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聖女様を攻略

「でも、どうやって?」

「あいつは、ものすごくわかりやすいぞ」

 公爵様はきっぱりと言う。

 僕らは「????」だ。

「あいつの欲しい物を与えれば、簡単にこっち側になる。それからあっち側が嫌だと思えば、勝手にこっちに来る。単純だよ」

 いとも簡単そうにいうけどできるのだろうか。


「Kが説得するの?」

 クレバーが聞いた。

「まさか、俺は何もしないよ。俺が出るとまたややこしくなる。ほら、あいつの兄貴とか、親とか、そういった連中が”ひいきだ”とか”ズルい”とか、必ず言い出すんだ。本当に面倒くさいんだ……。だからお前たちでやるんだ」


 兄貴に、親か……。王子と王様……。さらりと言うけど、確かにそうだろう。


「でもどうすれば?」

「タクがいるじゃないか」

「僕?」

「ああ、メサリーナは、目新しい物が好きだ。それも誰ももっていないと、もっとよい。タクならそういう物を用意できるだろう」

「考えてみる。ほかに好きな物は何?」

 僕は精一杯のタメ口で聞いた。

「まず金、次に、最近は目立ちたいみたいだな。目立ちたい……というか、注目を浴びて、ちやほやされたいっていう感じかな、今も十分ちやほやされているけど、兄貴が目立って注目を浴びたのが面白くないみたいに言ってたな。あと美味しい物、きれいな物、これはずっと前からだな」


「それじゃあ、俺たちは子爵たちから離れるように画策するよ。ちなみメサ……の嫌いな物は何?」

「醜い者、言うことを聞かない者、これが一番嫌いだな。強制されること、汚されることも大嫌いだ」

「ホント、クズですね」

 僕はつい言ってしまって、慌てて口を押さえた。

「ワハハハハハ……。確かにそうだ」

 公爵様は大声で笑う。あやうくまわりに気づかれそうになってしまった。


 公爵様が帰ったあとも、三人で知恵を絞ったが、なかなかいいアイディアは浮かばない。

 どうしようか。あの聖女様をこちらに引き込めるのか……


*******


 その後、公爵様の屋敷を訪問したとき、ザラブ子爵が来て、取り決めたことを教えてもらった。

「一応、手数料は20%のままにした。ただし、公社だから、会計を明瞭にして、集めた手数料は、勝手に分配しないように、と厳命しておいた。そして公爵家からも会計の監査として公社に出向させることにもした。これで、子爵とクルップ商会に好き勝手はできないだろう。国民の不満もあるだろうから、これで手を打ったよ」


「これから、醸造所と、蒸留所を一体にした焼酎の製造工場をどんどんつくることにもしたぞ。王国中の酒を一手につくるんだ。なんだかんだで一番得したのは、俺かもしれないな」

と言って、公爵様は、ガハハと笑った。


 クレバーにそれを伝えたら、

「一番いい対応だ。やつらの手に金が入らなければ、全く問題ない」

と言う。とりあえず、酒屋、飲み屋での問題は解決しそうだ。


********


 公爵様の屋敷では、ここのところ僕の教科書の翻訳みたいな作業になっていた。

 いつもとは違う小さな部屋で、僕が教科書を読み上げるのを三人の執事で記録するのだった。

 まずは倫理からはじめた。この世界では「哲学」のような学問はなかった。宗教が、それを担っていたのだ。この「哲学」を、公爵様は興味をもった。

「ソクラテスはすごいな、”無知の知”か……」


 そして「世界史」だ。「世界史」では西洋史だけでなく、東洋史、アメリカ史などもある。僕が教科書を片手に話す始皇帝やチンギス・ハーンを、興味深く聞いていた。

 この国は王政なので、革命の話はしないほうがいいだろうと考えていたのだが、

「それが一番おもしろいだろう。そういう革命が起こらないような政治をするのだ」

と公爵様は、興味津々だった。だから、この国の文字でも読めるようにしたいと言われる。


 そうした作業の合間に、公爵様は顔を出してくれた。決して暇ではないとは思うが。

「あれから、どうすることになった?」

「いろいろと考えたのですが、メサリーナ様をプロデュースしたらどうかと思うのです」

「プロデュース?なんだそれは?」


 僕は、日本の女性アイドルグループについて紹介した。

「うーん、でも、あいつは歌とか踊りはダメだぞ」

「それはしなくてもいいです。ただいるだけで大丈夫だと思います」

「そうか、それでどうすればよいのだ」

「まず、会社をつくってもらえませんか?酒類の公社のようなものです。それと実際に働ける人を紹介してください。僕は、ランドシャフトもありますから、すべてをするわけにはいきません」

「よし、うちの有能なのを集めてやる」

「ありがとうございます」


******


 公爵様の仕事は早かった。

「ヴィリギスだ」

と若手で有能な執事を紹介された。公爵様が社長で、ヴィリギスのほか10名の体勢で、聖女様をプロデュースする会社〈Mary〉が発足した。

「なんで〈Mary〉なんだ?どんな意味だ?」

と公爵様に聞かれたが、

「前の世界で一番の聖女様の名前なんです」

と言うと納得してもらえた。奥さんのマリーアと似ていたのが気になったみたいだ。


 確かにヴィリギスは有能だった。

 僕が、こういうことをしたら、と提案すると、すぐに問題点がないか、どれくらいの費用がかかるかを教えてくれる。

 当然だが、僕はプロデュースの経験があるわけではない。テレビやネットで知った女性アイドルグループがしたということを真似するだけだ。会社の経営もしたことがあるわけでもない。ランドシャフトもクレバーとセラーがいるからうまくできているのでもあった。


*******


 ヴィリギスとその他のメンバーが頑張ってくれたおかげで、順調に進んでいた。

 そして、いよいよ聖女様に、それを提案して了承してもらわなければならない。

 あの「強制されることが嫌い」な聖女様にだ。

 受け入れてもらわなければ、これまでのことは消し飛んでしまう。


 お膳立ては公爵様がしてくれた。

 あとは、僕次第だ。ヴィリギスに任せたい、そう思ったが、

「お前がやれ」

と公爵様に言われてしまった。もうやるしかない。


 公爵様の屋敷。

 ドアの向こうに聖女様がいる。

 僕は、意を決してドアをノックした。


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