販売開始はイベントで
王女をモデルにした絵本『白雪姫』と王女の絵姿のカード(ブロマイド)の売上は、想像以上だった。自信はあったが、まさかこれほどとは思わなかった。
販売は、街のいつもの広場でのイベントから始めた。
小さな舞台をつくり、酒類販売公社を公表したときに使われた聖女の絵姿を掲示した。
何が始まるのだろうと、街の人たちが少しずつ集まってきくる。
お昼の鐘がなるとともに、三人の女の子が舞台に現れた。
僕が、公爵領の孤児院をまわって〈鑑定〉で見つけた、〈歌〉のスキルを持っている子たちだ。
三人は、静かに歌う。
聖女よ、聖女、やさしき聖女
私たちの願いをききたまえ
我がヴェステンランドを守り、人々を導きください
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この世界には娯楽が少ない。歌を聴く機会などもほとんどない。三人の透き通るような歌声に誘われて、また多くの人が集まってきた。
聖女よ、聖女、やさしき聖女 ……
このフレーズが繰り返される中、舞台に王女が登場した。聖女らしく見える清楚な白いドレスに身をつつみ、ゆっくりと舞台の中央まで歩く。群衆からは歓声があがる。
手を振る王女。またひときわ大きな歓声があがった。
そこにヴィリギスが登壇する。
「このたび、聖女様をモデルにした絵本『白雪姫』、聖女様の絵姿の『カード』を販売することになりました。この売上は孤児たちの支援に使われます。ぜひ、ご購入ください」
「よろしくお願いします」
王女は手に絵本をもって紹介して、また手をふる。
また大きな歓声が上がった。
そして、三人の女の子が「聖女の歌」を再び歌い始めた。
聖女は、指で舞台の横に設置された販売所を指した。
「あそこで売っています」
そこに人が殺到してパニックにもなりそうになった。ただ、これも想定していたので、依頼していた保安隊にうまく誘導してもらって、パニックもすぐに落ちついた。
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「これでいいんでしょ」
舞台から降りて裏の控え室に来た王女が開口一番そう言う。嫌々やっている感じが伝わってくる。
ルイーゼがお茶を出す。
「ありがとうございます。おかげで売上は期待できます」
「ああやだ、平民の匂いが移りそうだわ。もう、やんないからね」
吐き捨てるように言う。とても聖女には見えない。
「あとは我々で……」
「お金だけはよろしく」
それだけ言って、王女は馬車に乗り込み帰っていった。
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「売れてるな」
様子を見に来たクレバーが言う。
「ああ、良い調子だ。でも、不安もあったよ。不安だから、王女の握手会とか、いろいろと提案したんだけど、全部ヴィリギスに却下されたよ。警備の問題があるとか、あの王女がやるわけないとか」
「そりゃそうだよ。でも、よく考えたな。10枚の絵姿のカードをそれぞれ袋に入れて、どれかわからないようにするなんて。全部集めようとすると、よぶんに買うことになるよな」
「それは、前の世界でもよくあったんだ。ランダムカードといって。今回も10枚のうちの2枚が数が少ないレアカードなので、それがほしいとまた買ってくれるんだ」
ちょっと鼻高々に言う。
「でも、勘違いするなよな。売れたからといって喜んではいられないぞ。目的は王女を酒類販売公社から切り離すことだからな」
「ああ、わかってる。でも、こうして売れていくのを見ると、これだけでもいいかなと思ってしまうな」
「いや、これが売れたって、酒にはかなわない。そこはしっかりしてくれ」
「もちろん、わかってるよ」
販売所を見ると、列がとぎれない。
そして初日は、用意した絵本1000冊、カード3000枚が完売した。大成功と言っていいだろう。
広場の横の建物にあるプロデュース会社〈Mary〉の事務所には、いくつもの商会から販売させほしいとの相談があった。あのクルップ商会からもだ。ただ、クルップ商会については、
「聖女様の商品ですから、反社会的な活動をされている方との取引はお断りしております」
とヴィリギスがピシャリと言ってくれた。
ただ、こうしたイベントや販売では必ずトラブルがある。
前の世界でも、たくさんあった。僕が経験したこと、経験してないけどネットで見たことなど、そうしたことを想定して対策をしていた。
広場からちょっとはずれた路地では、買えなかった者、買いたくても金がない者の恐喝やひったくりが発生していた。これは保安隊、防衛隊に見回りをしてもらって、逮捕したり防いだりすることができた。
面倒だったのは大量買いをする連中だ。おそらく転売目的だろう。それも想定内で一人の購入数を限って対応した。
一番大変だったのは、売り切れた後に買えなかった人がたくさんいたことだった。翌日からずっと販売することを告げて、なんとか了解してもらった。
工房では、フル回転で商品を作らなければならない。
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生産量も増えて、王都やその周辺での販売も開始した。これらは、それぞれの地域の商会が仕入れて販売してくれる。その地域での販売価格は自由だ。競争相手がいないところでは、結構な値段になるだろう。
ルイーゼを通して、王女の取り分の催促がしょっちゅうあるが、まとまった金額になってからと、適当にやり過ごしていた。
王女も、僕たちのことは悪くは思っていない、ルイーゼはそう感じているようだった。
お金のこともあるし、「聖女の歌」や絵本、カードで、ずいぶんと持ち上げられているので、気持ちもいいのだ。
すべて順調だった。
そろそろ、当初の目的に結びつけなければ、そう考えていた。
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ある日、ランドシャフトの開店準備中にルイーゼがやってきた。
ルイーゼも貴族の令嬢だ。王女の侍女は貴族の令嬢しかなれない。そのルイーゼが、こんなところに来るとは意外だ。
そして、もう一人令嬢らしき女性も一緒だ。おどおどして、ルイーゼの後に隠れるようにいる。
「どうしたんですか」
僕は不思議に思ってたずねた。
「お願いがあるんです。彼女を助けてほしいんです」
「助ける?」
「ええ、彼女はザラブ子爵のお嬢さんなんです」




