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販売開始はイベントで

 王女をモデルにした絵本『白雪姫』と王女の絵姿のカード(ブロマイド)の売上は、想像以上だった。自信はあったが、まさかこれほどとは思わなかった。


 販売は、街のいつもの広場でのイベントから始めた。

 小さな舞台をつくり、酒類販売公社を公表したときに使われた聖女の絵姿を掲示した。


 何が始まるのだろうと、街の人たちが少しずつ集まってきくる。


 お昼の鐘がなるとともに、三人の女の子が舞台に現れた。

 僕が、公爵領の孤児院をまわって〈鑑定〉で見つけた、〈歌〉のスキルを持っている子たちだ。


 三人は、静かに歌う。

 

   聖女よ、聖女、やさしき聖女

   私たちの願いをききたまえ

   我がヴェステンランドを守り、人々を導きください

       ・

     ・

       ・


 この世界には娯楽が少ない。歌を聴く機会などもほとんどない。三人の透き通るような歌声に誘われて、また多くの人が集まってきた。


   聖女よ、聖女、やさしき聖女 …… 


 このフレーズが繰り返される中、舞台に王女が登場した。聖女らしく見える清楚な白いドレスに身をつつみ、ゆっくりと舞台の中央まで歩く。群衆からは歓声があがる。

 手を振る王女。またひときわ大きな歓声があがった。


 そこにヴィリギスが登壇する。

「このたび、聖女様をモデルにした絵本『白雪姫』、聖女様の絵姿の『カード』を販売することになりました。この売上は孤児たちの支援に使われます。ぜひ、ご購入ください」


「よろしくお願いします」

 王女は手に絵本をもって紹介して、また手をふる。

 また大きな歓声が上がった。


 そして、三人の女の子が「聖女の歌」を再び歌い始めた。

 聖女は、指で舞台の横に設置された販売所を指した。

「あそこで売っています」


 そこに人が殺到してパニックにもなりそうになった。ただ、これも想定していたので、依頼していた保安隊にうまく誘導してもらって、パニックもすぐに落ちついた。


*******


「これでいいんでしょ」

 舞台から降りて裏の控え室に来た王女が開口一番そう言う。嫌々やっている感じが伝わってくる。

 ルイーゼがお茶を出す。

「ありがとうございます。おかげで売上は期待できます」

「ああやだ、平民の匂いが移りそうだわ。もう、やんないからね」

 吐き捨てるように言う。とても聖女には見えない。

「あとは我々で……」

「お金だけはよろしく」

 それだけ言って、王女は馬車に乗り込み帰っていった。


******


「売れてるな」

 様子を見に来たクレバーが言う。

「ああ、良い調子だ。でも、不安もあったよ。不安だから、王女の握手会とか、いろいろと提案したんだけど、全部ヴィリギスに却下されたよ。警備の問題があるとか、あの王女がやるわけないとか」

「そりゃそうだよ。でも、よく考えたな。10枚の絵姿のカードをそれぞれ袋に入れて、どれかわからないようにするなんて。全部集めようとすると、よぶんに買うことになるよな」

「それは、前の世界でもよくあったんだ。ランダムカードといって。今回も10枚のうちの2枚が数が少ないレアカードなので、それがほしいとまた買ってくれるんだ」

 ちょっと鼻高々に言う。


「でも、勘違いするなよな。売れたからといって喜んではいられないぞ。目的は王女を酒類販売公社から切り離すことだからな」

「ああ、わかってる。でも、こうして売れていくのを見ると、これだけでもいいかなと思ってしまうな」

「いや、これが売れたって、酒にはかなわない。そこはしっかりしてくれ」

「もちろん、わかってるよ」


 販売所を見ると、列がとぎれない。

 そして初日は、用意した絵本1000冊、カード3000枚が完売した。大成功と言っていいだろう。


 広場の横の建物にあるプロデュース会社〈Mary〉の事務所には、いくつもの商会から販売させほしいとの相談があった。あのクルップ商会からもだ。ただ、クルップ商会については、

「聖女様の商品ですから、反社会的な活動をされている方との取引はお断りしております」

とヴィリギスがピシャリと言ってくれた。


 ただ、こうしたイベントや販売では必ずトラブルがある。

 前の世界でも、たくさんあった。僕が経験したこと、経験してないけどネットで見たことなど、そうしたことを想定して対策をしていた。


 広場からちょっとはずれた路地では、買えなかった者、買いたくても金がない者の恐喝やひったくりが発生していた。これは保安隊、防衛隊に見回りをしてもらって、逮捕したり防いだりすることができた。

 面倒だったのは大量買いをする連中だ。おそらく転売目的だろう。それも想定内で一人の購入数を限って対応した。

 一番大変だったのは、売り切れた後に買えなかった人がたくさんいたことだった。翌日からずっと販売することを告げて、なんとか了解してもらった。

 工房では、フル回転で商品を作らなければならない。


********

 

 生産量も増えて、王都やその周辺での販売も開始した。これらは、それぞれの地域の商会が仕入れて販売してくれる。その地域での販売価格は自由だ。競争相手がいないところでは、結構な値段になるだろう。


 ルイーゼを通して、王女の取り分の催促がしょっちゅうあるが、まとまった金額になってからと、適当にやり過ごしていた。

 王女も、僕たちのことは悪くは思っていない、ルイーゼはそう感じているようだった。

 お金のこともあるし、「聖女の歌」や絵本、カードで、ずいぶんと持ち上げられているので、気持ちもいいのだ。

 すべて順調だった。


 そろそろ、当初の目的に結びつけなければ、そう考えていた。


*******


 ある日、ランドシャフトの開店準備中にルイーゼがやってきた。

 ルイーゼも貴族の令嬢だ。王女の侍女は貴族の令嬢しかなれない。そのルイーゼが、こんなところに来るとは意外だ。

 そして、もう一人令嬢らしき女性も一緒だ。おどおどして、ルイーゼの後に隠れるようにいる。


「どうしたんですか」

 僕は不思議に思ってたずねた。

「お願いがあるんです。彼女を助けてほしいんです」

「助ける?」

「ええ、彼女はザラブ子爵のお嬢さんなんです」



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