救出
レナータさんを探して王都への道を駆けていて、見つけた怪しい馬車を止めた。
その馬車の御者をしていた男は、王子直属の近衛兵だと言う。
「人を探している。馬車の中を改めさせてもらうぞ」
「ダメだ。この馬車は王子殿下の馬車であるぞ。貴様らのような下賎の者が触れていいものではない」
近衛兵は、完全に僕たちを見下している。
その言葉を無視して、クリスティアンは馬車に近づく。拒否している近衛兵の態度からも、馬車にレナータさんがいることを確信している。いないのなら、そこまで拒否する理由はない。
「近づくなというのに、お前を不敬罪で逮捕するぞ」
近衛兵は、馬車を降りて僕たちを押しとどめようとしてきた。
「黙れ!余はクリスティアン・フォン・シュパイエルなるぞ」
クリスティアンがそう名乗る。
「シュパイエル……、あの……、アンタッチャブルの……」
近衛兵士という男はあわててひざまずいた。
クリスティアンは、もしかしてすごい貴族なのか。
近衛兵は、急に下手に出てきた。
「おそれながら、この馬車には、王子殿下に不敬を働いた罪人が乗っており、王都までの護送しております。お手をわずらわせるまでも……」
「かまわぬ。開けよ」
そう言われて、しぶしぶ馬車の扉を開けた。そこには縛られて、猿轡をかませれて寝かされているレナータさんがいた。
「レナータ!」
クリスティアンは馬車に乗り込み、レナータさんを縛っていた縄を短剣で切り、猿轡をはずした。
「もう大丈夫だから」
レナータさんは、涙目でうなずいて、クリスティアンの胸に顔をうずめた。
防衛隊のほかの騎馬隊が追いついてきた。
見ると、非番のヴァイスさんもいる。30人以上の防衛隊員が馬車と近衛兵を取り囲んだ。
「王子殿下への不敬ならば、東部方面防衛隊が責任をもって取り調べる。王子殿下にはそう伝えておけ。不服ならば、余か、余の兄、父、誰でもよい。かまわぬから届け出るがよい」
クリスティアンは、振り向いて近衛兵という男に告げた。目が怒っている。
「いや……、でも……。我々は王子殿下からの勅命を受けています」
「何か、文書でもあるのか」
「いえ、それは……」
「そもそも、お前たちも本物の近衛兵か?」
「もちろん本物です。近衛第2部隊の所属です」
「それも確認するから、我々と一緒に来てもらおう。もし王子殿下の勅命とか近衛兵であることが嘘だった場合は、わかっているな。極刑に値することだぞ」
僕は、〈真実の目〉で彼等を見た。青だ。嘘はついていない。嘘をついていないということは王子の命令でレナータさんを誘拐した。いったいどういうことだ?
「そもそも、こんな平民の女くらいいいだろう。何をむきになっているんだ」
近衛兵の一人がそうつぶやいた。それを聞いた僕は、カチンと頭の中で、何かが切れた。
「この方はカッツェンシュタイン公のご令嬢だぞ!」
と言ってしまった。
それを聞いて驚いたのは、近衛兵よりも防衛隊のメンバーだった。特にクリスティアンが。
「本当なのか?」
僕の耳元で、小さな声で聞いてきた。
「実はまだなんだけど……、公爵様から養女にしたいと申し入れがあったんだ」
「それなら、本当ということでいいな」
クリスティアンは怒りが解けたのか、少し笑っている。
「公爵令嬢を誘拐したのだぞ。王子殿下の命令が確認できなかったらどうなるかわかるな」
「いえ、本当に命令がありました……」
「たぶんだけど、王子殿下に問い合わせると、知らないと言うと思うよ。文書がないんでしょ」
ヴァイスさんが、いじわるっぽく言う。これは誰が考えてもそうだと思う。あの王子だ。
「そっ、そんな……」
「そうなると間違いなく極刑だ。王子殿下の命令を騙ったのだからな。絶対に助からない」
「どっ、どうすれば……」
「とにかく防衛隊に来て、すべてを説明しろ。それによって情状は考えてやる」
近衛兵たちは、がっくりとうなだれている。
「馬車を借りるぞ。タクは隣に乗ってやれ」
クリスティアンは、そう言ってレナータを馬車に座らせた。
「もう心配はいらない」
僕たちは、馬車に乗って隊員たちと街へと向かった。
馬車は、ゴトゴトと音を立てて走る。隊員たちの馬が護衛のようにまわりを囲んでいる。
クリスティアンは馬でピッタリと併走した。手を伸ばせば届くような距離だ。
遠くに昇ってきた朝日が見えた。草原が少しずつ明るくなってくる。クリスティアンの横顔もくっきりと見えるようになってきた。
レナータさんは、馬車の窓から顔を出した。
「ありがとう。まだお礼を言っていなかったね」
「いいよ。君が無事なら……」
二人は見つめ合っている。いい感じだ。
いい感じ?……、これは……いい話? うん、いい話だ。
明日にでも公爵様に伝えなければ。




