいらいないと……」

 ケモミミの娘が、ニヤニヤと僕を見ている。

(そういうことなのだ……)

「金はいらないが、その代わりに……」

 腕をつかまれ、路地へ連れ込まれた。


(ぼったくりか……、こういうクズは、どこの世界にもいるんだな)

「そのカバンをもらおうか。何やら珍しそうなカバンだ。もちろん、中身もな」

 男は言う。

 学校のカバンだし、この世界で価値のあるものはないだろう。渡してもいいとは思ったが、こんなクズの言うことはききたくもない。

「この世界では、金目のものは何もないよ」

 とりあえず、そうは言ってみたが、聞く耳はなさそうだ。耳は大きいんだけど……。


 一人の男が手を伸ばしてきた。

「よこせ!」

 無理矢理カバンをつかんで引っ張ろうとする。

「いやだ!」

 僕は、取られないように腕でしっかりと抱きかかえた。


 そのとき、

「やめなさい!」

と大きな声がした。

 路地の入り口に、おばあさんが立っている。

「今、保安隊を呼んだわよ。捕まりたくなかったら、とっとと行きなさい」


「くそッ」

 男たちは、キッとおばあさんを睨んだが、何も抵抗しないで、おばあさんとは反対の方向へ慌てて逃げていった。

 さすがに逃げ足は速い。

 ケモミミの女の子も、無茶苦茶な速さで、後を追っていった。


「助かった……」

 僕は力が抜けて、その場にしゃがみ込んでしまった。


*****


「大丈夫?」

「ありがとうございます。大丈夫です」

 僕はお礼を言って、ゆっくりと立ち上がった。やさしそうなおばあさんだ。

「あなたは、異世界からの転生者なの?」

「いやっ……」

 僕は言葉を濁した。

「”この世界”って言ったでしょ。心配しないで、私もそうなの」

「えっ、そうなんですか?転生の魔術は使われていないと言われましたが……」

「私は、ずっと昔。30年以上も前かな。私の少し後に召喚された人が怒って、唯一召喚ができる魔術師をその場で殺しちゃったらしいの。それで、それ以来召喚はなかったはずよ」

「そうなんですか。僕も35年ぶりだそうです」

「また、できるようになったのね」

「いや、その魔術師も、その場で王子に斬られたので、もうできないみたいですよ」

「ああ、あの王子ね……」

 おばあさんは、そう言って笑った。


「行くところはないんでしょ。家に来なさい」

と笑顔で言ってくれた。何か安心できるような笑顔だ。

「いいんですか」

「もちろんいいわよ。同じ転生者ですもの。助け合わなきゃ」


 見ず知らずの人についていっていいのか、一瞬迷った。

 さっきも、かわいい見た目に騙された。このおばあさんもそうじゃないとは言い切れない。

 しかし、今の状況を考えるとそれしかない。

 何かあっても、おばあさんなら逃げ切れるだろう。そう考えた。


「それじゃあ、お言葉に甘えます」

「私は、ヨネ。あなたは?」

「僕はタクヤ、タクって呼んでください」

「よろしくねタク」

 手を伸ばしてきたので、僕も握り返した。しわだらけだが、温かい手だ。

 このおばあさんなら大丈夫だろう。


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